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脳筋不器用元貴族のやり直し  作者: ゆめのなかのねこ
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【第30話】エピローグ

「スタンピードの消滅、及び残党の殲滅を確認したので、本隊は明日にでも首都に帰ることになった」


「そうか、長かったな」


今日はボロ家の応接室に相応しくない2人がいた。


今回、スタンピードの対応で派遣されてきた騎士団長と副団長だ。


朝に前触れがあり、また町へ行くのかと思ったら家が見たいからと向こうからやってきた。

これまでは毎回町の詰所(つめしょ)に呼び出されていたのだが。


「ええ、規則でね。はあ、ここでの生活も悪くなかったわ」


「平和でしたね」と副隊長


「一応あと10日ほどは一部隊残して、スタンピードが発生した場所の付近の街道に待機させるんだけど

 それが終わったらその部隊も引き揚げさせる」


「そうか」


「う~ん」


「何か懸念でも?」


「・・・あなたにはもっとこの国と強いつながりを作ってほしいのだけど」


「なんだ、どういうことだ?」


「例えばこの国のある一定以上の地位にいる女性と結婚するとか・・・ね?」


膝の上の猫のヤグラがピクリと体を揺らす。


「騎士団長・・・それはお断りさせてもらうよ」


「そう、残念だわ」


この誘い、実は会うたびに受けている。


騎士団長は俺の左手薬指に浮かぶ文様を見てため息をついた。

俺の左手の結婚文様は、いまだに深い黒をしていた。


「全然薄くならないのね、ソレ」


「ああ、不思議とな。

 ・・・お互いに、一番良かったころの気持ちが残っているのかもしれないな」


「幻想に恋をしているって事? なんだか悲しいわね。

 まあいいわ、これからもよろしくね」


幻想と言われてドキリとする。

俺は幻想に恋をしているってことか?


それってかなり未練がましいな・・・。



「ああ、こちらこそ。・・・うちのものが何かあったらをよろしく頼む」


「わかったわ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



それから半年後。

ある人物が町へ入って来た。


町の誰もが初めて見る顔だった。


尋常じゃない表情をみて、痛々しい表情をするものや、かわいそうなものを見る視線を送るものもいた。


その人物は迷いなく町の大通りをまっすぐ南へ抜け、森の方へ歩いて行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ん?」


朝の訓練と食事を終え、休みのものはまったりと、外に出るものは準備を始めていると孤児院の入り口が騒がしくなった。


席を立とうとすると孤児達が走って呼びに来た。


「おじさーん」


「おじさん! 大変だよ!」


「おうおう、今度は誰が来た?」


ちょくちょく人が俺にあいに来るが、その度に子供達はこんなテンションになる。

さてこんな森の中の家まで、今日はいったい誰がアポなしで来たのかと、慣れた風に聞いてみると。


「それが・・・なんか怖い女の人? おばけ?」


「おばけ!」


「おい、だからそんな大きな声で言ったら丸聞こえだと言っているだろうが」


トラブルになるぞと俺は子供達をいさめる。

ヤグラもピクピクと反応している。


もしやぐらがしゃべることができたら「こら!」と言っているに違いない。



「ごめんなさい・・・って、とにかく行けばわかるよ!」


「ちゃんとあいさつしたのに、おしゃべりしてくれないの」


「分かった、分かった・・・」


新種の厄介ごとかと俺が席を立とうとしたのを察知して、猫のヤグラが肩によじ登ってきた。


「とりあえず行ってみるか」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



(うおっ!?)


