表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/25

二女桃花の警戒

 

 side桃花


 洞爺さんは頼り無さそうな、面白味の無い感じの人。

 第一印象はそんな感じだった。


 少しオドオドしていて、女性への耐性が無いみたい。

 大丈夫か心配になった。


 ハンターになって稼ぐ必要がある。

 でも、話を聞いてて、彼は慎重過ぎると思う。危険を犯さないと、得るものも少ない。


「心配しないで下さい。私の試算では一月半ほどで、それなりの成果が出ると考えております」


 何、その自信家っぷり。

 さっきとまるで違う。


 目に野心が見える。

 さっきとは別人みたい。



  ◆



 トウヤに連れられて家に案内されると、私と桜花、橘花は家の主に挨拶をした。

 私達は家もお金も無いので、ここで暮らすことになる。


「「「宜しくお願いします」」」

「あら。どうして、みんな可愛いわね。家族が増えたみたいで嬉しいわ。姉小路千鶴代(あねがこうじちずよ)よ」

「こっちが僕の祖母です。僕は姉小路(あねがこうじ)拓海(たくみ)で、こっちの洞爺の親友です。話は聞いてますよ。大変だったのですね」


 おばあさんも拓海さんも、とても良い印象。

 桜花の胸を見ていた洞爺とは大違い。


「食事も作り甲斐があるわね」

「私、手伝います」


 橘花が持ち前のコミュニケーション力と物怖じの無さを使って馴染もうとしている。

 流石は私のマイエンジェル。


「桜花さんは僕と手続きに行こうか」

「はい。宜しくお願いします」

「たっくん、休みなのにごめんー」


 姉さんは好青年拓海さんと市役所へ行った。

 新居浜市からの編入手続きが必要だからだ。


「司はもっと態度を…」

「いや、MP切れで気分が悪いんだ…スマン…」

「あ、そうなのか…」


 私達の指導者は大丈夫なのか?



 ◇



 MPが自然回復するのを待って、トウヤツカサとステータスを確認をする。

 私の落差。


【イトウ トウカ】

【Lv1(大器晩成スキルにより制限有)】

【スキル:大器晩成ⅩⅩⅩ・スライム特効ⅩⅩⅩ】

【ステータス: 体力:30、魔力:10、物理攻撃:10、魔法攻撃:10、物理防御:30、魔法防御:10、器用:10、回復効率:30、俊敏:10、幸運:10】


「スキル、えっくすが付いてる」

「スキルレベルだ。レベル30の効果はこれだ」


【大器晩成ⅩⅩⅩの効果は、次のレベルアップに必要な経験値を100000000ポイント加算する。レベルアップ時に3つのスキルに変化する】


【スライム特効ⅩⅩⅩの効果は、スライムの出現8倍、スライムへのダメージ8倍、討伐数(経験値)8倍、ドロップアイテム出現率&レア度8倍、スライム意外へのダメージ0.125倍(半減の半減の半減)】


「は?」

「桜花も一緒のスキルを持っていることを確認した」


 なにこれ?

 スライム以外倒せないじゃん。

 だって、レベルも上がらないから。


 ハンター協会でも、こんなことは教えてくれなかった。

 一体、どういうこと?


 一旦置いておこう。

 頭が整理できない。


「明日から48日間、毎日400匹のスライムを倒すから。明日から宜しくね」

「それって大変なの?」

「だいたい、8時間前後だね」


 出た。すごい自信満々。

 家の案内をする時なんて頼りなさそうな顔をしてたけど。


「分かった。契約だから従う」

「宜しく頼むよ」

「でも、私やお姉に手を出したら殺ス」

「い、いくら年齢が離れてると思ってる?」


 自信なさ気に戻った。

 普段はこんな感じなのかもしれない。


 ハンターがらみになると人が変わる系?


「まさか! 妹の橘花(きっか)はまだ17歳になったばかり!」

「それこそ完全に犯罪だよ!」


 そこは分別がつくの。

 表面上だけ?

