鑑定の効果と契約
家に帰ってからステータスを見て考察してみた。
上から順に見ていくが、名前は飛ばすよ。
ハンター協会で調べてもらったものとは違い、凄く詳しく表示されている。
これは推測だが、スキル【鑑定ⅩⅩⅩ】が影響していると思われる。おそらくLv30なのだろう。
ハンター協会の鑑定スキルはレベルが低いのかもしれない。
大器晩成はハンター協会の鑑定で、ある程度のことは分かっていた。
スキルによりレベルアップに制限がついているのだが、それが詳細に判別できる。
【Lv2(次まで経験値100000077)】
次まで1億だって。何かの冗談だろ?
今までも1億の経験値を集めていたのだろうか?
そんな気がする。
【スキル:大器晩成ⅩⅩⅩ】
『次のレベルアップまでに経験値1億が加算される。レベルアップ後は3個のスキルに変化する』
『紐付けスキル:スライム特効』
え?
変化したの?
大器晩成、まだ持ってるよ?
つまるところは、大器晩成スキルから大器晩成スキルが生えてきたのだろう。
そんなことある?
あと、紐付けスキルとは何だ?
鑑定しても紐付けされているとしか出ない。
【鑑定ⅩⅩⅩ】
『鑑定できる。レベルが上がるごとに詳細な情報を得る』
大器晩成から出てきたスキルなのだろう。
まんまなんよ。
鑑定とは?
【幸運ⅩⅩⅩ】
『幸運値に+120する』
これも大器晩成から出てきたみたいだ。
幸運値が良いとドロップ率やクリティカル率が上がるみたいだ。これはかなり嬉しい。
【直感Ⅶ】
『半径140メートルの感による索敵が可能。敵意の有無、種別の判別が可能。直感が当たりやすくなる』
これはスライムの超レアドロップによるものだ。
スクロールを7枚使ったからレベル7なのだろう。
【スライム特効ⅩⅩⅩⅠ】
『スライムへのダメージ8倍、討伐数(経験値)8倍、ドロップアイテム出現率&レア度8倍、特効連携』
特効連携とは何なのねん?
同じ特効スキルと連携できるのか?
『パーティ内の同効果の特効スキルを乗算』
え?
パーティ内に一人、特効スキル持ちが居たら、いろんなのが64倍になるの?
三人で512倍?
これは必然か?!
【パーティ編成Ⅰ】
『初歩的なパーティ編成。スキルの効果を十全に発揮する』
これはレベルアップで覚えたのかな。
これもタイムリーなものだ。
「やれやれ、明日は断れないな…」
頭を掻きながら、ステータスを確認する。
十年以上変わらなかったので、レベルが上がる前の数値を完全に覚えている。
体力:49←30
魔力:18←10
物理攻撃:18←10
魔法攻撃:18←10
物理防御:49←30
魔法防御:18←10
器用:18←10
回復効率:49←30
俊敏:18←10
幸運:11←10(+120)
あとでノートにメモしておこう。
この上昇値はハンター協会が公表している最大級の上昇値ではないだろうか。
だいたい、10上がれば大したものなのだが…
人によっては40上がることもあるらしいけどね。
この上昇具合は大器晩成の効果だろうか?
