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第8話 シェイド神

 眼を開ける少し前の記憶。

 夢と現実の狭間とも言える感覚。

 そこは真っ暗闇の空間だった。辺りには何も無い。光一つないその場所には、ある少女とあぐらをかいて座るくたびれた青年だけが向かい合っている。


「やあ、騙り神。よく来てくれた」

「……なんやここ?」

「ここは一度きりの僕の領域。神堕ちした僕ができるたった一つのSOSさ」

「また誰かのプライベート空間なんか……。――いや、神堕ち? それってどういうことなん?」

「少しばかり、神としての自覚が足りなくてね。神じゃいられなくなったんだ。と、まあその話はいいか。とりあえず自己紹介だ。――かつて神だった僕の名は、シェイド。よくぞ僕の国に訪れてくれたね」

「僕の国……? もしかして、アンタがアーラの国のおらんくなった神さんなん?」

「そうだよ、騙り神。訳あって幽閉されていてね。こうしてようやく思念だけでも飛ばせたから、コンタクトを図ってみたというわけさ」


 この冴えない青年が、と不躾にもジロジロと見てしまう。正直言って信じられないが、彼は彼女の態度に対して、気の抜けた笑みを投げ掛けてくる。


「すまないね。本当はもっと、ちゃんと挨拶をしたいものなんだけど。何しろこの空間も維持が難しくて」

「……そんな貴重な時間を、なんでウチなんかに割いてるん?」

「決まってるじゃないか。キミは僕の国に現れたイレギュラーだからね。このセカイのシステムは、聞いたかな?」

「いや、まだやけど……」


 そんな櫛奈の反応に、頷いて青年は続ける。


「神があって、国が成る。そうして民が出来上がって、ようやく一国となるんだ。キミが訪れてくれたシェイド・レグナムも例外じゃない。でも、その神が今はいない。分かるかい? 根幹がなくなってしまった国は国じゃなくなり、やがて民も離れていく。神がいなくなった国は加護を失い、悪いことが続く。それこそ飢饉であったり、未知のウイルスの蔓延であったりね。どんどん悪くなっていくんだ。それは抗えず、国が上向きになることは有り得ない。そういう摂理になっているんだ。……でもキミが現れた」

「いや、意味分からんけど。ウチが現れたのも悪いことかもしれんやん」

「確かに災害クラスの厄災を振りまくかもしれない。その可能性だって、もちろんあった。けど、うん。こうして目の前に会ってみて確信したよ。キミは今のこの国には似つかわしくない善性だ」

「何を根拠に……」

「心を見れば分かるよ」

「心……?」

「そう。お金にはがめつくて、儲けることを厭わず、稼ぐためなら割となんだってする」

「いや恥ずい恥ずい! 勝手に心見んといて! 変態!」

「でも、とっても綺麗な心だ」

「……」

「清貧こそが美しく、富は醜悪をもたらす。本来お金に執着する心っていうのは薄汚いものなんだけどね」

「ほっといてや、それは」

「ごめんごめん。ともあれ、それだけでキミは信用に値する存在なんだ。ある種、国に現れたイレギュラーだね。だから、キミが救ってほしい」

「ウチが? 国を?」

「もともとそのつもりだったろう? 騙り神」

「……まあ、そうやけど」


 アーラの為に神になるつもりだった。道筋は分かっていないが、方向は定まっている。

 この男が言っているのはその先のゴールの話だ。


「そろそろ時間だ。それじゃあ頼んだよ、騙り神。この国と、この国の民を」


 優しい笑みを湛えて、彼は別れを告げる。それと同時に、空間は眩い光に満たされて。

 気が付けば、その視界は見たことのある空間に染まった。


「……なんや、夢――、か?」


 心地良い硬さのベッドの感触。嗅ぎ慣れた自分の匂い。

 そこはいつも寝起きする、櫛奈の自室だった。

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