【第3話】猫の相棒が出来た!
「はっ」
(うかつにも寝てしまっていたのか・・・)
周りの気配を探り・・・何もないことを確認し身じろいだ。
国境で馬車を下ろされ、暑さから逃げる為に森の中に入って、持ち物を確認したんだった。
そして何もなくて、すぐどうでもいいことを考えて、そのうち寝てしまったようだ。
「ここにいても仕方ねえよな」
ここで座っていてもご飯が運ばれてくるわけじゃない。
立ち上がり方向を確認し、のそのそと歩き出した。
思考はだいぶすっきりしていた。
幾分か気持ちも前向きになった気がする。
「ふう・・・」
しばらく道なき道を進んでいくと、突然開けた場所に出た。
木がないため日の光が差し込んでいる。
「・・・猫?」
何の警戒もせずに広場の真ん中あたりに来てからふと右に視線を移してみると、大きな岩の手前に草をベットのようにして白い猫が寝そべっていた。
その猫は見るからに弱っており、呼吸が荒く、おなかが早く動いているのが見て取れた。
こちらが近づいても見上げるのみだ。
苦しいのか涙ぐんでいるようだ。
ざっと見たところ、大きなけがをしている様子はない。
ぱっちり開いていた目がだんだんと閉じてきた。
(くすんではいるが、グレイシアと同じ紫色の瞳じゃないか)
妻の事を思い出す。
最後は驚くほど無表情、無感情で俺のことを見ていた妻、グレイシア。
その瞳と色が似ていたのだ。
さて、この様子では一匹では狩りも難しいだろうなと考え、ふとクッキーの存在を思い出す。
包みを取り出し、縛ってあった紐を緩めると、形の良いものと、不器用な形をした2種類のクッキーが出てきた。
「ふふっ」
形が良いものが妻グレイシア、不器用な形をしたものが末娘の、ケイティが作ったものだろう。
どちらもいいにおいがする。
俺は形がいい方を猫の目の前においてやる。
猫はスンスンとにおいをかいだ後に半目で俺の顔を見た後に食べ始めた。
「取りやしないさ。・・・水も持ってきてやるか」
俺は追加のクッキーを目の前に置き、そっとその場を離れた。
岩の裏に来ると少し先に小川を見つける。
形のいいハスの葉を1枚取り、うまく丸めてコップにして水をくむ。
じっと見て、虫やゴミが入っていないことを確認してから飲む。
場所によっては魚型のモンスターが居ることもあるが、浅いしそういう気配は感じない。
ここは平気なようだ。
「ごくごく・・・うまいな」
普通の人が同じことをやる場合、腹痛のリスクが伴うが、これだけ透き通っていればスキルで胃腸を強化している俺なら平気だ。
「水を持ってきたぞ、と」
水を持って戻ると、猫はクッキーに水分を持って行かれたのか小さくせき込んでいた。
「さあどうぞ」
さりげなく猫に近づき猫に強度アップをかけてやる。
強化は元気になって逃げられるまでの間だ。
逃げたらスキル解除をすればいい。
まあ、こんな小さな猫1匹ぐらいは、かけっぱなしでもいいが。
猫は長い時間をかけて葉っぱのコップ一杯の水を飲んだ。
「すぐ近くに川があったんだ、水ぐらいは飲めただろうに・・・」
俺は空っぽになったコップを草の上に置いた。
はらりと草がほどけ、残った水が太陽の光を受けキラキラと反射した。
しばらくすると猫は弱々しく毛づくろいを始めた。
ゴロゴロという音が聞こえるのでどうやら満足しているようだ。
毛づくろいの邪魔にならないように頭をなでたり、のどに指を差し込んで優しく撫でる。
抵抗は受けなかった。
弱っている猫をそのままにはしておけず、どうしたものかと横に腰掛け、岩に背を預け、上を見た。
岩は日光で温められており、温度を持って行かれるような不快感はなかった。
先ほど少しだけ寝てしまったが、やはりあれでは足りていなかったようだ。
それもそのはず、投獄されてからはあまり寝れていなかったのだから。
背の高い木の葉が風で揺れている音が心地よく聞こえてきた。
葉が太陽の光をちょうどよく和らげてくれ、ポカポカとしている。
「・・・ぬあ?」
気づくと、夜になっていた。
また眠ってしまったようだ。
「俺としたことが・・・こんな外で」
気温が下がっており、体が少しだけ冷えていた。
慌てて露出している体の部分を確認するが、特にどこかモンスターにかじられたところはなかった。
持っていた上着を着ようとして、おなかにじんわりとした違和感を感じる。
胸元からシャツの中を覗いてみると、寒むさをしのぐ為か、先ほどの猫が潜り込んで丸くなっていた。
「おいおい・・・」
ボタンを1つ開け、手を突っ込み猫を優しく撫でる。
ちょっと毛がガビガビしている。
そういえば目ヤニもひどかったなと思い出し、起こさないよう静かに洗浄の差し歯に魔力を込めた。
「洗浄」
やさしく、ささやくようにキーワードを唱える。
猫の体が青白く光り、すぐに収まった。
末娘のケイティが食べ汚した口周りや服をよくこうやってきれいにしてやっていた事を思い出した。
きれいにしてやった後、ケイティは嬉しそうにお礼を言ってくるのだ。
(もう会えないのか?)
無理に会いに行けば、今度は命はないだろう。
よくわからないが、国外追放という事は何らかの温情があってのことだと思う。
でなければただの成り上がりの俺が生かされている理由がわからない。
まずは生きて、機会を伺うのがいいはずだ。
(いや、そもそも機会があって、会えたとして、俺は受け入れてもらえるのか?
仮にも俺は罪人なんだぞ? ケイティは俺のことをどう思っているんだろう)
「ふみゃー」
「うん?」
「にうう・・・zzz」
「お前、元は飼い猫なのか?」
寝言を言い夢の中へ戻っていく無防備すぎる猫を見ながらそちらに思考が奪われてしまった。
「ふう・・・まずは、生きてみるか」