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閲覧ありがとうございます。

最後までお付き合いいただければ幸いです。

新年度を迎える春の訪れとともに、二人は恋人になった。


それはまだ、たった数日。

けれど、たった数日でこんなにも世界が色づいて見えるなんて、エレナは知らなかった。


廊下ですれ違えば、少し照れたように目を合わせる。


サロンでは、肩がふと触れ合っただけでお互い黙ってしまう。


でも、すぐに笑い合える。


そんなふたりの日常が、今、ようやく始まった。


「ルイ、今日の帰り……寄り道しない?」


「……え、いいのか?」


「だって、せっかく付き合ってるのに、まっすぐ帰るだけなんてつまらないでしょ?」


そう言って少しだけ顔を背けるエレナの仕草が、ルイにはたまらなく可愛く見えた。


たったそれだけの言葉で、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。


恋って、こういうことなのだと、二人はゆっくりと知っていった。



交際から一ヶ月後。


ある休日、エレナはルイに少しだけ出かけたい場所があると告げた。


「行きたいところって……まさか、アイツのとこじゃないよな?」


「フィリップのこと?」


「……名前出すなよ。」


「もう……」


呆れたように笑ってから、エレナは言った。


「ちゃんと、お礼が言いたいの。ルイと向き合おうって思えたのは、あのときフィリップがくれたたくさんの励ましの言葉があったから。」


ルイは口をへの字にしたまま、じっと彼女を見つめていたが、やがて息をついて呟いた。


「……わかった。でも俺も一緒に行く。」


「ふふ、やっぱり拗ねてる。」


「拗ねてない!」


「うそ。拗ねてるルイ、結構好きかも。」


「エレナ!」


「えへへ、冗談よ。どんなルイもちゃんと好きよ、大好き。」


エレナの笑顔に、ルイの頬がほんのり染まる。

ルイが小さく目をそらしながら、でもしっかりエレナの手を握り返した。


昔なら、こんなやり取りひとつで互いに傷ついていたかもしれない。でも今は違う。


好きだと知っているから、疑わない。


信じられるから、揺れない。


そんなふたりの絆が、確かに深まっていた。


三ヶ月後。


その日、ふたりは観劇デートに出かけていた。


「ねぇルイ、あのポスターの劇、すごく評判いいんだって。」


「へぇ、エレナが行きたいなら、俺はどこでもいいけど。」


「もう、ちゃんと楽しみにしてよね?」


昼下がりの劇場。

厚みのある赤いカーテンが舞台を覆い、幕が上がるその瞬間を今か今かと待つ観客たちのざわめきが、少しずつ静まっていく。


けれど、エレナの心はどこか落ち着かなかった。


隣にいるルイの気配が、近すぎて。


視界の端に見える横顔。

袖が触れそうな距離。


「……っ。」


手を、繋ぎたかった。


でも、どのタイミングで繋げばいいのかわからない。


同じように、ルイもまた落ち着かない様子で、時折手元をちらちらと見ていた。


(いま……握っていいのか?)


(だめか? でも、このままじゃ……)


そして、ふたりは同時に動いた。


エレナの手が、そっとルイの手に重なり。


ルイが、その手を優しく握り返した。


繋がった手のぬくもりに、ふたりの頬がゆっくりと赤く染まっていく。


「……舞台、あんまり頭に入ってこなかったね。」


「お前もか。」


笑い合いながら、エレナはそっと体を寄せた。ルイの肩に、静かにもたれる。


しばらくの沈黙。


でも、それは心地いいものだった。


そして、劇のラストシーン。


カーテンが再び閉じ、照明が落ちたその瞬間。


薄暗闇の中で、エレナはルイの方に顔を向けた。


「ルイ……」


その声に応えるように、ルイが顔を近づけーー


ふたりの唇が、そっと重なる。


初めてのキスは、静かで、柔らかくて。


胸の奥が、温かく満ちていくようだった。


「……舞台より、ドキドキした。」


「俺も。」


小声でそう言った二人は笑いながら、ふたりは手を繋いだまま、劇場の出口へ向かった。


この世界で、ようやく見つけた本当の恋のはじまり。


「なあ、エレナ、俺のこと、好き?」


ルイが不意にそんなことを聞いてきた。

何を今更、とエレナは笑って返そうとしたが、今までの出来事が脳裏に甦ってきた。


(こんなにも、何度もすれ違って、苦しくて、それでも好きになることはやめれなかった。だって幼い頃からルイのこと……)


「……もう、好きになっちゃってるんですけど?嫌いになれって言われたって絶対嫌いになんかなれないから!ルイのことずっと大好き!」


そんなセリフを言ってみせると、ルイは照れたように笑った。



そして、卒業後。


サロンのメンバーに届いた招待状。


それを読んだエレナは、思わず声を上げた。


「エミリエ……先生と結婚するんだ……!」


ルイが肩越しに覗き込む。


「……やっぱり気づかなかったのか?」


「うん、ずっとルイとエミリエが付き合うんだと思ってた。だから、あの頃……すごく不安だった。」


「俺、エミリエが先生のこと好きだって知ってたけど、エミリエに口止めされてたからな……不安にさせて悪かった。」


「あー、だから、はぐらかしたりしてたんだ?」


「目の前の関係を良くしたくて、他の人との約束をおざなりにするのは違うかなって思って……あの時、本当のこと言えなくてごめん。」


エレナは一瞬驚いたあと、ふっと笑った。


「もう、終わったことでしょ。そんなの全然気にしてないのに。」


「今なら、な。」


「うん。今なら、全部笑って話せるよ。」


そう言って、エレナはルイの腕にそっと抱きついた。


結婚式の日。


エミリエは、花嫁としての美しい姿でバージンロードを歩いていた。


先生の隣で微笑む彼女を見ながら、エレナは心の奥がじんわりと満たされていくのを感じた。


(エミリエ、よかったね……)


ずっと、どこかで距離を置いてしまっていた。勝手に思い込んで、不安になって、離れていた。


でも今、こうしてお互いの大切な人と並んで笑えることが、何より嬉しかった。


エミリエと目が合った瞬間、ふたりは自然と微笑み合う。


その瞬間、あの頃ふたりの間にあった小さな溝が、ようやく埋まった気がした。


これからは、お互いの幸せを心から願える。

そう思えた瞬間だった。


式の終盤、ブーケトスの時間。


ふわりと宙を舞った白い花束が――


エレナの腕に、すぽんと収まった。


驚きと笑いの中で、ルイがエレナの耳元で囁く。


「次は……俺たちの番かな。」


「ふふっ、楽しみだね。」


笑い合いながら、ふたりはそっと手を重ねる。


この世界で出会って、すれ違って、そして巡り会った運命。


モブだと思っていた自分を卒業し、誰かに愛される勇気を知った日々。


もう過去に縛られたりしない。


ルイとなら、これからの未来も希望に満ちたものになるだろう。


「これからも、よろしくね。」


「もちろん。エレナが隣にいてくれるなら、俺は何だってできる。」


「えー、本当にっ?」


「本当だ。」


手を取り合ったふたりの未来には、まだ見ぬたくさんの物語が待っている。どんな困難があっても、二人でなら必ず乗り越えていける、そう思えるほどに。


だけど今は、ただこの瞬間が、何よりも愛しい。


それが、二人の新たな恋物語の始まりだった。


お読みいただきありがとうございます。

よろしければ、ブックマーク、評価、感想などいただけますと励みになります。

次回からアフターストーリーに続き、彼らの物語はまだ続いていきます。

引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。

よろしくお願いいたします。

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