 ハンターは粗野な奴が多いから油断大敵。


「で、400匹を倒して強くなれるの?」

「コツコツ積み重ねが大事だ」


 また自信満々になった。

 へんなの。


「ここまでで質問は?」

「頭が整理できない」


 現実を直視できない。

 数字がバグってる。

 頭オカシイ。


「でも、他に色々、言いたいことがある」

「……そうだね。この際だからハッキリさせておこう。俺も君には色々と言っておかないと、って思っていたんだ」


 視線がバチバチ。


「……桃花は気を張りすぎだ」

「え?」

「スキルで色々と言われただろうだけど、無視しろ。他所(よそ)は他所。ウチはウチ。他人の評価なんて覆せる」

「何を勝手に……」


 ふざけるな。

 私達の何が分かるって言うの。

 謂れもないことで誹謗されて。

 どんな目で見られたか。

 家族は3人だけ。

 良いカモに見られるの。

 警戒するに決まってる。

 大人は嘘つき。


「個人情報もあるからね。何故多数のハンターが居る中で、協会の人間でなくフリーの俺に話が来たのか、まだ説明されてないって聞いている」

「なにを…」


 確かに、一番の適任が彼という風に説明されている。

 第一印象はぱっとしないのに。


「俺は11年前からスライム特効と大器晩成を持っている」

「同じスキル……」


 なーる。

 そうか。

 それで適任と。

 そんなことも協会は教えてくれなかった。


巫山戯(フザケン)な! 11年も底辺のまま居れって言うのか! ハンターになっても底辺のままじゃないか!」

「協会にはこのスキルを"どうこう"するノウハウは無い。同じスキルを持っていて長年ハンターをしている俺に厄介を押し付けたんだろう」

厄介(やっかい)?! 私達が厄介だって?! 望んでスキルを持った訳でもないのに?! 何故厄介払いされなきゃならないの?! 

「大人はそう見ているんだ。スキルは選べないんよ」

「くっ!」


 なんてこと!

 協会はそんなこと教えてくれなかった。

 足掻けばなんとかなると思ってた!


「努力だけではどうにもならない」

「なんだって!」

「俺が努力して、足掻き続けて11年。そして、今の俺がある。俺と同じことをしてもダメってことだ」


 ムカつく。

 自信満々に言うのがムカつく。


「良いか。今の桃花には決定的に足りないものがある」

「足りないもの?」

「情報だ」


 情報。

 確かに足りない。

 トウヤに教えてもらわなかったら、知らないことだらけだったのは確か。


「情報…」


 屈辱。

 心の中で見下してたのに。


「桃花は大人を恐れているよね。大学のこともあるし、俺は三人の境遇を聞いてるから同情するがな」

「同情するなら…」

「金は出さんぞ」


 ケチ。


「だが、情報は出す。そして手も貸す。最初に言ったよな。覚悟はあるって。この現状を変えたいって」

「そう! 変えてやる! 意地でも変える! 11年も待ってられない! アンタは一人だけど、私には橘花がいる!」

「なら、大人を利用しろ」


 大人を利用?

 でも、逆に利用されてしまう。


「相手にも利益を与えていれば良いんだ。お互い、ウィンウィンな関係を作らないと、一方的に利用されることになる」


 でも、それが分からない。

 どうしたらそんな関係にできるのか。


「と言う訳で、気を張り過ぎんな。俺は味方だ。情報もやる。そして俺を利用しろ。俺もお前らを利用する」


 また利用される。

 でも、利用し返すの?

 ふふ。


「アンフェア」

「子供の分際で大人に勝てるとでも?」

「偉そう。ムカつく」

「言ってろ」


 言ってやった。

 オリが沈殿してたもん。


「じゃあ、情報をどんどん開示していくとだな」

「話が突然」

「一々、口を挟むな」


 一々、反応するんだ。

 ジト目が可愛い。


「えっとだな、桃花が毎日スライムを300匹狩るとする。すると、レベルアップまで11.4年かかる」

「……トウヤ。レベルアップした?」

「した」


 なーる。

 ハンター協会の人選は間違ってなかったんだ。

 なーる。


「で、私達も11.4年かかるの? 協会長には一月半で結果を出すって言ってた。法螺吹き?」

「遠慮が無くなってきたな。まあ、二ヶ月と経たずにレベルアップする」


 どういう理屈?

