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新しい世界とお屋敷と

お読み下さりありがとうございます。

とても嬉しいです。

 空飛ぶ馬車で移動中、私は前世の飛行機を思い出していた。


 「改めて、ウチで働いてくれてありがとう。ウィルも喜ぶよ。今の妻に、会ったことは無かったね」

「これからよろしくお願いします。ウィルに会うのも久しぶり。お名前はファニー様で合ってる?まだお会いしたことないはず」

「そう、ファニーであってるよ。屋敷では、心苦しいけど言葉使いに気をつけてね。皆が居ないときに甘えておくれ」

「頑張ります!」


 今はこんなに気さくに話してくれる叔父さんだが、領地に帰れば辺境伯当主なのだ。

そして、これからは私の雇用主でもある。


 邸宅で働く人の中には、貴族出身の人もいるという。

平民で新人の私が対等に話していたら、示しがつかないのだろう。


 空飛ぶ馬車の窓から外を見ると、だんだん高度が落ちてきたようだ。

上空から見えるのは、栄えた要塞都市と運河、どこまでもつづく森、そして森の先に深い谷が見えた。


「魔境ってこんなに素敵な景色なのね」

「危ないから行かないでね」

「いつでも河を渡たれるの?」

「船には私の許可がないと乗れないよ。瘴気の管理業者か調査隊にしか許可を出してない。勝手に行ったら捕まるからね」


 叔父さんの領地は魔界との辺境、人間界と魔界は運河と深い谷を境界線に別れている。

運河からこちらは人間界、谷の向こうは魔界。

真ん中の森は、両者どちらも所有権をもたないことになっている。


 真ん中の森は、常に有害な瘴気を発生させている。

しかしある時、賢者が瘴気を加工し、新たな素材を作ることに成功。


今や瘴気は、燃料や工業製品、医療製品や生活用品にまで幅広く活用されている。

前世の原油を彷彿させるものだった。


 瘴気の所有権は王家と魔族で半々だ。

そして、王家の瘴気の管理を任されているのは、辺境伯当主の叔父さんだ。

瘴気は魔物を寄せ付けるため、危険ではあるが、経済的には多大な恩恵を受けている。


そろそろ邸宅に到着するようだ、フワッと内蔵が浮き上がるような感覚がしたあと、静かに馬車の動きが止まった。


 馬車のドアが開かれ、行者の手を取って降りる。

石づくりで要塞のような邸宅。森に向けて砲台がいくつかつけられている。


 エントランスは吹き抜けで、使用人たちがズラリと絨毯の両脇に並んで待っていた。


「ご苦労、今帰った!」

「お帰りなさいませ、旦那様」

「お帰りなさいませ、お父様」


 真っ先に出迎えてくれたのは、ファニー夫人と一人息子のウィルこと、ウィリアムだ。


叔父さんが私を二人に紹介してくれる。


「フィー、こちらは君の世話係のジェニファーだ。ウィルはジェニファーと前に会ったね。ジェニファー、妻のファニーだ」

「ジェニファー、これからよろしくね」

「ジェニーここに住むの?!やったー!」

「精一杯努めさせて頂きます。よろしくお願いします」


 さっきまで数日間ベットの上で、しかも車椅子の生活をしていたので足元がおぼつかない。

下手くそなカーテシーになってしまったが、皆温かい目を向けてくれた。


「ジェニー、夕飯は共に。ポーター、案内をしてくれ」

「はい。ジェニファー様こちらです」

「おっと、皆の者!今日からジェニーはフィーの世話係だ。よろしく頼む。ポーター、部屋はフィーの隣だ」

「かしこまりました。改めて、ジェニファーさんよろしくお願いします」


 案内係は荷物持ち(ポーター)のポーターだ。

ポーターが本名だと言うからややこしい。

荷台に風魔法を掛け、浮き上がらせて移動させている。


 くるくるした緑よりの黒髪が、黒羊のようで可愛らしい。

年は(ジェニファー)と同じくらいだろうか。


