カナリアは、今も鳴いているか?
鳥類は、人間と違い、
特別な呼吸器を持っている。
酸素の吸い込む量は、
体重に対しておよそ、20パーセント
人間は5パーセントだ
カナリアのピッピと、
コミニケーションを取れるようになったのは、
偶然だった
ある夏の日、俺はスイカを食べていた
この紀州鉱山の飯場には、地元の農家から
お中元でもらったスイカがゴロゴロ
ムシロの上に、置いてある。
「谷口、全部たべるなよ腹壊すぞ」
先輩の土井さんに、そう言われて
俺は申し訳無くなって、
カナリアのカゴの前に、食べかけのスイカを置いた。
その時、どこからともなく声がした
「谷口、俺にもスイカくれ」
聞き覚えのない声だが、返事をした
「ハイ、わかりました。今切りますね」
振り向いてみるが、誰もいない・・・
「え? あれ?」
辺りを二度見回す
「コッチだよ、谷口!俺にもスイカよこせ」
カナリアが喋っていた
といっても、インコや九官鳥のように
普通に日本語を話すのは、珍しくない。
「わかったよ、ピッピ。ほらよ、食べな」
スイカをインコのカゴに入れる。
「嫌、赤いのはいらない!白い所だよ」
驚いた、まるで コミニケーションが取れて
いるようだ。
そしてピッピと友達になった。
「俺はピッピ、兄弟が多いから口減らしで
家を出て、小さな頃から、この炭鉱で世話になってるんだ
同年代の子供も居ないし、寂しかったよ」
「谷口、わかったよ おまえと仲良くしてやるから
もっと食べ物もってこいよ」
谷口は、初めて友達と言うものを知り
なんとも言えない
嬉しさを味わった。
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そして、その年の冬のことだった。
土井さんが、真っ白な顔をして
飯場に駆け込んで叫んだ
「谷口、救急車電話しろ
あと警察も、ガスが出た
炭鉱奥で、二人倒れてる」
急いで俺は、連絡したが
ある、一つの考えが
頭から離れなかった。
炭鉱でカナリアを、飼うには理由がある。
呼吸器が人間よりも、多く酸素を吸うことが出来るので
有毒ガスを、察知出来るからだ。
察知とはつまり、鳴いているカナリアが
鳴かなくなる。 死ーーー
死んだところが、ガスに汚染されているということだ。
このままでは、ピッピが死んでしまう。
しかし・・・
ピッピが、有毒ガスを検知出来なければ。
炭鉱奥の二人と
他の炭鉱夫、救助の救急隊員の命が危ない・・・
俺は、一人飯場で電話を切ると
テーブルを、思い切り叩いた。
「嘘だろ、こんなことって・・・」
カゴの中のピッピは、なにも言わない。
「なあ・・・ピッピ」
谷口は思い詰めた顔して
飯場の窓を開けて、ピッピのカゴの
入り口を開ける。
「いいんだ、ピッピ逃げろよ、
おまえが死ぬなんて、耐えられない
たった一人の友達なのに」
ピッピは、オリから出てこない。
続けて谷口は語る。
「正直、誰の命よりおまえの命が大切だよ
ただ、もうここには戻って来てはいけないよ
お別れだな」
ピッピは谷口の目をじっと見て
「谷口、俺をみくびるな
自分の命に変えて、救ってみせるさ」
そう言って二回羽を、羽ばたいてみせた。
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土井は、カナリアと警察、
消防隊員、それと最後尾に谷口を連れて入った
炭鉱夫2名を助け出し
その先の、坑道に進もうとした時
カナリアは、鳴かなくなった。
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谷口はカゴから、カナリアを出し
泣きながら
カナリアを両手で優しく包んで
「勇敢だったよ、ピッピ
ピッピのおかげで、皆んな助かった」
そう言ってー
いつまでも、抱きしめていた。
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それを、土井は不思議そうに見ていた。
そして一言
「谷口、カナリアは気絶してるだけだぞ」
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飯場の空に、カナリアの鳴き声と
歓喜がこだました。
終わり
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