14 限りなく透明に近い三角形
そうして月は欠け、再び満ち始める。
1週間が過ぎた週末。
海は元信くんの気晴らしも兼ねて、外に連れ出そうと思った。
「ねえ、もっちゃんを気晴らしに外に連れ出したいんだけど・・・。どこかいいとこ知らない?」
海は金曜日の昼休み、岩吝図くんに尋ねた。
・・・・・・・・・・・・
「・・・・・図書館・・・?」
「・・・・・・・・・」
尋ねた相手が悪い。
何しろ岩吝図真人は科学オタクだ。一部の歴史に極端に詳しいのは、海と話がしたくて猛勉強しただけのものでしかない。
休日の遊びスポットなど全く知らない。
海は海で「家康命」の歴史オタクだから、史跡以外のお楽しみスポットなんて知らない。
史跡だけは避けたかった。
だってそれじゃ、もっちゃんの悩みをより深くしてしまうだけ——。気晴らしになんかならないでしょ。
かと言って、メジャーなTDLとかUSJとか行くようなお金はない。
となれば、この件について海が相談できる、元信くんの存在を知っているクラスメートは真人しかいないのだ。
「と・・・とりあえず、名古屋に出てみる?」
「うん・・・。それが、いいかも・・・。」
「ねえ。あれ、誰?」
「えっと・・・、たしか・・・岩吝図くん?」
「いたっけ? あんな子・・・。」
「海って、ああいうタイプが好みだったの・・・?」
いつもの友人たちは、海の最近の行動が理解できなくなってきている。
いや・・・、実は、「家康様」以外の生身の人間に恋をしていた・・・ということなら・・・。
理解・・・できる・・・・かも?
「なんで、あの子?」
・・・・・・
そんな一部のクラスメートたちの囁きには、海は頓着しない。そんなところに払う注意など、心のどこにも生まれる隙間などない。
なにしろ、目の前に生身の推し=元信くんがいるのだ。
何とかして、彼を笑顔にしたい。
そして、そんな海を笑顔にしたいのが、共に行動を始めた岩吝図真人だ。
当の松平元信くんはそんな2人の奇妙な関係に気づいていない・・・ような顔をしている。
たぶん、海の気持ちにも、真人の気持ちにも気づいているだろうけれども、そこはほれ、生来の気配りの天才なのだ。
限りなく透明に近い三角関係———。
不思議な関係の3人が出かけた名古屋は、休日とあって人出も多かった。
「な・・・何かの祭りでござるか?」
駿府は、京風の落ち着いた府である。初陣もまだの元信くんにとっては、こんなごった返しは初めて見るのだろう。
「すっごい人だね。こんな朝から・・・。」
「通過交通の要だからね。」
と、分析的な真人。
「・・・・・・」
元信くんは口を開けて、林立する高層ビルを眺め上げた。
これが、未来の町か・・・。岡崎や刈谷どころではない。
「あの、捻れたような建物は何でござる?」
「ああ、あれはデザイン学校の建物だよ。」
「でざいんがっこ?」
「ああ、寺子屋みたいなもの・・・は、もっちゃんの時代にはまだないか・・・。」
「栄まで行こう。昨日調べてみたら、観覧車とか、遊べそうなとこある。」
海が元信くんに笑いかける。元信くんも、そんな海に応えて少し笑顔をつくって見せる。
そんな2人を、ちょっと寂しいような嬉しいような微笑みを浮かべて真人が見ている。