二女桃花の警戒
side桃花
洞爺さんは頼り無さそうな、面白味の無い感じの人。
第一印象はそんな感じだった。
少しオドオドしていて、女性への耐性が無いみたい。
大丈夫か心配になった。
ハンターになって稼ぐ必要がある。
でも、話を聞いてて、彼は慎重過ぎると思う。危険を犯さないと、得るものも少ない。
「心配しないで下さい。私の試算では一月半ほどで、それなりの成果が出ると考えております」
何、その自信家っぷり。
さっきとまるで違う。
目に野心が見える。
さっきとは別人みたい。
◆
トウヤに連れられて家に案内されると、私と桜花、橘花は家の主に挨拶をした。
私達は家もお金も無いので、ここで暮らすことになる。
「「「宜しくお願いします」」」
「あら。どうして、みんな可愛いわね。家族が増えたみたいで嬉しいわ。姉小路千鶴代よ」
「こっちが僕の祖母です。僕は姉小路拓海で、こっちの洞爺の親友です。話は聞いてますよ。大変だったのですね」
おばあさんも拓海さんも、とても良い印象。
桜花の胸を見ていた洞爺とは大違い。
「食事も作り甲斐があるわね」
「私、手伝います」
橘花が持ち前のコミュニケーション力と物怖じの無さを使って馴染もうとしている。
流石は私のマイエンジェル。
「桜花さんは僕と手続きに行こうか」
「はい。宜しくお願いします」
「たっくん、休みなのにごめんー」
姉さんは好青年拓海さんと市役所へ行った。
新居浜市からの編入手続きが必要だからだ。
「司はもっと態度を…」
「いや、MP切れで気分が悪いんだ…スマン…」
「あ、そうなのか…」
私達の指導者は大丈夫なのか?
◇
MPが自然回復するのを待って、トウヤツカサとステータスを確認をする。
私の落差。
【イトウ トウカ】
【Lv1(大器晩成スキルにより制限有)】
【スキル:大器晩成ⅩⅩⅩ・スライム特効ⅩⅩⅩ】
【ステータス: 体力:30、魔力:10、物理攻撃:10、魔法攻撃:10、物理防御:30、魔法防御:10、器用:10、回復効率:30、俊敏:10、幸運:10】
「スキル、えっくすが付いてる」
「スキルレベルだ。レベル30の効果はこれだ」
【大器晩成ⅩⅩⅩの効果は、次のレベルアップに必要な経験値を100000000ポイント加算する。レベルアップ時に3つのスキルに変化する】
【スライム特効ⅩⅩⅩの効果は、スライムの出現8倍、スライムへのダメージ8倍、討伐数(経験値)8倍、ドロップアイテム出現率&レア度8倍、スライム意外へのダメージ0.125倍(半減の半減の半減)】
「は?」
「桜花も一緒のスキルを持っていることを確認した」
なにこれ?
スライム以外倒せないじゃん。
だって、レベルも上がらないから。
ハンター協会でも、こんなことは教えてくれなかった。
一体、どういうこと?
一旦置いておこう。
頭が整理できない。
「明日から48日間、毎日400匹のスライムを倒すから。明日から宜しくね」
「それって大変なの?」
「だいたい、8時間前後だね」
出た。すごい自信満々。
家の案内をする時なんて頼りなさそうな顔をしてたけど。
「分かった。契約だから従う」
「宜しく頼むよ」
「でも、私やお姉に手を出したら殺ス」
「い、いくら年齢が離れてると思ってる?」
自信なさ気に戻った。
普段はこんな感じなのかもしれない。
ハンターがらみになると人が変わる系?
「まさか! 妹の橘花はまだ17歳になったばかり!」
「それこそ完全に犯罪だよ!」
そこは分別がつくの。
表面上だけ?
