スライム狩りの50日
side桜花
毎日スライム400匹を討伐。
言うのは簡単ですが根気が要ります。
「あっちだ!」
「はい!」
「ん!」
司さんがスキルで索敵をして、私はメイスを振って倒していきます。
メイちゃんが大奮闘です。
「やっ!」
必中ではありませんが、一撃なので討伐は簡単ですね。
「よし! 次行こう!」
洞爺さんの口癖を聴きながら休憩を終えます。
昼休憩を30分を挟んでも、8時間で討伐数が400匹に届かないことが多いです。
かれこれ1ヶ月、成果は上々です。
「さて、今日は385匹か。お疲れさん」
「お疲れ様です。洞爺さん」
「お疲れ様。今日もたくさん出た」
妹の桃花も嬉しそうです。
何せ、私たちのパーティのドロップ率が狂ってますから。
「今日も届きませんでしたね。あと15匹しますか?」
「いや、また明日にしよう」
今日で累計845匹マイナスです。
最初は特に慣れなかったので、その分を引きずっています。
「トウヤ。換金」
「そうだな」
妹は馴れ馴れしく洞爺さんを呼びます。
注意したら、本人には許可をとったそうです。
大先輩なのですが…
「いくらかな?」
ま、ともかく換金です。
魔石385個で3850円
スライムスターチが280個で28000円
スライムゼリーが156個で15600円
魔法の水筒一つで約100万円
魔法の水筒は競売ですが、あとは即日換金です。
スターチやゼリーは供給過多で値段が半分になっているみたいですが、それでも儲けが多いです。
それだけ、異常なドロップ品の多さです。
合計47450円。
「お疲れ様。今日も異次元の量ね」
前に田中さんや河野さんから心配されました。
ちょっと大変ですけどね。
ちょっとです。残業無しですから。
今日も田中さんの顔が引き攣っています。
でも、籠手を買った分を考えると、黒字とも言えないんです。というか、今の所は装備の必要性を感じないのです。
「装備には慣れた?」
「慣れましたけど、必要ですか?」
「スライム弱い」
「装備することに慣れるのが目的だ。上を目指すんだろ? 俺も付き合ってるじゃないか」
「見た目が大きく違う!」
「見た目が大きく違います!」
そんなやりとりをしつつ、家に帰ります。
家に帰ると橘花が迎えてくれます。
「おかえり。桜花、桃花、司」
「「「ただいまー」」」
夕食にはスライムスターチが多めで飽き飽きします。
でも、おばあさんに使ってと言った手前、そんなことを言うわけにもいきません。
食費の節約にもなりますし、ずっと続かないと司さんは言います。だから大丈夫。
「今日はどうだったの?」
「いつも通り」
桃花もいつも通り。
冴えない顔をしている。
「成果は上々です。でも、目標は少し遠いんです」
「残業無しの契約だからね。うまうま」
司さんはそう言ってほうれん草のお浸しをむしゃむしゃしてます。
野菜は好きじゃないみたいですけど、ほうれん草のお浸しは毎日食べてますね。
「今日は私が作ったの」
「橘花ありがとう。感謝うまうま」
司さんも姉妹と打ち解けています。
最初の緊張感が懐かしいです。
「トウヤ。行儀悪い」
「うるさい。うまうま」
桃花との仲を心配していましたが、打ち解けるのが一番早かったので驚きました。
あんな感じですが、桃花は気を許してますね。
「みんな元気ね〜。拓海はまだ仕事が終わらないみたい」
「ブラック」
「桃花。ウチがホワイトなだけ。アレはマシだよ」
「アレで?」
「アレで」
ほら。
千鶴代おばさんも微笑ましそうにしています。
「私の頃の方が残業多かったんよ?」
5人で家族団欒。
とても落ち着く時間です。
橘花は拓海さんが居た方が良さそうですけど。
◆
side桃花
スライムを見つけて叩く。
スライムを見つけて叩く。
私は桃花。
私はロボット。
スライムを見つけて叩く。
スライムを見つけて叩く。
ドロップ品を回収する。
私はロボット。
スライムを見つけて叩く。
スライムを見つけて叩く。
出口の見えないトンネルを歩いている。
私はロボット。
スライムを見つけて叩く。
スライムを見つけて叩く。
スライムを見つけて叩く。
◆
side桜花
50日が過ぎました。
もう50日が経ちました。
妹の桃花に苛立ちが出てきています。
モチベーションが上がりません。
時間になりました。
8時間。
毎日頑張っています。
私も内心焦っています。
でも、司さんは普段通り。
「桜花、桃花。よく頑張ったな」
「どうしました?」
「唐突過ぎ」
突然、司さんは言いました。
まるで終わったかの様です。
「二人ともよく聞け」
「「……」」
自信満々に勿体ぶって言います。
私も桃花もよく分かりません。
「明日で終わる」
「「っ!」」
それは、司さんによる悪夢の終了宣言でした。
◇
side桃花
翌朝。
やっと終わる。
トウヤが言うには。
お姉は元気を取り戻し、私もトンネルの出口が見えた。
すぐにトンネルに入らなければいいのだけど。
変なフラグ立てちゃダメ。
危ない。
フラグ粉砕。
フラグ粉砕。
「なにやってるの?」
「悪魔が終わるように祈ってる」
「ダンジョンゲートを足蹴りして?」
お姉は困った顔をしている。
まだ半信半疑?