孤児たちに引っ張られ入口から外に出てみると、

そこには一人の美しく、旅用の貴婦人のドレスを着た、日傘をさす女性が静かに(たたず)んでいた。


明らかにヤバイ。

生気(せいき)が感じられない。

息をしているのかさえ怪しいレベルで、それはさながらゾンビや幽霊のようだったのだが・・・。


「まさか・・・グレイシア? お前・・・」


そこにいたの祖国にいるはずの妻のグレイシアだった。

さっと周りを確認するが、使用人などはおらず、そんな気配もない。


あと、グレイシアはぼんやりとこちらを見ているが、焦点があっていないように見えた。


「おい、お前・・・・うおっと?」


たっと、俺の肩から猫が勢いよく飛び降り、妻の元へ駆けていった。


妻は無表情ながらその姿を目で追い、しゃがみ、猫を抱き上げ、おでこを合わせた。


そして二人して同じタイミングで、同じ目をしてこちらを見た。


「私は、あなたの幻想になんか恋をしていないわ」


妻は先ほどの無表情が打って変わって、少し緊張をした顔をしている。

俺はそれを見て・・・


「ふははっ」


思わず笑ってしまった。

妻と猫はそんな俺を緊張した面持ちで見つめている。


「そんなことしなくても、お前だって、気づいていたよ」


そう言って、俺はニヤニヤを隠すために口元を片手で覆う。


「はあ・・・こうしてみると、ずいぶんとシュッとされましたね」


妻は顔を赤らめながらそう言った。

確かに最後に分かれてから、かなり贅肉が落ちている。


「おかげさまでな。ってか、(そいつ)の目で見ていたんじゃないのか?」


「なんとなく分かる程度でしたので」


「ふ~ん・・・ん? グレイシア、お前、声出るのか?」


「ええ、この()から幾分か、こちらに戻しましたので」


「・・・やはりスキルか」


「はい、分身(スキル)です」


妻はにっこりと笑った。

相変わらずの美人だ。


俺はこの笑顔が好きだ。


結婚するということで初めて顔を合わせた時、ずいぶんと歳が離れていると聞いてかなり不安だった。

なにせ俺が30で、当時のグレイシアは15だったからだ。

でも話を合わせてくれたり、俺のまとまらない話をグレイシアは嬉しそうに聞いてくれた。


「実は猫の姿のでも、鑑定に名前が載るのかドキドキだったのだけど」


「効果が弱いからな」


グレイシアは分身(スキル)といったが、それも一般的ではない使い方をしている。


屋敷に住んでいる時には見せて貰ったことはなかったが、自分の姿と同じ分身を出現させると20分ほどしか持たないが(これは見せて貰った)、

精神だけを分けて()(しろ)へ封入する方法をとると依り代の魔力が尽きるまで維持できると聞いた気がする。


「なるほど・・・。

 俺の投獄(とうごく)がショックで表情と声を失ったと聞いていたが、

 実際は分身にかなりの力を()いた結果、本体側の表情と声を失っていたわけだな?」


祖国にいる妻がおかしくなってしまったという話は、騎士団から聞いた。


普通なら隣の国で貴族の主人ではなく妻の方、しかもただの病気ではないので、隠されるような情報なので知る事は難しいが、

この国の優秀な諜報員が俺の身辺を洗った時にわかったそうで、情報を集めたことに対する謝罪とともに教えてもらったのだ。


「はい。さすがあなたですね」


グレイシアはにっこりと笑った。


「意識はほぼあなたの隣に猫としてありましたから、この体はかなり反応や感情などが乏しかったと思います。

 ・・・あの子には泣かれましたが、あそこで分身(スキル)を解除する訳にはいかなくて・・・」


「ケイティか」


「はい。

 まあ・・・私がやっていることは分かっているようではありましたが、時々寂しくなるようで」


末娘(すえむすめ)のケイティは勘が鋭いというレベルを超えた何かを持っているようで、そういうのを見抜く。


「ケイティは不思議な娘だったよな。

 とはいえ、まだ母親が恋しい歳だったんだろう」


「ええ。・・・あなた、そろそろ中に入れてくれないかしら?」


「もちろんだ」


俺は妻に向かって歩き手を取る。そして中にエスコートした。

子供たちに促され応接間に入るとお菓子が用意されており、席に着くとすぐに紅茶が出された。


「ありがとう」


「いえ」と少し警戒したようすのケイト


「それでは我々は外に」とホームズ


「悪いな」


「ありがとう」と妻。


「いえ、ごゆっくり・・・」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



その後沢山の話をした。


末娘(すえむすめ)のケイティは今年から魔法学校の寮に入って生活を始めたようで、家の中は妻のグレイシアと息子のクレイの二人だけ、それ以外は使用人だけだそうで、旅行に行くと告げ出てきたそうだ。

そしてここに来る直前に同行していた使用人たちにはここから先は一人で行くので帰るよう置手紙をして、姿をくらましたそうだ。


「そういえばその猫のほうだが、見つけた時はずいぶんとボロボロだったがなぜなんだ?

