結果の報告と姉小路家での大事
side河野隆信
愛媛県西条市明屋敷164が住所となっているハンター協会四国支部は四国唯一のハンター協会だ。
西条市役所に隣接しており、訪問者は多い。
「支部長。書類の確認をお願い致します」
大体の者が俺をそう言う中で、彼だけは違った。
「協会長」
彼の名は洞爺司。
かつて、日本最弱と呼ばれた男だ。
かつてはだ。
「お疲れ様。洞爺君」
「お疲れ様です、協会長。御依頼、達成したことを報告しに参りました」
伊藤姉妹の晴れやかな表情を見ても納得だよ。
かつての日本最弱は居ないんだな。
「鑑定装置の準備ができている。では行こうか」
「「「はい」」」
早かった。
二月とかからなかった。
姉妹が投げ出すタイミングの方が早いと思っていた程だ。
「鑑定士はウチの専属で状況は伝えている。では、よろしく頼む」
鑑定装置を操作する者は魔道具操作のスペシャリストだ。
スキルによる鑑定方法はスキル所持者にしか確認できないため、協会では魔道具を重用している。
【イトウ オウカ】【Lv2】
【物理防御補正、魔法防御補正、治癒魔法、魔力補正、スライム特効改】
【イトウ トウカ】【Lv2】
【魔法攻撃補正、魔法防御補正、火魔法、魔力補正、スライム特効改】
結果はすぐに紙に文字が起こされる。
洞爺氏はしきりに頷いている。
結果に満足している様子だ。
「おお! 消えとるぞ! 大器晩成が消えてレベルが上がっとる! レアスキルが多いの! 特効スキルも、改というのが付いとるぞ?」
「特効スキルの鑑定はできますか?」
「やってみよう」
凄い!
本当に壁を乗り越えおった。
「詳細はダメージ上昇、経験値上昇、ドロップ率上昇となっております。他モンスターへの攻撃力低下が消えております」
なるほど。
特効スキルのデメリットも無くなっているのか。
実に良い。
「実に良い結果だ。詳細についてはレポートにまとめておいてくれるか?」
「わたくしの可能な範囲でなら、すぐにまとめます」
うむ。
実に良い!
なんと気分が良いのだ。
「良く頑張ったな!」
若者の門出だ。
長く苦しみ、再出発をきる。
「良く耐えたな」
その一言は重みが違う。
ワシは呪いに耐えれず引退した。
「本当に、よう耐えた」
特効スキルも、効果は呪いと変わらん。
程度の違いはあれ、日本最弱という呪いに変わらんのだ。
「その忍耐力を今後も生かしておくれ」
目頭が熱くなっていかん。
ほれ。
若者。
お前さんまで涙ぐむんじゃない。
いや、これは雨漏りか。
そういうことにしておこう。
◇
一頻り手続きを終えて、俺たち3人はこれからもハンターとして活動を続けることにした。
まあ、現状を見る限りそうなるが、依頼は大器晩成と特効スキルをどうにかしてくれって事だったからね。
それを解決した今、二人は自由に羽ばたいて行ける。
「んじゃ、明日からも宜しくな!」
俺は手放したく無かったので素直に言ってやった。
桃花から「当たり前!」って言われた。
桜花が「前田のクラッカー」なんて言うから大爆笑した。
桜花、それは千鶴代ばあちゃんの影響だな。
俺も影響されたクチだ。
「……」
「……」
「……」
で、帰宅したら大事件が起きている。
目の前で起きているのだ。
三女橘花ちゃんが姉小路拓海を押し倒して、ベロベロちゅっちゅーしている。
濃厚で官能的だ。
17歳がしていいやつでは無い。
てか、アウトじゃね?
いや、押し倒されているからどういう判定なのだ?
