【第7話】冒険者”再”登録
昼過ぎになり、俺は一番近い町まで案内されてきた。
件の孤児院がある町だ。もちろん怒鳴り込むつもりはない。
なぜ狩りをすると言い家を出たのに町に来ているのかと言えば、
朝から少年二人の後について回ったのだが、狩りといいながら森の近くをうろうろとするだけで何の成果も得られそうになかったからだ。
こういうのは目的をもって痕跡を見つけて回ってポイントにあたりを付けて~などと説明したが、基本から分かっておらず、初歩の初歩から説明が必要そうだったのでいったん後回しとしたのだ。
さすがに相応の歳だった二人は、ぽかん顔ではなく気まずそうな顔をしていた。
ちなみに持っていた棒を振らせてみたが、子供のお遊びレベルで思わず目を覆ってしまった。
こんな様子では最弱のカピというネズミ型のモンスターにさえ勝てない。
下手したらノーダメージだ。
モンスターの倒し方についても教えてやるというと喜んだ。
それ以外にも、簡単な料理の仕方、後は川魚用の罠や動物用の罠なんかも古い記憶を呼び起こして、思い出せたら教えると伝えた。
「クロードさん、ここです」
町に来た理由はここ、冒険者ギルドを訪れるためだ。
人として生活をしていく上ではやはりお金を稼ぐ必要があったからだ。
道具もたくさん必要だ。
とりあえず今日は、この辺のモンスターの分布や、何か特別なことが起きていないかなど聞くつもりだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
じろじろ、じー。
という事で町に入り、ギルドの前まで来たが、新たな問題が発生していた。
俺のこのいかにもな貴族の服が目立ちすぎているのだ。
町に入る段階からここに来るまでに、穴が空きそうなくらいの視線を受けた。
俺は貴族服をぴっちりと着ているためだ。
しかしすぐにどうなるわけでもない。
全裸で歩くわけにもいかないのでまずは最初の目的を果たすことにする。
ギルドの入り口は開かれていたのでそのまま2人を引き連れてギルドに入る。
「全然人いないですね」
昼間という事もあり閑散としていた。
前を向きなおす。
2つのカウンターが開いており、30歳くらいの美しい受付嬢と、おばちゃんがそれぞれのカウンターについていた。
ベテラン感のある、おばちゃん受付嬢の方へ向かう。
「すまないが、ちょっといいか」
「へ、へえ、お貴族様が、いかがしましたか?」
受付のおばちゃんは目を白黒させながらも、なんとか言葉を紡ぎ出した。
「クロードという。
あの子供たちの面倒を見ることにした」
「そ、そうなんですね」
「こんななりをしているが、今はもう貴族じゃない。普通に話をしてくれ」
「わ、わかった・・・ですよ」
「聞きたいのは・・・」
俺は周りの反応を一切無視して聞きたいことを聞いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
色々と話をしていくうちに、ある程度分かっている人間だと判断されたようで、途中からスムーズに情報を得られた。
そのころには言葉遣いも自然なものになっていた。
隣の国ではAランクまで上り詰めたことを伝えると、途中から沸いてきて聞き耳を立てていた近くの冒険者からも驚かれた。
Aランクとは相当な功績を上げないとなれない。
沢山の上級モンスターを倒したとか、誰もが認める偉業を成し遂げたとか。
俺の場合は単体でスタンピードを3つほど壊滅させたときに飛び級した。
そしてこれはこの場では言わなかったが、4つ、5つとスタンピードを壊滅して功績を上げた時に国から爵位を貰った。
受付のおばちゃんのすすめで、俺も登録することとなったが、隣の国の功績は引き継げないと言われた。
前者の、沢山の上級モンスターを倒したという事であれば、ある程度考慮してもらえるが、俺が達成したのはそれではないのと、
スタンピードの攻略はこの国に貢献したものではないためだそうだ。
「かまわない。もとよりこだわりはなかった」
嘘だ。本当はちょっとある。
「準備出来ました」
隣でごそごそと登録の準備をしてくれていた受付嬢さんが声をかけてきた。
「ではクロードさん、こちらへ移動してください」
「ああ」
隣のカウンターには板が置いてあり、促され手の形をした黒い石に手を重ねる。
不思議と冷たさも温かさも感じない石だった。
少しすると紐でつながった箱がカタカタと動き出した。
「はい、ありがとうございます、読み取りは完了です。手を外してください」
箱に紙がガタガタと吸い込まれていくのを確認し、受付嬢さんはそう言った。
「では証明証を作ってきますので、もとのカウンターでお待ちください」
「わかった、ありがとう」
俺はおばちゃんの受付嬢のカウンターに戻った。
「この町で服を売ったり買ったりできる場所はないか?」
俺は元居た場所で待っていた受付のおばちゃんに聞く。
「あるよ、今着ている服を売るのかい?」
「ああ。目立って仕方がないしな」
「いいのかい?」
少し困惑した顔でそう聞いてきた。
「ああ」