幸運値は1上がってスキル効果で増えただけか。
「なるほど…むむむ…」
さて、明日はハンター協会に行く必要がある。
保留にしていた話があるんだ。
「同情していたが、これでは話が変わってくる…」
答えは出た。
あとは明日だ。
◆
翌朝は5月のはじめだというのに寒かった。
愛媛県西条市のハンター教会は市役所にある。
隣は西条藩陣屋跡で高校になっている。
四国唯一の協会であり、規模はそれなりだ。
二つのダンジョンを統括しているだけはある。
西条の受付嬢は美人も居る。
今日は出勤ではないのか。
まあ、縁の無い話だけど。
「洞爺さん。おはよ」
「おはようございます。田中さん」
奥からおばちゃんが出てきた。
いつもの受付氏で安心する。
でも、田中さんは受付の長だったりする。
「話は聞いてるよ。二番の応接室に行きな」
「ありがとうございます」
今回は呼び出し案件なので、顔パスだ。
だからこそ、田中さん対応なのだろう。
時間10分前、応接室で待つ。
すぐに協会長の河野隆信氏が入室してきた。
現役当時の日本最強である。
「洞爺さん。忙しいのに来てくれて済まないね。例の話、考えてくれたか? その表情を見る限りだと、決断した様だがね」
「協会長程ではありませんよ。正直、同情はしました。しかし、収入面などの部分で考えさせられるものがありましたから…」
「だと思うよ。田中さんからも『悩んでいるみたい』だと聞いていたからね」
いつ見ても圧倒される。
語彙力の低い俺には、筋骨隆々という言葉しか見つからない。
【カワノ タカノブ】
【Lv172(呪いにより全ステータス-1000)】
【スキル: 剣技Ⅴ、物理攻撃補正Ⅴ、物理耐性補正Ⅳ、鋼鉄戦士Ⅴ、魔法防御耐性Ⅱ、突撃Ⅰ、統率Ⅰ、生活魔法Ⅰ】
【ステータス: 体力:3112、魔力:98、攻撃:1101、物理防御:2089、魔法防御:1056、器用:518、回復効率:1249、俊敏:1018、幸運:-934】
呪い持ちで引退したのは本当だったんだ。
それにしても強い。レベル172だと。
鑑定してから、本人がより大きく見える。
体力が特に高い。
1000も減っているとは思えない数値だ。
「田中さんにはお見通しでしたか…」
平静を装うも、その凄さが隠せない。
向かい風が来ているみたいだ。
「君に負担をかけることは承知している。しかし、協会には適任者が居ない。スキルの知名度だけが先行しているのは、君も良く知っているだろう」
「はい。その分、この協会は治安が良くて助かります」
「治安か。確かに、そこは私が尽力してきた。君にそう言われると誇らしいよ」
協会長は嬉しそうだ。
魔王が微笑んでいると言われても、そういう実写映画に見えてくるくらいには様になっている。
協会の制服は格好良いので様になっているのだが、現実逃避している場合ではないな。
「日本最弱と呼ばれていることも承知している。君にとっては不本意だろうがね。しかし、君は十分とは言わないまでも、生きていくだけの稼ぎは得ている。他の者は稼ぐことが出来ずに引退していったのに、だ」
「ええ。ですから、お話を引き受けようと思います」
この話は大分悩んだ。
昨日までなら決断できなかっただろう。
「素行に問題が無ければ、ですが」
「……本当かね。いや、ありがとう。君には苦労をかける。素行に問題が無いのは協会で保証する。だが、まずは顔を合わせねば話にならぬな」
協会長は鈴を鳴らすと、田中さんに連れられて二人の女の子が入ってきた。
ステータスを確認しなければ。
うん。ある。ちゃんとある。
想像以上だ。
むしろ、出来過ぎている。
「紹介しよう。伊藤桜花さんと伊藤桃花さんだ」
「初めまして。姉の桜花です。宜しくお願いします」
「妹の桃花です。宜しくお願いします」
「座りなさい。田中さん椅子有難う。忘れてた」
艶やかな長い黒髪の持ち主は桜花か。
ショートカットの子が桃花か。
二人とも、美人過ぎやしませんか?
目鼻顔立ちが整っている。
俺の語彙力が追いつかない。
「えっと、洞爺です。宜しく」
若い子相手に緊張してぶっきらぼうになってしまった。
落ち着いて話を進める。
「では、質問を始めます。ダンジョンに入るのに、恐怖は無いですか?」
「無いとは言いません」
「私は無い、です」
姉は恐怖心があるみたいだ。
妹の方が気は強いのか?
