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閲覧ありがとうございます。

最後までお付き合いいただければ幸いです。

「最近、あのふたり、よく一緒にカフェにいるらしいよ。」


何気なく聞こえてきた噂話。

誰かが言った”ふたり”というのが誰なのか、すぐに理解できた。


フィリップとエレナ。


(……カフェ?)


視線を下げていた教科書に集中していたはずのルイは、わずかに指先を震わせた。


「あれってさ、もしかしてそういう仲なんじゃ……」

「フィリップさんだし、お相手がエレナさんでも納得だよね!超、お似合いだわ!」


笑い混じりに話題にあげるクラスメイトたちの声は、悪気がない分、余計に刺さる。


(違う。あいつは、そんな軽い気持ちで人と会うやつじゃない。)


そう言い聞かせようとした。

でも、頭の中にはエレナの笑顔が浮かんだ。


あの、どこか柔らかい、安心しきったような笑顔。

最近、自分には向けられていないように思える、それが悔しかった。


放課後のサロン。

エミリエが紅茶の味見をしている傍ら、ルイは不器用にティーカップを拭いていた。


「今日のフレーバーティー、ブレンドをちょっとだけ変えたんだ。気づいた?」


「……ああ、さっき試したよ。ミントが少し控えめになってるな。良い意味でクセがなくなって爽やかさだけ残ってる。」


「やっぱりわかる? 先生が“香りの主張が強すぎると紅茶の味がわからなくなる”って言ってて。」


「へえ……やっぱり先生に好みを意識してるんだな。」


ルイはその言葉を口にしてから、しまった、と思った。


エミリエは照れくさそうに笑った。

けれど、その笑顔の奥にある秘密を、ルイは知っている。


(先生が好きなんだよな、エミリエ。)


本気の想い。誰にも言えない秘密。

だからこそ、エミリエは「私のことは、誰にも言わないで」とルイに念を押していた。


(だから、俺は……)


エレナにエミリエのことを聞かれたとき、うまくはぐらかすしかなかった。

真実を話せば、エミリエの大切な先生への気持ちを暴いてしまう。

でも、隠したことで、エレナが“誤解した”可能性もある。


(どっちにしても、何も伝えられてない……)


ルイの心の中に、もどかしさだけが募っていった。


夜、自室の窓辺で。

ルイはカーテン越しに夜風を感じながら、ぼんやりと星空を見上げていた。


ふと思い出すのは、保健室でエレナが倒れた日のこと。

熱に浮かされながら、彼の名前を呼んだこと。夢うつつの中で、袖を掴まれたこと。


(あの時……これがエレナの本当の気持ちって思えたんだ。)


けれど、それはほんの一瞬の奇跡みたいなもので、目が覚めればすぐに不安は戻ってきた。


(フィリップと、そんなに何度も……何を話してるんだ?)


噂はどこまでが本当で、どこからが憶測なのか。

けれど、それよりも、ルイにとってエレナの知らない時間があることが、ただ怖かった。


(俺が知らない表情を、フィリップには見せてる?)


(俺が知りたい言葉を、フィリップには話してる?)


そんなことを思ってしまう自分に、嫌気がさす。


信じたいのに、信じきれない。


(……いつから、こんなにも臆病になったんだろう)


前は当たり前のように隣にいたはずなのに。


翌日。学園の中庭。

エレナがベンチで本を読んでいた。静かな午後。日差しがあたたかかった。


ルイは、少し離れたところからその姿を見ていた。

話しかけるべきか、そっとしておくべきか、決断できない。

その二択すら、選べなくなっていた。


(本当は、全部聞きたい。)


(なんでフィリップと会ってたのか。何を話したのか。俺のこと、どう思ってるのか。)


でも、問い詰めたところで、きっと彼女は困った顔をするだろう。

「大したことじゃないよ、ごめんね」って笑ってそして、その“笑顔”にも、裏があるように思えて、自分はまた不安になる。


(結局、まだ、俺はエレナを信じる覚悟ができてないんだ。)


その日の夕方。

エミリエとたまたまサロンで鉢合わせた。


「ルイ、ちょっと顔色悪いよ。大丈夫?」


「……ああ。ちょっと寝不足で。」


「悩み事?」


エミリエが心配そうにルイの顔を覗き込む。

ルイは、無言で苦笑し、頷いた。

そんなルイを見てエミリエは笑う。


「あの子のこと、やっぱり好きなんだね。」


「……えっ、な、なんで?」


あの子、と言ってもエミリエがエレナのことを指していたのはすぐにわかった。


「女の子にはわかるの。それに、ルイって、嘘つくとき、すぐ目が泳ぐし、あの子のことになるとしどろもどろになるし。」


ルイは俯いた。


「信じたいんだけどな。でも、ぐるぐる考えちまって、わかんなくなってくるんだ。」


「……自分のこと信じられないと、相手のことも信じられなくなるからね。ルイももっと自信持って!せっかくサロンの王子様って言われるくらいカッコいいんだから!あの子を安心させて!」


エミリエのその言葉は、真理をついていた。


(俺が信じるべきは、エレナだけじゃない。)


(ちゃんと“自分自身”を信じなきゃ、何も始まらない。)


エミリアの言葉に一筋の光が見えた気がした。


けれど、翌日、またひとつ新しい噂が耳に入った。


「フィリップさんとエレナさん、昨日もまた会ってたらしいよ!」


「えー!もう絶対付き合ってるじゃん!」


その声が教室の窓を伝って、冷たい風みたいにルイの耳に吹き込んだ。

その瞬間、ルイの中の不安が、またひとつ膨らんでいくのがわかった。


(信じたいのに……なんで、心がこんなにも揺れるんだよ。)


もしかしたら、エレナも自分に好意を抱いてたなんて淡い期待、自惚れだったかもしれない。


エレナが自分に好意がなくても、エレナに想いをちゃんと伝えられるのか。


まだ決心はつかないままだった。


お読みいただきありがとうございます。

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