ハンターは粗野な奴が多いから油断大敵。
「で、400匹を倒して強くなれるの?」
「コツコツ積み重ねが大事だ」
また自信満々になった。
へんなの。
「ここまでで質問は?」
「頭が整理できない」
現実を直視できない。
数字がバグってる。
頭オカシイ。
「でも、他に色々、言いたいことがある」
「……そうだね。この際だからハッキリさせておこう。俺も君には色々と言っておかないと、って思っていたんだ」
視線がバチバチ。
「……桃花は気を張りすぎだ」
「え?」
「スキルで色々と言われただろうだけど、無視しろ。他所は他所。ウチはウチ。他人の評価なんて覆せる」
「何を勝手に……」
ふざけるな。
私達の何が分かるって言うの。
謂れもないことで誹謗されて。
どんな目で見られたか。
家族は3人だけ。
良いカモに見られるの。
警戒するに決まってる。
大人は嘘つき。
「個人情報もあるからね。何故多数のハンターが居る中で、協会の人間でなくフリーの俺に話が来たのか、まだ説明されてないって聞いている」
「なにを…」
確かに、一番の適任が彼という風に説明されている。
第一印象はぱっとしないのに。
「俺は11年前からスライム特効と大器晩成を持っている」
「同じスキル……」
なーる。
そうか。
それで適任と。
そんなことも協会は教えてくれなかった。
「巫山戯な! 11年も底辺のまま居れって言うのか! ハンターになっても底辺のままじゃないか!」
「協会にはこのスキルを"どうこう"するノウハウは無い。同じスキルを持っていて長年ハンターをしている俺に厄介を押し付けたんだろう」
「厄介?! 私達が厄介だって?! 望んでスキルを持った訳でもないのに?! 何故厄介払いされなきゃならないの?!
「大人はそう見ているんだ。スキルは選べないんよ」
「くっ!」
なんてこと!
協会はそんなこと教えてくれなかった。
足掻けばなんとかなると思ってた!
「努力だけではどうにもならない」
「なんだって!」
「俺が努力して、足掻き続けて11年。そして、今の俺がある。俺と同じことをしてもダメってことだ」
ムカつく。
自信満々に言うのがムカつく。
「良いか。今の桃花には決定的に足りないものがある」
「足りないもの?」
「情報だ」
情報。
確かに足りない。
トウヤに教えてもらわなかったら、知らないことだらけだったのは確か。
「情報…」
屈辱。
心の中で見下してたのに。
「桃花は大人を恐れているよね。大学のこともあるし、俺は三人の境遇を聞いてるから同情するがな」
「同情するなら…」
「金は出さんぞ」
ケチ。
「だが、情報は出す。そして手も貸す。最初に言ったよな。覚悟はあるって。この現状を変えたいって」
「そう! 変えてやる! 意地でも変える! 11年も待ってられない! アンタは一人だけど、私には橘花がいる!」
「なら、大人を利用しろ」
大人を利用?
でも、逆に利用されてしまう。
「相手にも利益を与えていれば良いんだ。お互い、ウィンウィンな関係を作らないと、一方的に利用されることになる」
でも、それが分からない。
どうしたらそんな関係にできるのか。
「と言う訳で、気を張り過ぎんな。俺は味方だ。情報もやる。そして俺を利用しろ。俺もお前らを利用する」
また利用される。
でも、利用し返すの?
ふふ。
「アンフェア」
「子供の分際で大人に勝てるとでも?」
「偉そう。ムカつく」
「言ってろ」
言ってやった。
オリが沈殿してたもん。
「じゃあ、情報をどんどん開示していくとだな」
「話が突然」
「一々、口を挟むな」
一々、反応するんだ。
ジト目が可愛い。
「えっとだな、桃花が毎日スライムを300匹狩るとする。すると、レベルアップまで11.4年かかる」
「……トウヤ。レベルアップした?」
「した」
なーる。
ハンター協会の人選は間違ってなかったんだ。
なーる。
「で、私達も11.4年かかるの? 協会長には一月半で結果を出すって言ってた。法螺吹き?」
「遠慮が無くなってきたな。まあ、二ヶ月と経たずにレベルアップする」
どういう理屈?
