【第9話】スキル(2)
「クロードさん、なんか調子よさそうですね、なんというか、迫力が・・・」
無事に子供たちに強度アップのスキルをかけ終えてから、膝の上に乗ってきた猫のヤグラを撫でているとエドワードが話しかけてきた。
「ああ、大切だと思っていたものをいろいろと手放してみたんだ」
すこし考えたうえでそう言った。
「え?」
「今は、お前たちの方が大切だって事だよ、それで納得してくれ」
ほんの少しハイテンションな俺は、一呼吸おいて痛い発言をしてしまったことに精神的なダメージを負い、
ごまかすようにエドワードの頭をぐりぐりと撫でた。
「いたた、わかりましたって・・・」
「よし! とりあえず、罠を作ってみるか」
「はい!」
俺は少年少女たちを連れ、近くの木々から罠の材料を採取するところから教える事にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
材料を集めた俺は家の前、森側にある広場で作業を開始した。
この広場はまあまあの広さがあり、子供たちを並べて体操ができそうなほどある。
俺は子供たちの前で採取してきた強度が高そうなツタをくばり、編み方を実演する。
チビ達は、興味津々にその様子を見るグループと、こちらにはお構いなしで追いかけっこなどに夢中なグループに分かれた。
今回は年長組の4人と、少し下の子2人が俺の手ほどきを受けることになった。
「今から作るのは魚用の罠だ。
これは俺のじいちゃんのころからある原始的な罠だ」
「げんし?」
「昔ながらのって事だ。
とりあえず捕まえたい魚が、出ていけないくらいの隙間と、
川の流れでつぶれてぺしゃんこにならない強度と、解けて穴が大きくなったり、
後は流れて行かないようになっていればいい」
「「「?」」」
「1つ作るから見ていてくれ。
まず、このくらいの太く固いツルを軸にする」
みんなに見せると、同じぐらいの太さのツタを持ち上げる。
ちなみに長さはナタで切り落としたときに揃えてある。
「ザル編みってわかるか?」
「やり方は分からないです」
「簡単だ。まず軸にしたいツタをこう、まんなかで重ねる」
「こう?」
「そうだ。
次にこの細くて柔らかいツタでその2つをぐるぐるとやって、最後にこの端っこを、隙間に差し込んで固定する」
一人一人の手元を確認する。
「ホームズ、力を入れすぎると・・・ほら切れた。
もう一回だ」
「うう」
「ぐるぐると何度も巻けばしっかり固定される。
だから力はそんなに要らないんだ」
「でもさっき言ってた、川の水の力とか、魚がぶつかったときにゆるんだりしませんか?」とエドワード。
「言い忘れていたが、これは仮止めだ。この後もう少し強い部分でカゴ状にしていくんだ。
仮止めをしていないとズレまくってイライラしてしまうからな」
「なるほど」
ホームズが2つのツタを固定し終わったのを確認し次へ進む。
「次は隙間多めに編んでいく」
「なるほど・・・って、はやっ! あれ? でもめちゃくちゃ隙間ありますよ・・・」
エドワードが俺の手元を見て思わずツッコミを入れる。
確かに今俺が持っているつたのカゴは、10cmほどの隙間がある適当なものだ。
「いや、ここからだ。
まず雑に細長いカゴを作る。
そしたら、このつたを隙間が大きい場所を一周するように差し込んで編んでいく」
俺はツタを一本取って、隙間がある場所にそれを通していく。
「ああ、クレア、ただ交互に通すんじゃなくて、2回に1回は、通すたびに一回くるっと軸で結ぶんだ」
「ああ、どうりで。こうね?」
「そうだ」
「これを繰り返して・・・」
「難しい・・・」
「この程度で良いんだ。
あれが魚型のモンスターだったらこれではだめなんだが、
そこにいる魚は普通の魚だから、こんな雑な固定でも隙間を出れない。
ほらエドワード、そのだと網の目が小さすぎだから、少し広げてくれ」
「ええ? でも魚逃げませんか?」
「大きいのだけ取れればいいんだよ。とりあえずはな。
小さいのはあとに取っておけばいい。
