【第5話】森の中の孤児院?(1)
チュンチュン、チチチ・・・
「朝か・・・」
「にゃん」
「さて・・・行くかぁ」
眠気覚ましに二人で川の水を飲んでから立ち上がる。
そしてまた上流をめざし歩き始めると、10分も経たないうちに子供の声が聞こえてくるようになった。
寝ていたところのすぐ近くに、昨日は気づかなかった一軒家があったようだ。
「よし、行ってみるか」
「にゃん」
心なしか猫もちょっと緊張しているようだ。
近づくにつれ、聞こえてくる子供の声が増えてきた。
元気だな。
「多いな。近所の子が遊びに来ているのか?」
「にゃん」
家のすぐ近くに来た。
遠目からはわからなかったが、かなりのボロ屋だ。
元がかなりしっかりしている感じなので、それでもっているようだ。
ちょうど裏手だったようでこちら側に人はいない。
細い木で作られた柵に沿って正面に向かう。
造り的には次の角を曲がれば家の正面だ、俺はニカッと笑顔を作り角を曲がる。
これは貴族になってから覚えたものだ。
いつもの不愛想な顔だとトラブルになりかねないからな。
俺のふところから顔を出した猫の顔がちらりと視界に入る。
心なしか笑顔を作っているように見え笑いそうになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
二人で笑顔のまま正面に回ってみて驚いた。
そこにはたくさんの子供たちがいたが、サイズの合っていない服を着ており、しかも洗っていないのか汚い。
生地も薄そうだ。
ハナ水を垂らしている子もおり、栄養も足りていないようにも見えた。
一軒家に対し、どう考えても子供の数が多すぎたが、周りに家はなく、この一軒家だけだ。
そして小さな子供が、自分より小さな子供の面倒を見ている姿も見えた。
大人がいる感じはしない。
「子供だけで生活しているのか? ここは・・・」
「おじさん、おじさん」
「ぬ」
いつの間にか子供が2人目の前にいて驚く。
「おじさん、こんにちは」
「あ、ああ、こんにちは」
「おじさん、こっちきて」
不思議と2人の子供に進められ家の中に入った。
そのまま食堂と思われる場所に座らせられた。
罠なのか?としっかり着席してから考える。
「どうぞ」
「これはどうも」
出された水を飲む。
(毒はなさそうだな)
しっかり飲み込んでからそう考える。
遅すぎである。
これも安全(?)な場所に長い事平和に暮らしていた代償か。
警戒がワンテンポ遅れてしまう。
「坊主、ここは何なのだ?」
ちらちらと猫を見ていた子供に聞いてみる。
「えと、もう少ししたら帰ってきます」
「ここの大人が?」
話しかけた子とは違う10歳くらいの男の子からハキハキした返答があった。
「ええと、大人かな?」
「違うと思う」
「む?」
話からして、どうやら帰ってくるのも子供らしい。
「ん、というか、今は夜が明けたばかり。帰ってくるのは夜じゃないのか?」
「んと、夕方?には帰ってくるよ」
「ここを管理している大人はいないのか?」
「いないよ」
「前に亡くなった」
「なるほど・・・」
あまり要領は得られない会話だったが、想像はついた。
じゃあ待つしかないかと姿勢を崩したときに気づいた。
俺が怒っていない。
屋敷にいるときは何かあるとすぐに怒っていた。
そして不機嫌になり家族以外とはあまり口を利かなくなる。
(こんなチビどもに怒っても仕方がないは、ないが・・・)
テーブルに上がった猫にかまう子供を見ながら考える。
(・・・俺のことを馬鹿にしてこないからなんだろうな)
いつの日からか、執事達は、俺が一人の時におちょくるような態度や小馬鹿にするような態度を取るようになっていた。
(んな終わった話をいつまでも考えても仕方がねえ。
そんなことより親代わりの人間と会った時、どう切り出すかだ)
何の話かというと、先ほどまで考えていた自分がこの国に来た経緯の話ではなく、
純粋にここの子供たちを見て、ほっておけなくなったのだ。
泊めてもらうお礼として、少しなりともここの環境を良くしてもいいかもしれないと考えたのだ。
「・・・いや、順序がちげえな」
帰ってきた親代わりの人間に、多少なりとも納得をしてもらう必要がある。
クロードは貴族になって、貴族界の独自のルールや、今までとは違う畑の仕事を覚えなければならなくなった時についていけなくて、落ちぶれ気味になっていたが、頭は良い方だった。
今でいえば実績を持ってこちらの売り込みをするべきだと考えたのだ。
(一番わかりやすいところで言えば、子供たちの汚れだな)
家の汚れ具合も気になるが、目の前をうろうろしている子供たちの方が優先度は上だろうと思った。
夕方まで時間があるなら、休憩をはさみながらでも十分に間に合うだろう。
結局は打算的な行為にはなるが、たとえ断られたとしたら、その時は笑って出て行けばいい。
一時的なものにはなるが子供たちは衛生的によくなるのだから。
そう思い、クロードは案内をしてくれた2人に声をかけたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夕方。