 分からない。


「それはどういう…」

「そこから先は個人情報なので言えません」

「情報は開示するって……」

「全てではありませ〜ん」

「あ〜! ムカつく!」


 やり返された。

 不満!

 非常に不満!


「ここから先は有料ってことで〜」

「身体で払えって?! 調子に乗んな!」

「いや、そこまで言ってない」


 冗談だとトウヤは笑って言う。

 でも、そんな輩は


「いや、揶揄(からか)甲斐(がい)があったから」

「言って良い冗談と悪い冗談がある!」


 ぺしぺし叩く。

 お姉にやったら殺ス。


「まあ、俺が言えることは一つ。二人が居ると強くなれる。二人がパーティに居ることで利用できるんだ。冒険者のノウハウを教えるのは、その対価というわけ」

「要らなくなったら捨てるんでしょ?」


 信用ならない。

 どうせ捨てられる。


「なら、強くならないとな。二月後が楽しみだ」


 分かったわ。

 捨てられても良いくらいに強くなってやる。

 徹底的に見下してやる!


「だから、気を張りすぎんなって」

「ダメ。トウヤがケダモノだから」

「何もしてないのに?!」


 ふん。

 私の胸もチラチラ見てる癖に。

 

「信用が無い」

「こっちも同じだ。だが、少なくとも腹を割って話せるようになったんだ。これから創造していこうじゃないか」

「銀行じゃない」

「商売の基本だ」


 私達は商品じゃないわよ。


「ハンターは強くなって、モンスターを討伐すれば儲けられると思っているみたいだけど、これも商売と一緒なんだ」

「どういうことよ」

「需要と供給は分かる?」

「馬鹿にしてる?」


 トウヤが困った顔をした。

 やっぱり、こっちの顔の方が良い。


「いや、ごめん。そんなつもりは…」

「いい。供給し過ぎはダメってこと?」

「それもあるが、需要が高い所に持ち込むんだ。それか金持ちに持ち込むって手もある」


 それって、コネが要るじゃない。

 話にならないわ。


「そういうことで、これから信用を作っていこうって話」

「胸ばっかり見て?」

「いや、えっと、ごめん?」

「なんで疑問系…」


 惚けた顔で言われても謝られている感じがしない。

 トウヤはしばらく考えた後、急に頭を抑えた。


「……分かった。今分かった。これは本当に申し訳ない。本当に気付かなかった」

「何? 急に」

「視線の先に気付かなかった。桃花のスキルを確認するには、胸の方を見ないといけなかった」

「変態」

「む、むむ! 胸を観ていたわけでわわわ?!」


 とか言いつつ、鷲掴みにしてくる。

 ふふ。

 いい度胸。


「いや、ごめ…」

「いつまで触ってるー!」

 

 平手がクリティカルヒットした。



 ◇



「……ふ〜ん」

「そうでございます」


 今は説教も終わって、トウヤについてアレコレを質問している。

 ネチネチは嫌いなので。


「トウヤの家族は?」

「独り身です」

「親戚は?」

「いません」

「両親は?」

「11年前に…」

「姉小路家との関係は?」

「父の部下の家族でした」

「何でハンターになった?」

「モンスターに復讐するためでした」

「今はどう?」

「単に仕事です」

「持っているスキルは?」

「今は言えません」

「乳揉んだのに?」

「二人がレベルアップしたら言います」

「その言葉忘れないで」


 まだ聞きたいことはあったけど、お姉が帰ってきた。


「えっと、ただいまです」

「ただいま。なんで(つかさ)は正座してるの?」

「俺が悪いんだ」


 お姉も拓海さんも笑っていた。

 ふふ。

 いい気味。


「桃花。仲良くしてくれて良かったわ」

「え? お姉! 誤解!」


 なんでそうなる?

 違う。そうじゃない。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