【第8話】スキル(1)
俺はみんなに見守られながら早速ナタと斧に強度アップ(小)を施した。
日が落ち始めており家の中は真っ暗なためその日はまたみんなで雑魚寝をする。
買った服も強化したのかククイに聞かれ、忘れていたことに気づき礼を言い、頭を撫でた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
道具を買い込んだ次の日。
「おじさーん!」
「おきて~!」
「うるさい・・・」
なぜわざわざ耳元で叫ぶのか。
俺はチビどもに手荒く起こされ、腹いせにすぐ目の前にいた子供を捕まえてコチョコチョで反撃をした。
「や、やめろー!」
仲間を守ろうと近づいてきた子供を捕まえ、コチョコチョをした子供を開放する。
しばらくの間それがループした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
少女たちが作った雑草スープをみんなで飲んでいる時に、いち早く飲み終えた俺はみんなに声をかけた。
「スープを飲みながら聞いてくれ」
一生懸命にスープを飲んでいるチビ達を待ってやってもよかったが、飲み終えた瞬間に外に遊びに行くのでこのタイミングしかなかった。
ちなみに今日は罠を作ったりする予定だったので、年長組の4人もゆっくり子供の面倒を見ているしている。
まあ、そもそもこいつら当てもなく歩いているだけだったしな。
「みんな、スキルって聞いたことはあるか?」
「スキルですか? クロードさん」
「ああ」
「知ってます」
見回すと少年少女を含めた7人くらいが"わかっている"というような顔をしていた。
人にはそれぞれ何かしらのスキルが宿っている。
そしてそれは7~10歳の間で発現して自覚し、使えるようになる。
使い方は発現したらわかる。
この7人は見た感じ7歳以上なので発現しているのだろう。
「ボクは」
「ああ、今はいい」
それぞれが自分のスキルを説明しようとしたのでストップをかける。
「スキルはあまり大きな声で言うようなものではないので、後で個別に教えてもらえればいい」
「わかりました」
「それで、ご飯を食べ終わったら、俺のスキルをみんなにかけたいと思う」
「え?」
「クロードさんのスキルって、昨日のやつですよね」
「そうだ。俺のスキルは強度アップと言ってな。
かけた相手が例えばケガをしにくくなったり、病気になりにくくなったり、
悪いものを食べても少しくらいならおなかを壊しにくくなるといった効果がある」
「ナタとか斧だけじゃないんですね」
「そうだ」
「そんなすごいスキルを、ここに居るみんなにかけられるんですか?」
「ああ、ただし俺のは効果が弱い。
だけどかわりに、沢山にかけることが出来るんだ」
「あ、お願いします!
下の子がよくおなかを壊して。はなみずもずっと出てるし」
「ああ、もちろんだ。
ただ、すでにかかっている場合はすぐに治るわけじゃない。
あくまで、病気になりにくくなるぐらいなんだ」
違いについて説明をする。
あまり効果が高くはないことも重ねて伝える。
「わかりました」
「十分です」
「よし、では終わった子から並んでくれ」
「「「ごちそうさま!」」」
ご飯が終わった子から俺の前に並び始めた。
みんながキラキラした目で見てくる。癒される。
おそらくお兄ちゃんお姉ちゃんたち・・・にいにとねえねの様子から、俺がすごいことをしてくれるんだと思ってくれたようだ。
本当は必要ないけど、頭をヨシヨシと撫でながらスキルを発動する。
「強度アップ」
そういうと子供の体がキュイイインという音と共に白く発光し、3秒ほどで光が消え完了だ。
歓声が上がる。
ここは貧しいがそれ以上に希望に満ちた空間だな。
次々にスキルをかけていく中、列に1人分の空きができた状態でそれが進んでくる。
妙な隙間があるなと思ったら、猫のヤグラもしれっと並んでいた。
同じように頭をなでながら「強度アップ」をかけてやると、すでに終わった子供たちの集団に入っていった。
不思議な猫だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
・・・しばらくして。
10人を超えたあたりから違和感を覚え休憩を取る。
スキル自体は発動するけど、1回で相手が強化されない。しづらくなってきた。
確かに大きなものや、小さくても連続でやるとこうなることはあるが、まだ平気なはずだ。
MPには余裕もある。という、久しぶりの感覚を覚えた。
「ふむ・・・」
「だいじょぶ?」
終わった子供たちも俺の周りでスキルをかけるのを見ていたため、手を止め考える俺の様子に気づいた。
「大丈夫だ。少し休憩する」
こうなったら一番早くて確実なのが”掛けた対象のやりくり”をすることだ。
それらを意識すると、今までに強度アップをかけてきた順番にかけたもののイメージが浮かんでくるのだが・・・。
(なんじゃこりゃ!?)
