【第19話】戦闘訓練(6)座学
数日後
意味もわからず降り続けても訓練の効果はでる。
でも、理解していれば成果は何倍にでもなる。
せっかく手に入れた強い武器もちゃんと使えなければ宝の持ち腐れで、
逆にちゃんとどういう意図でやるのが強いか理解すれば、少ない力でも効果的にモンスターを倒すことができる。
と言うことで座学も行う。
兵士時代のやり方だ。
ただしこの場合は身体も動かしてもらうので完全な座学とは言えない。
「いいか、俺がゴブリンと言ったら盾をこう構え、盾で一撃を防ぎ、自分から見て、からだの外側にこうそらしてから、剣をゴブリンの頭に振り下ろす。ガッとな」
いつもと違う長い解説を子供たちはじっと見ている。
「そしてゴブリンが怯んだ隙に剣を引き戻し、今度はおなかをつく。
次に足で蹴って倒す。
ただそこですぐに詰めない。この時点ではまだ近づかない。
一度、自分の回りを見てこちらに襲い掛かってくるモンスターがいないか見ろ。
いなければ、素早く近づいてトドメだ。
トドメはやはり心臓、・・・胸の部分を剣で体重をかけて突き刺すのが体力をあまり使わなくていいかもな」
俺は目の前にゴブリンがいる想定で剣を振りながら説明した。
「よし、もう一度やる。今度はみんなも真似して見てくれ」
みんなが待ってましたと剣を振るう。
「まーちゃん、今は盾を使うから持ってね」と剣だけを持って立っていたまーちゃんにクレアが盾を持たせる。
「・・・よし、いいな、ではゴブリン!
盾をゴブリンの前に出し、叩かせる、それを体の外側に弾いて頭を剣で斬る、おなかをついて、蹴って倒す。
周りを素早く見てから近づいて、トドメだ」
子供達がわたわたと剣を振るっている。
新しい遊びと思っている子もいるようでにこにこしている。
上の子が下の子のフォローをする。
みんなが一連の動きをし終わるのを待ち声をかける。
「最初は力が入らなくてもいい、まずは覚えるところからだ。ではもう一回、ゴブリン!」
同じ動きを5回ほど繰り返した。
いつもの素振りと違い、きゃあきゃあと騒がしい。
年長組が静かに!といさめて回る。
「よし、では次は反対の手に持ち変えて、構え!」
「「「はい!」」」
俺が剣と盾を左右で持ち変え構えをとると、子供達も同じように持ち変え、かわいく構えを取った。
「ではまたゴブリンを5回だ。
ゴブリン!
盾を前にだし、叩かせてから・・・」
「よし、では次はスライムだ。
俺がスライムと言ったら目の前にスライムが居ると思ってくれ、透明の水がまるっこくなったようなヤツだ。
よく見ると中に丸い核がある。
核はそうだな、川の中に居る、見えにくい色をした丸い魚をイメージしてくれ」
「少し色が違う丸がある感じですよね」
「そうだな。まずスライムを見かけたら、核を見つけるところが重要だ。
見つけたらそれを剣や槍で思い切りつく。核が壊れたらスライムは死ぬ。
核の大きさには個体差・・・そのスライムによって違うが、よく見たら絶対分かる。
薄暗い時なんか光って更に目立つ。
いくぞ、目の前のスライムの中に核を見つけ、つく。」
「「「つく」」」
「今はよく分からないと思う。
でも覚えたあとに分かることもある。今はただ言う通りにやってほしい」
「「「はい」」」
「よし、では後4回だ、スライム!
核を見定めて、見つけたら、つく!」
これも同じように反対の手でもやり、その後もカピ、角ウサギといったどの地域にも大体居るモンスターの対処法を教えていく。
もちろん休憩を挟んでの訓練だが、かなりの時間、かなりの回数の素振りをやったが、全員がやりとげられた。
普通の子供だったら耐えきれなかっただろうが、俺がスキルで子供たちの身体を強化している。
普通にやるのと比べると筋肉があまり発達しなくなるが、まずは覚えてもらうのが一番だし、
小さな頃からは余り鍛えると成長に良くないと聞いたこともあるので都合がいい。
「よし、ではみんな座って休憩しながら聞いてくれ」
「はーい」
「つかれた~」
「ちゅかれた~」
さすがに疲労困憊といった様子で子供たちは腰を下ろした。
「お前達も座っていいぞ」
「はい」
ヘトヘトな年長組も座ったのを見てから口を開く。
「今やったのは、タイプ別対処法というもので、これを覚えて身に付けられれば、戦闘が楽になると分かっているものだ。
でも毎回、この形でキレイに倒せるかと言えば、相手が違う動きをして来ることもあって難しい。
大体こんな感じだと思っておいてほしい。
それと、基本は相手のモンスターに気付かれる前に不意打ちをして致命傷を与えるか、倒してしまうのが一番いい」
「そうなの?」
「そうだ。エドワード、なぜか分かるか」
「はい、ケガをせずに安全に倒せた方が良いからです。
相手は一人とは限らないし、その後に他のモンスターが出てくるかもしれないから」
「そうだな、戦うたびにいちいちケガをしていたら死んでしまう。
たまに正面から正々堂々と戦うのが正しいと言うヤツが居るが、それで死んだら意味がない。
この世界は生き残ったもの勝ちだ。そいつにとっての正しいと、俺たちが思う正しいは別だと言ってやれ」
「「「はい」」」
「後は、必ず戦わなければならないということもない。
戦わなければならないなら一度逃げて生き延び、準備を整えてから挑めばいい」
「逃げ切れない場合は、仕方がない。
数を減らした方がいいのか、驚異となるヤツだけを倒すのか決めてから、玉砕するしかない。
もし仲間が駆けつけてくれそうなら、時間を稼いでそれを待つのも悪くはないだろうが、あまり期待はしないようにな」
俺は目を閉じ、一呼吸おいた。
「これからみんなにメインで倒してもらおうと思っているカピというモンスターだが、あれは人を見るとすぐに逃げ出す。
だからさっきの方法で倒せることはまずないだろう。 戦いが発生しないからな。追い詰めたとき位だ。
あいつらは自分の子供さえおいて走り出すからな。まあ子供は親が逃げ出すのを見て走り出すからそういう特性があるんだなぐらいで覚えておいてくれ」
子供たちはぽけっと話を聞いている。
「じゃあどうするかと言うと、気付かれる前にやるか、罠で捕らえるか、囲んで逃げられなくするか、逃げる方向をこちらで決めてからからそこに追いたてるか、このどれかでやる」
「足は早いんですか?」とホームズ
「人間とほとんど同じだ。
だが森の中でそれをやると他のモンスターと出会う可能性があるから追いかけてはダメだ。
カピは人の気配が無くなれば戻ってくるから、カピが来るポイントをいくつか押さえて、
逃げられたら次のポイントへ向かうのがこちらも無駄に体力を使わずに狩りができる方法だな」
「なるほど」
「まあ一回説明されただけでは覚えられないだろうから、これからも何度か説明していく」
「あ、それならテスト形式でみんなに当てていくのがいいと思います」とクレア
「なるほど、じゃあこうやって休憩しているときにそれをやるか」
「はい!楽しいと思います」
「よし、採用だ」
そう言うとクレアは嬉しそうに笑った。