「ハンターは慎重に行かないと死ぬ。俺は死にかけた。恐怖心を忘れてはいけない。命が一番大切だ」
ゴブリンに歯が立たなかった俺が言うんだ。
「次の質問ですが、ハンターになる理由は何ですか?」
「身寄りのない。自由もない。この現状を変えたい、です」
「もう一人、妹も居ます。妹にはハンターになって欲しくないんです。桃花は言っても聞きませんが、二人で稼ぐ必要があるんです」
なるほど。
妹の方は頑固の様だ。
「桜花さんから見て、桃花さんは迂闊なところがあると思いますか?」
「確かに、あります。ですが、それは妹を思ってのこと。他のことなら聞き分けは良いのですが、困った妹です」
なるほど。
ある程度の分別はあるか。
「では、桃花さんから見て、桜花さん…」
その後も質問をして、彼女達に問題が無いと判断した。
準備していた契約書を取り出す時だ。
「では、契約内容ですが、一人につき月40万円の給料を支払います」
「……君が預かるにしては、ちょっと多いのではないか?」
「協会長。これは2ヶ月分の一時契約です。2ヶ月後に再度契約内容を話し合うことにします」
協会長は納得のいかない顔をしているだろう。
しかし、俺には新しいスキルがある。
「心配しないで下さい。私の試算では一月半ほどで、それなりの成果が出ると考えております」
「試算? 何を言っているのかね?」
「その為に、今後一年間はパーティを組むと、契約書に記載しています。放り投げたりしません」
「それならば良いのだが…」
協会長の眉間に皺が寄っている。
しかし、最後には目を見開き、そして頷いた。
「……そうか。そうだな。まずは様子を見ることも必要か。そうだな。では、2ヶ月後に私も立ち会おう。良いか?」
「分かりました。宜しくお願いします」
こうして、契約は交わされた。
三女の橘花ちゃんと合流して、友人の祖母の家に転がり込んだ。
居候の居候が完成だ。
友人よ。コレ、本当に大丈夫か?
◇
side河野
四国唯一の協会は規模がそこそこ大きい。
うちぬき水ダンジョン・石鎚山ダンジョンの二つのダンジョンを統括しているだけはある。
俺、河野隆信は協会長という役職にある。
ダンジョンで強固な呪いを喰らって引退した身だ。
当時は【日本最強】と呼ばれ、洞爺君の渾名の由来になった者である。
日本最弱なんて言われるが、彼の齎す魔法の水筒はトップランカーの攻略を進めさせる必需品だ。
今や彼は居なくてはならない存在である。
今日は応接室で洞爺君との面会を予定している。
ようやく決断してくれた様だ。
これはダンジョン省の恥なんだ。
ハンター協会の大元だ。
事の発端は1月の中頃だ。
ダンジョン大学の退学者を引き取れと連絡があったのだ。
ダンジョン大学ができて四年が経っていた。ダンジョン発生当時は15歳から入れたが、今では年齢制限が20歳になっている。
大学ではハンターを育成するため、特例で18歳からダンジョンに入ることができる。
一方でスキル等の確認が入学後になっている。
そして、ハズレスキルだと分かった途端、自主退学を勧めた。
彼女らの持つスキルが【大器晩成】と【スライム特効】だったからだ。
そして、尻拭いを教会に押し付けて来やがった。
同じ大器晩成スキルを持ち、長期間ハンターを続ける洞爺君に白羽の矢が立ったのだ。
あのハゲ大臣め。
こっちに面倒ごとを振るんだから、ハンターの年齢制限は特例で通させた。
しかし、一年しか辛抱できんとは堪え性の無い。
そもそも、彼は特殊ケースだ。
魔法の水筒は彼しか出せないんだからな。
さて、彼は到着したみたいだ。
田中さんが呼びに来てくれた。
「やれやれ…」
溜め息を吐いて応接室に向かう。
部屋には緊張している洞爺君が居た。
湯呑みの茶が空になっているな。
そういえば、今日は寒かった。
