【第17話】戦闘訓練(4)
子供たちだけで薬草の採取から納品が出来るようになって数日後。
この数日で全員分の木の盾を作り終えた。
かなりの重労働だったがスキルで乗り越えた。
「お出かけするの?」
「ああ」
とてとてと、ちび助がこちらの動きに気づいてそう尋ねてきた。
今日は槍についてギルドに相談しようと思う。
昨日の夜に年長組にその事を話すと、薬草採取の帰りに家の前で合流して、一緒に町へ行くことになった。
今日の薬草採取メンバーは10歳前後の4人を加え10人。
大所帯だが、薬草の採取を子供たち同士で教えあってもらうために、このにぎやかさだ。
「ただいま~」
「うまくいったか?」
「はい、みんな真面目に取り組んでくれました~」
家に付いたらクレアとククイが外れて家に残る。
今回は手を出さずにレクチャーやフォローに回ったとのことで、ポイントは受け取らないらしい。
俺が前に採取をしていないから、ポイントを辞退したが、それを真似しているようだ。
ギルドとして見ると、確かに1枚も葉を取らなかったという判定だろうから完全に間違いではないが・・・。
「では行ってくる」
「「行ってらっしゃい」」
昼前に帰ってきた薬草採取メンバーと合流し、自分を入れて9人でゾロゾロと町へ繰り出す。
「どうだ、薬草採取はもう完璧か?」
「うん、簡単だもん」
「まあ、そうだろうな」
「簡単だけどトーマ、クロードさんが教えてくれなかったらわからなかったんだからな?」
「うん・・・ごめんなさい」
(ふっ)
ホームズがそういって鼻息を荒くする子を諫めた。
すっかりお兄ちゃん・・・いや俺が来る前からお兄ちゃんか。
「トーマ、簡単だけど最初は難しかっただろ? 小さい子も同じだから、分かるまで優しく教えてやってくれ」
「う・・・はい」
俺はトーマにそう言った後にこっそり、無言でホームズの頭を撫でた。
俺たちはそのあと町に入り、慣れたようにギルドの建物に吸い込まれていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
まずは薬草の納品だ。
子供たちだけで買い取りカウンターに並ぶ。
お昼なので待ち人数0で、すぐに納品することが出来た。
成長したなとニヤけていると横から声がした。
「クロードさん、順調かい?」
俺の再登録をしてくれた受付のおばちゃんだ。
「ああ。だがまだやりたい事はたくさんある」
「そうかい。それは何よりだね」
「そういえば、アレはまだ変わらずなのか?」
俺は討伐推奨と書かれたギルド内の目立つところにいくつも分けて貼られている黄色い紙を見ながらそう言った。
「何も変わってないよ。農家への被害もね。
そろそろ行くのかい?」
「いや、まだだ。
子供たちに、アレの狩り方を教える」
「ほう。なるほどね。
まああのくらいの子でも、冒険者している子はいくらでもいるけどね・・・」
「そんなに心配しなくても、安全な方法を取るつもりだ」
「まああそこのボスはクロードさんだ。
今まで手を差し伸べることをしなかった私が口を出すことではないさ」
「・・・訓練をやるつもりで、その準備が整いつつある。
そうだ、それで槍を教えるつもりなんだが、この町で槍に見立てた長めの木の棒を作っているところはないか?」
「う~ん、そうだね・・・。
じゃああの子たちの買い取りが終わったら、外で少し待っていてくれないか?」
「ん? ・・・世話をかけるな」
「いいのよ。クロードさんのやっている事は大きく回ってギルドの為にもなるからね」
「そうだな・・・わかった」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
外で待つこと5分。
「みんな待たせたね。さあ行こうか」
受付のおばちゃんがやって来て足を止めずに町の西の方に歩き出した。
「よろしく頼む」
数分後、ある工場にたどり着いた。
木を切った時の匂いがする。
受付のおばちゃんに続いて中に入ると、中には優しそうな感じの職人さんが2人居て話をしていた。
「お邪魔するよ」
「これはデイジーさん」
「こんにちは」
「仕事中に悪いね。頼みたいことがあって来たんだ」
「ええ、伺いますよ」
