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新緑の息吹 / 竜人について

 






 王都へ来て四日目、わたし達はもう一度街へ出た。


 今日で王都に留まるのは終わりだからだ。


 グランツェールへ帰るため、明日の朝ここを発つ。


 その準備を整えておかなければならない。


 必要なものを買い揃えた後に、他にも寄る場所があると言う。




「どこによるの?」




 セレストさんがわたしを見た。




「冒険者ギルドです。グランツェールまでの帰りに私達だけだと心許ないですから、他にも向こうへ行く方がいれば一緒に旅に同行出来ないか調べてもらっていたのですよ」




 その確認のために行くらしい。


 冒険者ギルドというのは、冒険者へ依頼をしたり、冒険者が依頼を受けたりする場所のことなのだとか。


 一つの街に留まっていたり、旅をしたりと人それぞれらしいけれど、街の外に出て魔獣を狩ったり薬草を集めたり、旅人や商人の護衛をしたり、といった感じで色々な仕事をする人のことを冒険者と呼ぶそうだ。


 そういう仕事なので荒くれ者も多い。


 そんな人達のいる場所に向かうのは少し緊張する。




「こわくない?」




 と、訊くとセレストさんが笑った。




「仕事柄、気が荒くなりますから第二警備隊に比べれば態度の悪い者も多いかもしれませんね。ユイは怖いですか?」


「……すこし」


「大丈夫ですよ。何かあっても私が守ります」




 頭を撫でられ、微笑むセレストさんを見ていれば、怖い気持ちはなくなっていった。


 手を繋いで目的地の冒険者ギルドへ向かった。


 予想に反して冒険者ギルドは綺麗だった。


 ちょっと荒れた様子を想像していたので拍子抜けしつつ、セレストさんと一緒に建物へ入る。


 ザッと視線が集まってビクリとした。


 ……ビックリした。


 中は第二警備隊の玄関に似ていた。


 整然としており、広いホールにソファーがいくつかあり、一部の壁には色々と紙が張り出されていて、警備隊でもあった掲示板と同じだと分かる。その周りに人が集まっている。


 集まる視線の中でセレストさんは気にせず、受付に向かった。


 手を繋いでいるわたしもついて行く。




「すみません、三日前にグランツェールへの同行者探しを依頼したセレスト=ユニヴェールです」




 受付の女性が「少々お待ちください」と言って席を立つ。


 けれどもすぐに戻って来た。




「はい、確かにお受けしております。お探しした結果、アルバレスト商会とその護衛の『新緑の息吹』という冒険者の一団の皆様が同行しても良いとのことでした」




 どうやら同行者が見つかったようだ。




「アルバレスト商会と『新緑の息吹』について、教えていただけますか?」


「はい、ご説明いたします」




 アルバレスト商会というのは、王都でもそこそこ大きな商会でエルデン=アルバレストというドワーフの男性が商会長で、真面目で信頼出来る商人なのだそうだ。


 そのアルバレスト商会が新しい商談相手を開拓するために、そして荷物の輸送もあって、グランツェールの街へ向かう。


 そして『新緑の息吹』がその護衛につく。


 エルフのみで構成された冒険者チームで、戦闘面でも魔法面でもかなり優秀で、森で暮らしていたエルフだけあって森や山での行動にも制限を受けない。


 山越えがあるので、そういう冒険者のほうがいいらしい。


 ……そういえば山越えしたっけ。


 馬車の中だったからあまり気にならなかったが、山を越えるというのは結構大変なことなのだろう。


 セレストさんは少し考えたものの、頷いた。




「ありがとうございます。では、アルバレスト商会と『新緑の息吹』に同行させていただきたいと思います」


「かしこまりました。丁度、先ほど『新緑の息吹』の皆様が戻って来ておりますので、お呼びいたしますね。アルバレスト商会にもご連絡を入れておきます」


「よろしくお願いします」




 受付の人が席を立つ。


 わたし達は受付の近くのソファーへ座って待つことにした。


 それにしても、入った時からずっと視線が痛い。


 どうしてこんなに見られるのだろうか。


 ちょっと落ち着かない。


 セレストさんとしばし座って待っていると、先ほどの受付の人が数名のエルフだろう人達を伴って戻って来た。


 受付の人は浅くお辞儀をして元の場所へ戻っていった。


 セレストさんが席を立ったので、わたしもそれに倣って立ち上がる。




「初めまして、セレスト=ユニヴェールと申します。こちらは番のユイといいます。この度はグランツェールへの旅に同行させていただけるとのこと、本当に助かります」




 セレストさんの言葉に数名のエルフ逹が頷く。




「こちらこそ治療士が道中にいてもらえると、とても心強い。私はアズヴェラ=エイリーフ。『新緑の息吹』のリーダーだ。他にもそれなりの数がいるが、後ろにいるのが仲間達だ」




