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脳筋不器用元貴族のやり直し  作者: ゆめのなかのねこ
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【第12話】薬草採取(1)

「さて、冒険者としては初歩的なクエストにはなるけど、

 手っ取り早くお金が手に入る方法だからちゃんと覚えてほしい」


「「「「はい!」」」」


「いい返事だ」



俺は年長組4人とやじうまの子供たちとともに小屋の前に移動した。



ここの子供たちはこんな境遇なのに、腐ったりせずに前向きに生きている。

例えば食料で困っているのに、町で盗みをしようという考えがない。


それはすごいことだと思う。

ぜひ今のうちに助けたい。


「冒険者ギルドは仕事をする人間にはちゃんと対応し、報酬もきちんと支払う。

 特に頑張っている新人には手厚いはずだから、薬草ごときで報酬を出し渋ることはない。

 それが育って、ゆくゆくはギルドの利益になると分かっているからだ」


「なるほど」


「それで今後、俺もできる限りみんなにやり方は教えていくつもりだけど、

 何が起こるか分からない世の中だからな」


「「「「はい・・・」」」」


4人は神妙にうなづいた。


「うむ。

 そんな訳で、おまずお前たち4人が覚えて、ゆくゆくは下の子たちに教えられるようになってもらう」


「「「「はい!」」」」


4人はそれぞれ見合って、責任重大と気合を入れた。


「やり方さえ抑えられれば本職でなかった俺でも、ひと財産稼げたくらいだ。

 まずは難しく考えなくていい」


俺はあえて表情を緩めて4人に語り掛けた。


「あの、クロードさんは貴族だったんですよね?」


「ん? まあな」


「では薬草採取は、ご趣味で?」


「いや、俺は貴族をやる前は、ある村の兵士をやっていたんだ。

 俺は平民の生まれでな。色々功績を上げるうちに、気が付いたら貴族になっていた」


「おお、すげぇ」


「相当な功績だったんですね」


少年2人は、ギルドでのスタンピードの話を聞いていたと思っていたが、

よくわかっていなかったようだ。

スタンピード自体、名前から知らないのかもしれない。


「まあ、その辺の話を今からしても仕方がない。

 とりあえず薬草を見つけるところから説明するから、ちょっと出かけるぞ」


「「「「はい!」」」」


「うむ。

 それで、この家にナイフはあの果物ナイフしかないんだったな?」


「果物? ナイフは1つだけしかないよ」


「そうか。 じゃあそれを使うから、持って行くぞ」


「分かりました」


「みんな聞いて~」


普段このナイフは小さな子供が触らないように高い場所に置かれている。

クレアが子供たちの注意を引き、ホームズがそっと椅子に足をかけた。


一瞬でナイフを取り、俺に手渡してきた。


「じゃあいつもの約束、言ってみて~」


「「「もりの中に入らない!」」」


クレアがみんなに見えるように指を折る。


「「「いえからはなれずにあそぶ!」」」


「「「かわの方にはいかない!」」」


「「「なにかあったら町ににげこむ!」」」


「「「しらない人にはついていかない、家でまってもらう!」」」


クレアが真剣な顔をして指を折りながらうなづく。

ちび達もまじめな顔をして一生懸命約束事を復唱する。


俺はその光景を感心しながら見つめた。

ただ遊ばせているだけではなかったようだ。


「みんなえらい! よく言えたね。 じゃあみんな、今日もいい子で待ってるのよ!」


「「「「はーい」」」」


(ほう・・・)


いつも暴れているだけかと思ったが、ちゃんと年長者のいう事は聞けるようだ。


ふと視線を感じて振り向くと、猫のヤグラがこちらをじっと見ていた。

動く様子はない。


「お前は残るのか?」


「にゃん」


「そうか、行ってくる」


「にゃん」


俺は近づいても見上げるだけでその場を動こうとしないヤグラの頭をなでた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「薬草の探し方からだ」