浮かんだイメージが多すぎて頭が痛くなり、めまいまでした。
とりあえず冷静に手前にあるモノから見ていく。
考えてみたら、俺はほとんどやりくりをしたことがない。
スキルの特性上、やりくりについて忘れることはなかったが、ほとんどしたことがないことに気づいた。
「・・・これは、兵士時代の俺の装備だ」
イメージの中に浮かんでいる古い装備をみつけてそうつぶやく。
(本当に初期のころのもので、とっくに捨てたやつだぞ。名残惜しくて解除を後回しにしていたやつだ)
兵士時代の鎧は支給品だったが、それが5つほど目の前に浮かんでいた。
デザインなどは兵士の中の級があがると豪華にもなる。・・・全部解除。
するとほんの少し体に力が入るような気がした。
次に目の前に現れたのは、愛用の武器や防具、そのたカバン、補助具などだ。
これらは屋敷の自分の部屋に飾ってあるものだ。
15年ほど前まで使っていたもの。
今補強されている意味はないな。解除でいいだろう。
ふわりとまた力が戻ってきた。
その次に出てきたのは宝物、コレクションなどだ。
過去助けた人たちからもらった品物で、懐かしい宝物だ。
スタンピードから救った町の子供たちから貰ったきれいな石なんかもある。
(こんなものまで強化してたのか、俺)
これらも今は屋敷の中の自分の部屋の中なので補強されている必要はない。ちょっと寂しいけど解除。
次に見えてきたのは前居た国のギルドや王様から貰った沢山の勲章や賞状、記念メダルなど。 以下略で解除だ。
やはり、ふわりと力が戻ってきた。
次に出てきたのは娘と息子のおもちゃたち。
もう遊んですらいない。解除。
妻、グレイシアのティーセット。
う~ん・・・これも解除!
ティーセットの解除し終わると、その後ろに並んでいる人物が目に入った。
まず真ん中にならんでいたのが家族。
両親は貴族になる前には亡くなっていたので、純粋に屋敷に住んでいた時の家族だ。
一人一人の顔をじっくりとみる。
妻グレイシア(30)
やっぱり美しいなあ。 最後は愛想をつかされたけど、いつも楽しそうに話をする妻を愛していた。
15歳で嫁にきて、15年だ。当時は可憐な美少女だったが、今は美しさが爆発して美女になっている。
長男クレイ(15)
俺の代わりにいろんな仕事をしてくれていた。
俺が仕事が嫌いすぎて、なかなか話もできなかったな。
だって話題が仕事の話ばかりだし・・・きっと褒めてほしかったんだろうけど途中から辛くて逃げてしまった。
年齢的に反抗期だと妻グレイシアは言っていたけど・・・それだけなのか?
時々廊下でにらまれてる時があったけど、それすらもかわいいと思っていた。
反抗期は子供がちゃんと成長できていると分かるサインでもあるからな。
長女リリィ(12)
しっかりもので今は騎士学校の寮で暮らしている。最後の日もいなかったのはそのせいだ。
身体強化(中)と性格が嚙み合って、かなりの騎士になるだろうな。
年に2回帰ってくるたびにやる手合わせは、おそらく次から勝てないだろうなって思っている。
まだ小学部なのに天才が過ぎる。来年からは希望していた騎士の名門の中学部に入れると嬉しそうに言っていたな。
俺が原因で取り消しにならないだろうか。
まあ俺の罪自体、本当なのかもわからないが。
次女で末娘のケイティ(7)
いつもかわいい笑顔を見せてくれていた。クッキーありがとう。
この子は"なぜか知っている"ことが多くてよく驚かされた。
俺が話したことがない兵士時代のエピソードなんかも"知っていた"。
スキルの名前がこの国の発音では難しいとかでよくわからないらしい。
「心の中で考えたら答えがわかるの」なんて言っていたな。
うむ、解除は保留でいいだろう。
家族を横にずらすと、後ろからは使用人たちの姿が現れた。
一人一人の顔を見る。イラっとした。
総勢30人ほどを全部解除。
まあまあな力が戻ってきた。
次に現れた、その他の人たち
誰だ? わからない人がいっぱいいるぞ。
ううむ? これは・・・何人かは取引先の商店だな、服装的に。 全部解除。
よしよし・・・ん?
これで終わりかと思ったが、浮かんだイメージが消えない。
道具も人間も、先ほど見たもの以外にはない。
「まさか」
背景だと思っていた屋敷がそこにはあった。
よく考えたらこの補強済みリストのイメージに背景なんかないはずだ。
(まさか・・・)
屋敷に強度アップなんて・・・
そういえば初日にかけたかもしれない。
いや、わからん。 されているんだ、考えても意味がない。これは解除だろ。
屋敷を意識し解除した瞬間、中にあった家具や使用人たちが使ういろんな道具、制服なども一緒に解除されたのが分かった。
「にゃん?!」
ヤグラがびっくりしたようにこちらを見た。
「っ・・・!?」
次の瞬間、体に力がみなぎってきた。
途方もない充足感。
目の前に見えていた視界がクリアになった。
ずっとモヤがかっていた思考もすっきりした。
手を見るとオーラーが揺れているのが見える。
これ自体はそのうちなじんで収まるだろう。
更にここ十数年なかったやる気とか、前向きな気持ちも湧き出てきた。
今なら何でもできる、そんな気持ちになった。
(ああ・・・)
考えてみれば、功績をたたえられ屋敷を貰ってそこに住み始めてからだったのかもしれない。
今のこのやる気と前向きな気持ちがあれば、貴族としての新しい仕事も、もっと頑張れたのかも・・・。
そうだとすると、すべての原因は自分だ。
スキルを使う事によって力とやる気を分散させてしまい、弱気になって、逃げ癖がついて、性格も悪くなって、周りに当たった結果、反感を買ったわけだ。
なんか、悪いことをしたな・・・。
まあ考えても仕方ない!
「おじさん?」
「あの、大丈夫ですか?」
「くおーど、だいじょぶ?」
目の前の子供たちを見ると、みんなが心配そうにこちらを見ていた。
自分だってボロボロのくせに、人を心配するなんて。
「ああ、平気だ、どんどんいくぞ。
まかせろ、全部うまく行く」
俺は独身時代によく言っていたセリフを15年ぶりに吐いた。