 リーダーはアズヴェラさんという女性らしい。


 誰もがエルフで、挨拶の代わりに目礼をしたり、手を振ったり、反応はそれぞれ違ったものの、冷たい態度を取られることはなかった。


 ……エルフは排他的って聞いたけど……。


 若いエルフや村を出たエルフはそうでもない、というのは本当のようだ。




「あと一人同行者がいるのですが、どうしても仕事を抜けられなくて。今回の同行は私とこの子と、その同行者の三名です。私ともう一人は竜人です」


「それはいいな。旅に二人も竜人が同行してくれるなら、こちらとしても申し分ない戦力になる」




 話しているセレストさんとアズヴェラさんを見る。


 アズヴェラさん達『新緑の息吹』はみんな、きちんとした装備を身につけているようだった。


 鎧も汚れておらず、多分、武器の手入れも欠かしてない。


 第二警備隊も強い人ばかりだが、この『新緑の息吹』もかなり強い人達で固められている。


 ……わたしが戦ったら負ける。


 戦わなくてもそれが分かった。


 実力のありそうな人達となら旅も安心だ。




「一応ユイも戦えますが、人間なので我々ほどではありません。魔獣と戦ったこともないでしょう」


「つまり、非戦闘員ということか? それについては前もって依頼書に書いてあったから気にしない。アルバレスト商会も子供連れだ」


「そうなのですか?」




 商会で連れているということは、商会の家の子供なのだろうか。


 アズヴェラさんが頷いた。




「ああ、使用人がその子と同じくらいの歳の頃だ。戦闘が出来なくても構わん。そのために我々がいる」




 ……使用人かあ。




「旅の安全は任せろ」




 アズヴェラさんの言葉に、その後ろでエルフ達が大きく頷いた。


 それにセレストさんが「よろしくお願いします」と言ったので、わたしも「おねがいします」と続ける。


 するとアズヴェラさんがふっと微笑した。




「明日からよろしく頼む」









* * * * *











 ギルドで『新緑の息吹』と挨拶を済ませて、セレストさんと一緒に王城へ戻って来る。


 食事をして、入浴して、明日の予定について話し合って、その後は自由な時間だ。


 わたしは寝室で買ってきた本を読むことにした。


 読むのは『竜人の番達へ』だ。


 会計の時に気付いているのか、いないのか、セレストさんはこの本について何も言わなかった。


 ……知りたい、と思う。


 好奇心もあるけれど、一番身近にいるセレストさんの、竜人のことについては知っておきたいと思っていた。


 セレストさん個人の趣向は知っているものの、竜人という種族について知っていることのほうが少ない。


 特に、何を感じ、どう思うのかが分からない。


 だから知りたいのだ。


 最初のページを捲り、本文を読み始める。




「……え」




 読み始めてすぐに驚いた。


 ……竜人は実は孤独を嫌う寂しがり屋……?


