【第6話】森の中の孤児院?(2)
「ぬお・・・顔に足が・・・」
翌朝、チビ達を押しのけ起床する。
軽いので乗られても平気で、むしろ温かいぐらいだったがさすがに足を顔に乗せられるのは気分が良くない。
既に起きている子供もちらほら居て、挨拶をするとみんな笑顔で返してくれた。
裏手の川で水を飲もうと家から出ると猫のヤグラが後をついて来ていた。
「おはよう、ヤグラ」
「にゃん」
鑑定してみると、しっかりヤグラと表示されている。
自分が飲んだ後、手で川の水を汲んでやる。
「にゃん」
猫のヤグラはその水を飲んだ。
「なんというか、お前も変わった猫だな・・・」
「にゃん」
「おお、結構でっかい魚も居るんだな」
ヤグラと川を眺めていると、赤色の髪色をしたクレアと、
水色の髪色をした少女ククイが子供を連れてやってきた。
「おはよう」
「おはようございます~、ええと」
「クロードだ」
「ごめん、クロードさん」
「昨日の今日だ、しばらくは慣れないだろう」
「うん、優しいねぇクロードさんは」
「そうか?」
「うん。 魚、見てたの?」
「ああ、結構大きなのもいるし、・・・あっちにはすごい魚群になってるのがいる」
「あれって、食べられるんでしょ? 捕まえられればいいんだけどねぇ、魚を捕る道具が何もないの」
「そうか。まあ、やりようはあると思うぞ」
「本当? じゃあそれも教えてね」
「わかった」
「寝る部屋がね、今日はどれだけ息をしても匂いしなかったの。ありがとう」
「ああ・・・」
「ありがとー!」
抱っこされている小さな子もお礼を言ってきた。
「どういたしまして」
これからご飯の準備を始めるらしい。
小屋の方へ歩いていくクレアとククイを見送ったところで、少年が二人、声をかけてきた。
「ごはんまでの間に、この家の案内しますね」とエドワード。
「小さな家だからすぐ終わるんだけど」とホームズ。
「ごめんなさい、名前をまた教えて貰えますか?」
「クロードだ。
よろしくな、エドワード、ホームズ」
俺も同じで、誰の名前も覚えてなんかいなかった。
鑑定の差し歯で名前をカンニングしているだけだ。
「はい」
「う、おう」
家の入口に向かう。
「ここが入口です。
ここの家は裏口とかなくて、ここからしか出入りが出来ません」
「なるほど。
そういうえばエドワード、ここって孤児院ってことでいいのか?」
「えーと、厳密には違います。
ここは普通の家で、持ち主は老夫婦だったのですが、もう亡くなられています」
「ああ、そうなのか」
「はい、ボクたちが来てすぐ亡くなられたのであまり話したことなかったんですが、
何かの商売から身を引いた後、子供が好きということで行き場のない子供をあつめて面倒を見てくれていました」
「その二人が亡くなられてから代わりの人間が来たんだな?」
「ボクたちをいいように使いたいと思った人間が来ましたが、
思ったより幼い子供が多く、何も出来なくて去っていきましたよ」
「お前たちが一番年上なのか?」
「はい、ボクたちより上の人たちは独り立ちして出ていきました」
「そうなのか。町からの支援は?」
「正式な孤児院ではないので無理だそうです。
でも色々と優しくしていただいていました」
「今は何もないってことか?」
「皆さんにも自分の生活がありますから」と苦笑するエドワード、
「それにチビが多すぎて、何度かパンを持ってきてくれたおばさん達もこんなに大勢は無理だ~って感じだったよな」とホームズ
「うん・・・」とエドワード
「そうか。まあ仕方ないか」
「はい。私たちもいつ貰ってばかりで心苦しかったし・・・」
「なるほど。 エドワード、言葉遣いがかなりいいが、いいところの生まれなのか?」
「いいところ・・・といえばそうなりますね。
数年前まではボクとホームズは首都にいたんです。
別々の商会ではあったんですけど、昔から顔なじみで。」
「ほう」
「で、事情は教えて貰えなかったんですが、
ボクと母が先にこの町に来て生活をすることになったんですが、
もともと貴族の娘だった母が慣れない環境で体を壊して、
ずっと入院してて、ある日無くなってしまいました」
「そうだったのか・・・」
「もう吹っ切れているのでだいじょうぶです。