「さあ」と受付のおばちゃんのデイジーさんに促され口を開く。
「・・・面倒を見ている子供たちに槍を教えたい。
このくらいの長さの、槍に見立てたような棒がほしい」
「ん、それは何か、いつもとは違うものなのかい?」
親方さんが受付のおばちゃんのデイジーさんに尋ねる。
「今回は、うちに卸してもらうんじゃないよ」
「ん? その後ろの子たちに教える指導員さんじゃなくって?」
「この人は、町の外の、南の家の子供たちの面倒を見てくれている人だよ。
この事はさっき、ギルド長に許可を取ってる」
「ほう。 あなたが」と息子さん
「じゃあデイジーさん、あれを出してあげてもいいって事かな?」
「ああ。ただしギルドの刻印をする前の状態で売ってあげてほしい」
「まあそうだね。窃盗の疑いをかけられちゃうもんね。
できれば10本単位で買ってほしいんだけどいいかな?」
「40本貰う」
「子供ってそんなにいたんだ・・・」
「34人だ」
「そっか・・・」
「在庫はあるから、このあと持って行くよ」
「あ、金だが」
「できた時でいいよ」
「すまない」
「これぐらい、いいって事さ」
職人二人が話を始めたので受付のおばちゃんデイジーさんに話をする。
「ギルドの特注品なのか?」
「まあそうだね。長さや太さが統一されていないと仕方ないからね」
「作る素材もね」と職人の、息子さんの方が補足してきた。
素材へのこだわりもあるようだ。
「ふ。あんた言うようになったね~」
「もう俺だって子供じゃないんだよ~」
「ギルド主催の槍の講習で使うんだよ」と親方さんが俺に話しかけてきた。
「そんなものいいのか?」
「あまり大きな声では言わないでほしいくらいかね。
ただ、普通の人ならここに木の棒を買いに来たりはせずに、普通に槍を武器屋で買うからね」とデイジーさん
「そうそう。だから絶対に世に出してはいけないものってモノでもないんだよね」と親方さん
「木の棒だもんね」と息子さん
「なるほど、わかった。ありがとう、助かった」
「その代わり、子供たちにはしっかり教えてやっておくれよ。
もしギルドでってなると、無料とはいかないからね。さすがにそこまで面倒は見れないんだ」
「大丈夫だ。俺が兵士をやっていた頃のやり方で教えるつもりだ」
「そうかい。まあクロードさんが言うなら、安心なんだろうね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「クロードさん、みんなにはどう説明するんですか?」
「ん?」
ほくほくした気持ちで帰っているところにエドワード聞いてきた。
「新しい遊びだって言えばいいんじゃないか?」と年中組のレスタがいった。
もう一人の年中組のトーマもうなづいた。
「しかし遊びだって言ったら、実際に木とは言え剣を振り回すわけだから、ケガをするかもしれないだろ?」とホームズ。
「「ああ~」」
「確かにどう説明するかとか、どうやる気を出すかなんてのは、正直考えていなかったな」
兵士時代はやる気があるやつしか来なかった。
だからこんな心配をする必要はなかったが、あの子たちはそうではない。
そして最初に出た遊びという意見も、いいなと思ってしまったが、ホームズのいう通りだ。
「では正直に、みんなが生きていくために、おなか一杯ご飯を食べられるために、というような説明をするのがいいのかな?」とホームズ。
「そうだな、それで説明してみよう」
みんながうなずいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
家に帰りつくと、子供たちは全員表に出ていた。
「おかえりー」
「おかえいー」
そしてこちらに気づくと、体当たりする勢いでちび達が抱き着いてきた。
「おうっ、・・・元気だな」
貧相で軽い割に体力は有り余っているようだ。
俺の脂肪を分けてあげたいくらいだ。
「丁度、全員が居るようだな」
「そうですね」
俺はさきほどの説明をすることにした。
「みんな、明日から、朝ごはんを食べた後にみんなで訓練をやろうと思う」
「くんれん?」
「そうだ、みんなが生きていくため、ご飯を食べるためだ」
しかしほとんどの子供がピンと来ていない顔をした。
