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脳筋不器用元貴族のやり直し  作者: ゆめのなかのねこ
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【第2話】持ち物を確認する

「それでは」


「ああ。世話になったな、お前もへまをするなよ、俺みたいにな」


「は、はい」


国境とされる場所で馬車から降ろされ、別れのあいさつを交わす。


俺はなんとなく気丈に見えるように歩き出した。


時間は昼を回ったところだ。

太陽が真上からじりじりと照り付けてくる。


少しして後ろから馬車が走り出す音がして、振り向く。


「行ったか・・・」



とたんに心が折れた。

すべてのやる気が抜けて、呆然と遠ざかっていく馬車を見つめる。


そして馬車が見えなくなってからも俺はその場に立ち尽くした。



・・・30秒ほど。



「熱い熱い・・・足痛い」


太陽光で汗が出始め、立ち尽くしたことで足も痛くなり現実に引き戻されたのだ。


これがまだ少年のころなら平気で日没まで立ち尽くしていたかもしれない。


でももう俺は45のオッサンだ。

ちなみにおなかも出ている。


なのでこういう感傷的なリアクションはもう出来ない。

無駄な時間だしめんどくさい。


「痛てえな、どこか日陰(ひかげ)で座れる場所はねえのか」


そう言ってすぐに目の前の森に向けて歩き出した。


自然と、出世して貴族になる前の口調(くちょう)に戻っていた。


貴族という檻から、クロードは解き放たれたのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



森の中に入り、上着を脱いで片手に持ち、胸元のボタンも外し歩く。

しばらくして見つけた倒木に腰掛け一息つく。


「ふへぇ」


目を閉じ、少しすると森のいろんな音が聞こえてきた。

ここ10年は安全な場所にいるばかりでこういう状況になったことはなかった。


「そうだ、こんな時は」


今自分が持っているものを確認する。

兵士時代に森でよくやらされたのを思い出しながら確認する。


・・・はずだったが。


「何にもねえ」


魔道具の指輪やネックレスなどは牢屋に入れられたときにすべて取り上げられている。

ダサい緑色の貴族の服のポケットには、ハンカチしか入っていなかった。


もちろんお金も無い。

ナイフすらない。何もない。


「あ・・・」


兵士時代から出世するまでに手に入れたひと財産すらも失った。

全部屋敷の自分の部屋だった場所に置いてあったのだ。


財産以外にも思い出の品や、祝いの品、仲間から託された品など沢山あそこに置いたままになっていた。


「はあ・・・痛ってえ!」


深くうな()れた際に、汗が目に入った。


「痛ってえ・・・」


手で拭うもあまり効果が出ず。

そういえば汗だくなんだった。


魔力を右奥の差し歯に集中させる。


洗浄(せんじょう)


差し歯に十分な魔力を行き渡らせ、キーワードを唱えると体が青白く発光する。


光が収まるころには体の汚れが消えていた。

汗もすっきりだ。


これは娘に体臭で嫌われるのが嫌で奮発(ふんぱつ)して買ったものだ。

流行りだからと指輪やネックレスタイプではなく、差し歯タイプにすることをしつこく提案してきたあの店主には、今は感謝しかない。


そういえば、差し(これ)は見逃されていたな。

効果も弱かったし、危険はないというのと、歯を抜くのが面倒だったからあえて見逃されたのかもしれない。


「適当な仕事しやがって」


ということで、持ち出せたものに以下の2つが追加された。


・差し歯(右奥歯) スキル:洗浄(中)。

 汚れを落とす。(小)だと意味がない程度の効果しか出ないらしい。


・差し歯(左奥歯) スキル:鑑定(小)

 名称と簡単な用途などが分かる。


鑑定の方は買うつもりはなかったが、貴族は情報だと(おど)かされて買わされたものだ。

セットで安くするという殺し文句があって、心の中はしぶしぶだったが。


鑑定(小)は視界に入った人や道具の名前がわかる程度だったが、これが意外と役にたった。

客や商店の店主、それ以外にも屋敷の中には名前も知らない使用人が大勢いたのだがこれを発動させれば名前が浮かび上がるのだ。


この二つの差し歯は、魔力を込める際に干渉しないように、両方の奥歯につけられている。

スキルの相性にもよるが、この洗浄(中)と鑑定(小)は何も考えずに効果を最大限に発揮する。

これが洗浄(中)と鑑定(中)だった場合、使う際に繊細な魔力操作が必要になるらしいのだ。


そして最後に元々俺が持っているスキル、強度アップ(小)だ。

対象の強度を上げる。制限数:なし


名前の通り、効果もシンプルだ。


これは対象によって効果が変わる少し珍しい側面があるもので装備の強度を上げたり、魔道具につかえばその効果を高める効果を発揮する。

まあまあのレアスキルだ。ちょいちょい居るらしいが、俺が生きてきた中ではこれを持っている人間とは出会ったことはない。


これが強度アップ(中)や強度アップ(大)になると、効果が上がる代わりに同時に強化できる数が大幅に減るらしい。

そういうやつらは冒険者をやるとたいてい上のクラスになる。


俺のもつ(小)は効果が低いが対象の数に制限がない。


兵士時代はこれで生き延びてきた。

装備の持ちが良かったのも、体が頑丈で、病気知らずでいられたのもすべてはこのスキルのおかげだ。

空腹を感じないようにと念じて発動させるとそうなったりもした。


俺のいた低ランク帯の世界では(小)という割に、応用が利き、その効果は絶大だったと思う。


もちろんこの効果は差し歯にも効いており、洗浄は少し広範囲に効果を発揮でき、鑑定の方は少しだけ具体的な文字が入る。

さすがに一文までは追加されたりしないのが、(小)だ。


目の前に落ちている石を鑑定する。


石。(硬い)


この()に囲まれているのが強化され表示されるようになった部分だ。

強化してなかったら石。としか表示されない。



魔道具の場合は価格以上の恩恵を必ず受けられる。

貴族になってからもちゃんと使えるいいスキルだった。


この2つ以外は没収されてしまったけど。

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