 いつからあの場所に?」


今はグレイシアの横でぐてっと寝ている猫を見ながら聞いてみた。


「あなたが投獄された日に出発して、それ以降あそこで待っていました」


「なに? そんな段階から?」


「はい、叔父とクレイの動きは、他の()を通して把握しておりましたから。

 あの森へは猫の足では結構時間がかかりますからね、その日に」


「知らなかった・・・」


「でも国外追放の前にあなたが屋敷に連れて来られるとは思わなくて。

 私自身がギリギリの状態だったけど、急いでクッキーを焼いたの。

 あの時はおねぼうのケイティが珍しくすごくてきぱきと動いていたわ」


「・・・そうだったのか。

 しかし、紫色の眼をした猫なんて家にいたか?」


「分身の影響で毛色や目の色が変化しているんです。

 スキルを解除してしまえばただの猫に戻りますよ?」


「そうなのか、便利というか・・・」


「ふふふ。どんな猫でもという訳にはいきません。

 この子は私が赤ちゃん猫のころから育てたので波長が合うのです。

 慣れもあって、嫌がって分身を追い出さないですし」


そういって妻グレイシアはヤグラを優しくなでた。


「ほう」


「まだ完全にスキルを解除しないのは、逃げてしまう可能性があるからです。

 さすがに今回は長く居すぎましたから、嫌になってしまったかもしれなくて。

 この子が野生で生きていけるとは思えませんから」


「なるほど・・・」


ふむふむ、色々とあるんだな。

グレイシアの叔父とクレイの動き、グレイシアはわかっていたのか。


「・・・あなたがあの子を恨んでいないという事、本当なのですね」


妻のグレイシアはまじめな顔でそう聞いてきた。

息子のクレイの事だ。


「そうだな。あれは俺の自業自得だからな」


妻はじっとこちらを見ている。


「・・・実力がなかったのも1つだが、何より息子を前に、

 粘り強く頑張れなかったのも悪かったと思っている。

 最近、ようやく後悔をするようになったんだ」


「向き合えたということかしら?」


「そうかもな」


俺は目を伏せた。

自業自得までは言えたが、スキルを使いまくったというところまでは恥ずかしくて言い出せなかった。

少しして目の前にあった気配が横に来た。


「私と結婚する前から、お父様と叔父は世継(クレイ)ぎ、を操り人形にする計画を立ていたらしいわ。

 これも最近分かった事なのだけど、最初の日から私たちについてくれていた、あの執事達も叔父の命令を受け、家から来たものだったの」


「そうだったのか」


嫌な記憶がよみがえってくる。

そしてすべてが()に落ちた。


「・・・ええ。そんな中で、あなたはとてもがんばっていた方だと思わない?」


俺のほほを両手でつつみ、妻のグレイシアは俺をしっかりとみていた。


「グレイシア、俺はあの子を救えるだろうか」


「あの子なら大丈夫よ。なんとなく気づき始めているわ」


手を出すな、と言われた気がした。


「私の様子がかなりショックだったみたい。それで色々と自分でも考えるようになったみたいよ」


「グレイシア・・・おまえにも悪いことをした」


「いえいえ。 私は、あなたの妻ですから」


グレイシアは鈴がなるような声で、何でもないようにそう言った。


「っ。ありがとう、そして悪かった」


「・・・本当ですよ? せっかくあなたのお仕事がなくなって暇そうにしていたから、

 ずっと二人でおしゃべりが出来るんだと思っていたのに」


グレイシアは何かを思い出したように急にかわいくほほを膨らます。


「ん?」


息子や執事達に罪悪感が沸く程度には妻としゃべり倒していた気もしたが。


「いえ・・・。こほん。

 では、猫の私にしたように、よく頑張ったと頭をなでてくださいな」


グレイシアが頭を差し出してくる。

グレイシアはおそらく今回、家を出る前に出来ることをしてきたのだろう。


「ああ・・グレイシア、愛してる」


「はい、私もです。

 ・・・あなた、今度は私を置いていかないでね?」


「ああ、約束する。死ぬまで一緒だ」


「いいえ、死んでからも一緒よ」


「ありがとう、もちろんだ。お前がいいと言ってくれるなら」


俺はグレイシアを抱きしめる。

グレイシアも抱きしめ返してくれた。




- FIN -











~蛇足~


「クロードさん、それでその女性は?」


部屋の外に出るとエドワードが皆を代表して聞いてきた。


「ああ、妻のグレイシアだ。今日からみんなと一緒にここで住むことになった。」


「「「ええっ?!」」」


ざわめく一同。


「急ですね、大丈夫かな。貴族ですよね?

 えと初めまして、ボクは・・・」


「そんな他人行儀にしなくてもいいわ、エドワード。 みんなもね?」


そういって妻はウィンクする。


「え?」


何だこの人という目をしている子供が多数。

時間が止まったようになったので、説明を入れる。


「ああ、ほら、猫のヤグラっているだろ?」


「・・・クロードさんといつも一緒にいるヤグラですか?

 今、ソファーで丸くなってる」


「ああ、その丸くなってるヤグラなんだが・・・中身はこいつなんだ」


そう言って妻の腰に手を回す。


「「「え、えええー--!?!?!?」」」


「ふふ、ということで、みんなの事はぜーんぶ、分かってるからね♪」


「ということだ、よろしくな」


「「「ぎゃー!!!」」」


衝撃の事実に驚く声に交じって、愚痴聞き役としてヤグラにいろんな秘密を吐き出していた数名からは悲鳴に似た声、いや悲鳴そのものが上がったのだった。

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