分からない。
「それはどういう…」
「そこから先は個人情報なので言えません」
「情報は開示するって……」
「全てではありませ〜ん」
「あ〜! ムカつく!」
やり返された。
不満!
非常に不満!
「ここから先は有料ってことで〜」
「身体で払えって?! 調子に乗んな!」
「いや、そこまで言ってない」
冗談だとトウヤは笑って言う。
でも、そんな輩は
「いや、揶揄い甲斐があったから」
「言って良い冗談と悪い冗談がある!」
ぺしぺし叩く。
お姉にやったら殺ス。
「まあ、俺が言えることは一つ。二人が居ると強くなれる。二人がパーティに居ることで利用できるんだ。冒険者のノウハウを教えるのは、その対価というわけ」
「要らなくなったら捨てるんでしょ?」
信用ならない。
どうせ捨てられる。
「なら、強くならないとな。二月後が楽しみだ」
分かったわ。
捨てられても良いくらいに強くなってやる。
徹底的に見下してやる!
「だから、気を張りすぎんなって」
「ダメ。トウヤがケダモノだから」
「何もしてないのに?!」
ふん。
私の胸もチラチラ見てる癖に。
「信用が無い」
「こっちも同じだ。だが、少なくとも腹を割って話せるようになったんだ。これから創造していこうじゃないか」
「銀行じゃない」
「商売の基本だ」
私達は商品じゃないわよ。
「ハンターは強くなって、モンスターを討伐すれば儲けられると思っているみたいだけど、これも商売と一緒なんだ」
「どういうことよ」
「需要と供給は分かる?」
「馬鹿にしてる?」
トウヤが困った顔をした。
やっぱり、こっちの顔の方が良い。
「いや、ごめん。そんなつもりは…」
「いい。供給し過ぎはダメってこと?」
「それもあるが、需要が高い所に持ち込むんだ。それか金持ちに持ち込むって手もある」
それって、コネが要るじゃない。
話にならないわ。
「そういうことで、これから信用を作っていこうって話」
「胸ばっかり見て?」
「いや、えっと、ごめん?」
「なんで疑問系…」
惚けた顔で言われても謝られている感じがしない。
トウヤはしばらく考えた後、急に頭を抑えた。
「……分かった。今分かった。これは本当に申し訳ない。本当に気付かなかった」
「何? 急に」
「視線の先に気付かなかった。桃花のスキルを確認するには、胸の方を見ないといけなかった」
「変態」
「む、むむ! 胸を観ていたわけでわわわ?!」
とか言いつつ、鷲掴みにしてくる。
ふふ。
いい度胸。
「いや、ごめ…」
「いつまで触ってるー!」
平手がクリティカルヒットした。
◇
「……ふ〜ん」
「そうでございます」
今は説教も終わって、トウヤについてアレコレを質問している。
ネチネチは嫌いなので。
「トウヤの家族は?」
「独り身です」
「親戚は?」
「いません」
「両親は?」
「11年前に…」
「姉小路家との関係は?」
「父の部下の家族でした」
「何でハンターになった?」
「モンスターに復讐するためでした」
「今はどう?」
「単に仕事です」
「持っているスキルは?」
「今は言えません」
「乳揉んだのに?」
「二人がレベルアップしたら言います」
「その言葉忘れないで」
まだ聞きたいことはあったけど、お姉が帰ってきた。
「えっと、ただいまです」
「ただいま。なんで司は正座してるの?」
「俺が悪いんだ」
お姉も拓海さんも笑っていた。
ふふ。
いい気味。
「桃花。仲良くしてくれて良かったわ」
「え? お姉! 誤解!」
なんでそうなる?
違う。そうじゃない。