 ポーターにファニー夫人の部屋の隣まで案内されると、夕食まで身支度をするようにと伝えたれた。

今日の夕飯は、親族として同席するようにとのことだ。


 私の荷物は鞄一つ。

身支度と言われても、何をしようかなと困ってしまう。

すでに部屋は整えられており、片付けも必要ない。


とりあえず鏡台の前に座った。

化粧厳禁の入院生活で、ついスキンケアをサボってしまっていた。

とりあえず、顔のムダ毛チェックでもしようかなとと思った時、トントンとドアをノックされた。


「ジェニファー、突然ごめんなさい。今大丈夫?」

「はい、もちろんです」


 ドアをノックしたのは、ファニー夫人だった。

細い身体、左右対称の顔、つぶらな瞳にソバカス顔が印象的。

髪はウェーブがかかった栗毛色で、後ろに一つに束ねてカジュアルな服装だ。


「私のことはフィーと呼んでね。屋敷の人たち全員にお願いしているの」

「ありがとうございます。フィー様、私のことはジェニーとお呼び下さい」


 本人が直接来るなんて驚いたが、立ち上がって返事をする。

何やら見せたい物があるらしい。

フィーの部屋に案内されると、たくさんのドレスと靴、ジュエリー、そして化粧品が並べられていた。


 まさに宝の部屋と言うべきか。

チラリと見える奥の部屋にも衣装がたくさん吊るされている。

あまりの豪華さに言葉を失ってしまう。


「ジェニー、あのね、初対面でこんなこと言うの申し訳ないんだけど、全部共有で使ってくれたら嬉しいの」

「えっ?」

「私、とても貧しい家だったから、こういう物は落ち着かなくて着る気になれないの」

「えっ?」

「旦那様が気を使ってくださって、たくさんテイラーやを外商をお呼びになるんだけど、勧められた物を断りきれなくて買ってしまって。だけど、どれもタンスの肥やしでもったいないから。ジェニーなら、背丈も同じくらいだし、私より着こなせると思うわ」

「えっと」

「遠慮しないで?」

「遠慮じゃなくて」


 仕えるべき相手につい、タメ口になってしまった。

この人の頭は大丈夫だろうかと、心配になる。

叔父さんは、今回もとんだレディを捕まえてきたものだと感心する。


 「お気持ちは嬉しいですが、これは、辺境伯夫人だからこその装いです。もし仮りに頂けるとしても、着古した後で無ければ、使用人にも領民にも示しがつきません」

「でも、地味な私には、どれも豪華過ぎて合わないと思うの。とくにこれ、セイレーンのウロコのイブニングドレス。買う時はとても素敵に見えるのだけど。試着もして、褒めてもらえて調子に乗ってしまうのね。いざ着てみると違和感があって」


 なるほど。あるあるだ。 

試着室マジックは恐ろしい。

そもそも気になるから試着する、その上で衣服を際立たせる絶妙なライティングと上質なデザインが高揚感を煽るのだ。


 冷静な判断などできる方が難しい。

試着室マジックなんて言葉があるか知らないが、勝手にそう呼んでいる。


 しかし、セイレーンのウロコのイブニングドレスは、背の高いフィーにとてもよく似合いそうだ。

襟から手首までレースで詰めてあり、露出が少なく上品なデザインだ。

整ったAラインのスカート部分、オーロラ色に煌めくのがセイレーンのウロコだ。


 「フィー様は地味ではありません!格下の前で卑下したらいけません。嫌味と捉えられてしまいます」

「そんなつもりじゃないの。本当にそう思っているから。目も小さいし、ソバカスだらけでだし」


 困り顔をしているフィーを見ていると本心からそう思っているのが伝わってくる。

筋金入の自尊心の低さのようだ。

それとも、自分の立場と外見を理解していないおバカさんなのか。


「わかりました。フィー様が高位に相応しく、優れていることを証明しましょう!そこにお座り頂けます?」


 私のコスメヲタク魂が美のゴングを鳴らした。

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