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13 パラレルワールド

「お初にお目にかかる。松平次郎三郎元信でござる。」


 そう言って丁寧に頭を下げたふくよかな頬の少年は、毛糸の帽子をかぶっていた。

 中学生くらいだ。

 あ、そうか。元服したばかりなんだから、そうだよな——。


「帽子は月代さかやきを隠すためなの。チョンマゲは、今は解いてる。」

 まりんはそう言って、帽子を取って少年のおでこを見せた。


「ちゃんと、毎日剃ってるんですか?」

 真人はまだ、言葉遣いがぎこちない。

「まりん殿が、剃ってくださる。」

「へへ・・・。シェーバーでね。じょいーんって。キワのところは安全剃刀でないとダメなんだけど——。でも、だいぶ慣れてきた。」


 真人の胸のどこかが、チリっと痛む。

 嫉妬か? そんなもんしたって仕方ないぞ? 勝負になる相手じゃないぞ?


 何しろ相手は、若き日の徳川家康だ。

 とにかく、ぼくは岳川さんが期待する何かの役に立てれば、それでいい。それで岳川さんがまた笑顔になってくれれば・・・。



「もっちゃ・・・元信くんはね、関口の姫様ともう婚約してるんだって。竹千代だったうちに。」

 岳川さんは、少し目線を床に落とすようにして言う。


 くん?

 松平元信を「くん」呼び?

 と、まずそこに驚いてから、真人はようやく岳川さんが自分に何を期待しているのか分かった気がした。

 バスの中で彼女が話していた

「歴史上の人生って、もう絶対変わらないもの?」

という妙な問いの意味はこれだったんだ。


 普段、ぼくたちは「歴史上の人物」を過去の人としてしか見ていない。

 それはすでに、過ぎ去ってしまった過去だ。

 でも、目の前にいるのは、綺麗な澄んだ大きな目をした少年は、間違いなく血の通った生きた人間。

 その未来は、無限に広がっていなくてはいけないはずの——。


 無限に広がっていなくてはいけないはずの、過去みらい・・・。


「関口刑部少輔の姫、のちの築山殿が、実は生き延びていた・・・という資料らしきものは、ないわけじゃない・・・。」

 真人の言葉に、岳川さんが、ばっ、と顔を上げる。

「ただ・・・」

 岳川さんのすがるような目に、真人は次の言葉を呑み込んでしまった。


 資料性は、限りなく低い。築山殿が殺されたのは史実と言うしかない・・・。


 それから真人は、自分でも驚くようなことを口走っていた。

「松平元信が、一時、未来に行っていた——なんていう資料こそ、全くないんだ。」



 岩吝図いわしみずくんの言葉に、まりんは一抹の希望の光を見た気がした。


 そう。そうだよ!

 今、「史実」とされていることが、必ずしも実際に起こったことじゃない可能性だってあるんだ。


 真人はさらに、とんでもないことを話し出した。

「最新の量子論によれば、そもそも『時間』という変数はないんだ。だから、エントロピーの増大、という概念もない。過去と未来は等質のものなんだ。」


 これが、岩吝図真人いわしみずまさとの本来の沼。もともと真人は理系頭なんである。

「パラレルワールドも存在する。世界は物質ではなく、出来事によって出来ているんだ。」


「・・・・・?」

「・・・・・?」

 まりんも元信くんも理解が追いつかない。


 この人も・・・、クラスで誰とも話が合わなかったんだろうな・・・。(°◇°;)


「だから! 今の元信・・・様の未来も、何も定まってなんかいないはずだ! ・・・と、思う。」



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