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世界の終りまで君と  作者: 佑
第一部 第一章 理不尽な転生
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10. 知識と事実

  明日から二週間の間、エリザベスは午前中の全てを祖父と過ごすことになる。可能であれば祖母も連れて来たいとのことだったけれど、降嫁した身とはいえ元王族の祖母は祖父ほど身軽には動けないらしかった。

 残念だけれど、必ず手紙を書く、と約束する。

 そして最終的に、アーノルドはなんと翌日の朝八時半から来ることになった。

 貴族としてはありえない訪問時間の早さに目を剥いた父親に、「年寄りは朝が早いからな。もっと早い時間でもいいぞ。なんなら朝食を呼ばれてもいい。酷く失礼だからそんなことはせんが」と言ってまた実に楽しそうにカラカラと笑う。

 その言葉に一瞬目を見張り、即座に疑いの目になったアリアンヌが昨日の朝のことを思い出しているのは間違いない。

 その場にずっと同席していなかったら、エリザベスかアリアンヌが「あの二人の部屋は既に邸内に準備済みで、ここで過ごしている。しかも昨日の朝食前にやってきて自分たちより先に食事をしていた」と祖父に告げ口をしたとジークフリートに疑われたに違いない。

 まったく恐ろしいほどの千里眼で、ここまで徹底して手を回されると、アリアンヌが祖父を怖がった理由が少しわかるような気がした。

 それに、やりたい放題のジークフリートに対する不満も少し落ち着いた。

 祖父の帰宅後、オリヴィアとキャサリンは二週間後の結婚式が終わるまでは元の家で暮らすことになり、ミス・マリーゴールドとマリーはそちらの家まで通うことになった。

 この二人に毎朝早朝の客が来る前に朝食を終えさせたうえで、いかにも後から訪問しました、という体裁を整えるのはさすがに難しいと父親も理解したらしい。

 午前中にマリーが勉強を、午後にミス・マリーゴールドがキャサリンにマナーを教えに行く。

 アリアンヌは午前中にマナーを、午後はメッシーと勉強だ。

 エリザベスは祖父が来る二週間限定でマナーの勉強を免除され、午後はマリーと勉強になった。


 やった!


