5話
5
大きな工場を建築中の工事現場。
色々な業者が入っているので、人が多く、狭い場所での作業も強いられる事がある。その中での作業は、人が多い為に特に注意が必要だ。
◇
ミヤが悩んでいる。それも平日の業務中にだ。
先日のフードコートでの “身内に交際発表するぞ案” が出て以来、発表の形をどういった具合でしたらいいのか、悩んでいた。
今は作業中、しかもバックホウの運転をしている、考え事はしてはいけないと思ってはいるのだが、自分の人生の重要な一つと思っているミヤは、集中力が少し散漫になっていた。
そこへ、たまたま他の作業員が近くを通りがかった時に、ミヤの操作するバックホウの作業機が、かすりそうになった。
「うわ!!!」
あと40~50cmで作業員と接触してしまいそうだった。
「おい!あぶねえな、何処見てるんだ」
慌てて降りて行き、謝るミヤ。
「すみません。怪我は無いですか?」
「当たってはないが、びっくりしたぞ、何か恨みでもあるのかオレに」
「な、無いです、もちろん」
「当たってたらオレいまごろ骨折で済んでないな」
「ほんとにすみません、ごめんなさい」
「おい!どうした?」
少し離れていた所に居た現場監督のうちの一人が駆け寄って来た。
「大体見てたけど、さっきのは始末書ものだな」
「はい」
と、返事をするミヤ。
「あなたもです」
と、相手の作業員にも言った。
「何で俺が始末書なんだ? おかしいだろ。こいつがバックホウで旋回して来た時に、当たりそうになったんだ、こいつが全部悪いと思うが」
「いいえ、ここはバックホウの作業ヤードです。カラーコーンで仕切ってあるのにも関わらず、勝手にバーを外して入って来て。 朝礼でも言ったでしょ、重機の作業エリアには入らないでと」
「う....」
「取りあえず、各職長さんには報告しておきますから、作業終了時に職長と現場事務所にきてください。これは絶対ですよ。来なければ、この現場からは退場してもらいます」
「はい」
「わ、わかった...」
「今から各職長に連絡を入れておくので、それじゃあ後で...」
その後、連絡してからミヤ側の会社担当の職長が来て、先ほどの一部始終を話し、この日の作業は変更になった。
△
現場作業終了後、言われた通りに、職長と現場事務所に行く、すると、相手の業者はまだ来ていなかった。暫く待っても来ないので、どういう事かと、数人いる監督の一人が相手のその職長に電話をかけた。すると、その作業員はあれから勝手に帰ってしまったと言う、呆れた監督は、職長だけでもいいから来るようにと言って、電話を切った。
数分後、その職長は、バツが悪そうに事務所に入って来た。
「すみません。あれから当事者のあいつが消えてしまって、探していたんですが、電話も通じないし....」
「仕方ないですから、その事は後にして、ニアミスについて、石仲くん側からしか聞かれないですが、お願いしますね」
ミヤは作業中のヒヤリハットの一部始終を細かく説明した。そして監督が。
「私も、近くではないんですが、ちょうど通りがかったので、視界に入りましたが、どうやらバックホウ側も、良く見ていなかったのも原因ですが、もともと入ってはいけないヤードに勝手に入って来た作業員が、言える事ではないと思いますね」
相手の職長が、残念そうに。
「すみません」
と、平謝りだ。
そのあと、お互いに始末書を作成して、今回はミヤ側はペナルティ無しになった。相手の業者の作業員はどうなったかは分からない。
△
会社に帰ると、社長自らミヤに寄って来て、会議室に連れられた。 怒られると思っていたミヤだが。
「ミヤ、災難だったな」
と言い、大きな声で笑いながら缶コーヒーを渡された。
「お前の仕事具合はいつも良く見ているから、そんなことは無いと思っていたら、相手の作業員の不安全行動だったんだな」
「はい、そう言う事になります」
「俺にも、元請けからの小言があったが、最後は何故か謝られたからな」
「なんでです?」
「お前がいつも、きちんと元請けの示すルールを守っているからだとさ」
「はい、でも、それは現場内ルールですから守らないと....」
「でもな、なかなかキチンと守るヤツは少ないぞ。隠れて、ルール違反なんて、日常だ。それでもお前は、ちゃんと守っていてくれる。いいか?お前たちは、この会社のブランドなんだ、そのブランドをしっかり維持できるかは俺だけじゃ出来ない、実際はおまえたち従業員が作っているんだ。だから俺はその人たちを大事にする事が義務だと思って居る」
「オレ、そう思ってもらえる親父(社長)の下で働けて、嬉しいです」
「ははは、そうか。照れるな、嬉しいが」
良い雰囲気になり、社長が。
「じゃあ今日はご苦労さん。明日からもまた頼むぞ」
「はい、お疲れ様でした。失礼します」
会議室から出たミヤが結構絞られていると思った同僚たちが、心配して励ましてくれたが、殆ど相手に落ち度がある事を話すと。
「ナ~~んだ、俺たちはてっきり、こってりと絞られているのかと、心配したんだぞ」
と言われたので。
「あはは、心配かけました」
と言っておいた。
△
電話で、大体の事の顛末を知らせておいたミイが、心配そうに、ミヤの部屋で待ってくれていた。どうやら居ても立っても居られなかったみたいだ。
「それで、どうなったの?」
「こちらは割と心配しなくてもいいけど、相手が最後に逃げたみたいになって、向こうの職長さんは、相当気まずい雰囲気で、始末書を書いていたよ」
「なにそれ、当事者が居なかったって事?」
「そうなるな」
「それおかしい、人として絶対に」
「明日その作業員はどうなるんだろう?」
「どうなんだろうね?」
少し沈黙する二人。
「そういえばまた来週から講習が始まるんだ」
「うわ、大変ね」
「今度は3つ連続で受けるから、終わるのが再来週の半ばになるんだって」
「そうなの?」
「いや、一つの講習が日程が多くって、ほぼ一週間かかるんだ」
「また箱詰めね」
「体がなまっちゃうよ~.....!」
「なにそれ?」
ミヤが遠くを見るように
「は~...、体が動かしたいな~....」
と、チラリとミイを見る。
察したミイが。
「.......ばか!」
「何も言って無いぞ」
「言ってる様なものじゃない.....、したいって...」
「分かっっちゃった?」
「もう....、えっちなんだから...、ミヤは」
「でも、イヤじゃないんだろ?」
「そ.....、うん....」
(その後どうなったかは、二人に聞いてみないと分からない 多分教えてくれない (作))