二人の反応を見ると、これ以上はアウトって感じ。
「たっくん。もっと〜♡」
「これ以上はダメだ」
良かった。
たっくんも分別はついているらしい。
「早く離れないと、我慢できない」
「じゃあ、ずっとこのままー♡」
「「離れなさい!!」」
流石にアウトだったみたいで、姉二人が介入した。
美少女があんな色気で迫られたらね。
男なら分かるだろう。
「お姉ちゃん達、いつ帰って…」
「「今さっき!!!」」
あ、詰められるな。
拓海も目が点になって固まっている。
「たっくん? 何か言いたいことは?」
「け、けいさつにじしゅします」
未遂だから大丈夫だよ。
まあ、家族会議だな。
◇
話の落差が半端ないと思う。
感動的な場面から家族の色恋事情への急展開とはね。
事実は小説よりも奇なりって。
使い方、間違っている気がする。
たっくんは別室で控えている。
買い物から帰った千鶴代おばあちゃんと話し合ったのだろうが、短かったな。
包丁がまな板を叩く音が聞こえてくる。
たっくんは未婚だし、あんな美少女に迫られたらね。
実は面食いだからね。たっくん。
嬉しかったのだろう。
「事の重大さが分かっていないわ」
「常識を弁える」
こっちの方が大変だ。
まあ、迫ったのが橘花だからね。
「愛に常識なんて通用しない」
「冗談も分からないなんて、まだまだよ」
橘花も橘花で目をハートにして対抗するからタチが悪い。
持論を展開して、付け入る隙を更なる持論の展開に持ち込むので、むしろ姉二人が押され気味だ。
このままじゃ、平行線だな。
仕方ない。手を貸すか。
「拓海を手玉に取るには有効な戦法だな」
「ツカサお兄ちゃんなら分かってくれると思った」
「「なんで橘花の味方?!」」
俺は拓海と20年近くの付き合いなんだ。
そして、橘花ちゃんは察しが良い。
俺は、多分だけど直感スキルが効いている。
元々は鈍い方なんだけどな。
鈍い方が良いこともある。
「あのな、桜花。桃花。橘花は危機感を抱いたんだよ」
「危機感?」
「どういうこと?」
やっぱり気付いていない。
自分のことになると見方は変わるからね。
「美人二人に拓海が取られないかって。桜花と桃花の美人にれ
「「と、取る訳ないでしよ?!」」
「お前らの意識じゃなくて、大切なのは拓海の意識だよ。俺もさっきまでは気付かなかった」
二人はハッとなって俺を睨んだ。
後で殺されないか?
「お前らには問題は無かったが、事の発端ではある訳だ。橘花を許してやったらどうだ?」
「「でも、反省してない」」
「桃花と同じ頑固さなら、反省しないだろう」
「頑固違う」
桃花が口を膨らます。
可愛すぎか。
「桜花も守るべきことを守らせたら良いんだろ?」
「……構わないけど」
桜花は落とし所を考えていたみたいだ。
頭の出来が良いからね。
「橘花。18歳まで待ちなさい」
「でも…」
「一番困るのはたっくんだ。たっくん困らせて愉快な顔をさせるなら、親友の俺が黙っちゃ居ない」
「……はい」
ま、ここまで言ったら黙るしかないな。
ここが落とし所だろう。
「条件はそれだけだ。ほどほどにいちゃつけ」
「分かった」
不満そうではあったけど、どう転んでも本人達は幸せになりそうだ。
こんなこと言うと話が振り出しに戻るので言わないけど。
「さて、腹減ったな。多分、たっくんが作ってる」
「ごはんにする」
「そう、しましょうか」
「……うん」
さて、食卓で現状の確認をしましょうか。
こんなことをする為に早く切り上げて来たんじゃない。
レポート書くつもりだったんだ。
◇
自分のことは棚上げすることってよくありませんか?
俺は良くあります、
「と〜や」
「とう、か…」
夜這いに来ると薄々気付いたんだ。
これも直感スキルの力か。
「すきぃ〜」
本当に美人だ。
まつ毛長いし、良い匂いする。
おっぱい、意外と大きいな。
発育がよろしい。
谷間がエロ過ぎるのではございませんでしょうか?
「ん」
キスをする。
くちびるぷるぷる。
これが脳内麻薬というやつなのか?
「ん」
可愛い。
拓海はよく我慢した。
俺には、無理だった。
◇
「とうかー!」
翌朝は桜花の怒声で目が覚めた。
盛ってそのまま寝たから、状況はお察し。
後悔はしてない。
やっぱうそ。
桜花の形相に一瞬ヒヨった。
駆け足で序章が終わりました。
どうやっても単調過ぎて戦闘シーンにならなかったんです。