「「「「はい」」」」


俺は改めて4人と向き合い説明を始めた。


「簡単に言えば、薬草にも人間と同じで、住みやすい場所と、そうでない場所がある。

 これはどんな生き物だって同じだ」


「「「「はい」」」」


「ただし、住みやすい条件だったとしても、必ずそこに生えているかと言えば別の話になる」


4人はうなづく。


「その時はさっさと諦めて次を探せばいい」


俺は川を指さす。


「まず、このような水がたくさんあり、流れのある川を見つける。

 見つけたら川の近くで1日のほとんどが日陰になっていそうな場所を探す」


俺は森の方向を指さし、それをみんなで見る。


「ここで言えば、木がたくさんあって、日陰になっているあの辺だな。

 実際に探してみよう」


「「「「はい」」」」


4人はわくわくした顔をしながらついてくる。


「どれですか?」とクレア


「そうだな・・・ここには無いようだな」


「そっかぁ・・・」とククイ


「じゃあ次ですね」とホームズ


「そうだ」


家から見て下流へと歩き出す。

上流に行ってしまうと町についてしまうからだ。


「焦らなくていい、ゆっくり歩いてくれ、足をくじくと大変だ」


「はーい」


「クロードさん、流れのない川なんてあるんですか?」


みんなでうろうろと影になっている場所を下流に歩いているとエドワードが聞いてきた。


「あるぞ。もともと水の量が少ないところとか、人間がせき止めている場所、

 ため池なんかにつながる川などは水位・・・そうだな。

 水の高さが上がりきってしまって、水の流れが遅くなる。

 そういったところでは水がよどんでしまったりするんだが、

 そういうところには薬草が生えないことが分かっているんだ。

 生えないといえば、人が住んでいる場所の近くにも生えないな」


「へぇ・・・」


「む、おいあったぞ!」


「え?」


語ることに夢中になっていると、踏みそうになった草が薬草で、慌てて足の落下地点をずらした。

俺の声にみんなが集まってきた。


4人の子たちの到着を待つ間に目線を上げてみると、そこは薬草の群生地だった。

この道は通ってきたはずだったが、考え事をしていた為か、そもそも薬草を探していなかったから見逃していたようだ。


「これだ」


俺が薬草を指さすと、4人がしげしげとその草を見つめた。


「お前たち、やはり薬草を知らないで探していたのか」


「えと・・・そういうことになりますね・・・」


「・・・そうか。

 一応言っておくが、探しているものが分からないと一生見つからないからな」


「「「「はい・・・」」」」


4人は少ししょんぼりとした。


「あ、この草多分、時々スープに入れてるよ!」


ククイが謎のごまかしをしてきた。

その後に続いた説明によると、普段は日に当たる草を選んでいるらしいが、それが少ない時には日陰に生えている草をスープに入れることもあるらしい。


とりあえず俺はククイの頑張り(?)に頭を撫でて答えた。

気を取り直して採取の方法を4人に説明する。


「これはナイフを使った時の方法になる。

 葉っぱだけを刈り取るようにすると、また生えてくるから(くき)部分に負担がかからないように

 左手で葉の根本の方を人差し指と、中指で挟み、茎の方を薬指と親指で押さえたら

 ナイフをその間に入れて、すっと、こするようにして切る」


「「おお」」


(くき)に傷が入らないように、ギリギリを狙って切る。

 ナイフの刃はこちら側じゃなくて、あっち側を向ける」


「「「「はい」」」」


「これを10枚集めたら1(たば)だ。

 わかりやすいように他の雑草を間に挟むか、棒の部分をほかの雑草で結んでやると綺麗にまとまって、ギルドの印章が良くなるかもな」


「「「「おおお!」」」」


「クロードさん、私は結んだ方が落としたときとかにバラバラにならないし、いいと思うわ」


ククイが意見を言ってきた。


「そうだな。まあその辺は自由だ。俺も時間があるときは結ぶことが多かった。

 ただ、毎回そうしなくてもいい。

 群生地があったら先にある程度採取してから結ぶとか、その場の状況で変えてもいい」


「そうなんですね」


「あの、これって手でちぎっちゃダメなんですか?」今度はクレアが聞いてきた。


「いい気づきだな。

 だが・・・そうだな・・・じゃあ1回やってみるといい」


「う。 そういわれるとダメなんだろうなって気が・・・」


「まあ、今失敗した方があとあとのためにいいだろう」


「うう、失敗すること確定なんですね」


