【第16話】戦闘訓練(3)
朝食の後、少しまったりとした後に、昨日話し合った通りに4人は薬草の採取に出かけて行った。
少し不安そうだったが、モンスターが出ないなら、後は気持ちの問題だ。
大丈夫、お前たちなら出来ると何度も声をかけて送り出した。
4人は採取に関してはもう免許皆伝。
次の薬草の群生地も、昨日採取していた場所から見えていた。
「さて、じゃあ次は俺だな」
「にゃん」
「そこの森に入ってくる」
「にゃん」
「おじさん」
「ん、ほら、そこの森で木を切ってくるだけだ」
「そうなの?」
「ああ、だからお前たちは家の周りで遊んでいてくれ。
時々様子見に来るからな」
「わかった」
頭をポンポンとしてやると、待っていた子供を引き連れ遊びに出かけた。
俺は丸めたツタを片掛カバンのように掛けてから家から出て1分の森へ向かう。
家から見えるところだったため、子供が数人ついて来ようとしたが、猫のヤグラが子供の服を引っ張り阻止してくれた。
子供たちはすぐにヤグラに気を取られ遊び始めた。
(賢い猫だな)
もしかしたらモンスターとの交配種なのかもしれない。
聖水を嫌がらないし、人を襲うこともしない。
知能だけを受け継いだのか。
どちらにしろあとで頭をなでてやるか。
森に入り、練習用の剣、木剣の材料になりそうな太さの枝をナタやオノを使い落としていく。
落とした枝は帰り道に拾っていけるように直線になるように投げていく。
木剣と言っても特に大げさに加工するつもりはない。
一定の長さにして、皮を剥ぐぐらいを考えている。
鍔は必要になったら付ければいい。
「ふう」
木の種類によっては枝がグネグネで向かないものもあったので、なるべくまっすぐになっている枝を選びながら進む。
木剣に使える太さとなると高い位置にあるため、切り落とすのにも苦労したが、強化のおかげで数分の休憩で元のように動けるようになる。
「首が痛い・・・上ばかり見ているからだな。
しかし昔は午前中いっぱい動けたんだがな」
この衰えは年齢というよりは10年以上、力仕事をしていなかったからだろう。
昔と比べてしぼんでしまった腕を見て自嘲気味に笑う。
あの頃のパンパンになった筋肉に、とまでは行かないにしてももう少し格好がつくくらいには筋肉を付けたい。
子供たちと一緒にまじめに素振りをしようと考えながら作業に戻った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
森に入って奥に30分ほどの距離を枝を落としながらゆっくり歩いたが、まだこのあたりではモンスターのいる形跡は見られなかった。
野生動物すらもこの辺までは来ていないようだ。
動物が食べられそうな実をつける木がないのと、後は子供たちの元気な声で寄ってこないのかもしれない。
その後も何度も休憩をはさみながら延々と枝を切り落としていく。
「ふう、とりあえずこれで人数分にはなったか?」
今度は森の入り口へ向かいながら、枝を拾っては家の方向に投げていく。
びゅんびゅんと音を出しながら飛んでいくのが面白く少しだけ夢中になる。
もちろん音だけで、5~6mほどしか飛距離は出ていない。
力をそこまで入れずに投げているのと、たくさんの小枝や葉っぱが飛距離を落とすからだ。
ある程度の本数になったらツタで結び、今度は引きずって森の外に運び出す。
とりあえず使っていない畑の上に置いていくことにする。
「おじさんだ」
「おかえりなさい、おじさん」
「にゃん」
「ああ。 変わりはないか?」
「にゃん」
「ないよー」
「ころんだけど血でなかった」
「そうか。またすぐ戻ってくるから、遊んでな」
ヤグラと一緒にまとわりついてくる子供たちを引きはがしながら森の中に入る。
何度か森と畑を往復し枝は無事集まった。
森の中は涼しかったがいい運動になったようでたくさん汗をかいた。
「ふう」
汗が引くのを待ってから洗浄する。
腕がだるくなっていたので休憩がてら空き部屋に向かう。
「ああ、カビ臭い」
俺は洗浄を使い少しずつカビだらけの部屋をきれいにし始めた。
1部屋を雑に洗浄し終わったら畑に戻る。
長くいてはいけない。そういう匂いだ。
急ぐものでもないし、何度かに分けてやればいいだろう。
「危ないから遊んでろ」
寄ってくる子供を除けてから不要な枝をナタで落としていく。
いらない枝の山が出来るころにはまた子供がちょっかいをかけてくるようになった。
各自自分の気に入った枝を1本づつ持ってこちらの作業を見ながら質問をしてくる。
「おじさん、これどうするの?」
「どうしようかね」
「これすてるの?」
「そうだな・・・何かに使えればいいんだろうが」
「おじさん、きゅうけいまだ?」
「ふう、仕方ないな・・・」
ナタを置くと子供が寄ってくる。
俺はまとわりついてくる子供の頭をなでたりこちょこちょをする。
子供たちは嬉しそうに笑った。