大きくなって、沢山食べられる部分が増えたころを狙う」
「え、はい、なるほど・・・」
「まあ今はたくさん食べたい気持ちがあるのは分かるが、今全部食べてしまったら後々困るだろ?」
「はい、今度こそ食べるものがなくなります」
「そういうことだ」
「この大きさであのでっかい魚、入るのかなぁ?」
「いや、あのデカいのは無理だな。
あれはヤリでも作って突くぐらいやらないと、やりようはないだろうな」
1メートル越えの鯉ぐらいの魚影を思い出しながらそう答える。
まるまる太っており、下手をしたらここのやせ細った子供より重そうだ。
「うわーあのデカいのを食べられる日が来るなんて!」
「まずは小さいのからな」
「分かってるって。でもやりでつつけば良いんでしょ?」
「まあな。でもクレア、もし捕れたとして、あの大きさをさばく道具はこの家にはなさそうだが」
この家の道具を見せて貰ったが、果物ナイフが1本しかない。
いつもこの果物ナイフで雑草を切っているそうだ。
大きな包丁だかは、先輩が持って行ってしまっている。
「あっそうでした・・・小さい方の魚でガマンだね・・・」
「しばらくはな」
「小さな魚でも全然違うよ」とククイ。
「そうだな。あとは調味料がないが、焼いて骨はスープの出汁に、肉は具にするだけでだいぶ違うだろう」
「そうですね」
「やばいって、今そんな話されたら我慢できなくなる・・・」
「ホームズ、よだれ出てるわよ」
「いうな」
「・・・よし、俺のは出来た。質問があれば聞いてくれ」
そういって俺はみんなの出来を見て回る。
なじみがない作業にみんなが四苦八苦していた。
数か所に仕掛けられるようにと、後は何かアクシデントがあったとき用に予備になるので材料があるだけ作らせた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
午前いっぱいかけたくさんの魚とりの罠が完成した。
この罠作成はこれから毎年の行事になりそうなので覚えてもらいたい。
「よし、じゃあ餌を取りに行くか」
「餌ですか?」
ホームズが聞き返してきた。
「ああ、餌をこの中の、ここに挟んで固定するんだ。
餌が無ければ魚は入らないぞ」
「たしかに。」
「地面に葉っぱがたくさん落ちていて、茶色とか、黒くなっているようなところはあるか?
そうだな、なるべく湿っている場所がいい」
「葉っぱが腐っているってことですよね、ありますよ、ミミズですよね」
「お、そうだ、よく知っているな。案内してくれ」
「はい」
エドワード達に連れられてきた場所は家から下流に少し下った場所の河原と森の境目だった。
いい具合に日陰になっており、枯れ葉はもたくさんある。
軽く土を掘ると、大量の大きなミミズが出てきた。
出て行った先輩たちからこういったポイントを教えてもらっていたが、
出ていく際に釣り竿を持って行ってしまったため釣りが出来なかったそうだ。
「いい大きさだ。 これを餌にするぞ」
「おお! まじかよ!」
ホームズのテンションが上がりっぱなしだ。
ほかの子たちもうれしそうにはしゃいでいる。
ホームズの手に土をのせ、その上にミミズをのせてかるく埋めてから家に戻った。
斧で切り出し作った杭を川岸に深く打ち込み、そこにツタを結び、カゴと連結させる。
次に日陰を作るように葉がたくさんついた細い枝を差し込んで固定する。
餌をかごの中の、ツタとツタの隙間にぐいっと強めに挟み込み、少し沈むくらいの石を入れてから川に投入させた。
「このツタ、切れませんかね」とエドワード。
「このぐらいの流れなら大丈夫だろう、そのために網目も大きくしているんだ。」
「このツタは俺がぶら下がっても切れないから大丈夫だと思うぞ」とホームズ
「そうだな、じゃあ俺たちはここから離れるぞ、うるさくしていると魚が警戒して出てこないからな」
「え、そうなんですか?」
「ああ、意外と魚は中だけじゃなくて、水面にも気を配っている生き物らしい」
「へぇ」
みんなで家へ帰る。
子供たちは何度も後ろを振り返っていた。