受付嬢さんは一瞬考えるそぶりをしてから口を開いた。
「そのレベルの服だと、1つしかないだろうね」
この町で一番の服屋を紹介された。
場所を聞いていると、後ろの子を見ながら、その子たちなら知っているんじゃないかい?と言われ振り返る。
「北のほうの大きな店だよな?」
「そうだよ、クロードさんを案内してあげてくれないかい」
「わかった」
以外にも受付のおばちゃんは子供たちと親しそうに話をした。
「クロードさん、こちらになります、お待たせしました」
「ああ」
受付嬢さんから証明証のネックレスを渡される。
縦2cm、横1cm、厚みは5ミリぐらいの、いぶし銀のネックレスだ。
(小さくてしょぼいが、これがFランクの証明証だったな)
「今回は初回登録ということで無料ですが、再発行にはお金がかかりますのでご注意くださいね」
「わかった。ではまたそのうち来る」
「はい、またのご利用をお待ちしております」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「クロードさん、めちゃくちゃすごかったんですね」
ギルドの外に出ると少年の二人が興奮した様子で話しかけてきた。
「たまたま功績をあげられただけだ。 とりあえず服屋に行こう」
本当のことを言うと、実力は、Cどまりだった。
兵士が本職だったとはいえ、Bは絶対手が届かない、違う世界の人間たちだなと思っていた。
・・・あいつら元気かな。
昔の同僚の懐かしい顔が浮かぶ。
「クロードさん、ここです」
「ん。思ったより近かったな」
この町一番の服屋は冒険者ギルドから歩いて5分の場所にあった。
今着ている貴族の服は数日の野宿を経ているが、丈夫な生地で、特殊な加工もされているため、
ほつれの1つもなく、スキルで洗浄もしているので、分かる人間が見れば、正しい値段を出してくれると思う。
「よし、入るか」
「ボクたち、外で待ってます」とエドワードが言い足を止めた。
「ん?」
「ほら、俺らこの格好だし、行ってください」とホームズ
「・・・わかった、少し時間がかかると思うから、日陰に居ろよ、暑いからな」
「はい」とエドワード。
ホームズはうなずいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ありがとうございました」
「ああ、そのうちまたな」
結果から言うと、まずまずの価格で買い取ってもらえた。
まず、俺が入った瞬間に従業員さんが自分では無理だと判断したのか、店主さんを呼んでくれ、店主さんが直接査定などの対応をしてくれた。
そこで魔法的な加工が複数されていることを確認してそろばんをはじいてくれたのだ。
俺と同じような体形(実際はもっとオブラートな言い方だった)の、これから頑張ろうとしている貴族に持って行くうちのメインとして週末に持って行きたいので、買戻しは出来ないと言われ、了承した。
そしてそのまま俺は服を新調することとした。
なんせ今着ていた服を売ったのだ。
パンイチで店を出る訳にはいかなかった。
採寸してもらい、既製服をなおしてもらう。
長袖、長ズボン。
シンプルな庶民服だ。
とても着心地がいい。
(こういうのでいいんだよ服っていうのは)
いい服を買い取らせてもらったのでと、仕立て料は無料にしてくれることになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「待たせたな」
店を出ると、言いつけ通り日陰に二人はいた。
「いえ。 あ、新しい服」
「ああ、どうだ?」
「いいと思います」
「よし、じゃあ次は金物屋に案内してくれ」
「カナモノヤってなんですか?」
ホームズも聞いたことはあるけどなんだっけ、という顔をしている。
「ナタとか斧を買いたいんだ。 そういうものを売っている店だ」
「それなら武器屋の隣にある、あの店じゃないか?」
「そうだな、案内するよ、クロードさん!」
「よろしくな」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「またどうぞ」
(お金の大半が飛んだが、無事に手に入った。品質的にも悪くないな)
俺は目的のナタと斧、砥石を購入した。
本当は木工用に金属製のヤスリとかも買いたかったけど一気に買うのは控えておいた。
帰ったら耐久力と切れ味の強化のスキルを重ね掛けしよう。
「クロードさん、剣とかじゃなくてよかったの?」
「そうだよ、冒険者やるんだよね?」
「冒険者はやるが、後回しだ。
・・・これはこれでいいんだよ」
子供二人からそういわれてちょっと不安な気持ちになったが切り替える。
俺は買ったばかりのナタと斧を持ち上げ、心配ないと伝える。
「ええ・・・」
一瞬不安そうに考える俺にちょっと戸惑いを見せる二人。
「ほら、これならモンスターを倒すための木製の槍だって何本も作れるし、魚や動物を捕まえる罠だって作れるんだ。
それならこっちの方がいいだろ?」
「「おお!」」
そう、まずは飯を食えるようにしないと。
俺は目を輝かせた少年2人を引き連れ家へと帰っていった。