そのあとは、町の人の勧めでここに、って感じです」
エドワードはホームズを見た。
「んで、その後に今度は俺と、ええと妹のクレアが使用人に連れられてこの町に来たんだ。
俺を連れてきた使用人はいつの間にかいなくなってた。お金と一緒にな。
そのあとはやっぱり町の人に連れられてここにって感じだな」
「びっくりしたよ」
「俺もだ。でもホームズが居て心強かった」
「ボクもだよ」
「そうだったのか。お前たち、苦労したな」
俺はなんとなく、そうした方がいいと思い、二人を抱き寄せた。
「・・・はい」
続けて中の案内になる。
「この家の間取りは調理場と食堂の部屋と、他に3つの部屋からなります」
「ふむ」
「1つ目がここ。ご夫婦の部屋。
前までは小さな子供の遊び場だったんですがカビがひどくて、ここで遊んだ子供のセキが止まらなくなって今では閉め切っています」
「なるほど、じゃあ後で洗浄のスキルできれいにならないかやってみよう」
「お願いします」
ふたりは顔を見合わせて笑った。
「2つ目はここです。
応接室だったみたいで、長椅子が置いてありましたが、それは今食堂に移動しています」
「ここもカビがひどいな」
「はい、なので閉め切って匂いが食堂に来ないようにしています」
「わかった。ここもやってみよう」
そういうと二人はやはり嬉しそうに顔を見合わせた。
「3つ目はここか」
「はい、みんなでここで寝ます」
「1つ目と2つ目の部屋も、なるべく早くに使えるようにしたいな」
「はい」
最後に調理場兼食堂に入る。
ちょうど朝ごはんを作っているようだ。
ここにあったのは、縦30cm、横幅が25cmくらいの寸胴鍋が2つと、
金属製のおたま、網目状のおたま、果物ナイフ、火打ち魔石が1つづつだ。
テーブルの上には木でつくられたスプーンと、お椀が並んでいる。
奥の方には森で拾ってきたであろう木の枝や着火用の落ち葉なども置かれている。
他の道具は先輩たちが独り立ちする際に持ち出してしまって無いそうだ。
痛いことに釣り竿も今はないらしい。
「ここはカビなんかは大丈夫なんだな」
「そうですね、なんででしょう」
「雨漏りはないのか?」
「どの部屋もないですね」
見取り図としてはこんなかんじだ。
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【森側】
玄関
雑魚寝 調理場兼食堂
応接室 夫婦の部屋
【川側】
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「何を作っているんだ?」
何かを作っているクレアとククイに聞いてみる。
「「雑草ス~プ~」」
ふたりは顔を見合わせてからこちらを向いて、困ったような顔で笑ってそういった。
「そ、そうか」
何かの比喩だろうと思ったが手元に見えた草を見て本当に雑草だったので口を閉じる。
改善点が多すぎてめまいが起きそうになった。
「クロードさん、俺たち食事が終わったら狩りに行くんですが」
「そうか、わかった、俺もいこう」
なるほど雑草スープだけではないようだ。
男3人で狩りに出かけることになった。
ちなみに昨日の夕方に帰ってきた4人もすでに洗浄でピカピカになっている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「・・・なるほどな」
歩きながら家の状況を聞いたが、お金もなく、道具もいろんなものが足りておらず、雑草などでギリギリ命をつないでいる状態だと分かった。
ちなみにあの家には現在34人の子供がいるようだ。
道理で騒がしいわけだ。
「これ以上増えたら、どうしようかってよく話してたけど」とホームズ
「うん、結局夫婦が亡くなってからは増えなかったね」とエドワード
「それまでは増えていたんだよな?」
「ええ、ボクたちみたいなケースもありますし。
あの夫婦が亡くなってからは、もう1つのちゃんとした方に行っているんじゃないかなと」
「ちゃんとした方?」
「うん、ちゃんと領主から孤児院として認められて、支援を受けられて、ご飯も勉強も与えられる、本当の孤児院が、町にあるんだよ」
「なんだと?」
こんなに困っている子供がたくさんいるのに放置されているのか?
