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閲覧ありがとうございます。

最後までお付き合いいただければ幸いです。

週末の午後。

いつものカフェ、いつもの席、そして、隣にいない“いつものエレナ”。


「……あいつ、最近誘っても断るよな。」


ルイはソファに深く腰を沈めて、天井を仰いで、深くため息を吐いた。

相変わらず、エレナのサロンの勤務は真面目で、ミスひとつない。

だけど、それ以外の時間ーー特に、俺との時間が、めっきり減った。


以前なら、誘う前に向こうから連絡が来てた。

「ねぇねぇ、明日ヒマ?」「新しいスイーツのお店見つけたよ!」なんて、週末はほぼ固定スケジュールだったはずなのに。


(……なんでだよ。)


こっちはいつも通りのつもりだった。

それなのに、気がつけば“彼女の中でのルイ”の立ち位置が、少しずつズレてる気がしてならなかった。

その小さなズレが、いつか取り返しのつかない距離になる気がして。

もう、彼女の笑顔を二度と見れないかもしれない。

そんな焦りが、ルイの心を締め付けた。


「最近さ、エレナ、髪型変えたよね?」


「うん。あと、あのリボンつけてないの気づいた?」


バイト終わりの店内で、同僚の女子たちがそんな会話をしていた。


俺は無言のまま耳を傾けていたが、その気づきに、自分より先に反応していたやつがいたという事実が、妙に胸に引っかかった。


(俺があれを贈ったとき、めちゃくちゃ喜んでただろ……)


鏡の前で嬉しそうにツインテールを結んで、「似合ってる?」と照れた顔で聞いてきたあの日。

あの笑顔を、今はもう俺だけが思い出しているのかと思うと――


(……なんだよ、それ。)


気づかぬうちに、こめかみを指で押さえていた。

考えれば考えるほど、イライラというより、なんというかーー


(焦り、か……?)


わけがわからない。

エレナは、昔から“俺の隣”にいるものだと思っていた。

うるさくて、明るくて、放っておけばすぐテンションが上がって、

俺が軽くあしらっても、ふてくされたり笑ったり、それでも離れずに、そうやって、ずっと。


それが今じゃ、こそこそ誰かと会ってたり、知らねぇ男と外出してたり、しかも――


「……最近、よく笑うよな。俺以外のやつといる時に限って。」


ポツリとこぼした言葉は、静かな店内に寂しく響いた。



一方そのころ、エレナは自室にいた。


窓を開けると、風が心地よくて、風を感じながら、一人ノートを広げている。

文化祭の試作メニューのアイデアをまとめたくて、誰にも邪魔されない場所を選んだ。


(はぁ……最近ルイの前だと、うまく笑えない。)


以前みたいに、くだらない冗談で笑って、何気なく隣を歩いて。

そんな何気ない関係すら、いまはもう、ぎこちない。


(……私が変わっちゃったんだよね。全部。)


ゲームの世界だと気づいたこと。

モブキャラにすぎない自分のポジション。

“運命のヒロイン”が現れてしまった現実。

当たり前にくると思っていた未来が来ないと知った今。


それでも心は、勝手に彼を見てしまう。

優しく笑う顔に、心を奪われてしまう。

ああ、また苦しくなる。


「エレナ!」


「……っ!」


驚いて窓の外を見ると、そこにいたのはルイだった。


「……窓が空いてたからオマエいるんじゃないかって思って。」


「なんで……」


「……お前、最近、俺のこと避けてるだろ?」


「……そんなつもりは――」


「嘘つけ。いつだって、目、合わないし。話してても上の空だし。」


「……!」


ぐっと胸が締め付けられた。

言い返そうとしても、何も言葉が出てこない。


ルイは一歩だけ近づいて、遠くからでも私の目をじっと見つめてきているのを感じてーー


「好きなやつ……できた?」


その一言に、心臓が飛び跳ねた。


「ち、違っ……そんなの、ない!」


「じゃあなんで……!なんで、俺のこと見なくなった?」


「……見ちゃいけないと思ったから。」


見てしまえば、また期待してしまうから。

叶わないってわかっているのに、どうしようもなく惹かれてしまう自分が怖かった。


小さく呟いたその声は、ルイに届いたのだろうか。


「……は?」


「私、”モブ”なんだよ。ルイの隣に立っちゃいけない人なの。」


窓の外を見ないままそう言うと、しばらくの沈黙のあと、ルイは絞るような声で返してきた。


「……意味わかんねぇ。」


ルイは少し顔をそらして、ポストの方にルイが近づいていった。

ほんの一瞬立ち止まった後、ポストに何かを入れた。



「……今日、朝にサロンで使える試作ないか作ってみたんだ。よかったら食ってみて感想聞かせて。」


「……うん、わかった。ありがと。」


ポストの音がやけに響いて聞こえた。


(ごめんね、ルイ。好きなのに、好きって言えない。)


(だって、私なんかじゃ、誰かの特別になれるはずがないって知ってるから。)


(この世界の決まりが、どんなに願っても私を選ばないって知ってるから。)


お読みいただきありがとうございます。

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よろしくお願いいたします。

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