でも、トウヤが言ったから大丈夫。
51日目が始まる。
「今日のスライム討伐数は100匹だから、午前中に終わらそうか。午後から第二層に行くつもりだから、よろしく」
「「はい!」」
返事に力が入った。
あと100匹!
「いくぞー!」
「「おー!」」
と言うわけで、ポカポカスライムを叩くこと2時間。
あと1匹になった。
「次で終わりか…」
ここまで来れば、流石に分かる。
トウヤは特別なスキルで現状を把握している。
私の胸をガン見しているから。
「ふふん」
「桃花も機嫌が良いね」
「最後だもん」
最後のスライムは自分から出てきた。
ハンマーを振り下ろして一撃。
今では必中になっている。
「……二人ともおめでとう。レベルアップした。特効スキルも変化した」
歓喜の渦が沸き起こった。
◇
【トウヤ ツカサ】
【Lv3】
【スキル:鑑定ⅩⅩⅩ・アイテムボックスⅩⅩⅩ・幸運ⅩⅩⅩ・直感Ⅶ・物理攻撃補正ⅩⅩⅩ、魔法防御補正ⅩⅩⅩ、生活魔法Ⅰ、パティー編成Ⅰ、スライム特効ⅩⅩⅩⅡ】
【スライム特効:スライムへのダメージ8倍、スライムのドロップ率&レア度8倍、特効連携、スライムへの即死魔法】
【イトウ オウカ】
【Lv2】
【物理防御補正ⅩⅩⅩ、魔法防御補正ⅩⅩⅩ、治癒魔法ⅩⅩⅩ、魔力補正Ⅰ、スライム特効ⅩⅩⅩⅠ】
【スライム特効:スライムへのダメージ8倍、討伐数(経験値)8倍、スライムのドロップ率&レア度8倍、特効連携】
【イトウ トウカ】
【Lv2】
【魔法攻撃補正ⅩⅩⅩ、魔法防御補正ⅩⅩⅩ、火魔法ⅩⅩⅩ、魔力補正Ⅰ、スライム特効ⅩⅩⅩⅠ】
【スライム特効:スライムへのダメージ8倍、討伐数(経験値)8倍、スライムのドロップ率&レア度8倍、特効連携】
鑑定スキルで表示すると、それは明らかだ。
二人の大器晩成が無くなっているし、特効スキルに『スライム以外への攻撃補正0.125倍』が消えている。
素晴らしい!
俺も二段階目の大器晩成が消えている。
特効スキルも変わっているな。
経験値8倍と特効連携が無くなっている。
代わりのスライム即死魔法って、凶悪だな。
「……二人ともおめでとう。レベルアップした。特効スキルも変化した」
歓喜の渦が沸き起こった。
二人とも飛び込んできたので抱きしめてやる。
達成感でどうにかなりそうだ。
レベルが2になってから大器晩成で経験値1億とか冗談にしてもキツいのカマしてくるからね。
あの時は絶望感マシマシだっただけに、この晴れた気持ちは爽快だ。
二人の頭を撫でてやる。
サラサラだな。
桜花は照れ臭そうにしている。
桃花は無邪気に笑っている。
長かった。
12年は長かった。
桜花も桃花も頑張ったな。
魔法の水筒、70本もドロップしたぞ?
よくやった。
2万匹近くを倒したんだ。
こんな経験、他ではできないぜ。
序章 完