「じいちゃんが領主とあまり中が良くなかったらしいんだけど・・・」
「チビ達だけでもって、言いに行ったことがあるんだけどダメだった。
まあチビ達もここに居るって泣いてたからいいんだけど」
「そうなのか」
「でも、あれは許せなかったなあ」
「なんだ?」
「孤児でもないのに孤児院に預けられてる子が何人かいるんだ」
「意味が分からないが」
「えと、町に住んでいる若い夫婦とかが、お金がないのか子供を孤児院に預けてるんだけど
そうなるとその子供って、領主から貰ったお金で生活するじゃないですか」
「まあそうなるな」
「休みの日には子供を迎えに来て、町で食事や買い物をするんだってさ。ずる過ぎだろ」
ホームズは道端にあった石を持ち上げ、森へと投げた。
「ホームズ、・・・怒ってもおなかがすくだけだって、忘れようって話したじゃないか」
そのことに不満を持つほかの町の住人から教えて貰ったらしい。
その話を聞くまでは、貧乏くじを引いてかわいそうだなと思ったが、キレてしまった。心の中で。
ひいきをしたくなった。この二人を含めたあの家の子供たちに。
この状態が続いているということは、誰かに訴えても仕方ない。
大人の俺が正当性を訴えて、無理やりその孤児院にこの子たちを入れて貰えたとして、いじめられそうだ。
俺は大きく深呼吸をした。
「忘れちまえ、そんな奴らの事なんか。考えてやるだけ時間の無駄だ」
「うん、わかったよ」
「まあ、そうだな」
「ここにいる子供たちの年齢は?」
「正確な歳は分からないけど」
年齢の分布は以下の通りだった。
14~15歳が4人
10~12歳が10人
7~ 9歳が15人
4~ 6歳が5人
エドワード、ホームズ、クレア、ククイが一番年上で頑張っている4人組となるようだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ふたりは困窮してる状況を伝えてきたが、1つ引っ掛かったことがあった。
こういう状態の少年少女でも稼げる方法があるのだ。
「冒険者ギルドには行ってみたのか?」
「うーん・・・」
ギルドと聞いて二人は渋い顔をした。
ギルドには大体10歳から登録が出来る。
事情があればもっと早くも可能。
まあ7歳とか8歳ぐらい。
つまり、家にいる子供のうち10人はギルドの仕事が受けられるはずだ。
「・・・うまく行っていないんだな?」
「はい」とエドワード
「だなあ」とホームズ
「どう、うまく行かないんだ?」
そう聞いてみると、最年長の4人と、後何人かは冒険者登録済みだった。
あの家に来たばかりのころに、当時いた先輩に連れられて登録したらしい。
ランクは一番下のF。
Fとなると、そのギルドがある町の手伝いか、薬草類の採取系となるが、
街の手伝いはほとんど受けられず、薬草類の採取については薬草が探せなくて納品が出来ないらしい。
今ではギルドに関しては諦めている状態だった。
「でもよエドワード、俺たちこんなにきれいになったから、今だったら町の手伝い行けんじゃねえか?」
「どうだろ。今はきれいになってるけど、それを依頼主に見てもらえるわけでもないからね」
どうやらギルドの職員の時点でNGが出ているらしかった。
仕事場に来てもらう訳なので、条件に清潔であることを入れるのは間違いではない。
もし体が綺麗になっても断られたら、本当の理由は体の汚れではなく、おそらくは卒業していったという先輩達のやらかしではないだろうか。
どちらにしろもう町の手伝い系は受けないつもりのようだ。
「なるほどな・・・」
自力で稼ぐことすら難しいという事か。
何かあればギルドで仕事をして食つなげとよく言われるが、これが通用しない事もあるんだな。
二人は困った顔で俺を見ている。
「まあ、若い時には俺も小遣い稼ぎで仲間と冒険者のマネゴトをしていたから、その辺も教えることは出来ると思う」
「え、まじ!?」
二人は顔を見合わせ・・・
「「お願いします!!」
勢いよく頭を下げてきた。