昔息子や長女にやった時に痛がられたので力加減は覚えた。
おかげで次女には痛がられることはなかった。
その技をこの子供たちにお見舞いしているのだ。
「あのね」
「ほう」
何かを一生懸命説明してくる子供にはちゃんと相槌をうち話を聞いた。
そういうのが大事だと昔グレイシアに聞いたからだ。
ゆったりとした時間に心が癒されていくのがわかる。
猫のヤグラを目で探すと古い切り株の上に寝そべりゆっくりしっぽを揺らしていた。
子供が遊びに戻ったので俺はヤグラの元へ行き頭をなでる、
「さっきはありがとな」
「にゃん」
屋敷に居た嫁の猫もこうやってよく撫でていた。
こうするといいと嫁に教えられながら。
「グレイシア・・・」
止まった俺の手を、ヤグラがチョイチョイと触ってきたのでなでなでを再開した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おじさん、それなに作ってるの?」
「木剣」
「なにつくってるの?」
「木剣だ」
「おじさん、これどうするの?」
飽きもせずに俺が切り落とし、山積みにした枝を触りながら子供たちは質問してきた。
暇なのか、かまってほしいのか、ついさっきもされた質問だったが、今回はひらめいた。
「そうだな、じゃああそこの日陰になっている木がたくさん置いてあるところに置いて来てくれるか?」
そこは屋根があり、おそらく薪を乾かす用のスペースだ。
「わかった!」
「ぼくもやる!」
「1人1本づつ持って行けよ。
ああ、それは長すぎるからちょっと貸せ」
「どうぞ~」
俺は細長い枝を3つに折り、子供に渡した。
「これもやってー!」
「それは短い・・・」
俺は言葉を途中で止め、折る必要がないほどの短い枝を受け取り、2つに折ってから子供に渡した。
不公平になるからだ。
「いってくる!」
「ああ、頼んだぞ」
役割を与えられたチビ達は嬉しそうに運んでくれた。
「もうおわり?」
「終わりだ」
「ないの?」
「ああ、あんなにあったのに、助かった」
ちび達を頭を撫でて労うと各自遊びに戻って行った。
「クロードさん、戻りました~」
俺が枝を整えていると年長組の4人が帰ってきた。
「ご苦労。 もう終わったのか?」
「はい、今日の分は終わりました」
かごを見ると薬草がかごの半分くらい入っていた。
1つの群生地が終わったら戻ってくるように伝えていたのだ。
「はい、今日やった場所から見える場所にありましたので、明日はそこへ行きます」
「そうか」
「クロードさんの方もかなり進んでいますね」
朝は無かった畑の上の切りそろえられ積まれた枝を見ながらエドワードは言った。
「ああ、もう少しだな。
仕上げをするにはまた別の道具が必要だが・・・」
「お疲れ様です、どうぞ~」
ククイから水を貰った。
わざわざ家に戻りおわんを取ってきて、そこに魔法で水を入れてくれたようだ。
新鮮で冷たいおいしい水だった。
「疲れが取れるようだ。頭もすっきりした」
「よかったです」
ククイはにこにこ笑っている。
「少ししたら次はギルドに納品に行くのか?」
「クロードさんは?」
「俺はこれを終わらせるよ」
「そうなんですか?」
「今日は4人でやってくれただろ?
だからそれは4人で納品してくれ」
「でもそれだとクロードさんのポイントが」
「今日は参加していないからな」
「そうですけど・・・」
エドワードは少し考えて、すっきりした顔をした。
「クロードさんはやっぱり、信用できる大人です」
「うん」
「だな」
言うと思った。
今までが最悪だっただけだろうに。
「まあそういう訳だから、4人で行けるな?」
「「「「はい!」」」」
そのあと、4人はちび達の面倒を少し見た後に町へと向かった。
朝の採取に出かけるときは4人とも少しだけ緊張していたが、
町へはただ納品をしに行くだけなので、幾分か気楽そうだった。
薬草採取から納品までが一連の流れだ。
戻ってきたら、次からは年中組を連れて行って仕事を教えてやるよう話してみよう。
年中組が仕事を覚えるころには訓練も始められるだろう。
4人が町から戻ってきた頃に、ヤスリ掛け前の荒い状態ではあるが、30本の木剣を作ることが出来た。
「槍の方は無理だな」
本当は練習用に同じ数の槍を作りたかった。
しかし今日見た感じ、ギリギリ槍として使えそうな木は3本くらいしかなかった。
片手剣と槍は自分の中ではセットだ。外すことは出来ない・・・。
「にゃん」
「ヤグラか」
「にゃん」
ヤグラは甘えるようにぶつかってきた。
「ふう・・・」
突然の甘えモードに気を抜かれる。
「・・・まずは剣だけでいいか?」
今度町へ行ったときにあの受付に聞いてみるか。
「にゃん」
木をのこぎりで輪切りにして簡単な盾も作る。
練習で木剣を受けたりするだけなのでこんなもので良い。
本当の狩りの時までに本物は用意する。
俺は目の前の森を見ながら考えた。