 部屋に戻ったエリザベスは天井に向けて歓喜のこぶしを突き上げたのだった。




~~~~~~




「さてさて、何から始めようかね――勉強は興味があるところから始めるのが一番――エリザベスは何が知りたいんじゃ?」


 翌日、早速やってきた笑顔の祖父アーノルドと、部屋のテーブルで向き合って座った。

 テーブルの上には紙とペン。テーブルの横には祖父の黒いカバンが置かれ、さっそく授業開始。


 『知りたいのは将来の王太子妃にならず、悪役として追放されもしない未来をつかむ方法です。あと、念のために父親を呪殺する方法も』にこやかな祖父を前にそんなことは言わないけれど、言ってしまいたい。


「のんびりと生きる方法です。そのために自分にできることを知りたいです」


 とりあえずかなり遠回しに答えると、祖父は頷いた。


「ふむふむ。それには魔法が役に立ちそうだと思うのかね?」

「はい。困った時には魔法を生きるすべにできればいいと思ったんです。魔法はそのように役立てることのできるモノなのでしょう?」


 だって魔法って、手に職系の特技、だよね。


「お前は未来で困ったことになる、と? 妹になにか聞いたのかね?」

「いいえ? アリーがなにか言っていたのですか?」


 そっか、あの子がなにかに気づいているなら、教えてもらえるかも――。


「いや、そうではないが、あの子は勘が良いでの。姉の将来に思うところがあるのではと思ったまでじゃよ」


 なんだ、残念。


 エリザベスは居住まいをただした。


「それではまず……魔法の種類について教えてください。世の中にはどんな魔法があって、どのような人たちがそれを使い、求めるのか」


 エリザベスの言葉に祖父は三度頷いた。


「魔法には三つの系統がある。と、わしは考えておる。

 二つの系統は自然界にあるものを使う魔法じゃ。黒魔法と白魔法。黒魔法は火や水、土や風を操るもので、戦いでは攻撃や防御としても使える。白魔法は傷や病を癒すものだ。血を止め、痛みを和らげ、熱を下げる。守るために使うこともできる。

 よく目にする生活魔法と呼ばれるものは主に黒魔法の合わせ技じゃ。

 人や動物の日々の生活を助けるために開発されたもので、照明や、調理のための火や水を生じさせたり、動物による農作物への被害が起きないようにしたりする。成長を助けたりする時は白魔法も併用しているな。

 そうじゃな……魔法を仕事として考えるのなら、職業として考慮するべきは単に魔法を使う魔導士だけではない。道具に魔法の属性を持たせるなら魔道具師という職業があり、錬金術師という者たちもおる。癒しの薬の作成は白魔法ベースの錬金術、爆薬や毒薬は黒魔法ベースの錬金術に近い。

 使い手が一番多いのが黒魔法じゃ。その中でも扱う魔法の種類によって得意不得意が別れる。白魔法の使い手は黒魔法の使い手の十分の一程度しかおらんし両方の使い手となると更に少ない。両方使える者がいるといろいろと重宝するんじゃがのう。

 いずれの魔法も、それを求める人間は――そのあたりは聞かなくてもわかるじゃろう?」


 確かに、欲しい物は人によって違う。

 エリザベスは祖父を見つめながら頷いた。


 ゲームで聞いた『治癒魔法』という言葉からも、エリザベスは明らかに白魔法に適しているのだろう――珍しいってことになっていたはずだから、もしかしたら黒魔法も使えたのかもしれない。

 うん。もう少し聞きたい。わくわくしてきた。


「どうしたら自分の使える魔法の種類がわかるのですか?」

「知りたいのであれば、それ用の道具がある――なに、心配は要らん。ただの水の入った器じゃ。触ると中身が変化するので、それを見るんじゃ。魔力が眠っていても調べることはできる。

 だがの、調べるなら結果は誰にも話さんこと――それが条件だ。子どもの特性を知って疎んじたり軽んじたりする親もおるし、珍しい特性を持っておれば狙われることもある」


 ということは、まだ調べない方がいいのかな。


 不安が顔に出たのか、祖父は笑った。


「なに、何が出ても黙っておればよいんじゃ。わしも見んよ。心配せんでも結果はちゃんと本人の目には見えるしのう」


 そう言って持ってきたカバンの中に手を入れると、祖父はポコポコと何個かのでっぱりのあるガラス製品を取り出した。よく見ると小さな手のような形で中が空洞になっていて、手のひらにあたる部分に透明な水が入っている。


 「こいつをこうやって左の手に乗せるとな――」


 やって見せてくれる。

 手のひらに当たる部分に入っていた水が、ミニチュア試験管のように出っ張った指の部分に移動していく。

 親指のところ、人差し指、中指、薬指、小指、全てに均一に水が入っている。


「これがそれぞれの魔法の適性じゃ、わしは全属性なのでな、全部の指に水が入るんじゃよ。ま、量は調節しておるがの――」そう言って祖父が片目をつむる。「溜まった水の量が多いところの属性が強いんじゃ。いいか、親指から順に白魔法、水、土、風、火――手のひらの部分に多くの水が残るようだと魔力量が少ない。

 水の色が赤や青に変わったり、質感が――トロっとしたりベタベタしたりすることもあるんじゃが、そういう人間はまた別な特性を持っとる。そういうものは、学校に入ってよく学んでから、専門に別れる前にもう一度詳しく調べる決まりなんじゃよ。

 ここにあるこいつは所謂入学時の簡易検査用じゃ」


 アーノルドがガラスの手をテーブルの上に置いて手を離すと、指先部分に入っていた水は少し低くなっている手のひら部分に戻ってきて溜まった。

 どう見てもただの水に見える。


「ではの、わしは席を外すから――終わったら呼びなさい」


 そう言って立ち上がった祖父を引き止めた。


「あの、お祖父様――」


 続きを聞くのが怖い。でも、聞いておかないと。


「……魔法に、適性がなかったら、どうなるのですか?」


 少し声が震えた。


「心配いらんよ。まあ、お前は妹のように警戒心が強くないのは確かじゃ。が、全く魔力のない者が生まれる家系ではない。……まったく、わしが不思議に思う程に全てを躱しおる」


 祖父はちょっと息を吐くと、「適性のない者の水は水のままじゃ。どこにもいかん。動きが悪いようならメアリーアンのネックレスを外してみればよい」と言ってから出て行った。

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