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五話 全員人間じゃないの?

今まで投稿した話も全て書き直して新たに投稿することとなりました。

これからも至らぬ点が多々見受けられるかと思いますが、ご容赦ください。


私ががっくりしていると、クックックッと小さく笑う声が聴こえてきた。

声の主は仮面の男の背後に立っていた男のものだった。

紫の髪に漆黒の瞳がミステリアスな雰囲気を感じさせる。顔は美丈夫と言えるほど整っているけど、服のセンスが悪趣味だ。

黒色のタキシードとシルクハットを被り、左眼にモノクルをかけ、手にはヤギを象った杖を持っている。イケメンだけど、どうにも胡散臭さが消えない。なんか格好が昔のバイクに乗るヒーローに出てくるカブトムシの怪盗怪人に見えるし。

と言うか、見た目人間っぽいけど、この場にいる時点でこの人も魔族なんだよね?


「まっ、普通に考えたらそうだよね」


私の心を読んだかのようにタキシードの男が答えた。その表情はまるで子供を揶揄う大人のようで一発ぶん殴ってなりたくなるほど腹立たしかった。


「ヴォルク、そんな事よりも早くソフィア様の診察をしてください」


ヴォルク?まさか……!


「そのまさかだよ」


またしても私の心を読んだヴォルクという男がくるりと回ると、紫だった髪が金髪に変色し、黒のタキシードが白に変わった。

そして、若々しかった顔に少しばかりシワが入る。すると、さっきまでは胡散臭い雰囲気のイケメンだった男が、少しダンディーな雰囲気を持つおじ様へと変身した。

その姿は私もよく知っている人だった。


「シュタイン先生⁉︎」


ヴォルク・レイ・シュタイン伯爵。

魔法や医療に関する研究が盛んに行われている黄の国『スフィール』の貴族で類稀なる回復魔法を操る医者だ。

数々の人々の命を救ってきた偉大な人だけど、その裏では自身の研究の為なら患者の生死すら厭わない『死の医者』などという怖い噂のある人物でもある。

そんなシュタイン伯爵は、スフィールでの立場を捨ててヴルームの学園に教師としてやって来た変わり者というのが私の印象だった。

噂とは対照的に生徒には親身だし、優しかったから慕われていた。

そのせいか、周りにはいつも金魚のフンのように生徒がゾロゾロと後をついて行き、まるで、「シュタイン院長の総回診です」と言っているかのようで笑った事もある。モチのロン、私はそれに参加しろと言われても「いたしません!」という女だけどね。

でも、信じられなかった。まさかシュタイン先生が魔族だったなんて…


「正確に言えば魔人族だけどね。だから、あまり変な考えを起こさない方が身の為だよ?」


不敵な笑みを浮かべながら先生が私の手に触れる。

本当なら振り払いたい所だけど、先生の言った通り、私では魔人族に対抗する術がない。



この世界には人間の他に魔族という種族が存在する。

魔族は人間以上の膨大な魔力を持っていて、魔神族、魔人族、魔獣族の3つに分類される。

この3種族は人間同様、もしくはそれ以上に知性があるけど、逆に全く知性のないものは魔物と呼ばれている。これがこの世界における魔族の定義だ。

そして厄介なのが、魔物であれば通常魔法でも倒せるのだけど、魔獣や魔人や魔神族になると、『聖』魔法か空間や精神に関与する光か闇系統の魔法補助を受けなければ対抗できなかった。

私は6属性の魔力を有しているけど、正直補助魔法の類は苦手分野だった。だってあれにはイメージとは別に繊細な魔力コントロールが必要だから。




そういうわけで、私は反撃できないでいた。

手を握られている今ならカウンターで激突を喰らわせてやれるかもしれないけど、先生は私の心を読めてるようだから通じない気がする。

すると、またしてもわたしの心を読んだのか、先生が口元に手を当てて笑うのを堪えていた。

やっぱり読めてるのね。なんて事を考えていると…


「確かに読心術は使えるけど、君の場合は顔に出すぎだね」


と、先生が笑いを堪えながらそう言ってきた。


「君はやはり面白い子だベリックス公爵令嬢。普通の貴族令嬢なら魔族に囲まれたら卒倒したり、命乞いしたり、泣き喚いたりするはずなのに君はこの状況をどう打開するかを考えてる。流石はじゃじゃ馬令嬢と陰で言われている『激突姫』。冒険者ランクB級ライセンスは伊達じゃないね」


「それ、褒めてますか?」


「これ以上なくね。君くらいの歳の、それも貴族令嬢がB級ライセンスを取得するのは並大抵じゃない。たとえどれほどの才能を持っていたとしても、越えなければならない壁があるからね。おまけに君は王子の婚約者としての教育も受けていて時間もそんなに取れなかったろうにね」


先生の言葉に私は初めて討伐依頼を受けた時の事と、B級ライセンス試験の時の事を思い出した。

嫌な感じが身体中を駆け巡る。思わず吐き気を催したけど、その瞬間、私の頭を温かいものが包み込んだ。

仮面の男が、優しい眼差しで私の頭を撫でていたのだ。

魔族に頭を撫でられて今すぐに振り払いたいのに、何故か私は彼にもっと撫でてもらいたいと思ってしまった。


「…よく、乗り越えられましたね」


そう言って優しい言葉をかける仮面の男。

何でだろう?どうして彼のかけてくれる言葉に嬉しいと感じてしまうんだろう?


「夜叉丸」


「…そうですね。そろそろ本題に入りましょうか。ヴォルク、ソフィア様の身体に異常は?」


「ないね。負っていた怪我も回復してる。まぁ、挫いた足に関してはもう2、3日様子を見ないといけないけど、概ね問題ないよ」


「そうですか」


「…ねぇ、あなた達の目的は何なの?」


「君にはしばらくの間この屋敷に滞在してもらうよベリックス公爵令嬢」


「はぁ⁉︎何でよ!」


「申し訳ありません。理由をお伝えする事はできないのです」


「まぁ、丁度良いんじゃないかい?国王陛下からも、『鬼の花嫁』なんて言われていたしね。ククッ、良かったじゃないか夜叉丸。身内(・・)からの許可も出てさ!」


「良いわけないでしょう!ソフィア様の意思を無視し過ぎています!」


「私の意思を尊重するならここから出してよ!」


「嬢ちゃん、悪いけどそいつは無理なんだぜぃ」


「だから、その理由を教えなさいって言ってるの!」


「それについてはお答えする事はできません。ですが、近いうちに必ず貴女を自由にするとお約束します。それまで、我が屋敷にてお休みください」


「ふざけんなっ‼︎目ぇ食いしばれ!」


私は仮面の男の襟を掴み取ると額に魔力を集中させて激突を喰らわせた。

だがしかし、以前と同じく重い衝撃が頭部を襲い、私の意識は遠のいてしまった。

クソッ、これも通じないなんてどんだけ硬いのよコイツ……


「ソフィア様!」


「ウケケッ、なんか懐かしい光景(・・・・・)だねぃ!」


「さてと、私はヴルームに戻る。何かあったら連絡を入れるよ」


「お願いします」


今度は(・・・)ちゃんと守り通してやりなよ」


その彼らの会話はあたしの耳には入っていなかった。

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