「洞爺君。忙しいのに来てくれて済まないね。例の話、考えてくれたか? その表情を見る限りだと、決断した様だがね」
相当、緊張しているみたいだ。
緊張するなと言っても無理な話しか。
「協会長程ではありませんよ。正直、同情はしました。しかし、収入面などの部分で考えさせられるものがありましたから…」
「だと思うよ。田中さんからも、悩んでいるみたいだと聞いていたからね」
「田中さんにはお見通しでしたか…」
田中さんはウチのエースだからね。
機微を見る目は鋭い。
「君に負担をかけることは承知している。しかし、協会には適任者が居ない。スキルの知名度だけが先行しているのは、君も良く知っているだろう」
「はい。その分、この協会は治安が良くて助かります」
「治安か。確かに、そこは私が尽力してきた。君にそう言われると誇らしいよ」
嬉しいことを言ってくれる。
世辞では無い様だ。
「日本最弱と呼ばれていることも承知している。君にとっては不本意だろうがね。しかし、君は十分とは言わないまでも、生きていくだけの稼ぎは得ている。他の者は稼ぐことが出来ずに引退していったのに、だ」
「ええ。ですから、お話を引き受けようと思います。素行に問題が無ければ、ですが」
彼の言葉を聞いて頷いた。
その決断は容易では無いだろう。
はっきり言うと、荷物になるのだから。
「……本当かね。いや、ありがとう。君には苦労をかける。素行に問題が無いのは協会で保証する。だが、まずは顔を合わせねば話にならぬな」
鈴を鳴らすと、田中が二人を連れてきた。
「紹介しよう。伊藤桜花さんと伊藤桃花さんだ」
「初めまして。姉の桜花です。宜しくお願いします」
「妹の桃花です。宜しくお願いします」
「座りなさい。田中さん椅子有難う。忘れてた」
「えっと、洞爺です。宜しく」
洞爺君は驚いた顔をした。
そして、考える様な素振りを見せ、もう一度驚いた顔をした。
挙動が不自然だ。
「では、質問を始めます」
それからの彼は至って普通であった。
特に初心者ハンターに対する質問は100点満点だろう。
「では、契約内容ですが、一人につき月40万円の給料を支払います」
「……君が預かるにしては、ちょっと多いのではないか?」
彼の収入は知っている。
協会が買取をしているからだ。
無理な金額では無いが、何は問題に発展する恐れがある金額だ。
「協会長。これは2ヶ月分の一時契約です。2ヶ月後に再度契約内容を話し合うことにします」
それは、2ヶ月で契約を放棄する可能性もあるのか?
それはこちらとしては困るのだか…
「心配しないで下さい。私の試算では一月半ほどで、それなりの成果が出ると考えております」
「試算? 何を言っているのかね?」
試算とはどういうことだ。
二つのスキルは未知のものだ。
いや、スキルの半数は解明されていない。
彼はどう言う見解で契約内容を考えたのだ?
「その為に、今後一年間はパーティを組むと、契約書に記載しています。放り投げたりしません」
「それならば良いのだが…」
果たして、良いのか?
いや待て。また挙動がおかしい。
もしや、これは新しいスキル?
彼はスキルを使っているのか?
ということは、彼はレベルアップしたのか?
大器晩成はレベルが上がらない。
スキルを得るにはスクロールを使う方法もある。
しかし、注文を受けた形跡は無い。
となると、レベルアップだ。
彼は、大器晩成を乗り越える方法を編み出したのか?
だとすると…
「……そうか。そうだな。まずは様子を見ることも必要か。そうだな。では、2ヶ月後に私も立ち会おう。良いか?」
動揺。
いや、高揚を隠し切れない。
鳥肌が立っている。
「分かりました。宜しくお願いします」
こうして、契約は交わされた。
彼は何かを隠している。
勢いで書いたので、整合性が取れてるか心配です。
誤字などの報告があれば助かります。