心地のいい疲労感を感じながら食堂のイスで休んでいると外から声が聞こえてきた。
「おいチビ助、なんでお前こんなに綺麗になってんだ??」
「これは完全に石鹸とか使ってますね」
「にいに、おじさんが綺麗にしてくれたの」
「え? おじさんだって?」
「おじさん、にいにが帰ってきたよ」
「ねえねも」
さっそく自分の話題が出た。このタイミングを逃す手はない。
「ああ、どうも。 上がらせてもらってるよ」
「うわビックリした!」
帰ってきた親代わりを務めていたのは、少年2人に少女2人だった。
年齢は息子のクレイと同じ15歳前後に見えたが、やはり栄養は足りていないようだ。
ほほがこけて不健康そうだ。
驚かせてしまったのは仕方がない。
家に帰ったら、自分の家の中から貴族のオッサンが出てきたからだ。
簡単に自己紹介をしあったところで俺は
ちょっと警戒をした様子の少年少女に俺は誠意をもって話した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なるほど・・・」
「いいんじゃない?」
「私は賛成。だってこのままじゃ結局私たち餓死してしまうもの」
帰ってきた4人は家の中の子供たちの様子も確認し食堂に戻ってきた。
そしてピカピカになった子供たちをなでたり抱っこしたりしながら、いいとか、そうだな、とか言っている。
「おじさん、いやクロードさん。
実はボクたち、クロードさんのような大人の人を探していたんです」
「なに? そうなのか?」
4人の中でもリーダーのような立ち位置っぽい、エドワードという少年が代表して説明をしてくれた。
ちなみに名前は鑑定を常時発動してそれを見ている。
「実は、今までにもここのお世話をしてくれようとした人は何人か居たんですが
口ばかりで何もしてくれないとか、お金を取ろうとするようなろくでもない大人ばかりだったんです」
「あとはお酒持ってこいとかね」
「そうそう、買ってこいじゃなくて持ってこいってやつ」
どうやら口だけではなく、しっかり仕事をしてくれるようなリーダー的な大人を求めていたらしい。
見返りを求めずに子供たちをピカピカにしたのもいい方向に事態を動かす一因となったようだ。
結果、信頼を獲得できたようだ。
「おじさん、私たちのリーダーになって!」 とクレア。
「お願いします~!」 とククイ。
少女2人もお願いしてきた。
「リーダーに? では俺はここに居てもいいという事でいいのか?」
「はい、是非!」
少年少女たちの必死さが伝わってきた。
「いいのか、そんなに簡単に。俺は来たばかりなんだぞ? リーダーで失敗したんだろう?」
「ちび達がこんだけ懐いている、それだけでも信頼に値します」とエドワード
よしよし。
「そうか、わかった。リーダーになる」
「「「やった!」」」
少年少女たちが喜び、よくわからないけど良いことがあったんだとほかの子供たちも一緒になって嬉しがった。
どうやら俺が歓迎されているのは噓ではないようだ。
もしも騙されたら騙されたで出ていけばいい。
「じゃあ新リーダーのクロードさん、挨拶をお願いします!」
「あ、挨拶? マジか。 ・・・分かった」
そういうと、みんながこちらを見た。
「まずは信頼してくれてありがとう。
俺の名前はクロードだ。
呼びにくかったら、まあオジサンとかでもいい。最初はな。
出来る限りのことはしようと思うから、これからよろしくな。
何かあったら相談してほしい」
俺は自分に言い聞かせるように決意し、こう宣言した。
その後席に着くとチビ達がわっと集まってきた。
チビ達は朝から過ごしていたためか、すでに懐いてくれているようだった。
そして質問攻めになる。
どこから来たのか。
走るのは早いのか。
虫は触れるのか。
どれだけ息を止めていられるのか。
猫の名前は?
抱っこしてほしい。
などなど・・・。
猫の名前については、俺がこの場で命名することとなった。
緊張の面持ちで猫が俺を見ている。
「じゃあヤグラ、というのはどうだろうか。 実は見た時に思いついていたんだ」
そう言い、みんなの顔を見ると、わっと歓声が上がった。
猫もまんざらでもない顔をしてうなづいているので、名前はヤグラに決まった。
その後は日が暮れてきたので暗くなる前に寝ることになった。
明かりはないのでそうするが当たり前のようだ。
「トイレ終わった人から部屋に入ってね」
「「「は~い」」」
「ん? エドワード、これ、ランプを置く場所だろ? ランプはないのか?」
「ああ、それは確かショーン先輩が出ていくときに持って行ったような」
「そうね」
「まあ入れる燃料もなかったし関係ないけど」
「そうなのか」
俺は子供たちに引っ張られながらある部屋に入る。
「床に雑魚寝なのか?」
「ええ、外よりは・・・」
「なるほど」
「おじさんこっち~」
「ここで寝ていいんだな?」
「うん」
「おやすみ・・・」
横になるとヤグラが顔のすぐ横で丸くなった。
「ヤグラも、お休み」
「にゃん」
部屋から聞こえる音が寝息だけになり、つられて眠くなってきた。
今日はスキルもフルで使ったからそれで余計に疲れている。
ウトウトし始め、すぐに意識を手放した。




