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放課後の学園の食堂。
夕焼けが窓から差し込み、柔らかくテーブルを照らしていた。
「この席、空いてるか?」
エレナがメニューを眺めていると、少し低めの声が聞こえた。
顔を上げると、そこにはルイがいた。
「あ……うん、どうぞ。」
ぎこちなく答えたエレナに、ルイは黙って対面に腰を下ろす。
大会が終わってからの数日。
打ち上げや後片付けでバタバタしていた日々も、ようやく落ち着いてきた。
そんな中、ふたりきりでこうして向き合うのは、久しぶりだった。
夕暮れの学食は寮生以外の利用は少なく、比較的閑散としていた。
「いつも学食利用しないのに、珍しいね、ルイ。」
エレナが尋ねると、ルイはストローをくわえたまま、少し黙ってから言った。
「ああ、まあな。お前と話したかったから……色々、な。」
その曖昧な言い方に、エレナの胸が少しだけざわついた。
(“色々”って……どこまで含んでるんだろ。)
「……好きなやつ、できたのか?」
「え……?」
思ってもみなかった言葉が、すとんと落とされた。
「……前に、俺が勝手に思ってたんだけどさ。オマエがその……前まで毎日つけてたアクセサリーつけなくなった理由。もしかして、好きなやつの好みの髪型にするために外したのかなって。それとも、あのアクセサリー飽きたか?」
「ち、違うよ!誰かができたとか飽きたとかじゃなくて……!」
エレナは慌てて否定したが、ルイはストローを指で弄びながら小さく笑った。
「……でも、だったらなんで、つけねぇんだよ。」
「それは……」
喉がつまったように、声が出ない。
何度も、言おうとして飲み込んできた言葉たち。
けれど、今だけは、少しだけ正直になりたかった。
「……ルイのこと、特別だと思ってたの。だから、あれをもらったときも、すごく嬉しくて。」
その言葉に、ルイが目を見開く。
「でも……私、昔から期待しては裏切られるっていうの、繰り返してて。誰かの言葉を信じて、勘違いして、傷つくのが怖くなっちゃってて。」
目の奥が熱くなる。けど、泣きたくはなかった。
「ルイが、誰にでも優しくしてるの、見てるから……あのアクセも、もしかしたら、私が思ってるよりも軽いノリとかタイミングがたまたまあってのプレゼントだったのかなって……」
「……そんなわけねーだろ。」
ルイがテーブルに手を置いて、真っ直ぐエレナを見る。
「俺は、お前だから、あげたんだよ。他のやつに似合うとかどうでもいい。お前に似合うと思ったから、渡した。」
言い切られた言葉に、エレナは息をのむ。
ルイの真剣な目に見つめられ、心臓が速くなる。
指先が小さく震えるのを、必死に抑え込んだ。
「でも……信じられないなら、しょうがねぇけどな。」
ルイの声が、一瞬だけ言葉を探すように途切れた。
彼の胸の奥にある不安が、その一瞬に滲んで見えた気がした。
ルイはふっと目を逸らし、冷めたアイスココアをすすった。
(……また、すれ違うの?)
エレナは唇を噛んだ。
そうじゃない。もう、このままいたくない。
「……信じたい。信じてみたいって、思ってる。」
震える声で、でも真剣に。
その言葉に、ルイは一瞬驚いたように彼女を見つめた。
そして、緊張が少し解けたように、ルイは少しだけ口元を緩めた。
「じゃあさ。」
ルイが言葉を選ぶように、少しだけ視線を伏せてから続けた。
「え?」
「次、また俺が何か渡したら、ちゃんと受け取ってくれる?」
「……うん。多分。」
「多分、じゃねぇよ。そこは絶対って言うところだろ。」
「ふふっ……うん、絶対!」
小さく笑いあったその瞬間。
夕焼けの色が、ほんのり二人の影を淡く染めていた。
夕焼けの光が二人の笑顔をそっと包む。
あの日みたいに、ほんの少しだけ心が近づいた気がした。
その夜、エレナは鏡の前に立っていた。
引き出しの中から、そっとあのヘアアクセサリーを取り出す。
「……やっぱり、これ、私に似合うかな。」
おそるおそる髪に留めてみる。
やはり、今の私には少し子供っぽいかもしれないアクセサリー。
それでも、私にとってはどんなブランドのアクセサリーを前にしても一番価値があるものだと思っている。
鏡に映る自分の笑顔が、ヘアアクセサリーのおかげか、少しだけ自信に変わる。
明日から、また少しだけ前に進めそうな気がした。
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