そう言いながらもクレアは両手で薬草をちぎろうとしたが・・・


「わわ、葉っぱの方が破れちゃった」


「ああ、この筋がとても硬くて、手では難しいんだ。

 例えばこんな風にポキリと折っても、中の筋が切れないから取れないんだ」


「なるほど・・・」


「よし、じゃあ1人づつ交代で薬草を採取してみようか。10枚取れたら交代だ」



「「「「はい」」」」



「一回で切ろうとせずに、2,3回に分けてこすって切るんだ」


「はい」


「うう、うまく結べない」


「あらかじめ、結びやすいようにこうやって細かく繊維を折っていくんだ」


「うーん?」


「もっと細かく折るんだ」


「はい」


採取はクレア、ククイ、エドワード、ホームズの順番で行われた。

今はククイが採取をしており、ククイが雑草で結ぶところで苦戦している。


それを見ていたホームズが同じように雑草を摘んで真似をする。


「今度はなんとか結べた・・・」


「ご苦労。 これならちゃんと買い取ってもらえるだろう」


「え! うそ!? やったー!」とクレア


「おお!! こんな草集めただけで!」とホームズ


すごいテンションで喜んだ。

今までお金が稼げなくて苦労をしていたので仕方ないか。



「あの、雑草の汁が薬草に付いちゃってもいいんですか?」


「そうだな、今までそれを指摘されたことはないな」


「そっかー」


「10枚、採取出来ました~」


「よし、じゃあナイフをエドワードに渡してくれ」


「はいどうぞ~」


「ありがとう」


「結び方はクレアが教えてみるか?」


「え!? 私?」


「ああ」


「わかったわ・・・。 ええと、この草を取って?」


「うん」


ククイは言われた通りに雑草を根元から取る。


「次は両側の葉っぱを切り取って」


「うん」


ククイはペリペリと不要な葉っぱを切り取っていく。


「で、貸してみて、こうやってよよよよって、折っていくの」


やってみて、とクレアはククイに葉っぱを返す。


「よよよよ?」


ククイは言われた通りに芯を小刻みに折り進めていく。


「うん、そう」


「もういいの?」


「いいよ、じゃあこんな感じで結んでみて」


クレアは完成品の薬草10束を見せる。


「かた結びでいいのね?」


「うん、強く結んでも切れないからしっかり結ぶんだよ」


「・・・どうかな?」


「完璧」


「どうかな、クロードさん」


ククイが薬草の束を渡してきた。


「うむ、隙間もなくしっかり結べている、完璧だ。ご苦労」


「わーい」


「うおおまじかよ!」


「うるさいなあ」


さっきから何かあるたびにホームズが興奮したような声を上げる。

確かにはたから見れば、やっていることは草を取って、違う草で結ぶという子供のお遊びみたいだ。

だがこの薬草が無いと冒険者稼業が立ち行かないので持って行けば報酬が貰えるのだ。


しかし。


「言っておくが、子供でも誰でも簡単にお金が手に入る方法だが、簡単だからあまりたくさんは貰えない。

 そのうち薬草採取にも慣れて簡単に思えてくると思う。

 でも人に渡してお金を貰えるものほど、早く終わらせたい気持ちを抑えて、丁寧にやらないとダメだからな」


「「「「はい」」」」


その後エドワード、ホームズと無事に薬草を1束づつ作ることが出来た。

ナイフが1つしかない為同時にはできないが、4周もする頃には4人ともしっかり採取が出来るようになった。

薬草採取なんて実際こんなものだ。


だから先ほどの慢心しない気持ちが必要なのだ。


「もうしばらくしたらみんなでギルドに納品に行こう。

 まだ昼にもなっていないから、続けて交代で採取をしてみてくれ」


「「「「はーい」」」」


俺は立ち上がり腰を伸ばす。


「ん?」


少し離れた場所にも薬草が川に沿って群生しているのが見えた。

どこまで続いているのか気になり。


「ちょっと周りを見てくるから、続けてくれ」



「「「「はい!」」」」


気持ちのいい返事を聞いてから15分ほど周りを散策した。

この辺は薬草の群生地となっていた。


おそらく川の向こう側にもいくつかの群生地があるのではと予想する。


(宝の山・・・宝の森ってところだな。こんなに恵まれている場所があるのに、

 ここでほかの人間を全く見ないのは、他にもポイントがあるって事なんだろうな)


俺はそんなことを考えながら周囲の捜索を終え子供たちのもとへ戻った。

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