ごはんのあとにごはん?みたいな反応だ。
体ごと傾いている子もおりかわいい。
これは後から思い至ったのだが、今生きているし、ご飯も毎朝食べている。
しかもお魚の肉でグレードアップしたばっかりだ。子供たちがピンとこないのは当たり前だ。
「がんばれば、うまい肉が食えーる!」
突然ホームズが自信たっぷりにそう言った。
言い終わった後は、にっこりといい笑顔だ。
するとすぐに子供たちの目の色が変わった。
そしてホームズは俺を見て、「ですよね」と言った。
「そうだ。みんなが訓練を頑張れば、それだけいっぱいうまい肉が食える。食い放題だ」
そう言葉を引き継ぐと、子供たちは嬉しそうに笑い、元気な子はジャンプをして喜んだ。
今日は何度もホームズに救われた日になった。
ちなみに後から聞いたところ、この時点で肉を食べたことがあったのは年長者の4人だけだった。
ホームズが自信満々に肉が食えると言った時、それはすごい事なんだと子供たちが錯覚したようだ。
ホームズ曰く、ここぞという時にしか使えない禁じ手のようなものらしい。
だがそれも、いつもちび達に向き合っているホームズたちだからこそ使える手だなと思った。
「おう、にぎやかだな!」
「だれ?」
ガラの悪い声に振り向くと、木の棒の束を肩に乗せた男が達がこちらへ歩いて来ていた。
男たちはこのまま家の前を通過し、森の奥へと消えて・・・行かずに俺の前で足を止める。
「ここでいいか?」
男は担いでいた木の棒の束をたたく。
「ああ、ずいぶん早かったな」
「そうか? よいしょっと、じゃあこれで40本だ、頑張れよ!」
「ああ、助かった」
「これなにー?」
さっそくチビ達が興味を示したようで集まってきた。
「これはお前たちのだ。 明日からの訓練でこれを使うぞ」
「おお~」
「さて、みんな今から1本づつ渡すから、どんな感じか触ってみてくれ」
俺はロープをほどき1本づつ子供たちに槍に見立てた棒を渡していく。
(このロープは何かに使えそうだから大切に保管しよう)
エドワードやホームズが重さなどを確かめる様子をちび達がマネする。
「職人さんが1本1本、丁寧に作ってくれたんだ。大切に使うようにな」
「「「はーい」」」
ワイワイガヤガヤと楽しそうだ。
「・・・じゃあ家の中にしまうぞ。 ついてこい」
そう言って俺は余った棒を持って応接間に向かう。
子供たちは木の棒を1本づつ大事そうに抱えてついてくる。
応接間のカビはすでに綺麗に取り払われ、空気もきれいになっている。
ちなみにこの部屋には現在一切の家具はなく、常に作成し終わった木剣と木の盾が片隅に積まれている状態だ。
「こんな感じでここに、やさしく置いてくれ」
俺は空いているスペースにそっと木の棒を置いた。
「明日からは、ご飯を食べたらここから木剣と盾、後はこの長い棒を持って外に出る。
1回では持ち出せないだろうから、何回かに分けて運んでくれていい。
そして訓練が終わったらここに戻す。いいな、一回で運べなかったら何回かに分けて運ぶんだ」
「「「はーい」」」
子供たちは俺が置いた場所にどんどん木の棒を置いていく。さすがに40本ともなるとかなりかさばる。
「うわーぐちゃぐちゃですね」
あとから入ってきたエドワードがぐちゃぐちゃになっている状態に頭を抱える。
「そうだな、これもどうにかしないといけないな」
「まだ硬い方のツタって余ってます?」とケイト
「これをどうにかできるぐらいの量はないだろうな」
「そうですか・・・」
「まあそれは今後考えていくとして、先生になってもらう話覚えているか?」
「もちろんです」
「年長組4人と、もう何人か、手伝ってくれ」
「「「はい」」」
俺は明日から行う練習内容をエドワード達年長組を含めた有志の10人に教えた。
「しっかりできなくてもいい、最初は訓練がスムーズに進むように一緒にやってくれる感じで良いんだ。
そうだな、ついていけない子がいたら教えてやるとか。
そのうち正しい動きに持って行ければ、そこまでうるさく言うつもりはない」
「「「はい」」」
「じゃあさっそくだが、流れを説明するぞ」
「「「はい!」」」
有志の10人は真剣な様子で取り組んでくれた。