 慌てて読み進めていく。


 竜人という種族は皆、実は寂しがり屋らしい。


 個体それぞれが強いが故に、他の種族よりも孤独になりやすく、そして生まれた時よりどの竜人も孤独を抱えている。


 何かが足りない。何かが欠けている。


 そのような感覚を持っているそうだ。


 そして、その感覚を埋められる存在が番である。


 竜人にとって、番とは、己の欠けた部分を埋めて幸福と充足感を与えてくれる存在である。


 そのため、竜人達は番を『己の半身』として大事にし、異性同士の場合は婚姻関係を持つことも多い。


 番は竜人の孤独を癒し、精神を安定させる。


 精神が安定した竜人は本来の強さを発揮出来るため、番を得ると強くなると言われている。


 この寂しがり屋という面は原初のドラゴンとよく似ており、原初のドラゴンにも、ドラゴン自身が生み出した番が存在したとの話もある。


 次に竜人は番に関することに固執・嫉妬する。


 これは己に幸福・充足感を与えてくれる唯一の存在である番を他者に奪われたくないという本能からくる。


 同性・異性関係なくこれを感じる者も竜人の中では少なくない。


 中には番を閉じ込めてしまう者もいる。


 そのせいで逆に番を苦しめ、竜人との間に摩擦を生み、関係が崩れてしまう場合もあった。


 竜人の番に必要なことは『寛容さ』だ。


 嫉妬に狂った竜人は過度な干渉を行い、番の行動を制限したり、人間関係を把握したがったりする。




「……セレストさんがりせいてきって、ほんとうなんだ……」




 ヴァランティーヌさんが度々口にする言葉だ。


 セレストさんは竜人の中でも理性的らしい。


 一度シャルルさんに触って怒らせてしまったことはあったけれど、それ以降、何かを言われたことはない。


 本を読み進めていく。


 そもそも番とは神が定めた伴侶である。


 互いの性格が合うからこそ、番足り得る。


 それ故に本能的に求める相手なのだ。


 本能の強い竜人は番を間違えることはない。




「ということは、セレストさんのつがいはわたしでまちがいないってことだよね」




 そうして番は一生に一度しか得られない。


 それは番が番として同意した時に、竜人から与えられる逆鱗──竜人の首にある鱗──がたった一枚しかないからだ。


 逆鱗を与えることで竜人は番の様子を離れていても察することが出来るようになる。


 しかし一枚しかないため、それを与えた番が死ぬことで、二度と番を得ることが叶わなくなる。


 ……首の鱗……。


 気付かなかったけれど、そんなものがあるのか。


 でも、理由が分かると凄く切ない。


 自分に幸福を与えてくれる人。


 それを生涯にたった一人しか得られない。


 きっと、家族や友人とは違うのだろう。


 その人だけという存在。


 セレストさんにとってのそれがわたし。


 ……わたしだけが、だなんて。


 それは少しずるくはないだろうか。


 ドキドキと胸が高鳴り、息が漏れる。


 ……セレストさんのことは好きだ。


 嫌いになるはずがない。


 あんなに優しくて、大切にしてくれて、いつだってわたしの手を引いて微笑んでくれる。


 そんな人を嫌いになれるはずがなかった。


 本に目を落とす。


 パラパラと捲っていくと、竜人の求愛行動という項目があった。


 竜人は孤独を抱えているからこそ情の深い生き物だ。


 生涯の伴侶たる番に全力で愛を注ぐ。


 そのため、竜人は求愛行動が多い。


 一つ、物を贈る。


 これは贈り物をすることで番の興味や関心を引きたい、己の財力を示すといった意味合いが強く、中には財産を全て差し出してしまう竜人もいる。


 一つ、触れ合い。


 竜人は基本的に同族以外とはあまり身体的接触を好まないが、番だけは別である。


 竜人は番との身体的接触からも幸福・充足感を得る。


 そして触れ合うことで嫉妬や執着心、不安、孤独感が和らぐため、それを好む。


 同時に愛情を示すために過度な触れ合いをしたがる傾向にある。


 一つ、跪く。


 竜人は己より強い者にのみ首を垂れるが、自ら膝をつくのは番のみであり、誇り高き竜人が跪くというのはその者のしもべになることと同義だ。


 だから跪くことは番にしか行わない。


 一つ、給餌行為。


 番に自ら食事を与えたり、番の食事中に自らの食事を分け与えたりすることは竜人の求愛行動の最も顕著な行動である。


 ただし、番は注意が必要である。


 贈り物と給餌行為は拒否すると竜人を不安にさせる。


 また、番が異性の場合、他の異性から贈り物や食べ物を受け取ることは、他者からの求愛行動を受け入れているように竜人には見えるため、控えるべきである。


 全てを断れというわけではないが、極力受け取らないことが竜人との関係を良好に維持していける。


 一つ、過度な干渉。


 番の世話を焼きたがったり、過保護になったり、人間関係を把握したがるが、それらは全て『番が己から離れるのではないかという不安』と『番に関わることで得られる幸福・充足感』から無意識にそのようになりやすい。


 上記の他にも求愛行動は多くあるが、竜人に見られる主な求愛行動は以上である。


 これらは番にのみ行われる行為である。


 ……うん、全部当てはまる。


 セレストさんは過保護だし、世話を焼きたがるし、食事の時だっていつも甲斐甲斐しくあれこれしてくれるし、何なら自分の食事を分けてくれることもあって、そして色々と買い与えてくれて、よくわたしの頭を撫でたり手を繋いだりして、最初に会った時から何度もわたしに跪いていたように思う。


 これも全て、わたしは『番だから』という。


 とある一文にドキリとした。


 ……竜人は番の愛を乞う生き物だ。


 ………………愛。


 わたしはセレストさんを愛せるのだろうか。


 胸に手を当てるとドキドキと小さく脈打っている。


 それは嫌な気分ではない。


 少し高揚して落ち着かないけれど。


 セレストさんはわたしを愛そうとしている。


 しかも、毎日わたしを知ろうとしてくれる。


 少なくとも、わたしはこれまでセレストさんのことを知って、嫌いに感じたことはない。


 こんなにわたしを愛してくれる人なんて他にいるのだろうか。


 ギュッと本を抱き締める。


 …………きっと、いないだろう。


 ドキドキと高鳴る胸にそっと目を閉じた。


 何かの予感が、そこにはあった。






 

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― 新着の感想 ―
疑問に思ったことがあるので、質問します。 ・この世界には、冒険者と傭兵がいて、主だった仕事内容は一緒。ということでしょうか? グランツェールでの傭兵の説明で、何となくこの世界には、冒険者てないのかと思…
好奇心からだけでなく、ユイの気持ちが育って来たからこそセレストのことを知りたい、理解したいと考えるユイがいじらしいです。 恩人だからだけでなく、セレストという個人を見て、感じて、触れ合って得られる安心…
⋯⋯むしろ寿命伸ばすより、寿命が短い方に合わせて長い寿命を捨てるとか⋯⋯片割れが死ぬともう片方も死ぬ魔法とかすりゃあ、この問題は解決する気がするんよな⋯⋯数万年を孤独に生きるより、数百年の時を共に過ご…
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