三話 王子のキャラ違うんじゃないの?
申し訳ありません!
色々とゴタゴタしていて投稿が遅くなってしまいました!
5歳に成長した私は、ある日この国の王子主催のお茶会に参加する事になった。
国中の貴族令嬢や令息が集められ、王子の未来の側近及び婚約者候補を選定しようというものだ。
勿論私は将来国外追放を受ける為に王子の婚約者の座を狙って『ガンガン行こうぜ!』みたいな感じに意気込んでいる。
でも、ふと思った。ラノベとかでは主人公が攻略対象に関わらないようにしているのに、逆に向こうの方から寄ってくるというシーンが多い。
あれは自分に興味がなかったり、距離を取ろうとする主人公の行動が逆に攻略対象達を刺激してしまっているんじゃないかな?つまり、獣が逃げる獲物を追いかける的な?
じゃあこの場合、私は壁の花になっていた方が良いのかしら?そんな事を考えているとお父様が私に話しかけてきた。
もしかして、私が粗相をしないか心配してるとか?
あらあら、心配には及びませんわよお父様。これでも私5歳になったのだから猫を被るのが上手くなったのよ。完璧な公爵令嬢を演じて見事に婚約者の座をゲットしてみせるわ!……将来的に断罪されるけどね。
「ソフィー、第一王子であるジーク殿下はとても心優しい立派なお方だ。お前は陰では『激突姫』などと言われるほどその…少々奔放な所があるが、そんな何者にも縛られないお前なら殿下のことを偏見なく見る事ができるはずだ。婚約者などとは言わない。殿下の話し相手…良き友人になって欲しい」
すると、いつも厳しくも穏やかなお父様がとても悲しそうな表情でそんな事を言ってきた。
心優しい?はて?メイン攻略対象でこの国の第一王子のジークはイケメンだけど俺様キャラだった気がする。
正直私は俺様はあまり好きじゃないからジークルートはコンプの為に飛ばし飛ばししながらしてた記憶しかない。
そして私は、お父様がどうしてあんな表情をしていたのかを知る事になる。
お茶会は王城の中庭にて行われていた。
今回は珍しい事に子爵や男爵といった下級貴族の令息や令嬢も参加しているので驚いた。
これまた貴族のしがらみというやつなのか、もう既に派閥のようなものが出来上がっていて、皆は各々の輪の中で会話を楽しんでいる。
私が中へ入ると、周囲が一瞬ざわついた。
まっ、『激突姫』なんて言われてる私が来たらそうなるよね。
あの一件は未だに貴族の中でも有名みたいだし…
これじゃあどこかの輪の中に入るのも難しそうね。別に入るつもりもないけど。
でも、折角だから友達くらいは欲しい。けど、それも望めそうにないから私は壁の花になってお茶会の様子を観察していた。
あれ?そこで私は違和感を覚えた。
こういう王家のお茶会って大抵王子が姿を見せて人だかりができるはずなのにそれがない。
王子、まだ来てないのかしら?
すると、中庭の外から何やら言い争うような声が聴こえてきた。気になった私は声のする方へ向かうと、煌びやかな服に燃えるような赤い髪をした男の子と何人かの侍従が揉めていた。
「いけません。そのような事は我々が致しますので……」
「いえ、私にやらせてください。今日のお茶会は私のしゅさいなのです。なので、みずからの手でお客さまをおもてなししたいのです」
そう言うと男の子はケーキが乗せられたトレーを一生懸命に運ぼうとしていた。
しかし、トレーが重かったのか足下が少しふらついている。
すると、足がもつれ男の子が転びそうになった。
私は咄嗟に男の子の身体を受け止めた。
「だいじょうぶですか?」
「はい。もうしわけありません。お客さまの手をわずらわせてしまって……」
と、男の子は申し訳なさそうにするけど、何事もなくて良かった。
すると……
「もうしおくれました。私の名はジーク、ジーク・ノア・ヴルーム。本日みなさまのおもてなしをさせていただきます」
「……はいぃ?」
思わず前世で有名だったドラマの刑事さんのような声を出してしまった。
だって、目の前にいるのが今日のお茶会の主催者であるこの国の第一王子だったからだ。
だって全然俺様キャラじゃないし、すんごい大人しそうな子じゃん!
笑った顔なんてキラキラのエフェクトが出てきそうなほどの爽やかイケメンじゃん!
こんな子がどうして成長したらゲームのようになっちゃうわけ?
呆然としていると、王子と侍従が慌てふためいていた。どうしたんだろうと思ってふと自分の身体を見てみると、スカートにほんの少しケーキのクリームが着いてしまっていた。たぶん、王子の身体を受け止めた拍子にケーキがトレーから落ちちゃったのね。
クリームの汚れなんて拭けば済む話なのに、王子は変わりのドレスを用意すると言い出した。
断ろうとしたけど、有無も言わさず私は侍従に連れて行かれ、侍女さん達によって着替えさせられてしまった。
その最中、私はふと疑問に思った事を侍女さんに尋ねた。
「あの……どうしてでんかはご自分でケーキをはこぼうとなさっていたのですか?」
私の疑問に侍女さん達が困ったような表情を浮かべる。
すると、とんでもない話を聞かされた。
なんと王子は魔力を一切持っていないのだという。
この世界では魔力を持たない人間など存在しない。
魔力量こそ違いはあれど、皆何かしらの魔力を宿して生まれてくる。
なのに、王族である王子が魔力を一切持っていないだなんて……
ゲームでのジーク王子は強大な火の魔力を持ったキャラだった。
俺様だけど、その力を民の平和を守るために使おうとする人だった。それがどうしてこんな事に?
もしかして、『私』という存在がキャラ達に影響を与えてしまってるの?
そんな事を考えていると、侍女さんはさらに話を続けた。
王子の母である正妃様は、自分の息子に魔力が宿っていない事を知って心を病み、それが元で流行病にかかり亡くなった。
そして、王子の2歳下に側妃様が産んだ第二王子の存在が第一王子の立場をさらに悪くさせてしまった。
私ほどではないけど、第二王子は4属性の高い魔力を持っている。
けど、魔力を持たないからと言って国王や側妃、第二王子との関係は決して悪いものではないみたい。でも、臣下の中にはそんな第一王子を悪く言う者がいるのも事実だった。
しかし、第一王子…ジーク殿下はそんな声にも負けなかった。
魔力が無くても生きていける。王族として民の為にできる事があるはずといって勉学と剣の鍛錬に必死に励んでいた。
今日のお茶会だって茶葉の選定や御茶菓子の種類、飾り付けに至るまで殿下が1人でやったらしい。
お茶会に来てくれた人達に楽しんで貰いたいからという想いからだと侍女さんは瞳を潤ませながら話してくれた。
王子の身の上話を聞かされた私は自分が恥ずかしくなった。
魔力を一切持たずに生まれてきたのに、その境遇を嘆く事なく誰かの為にと必死に頑張っているというのに、私は貴族が面倒くさいからという理由で全てを捨てようとしていた。
外の世界は見てみたい。だけど、そこで得た知識はこの国の発展に役立つ事があるんじゃないか?
私はただ自分の自由の為だけじゃなく、私の冒険が国の発展に繋がるようにしたいと思うようになった。
着替えを終えた私がお茶会に戻ると、そこには信じられないような光景が浮かんでいた。
殿下が姿を見せ、令息や令嬢達に挨拶をしているというのに、奴らは殿下に挨拶を交わすと自分達の輪の中の会話に戻っていった。
いったい何を考えているの?この国の第一王子だぞ?それを無視して自分達の会話に戻るとか不敬にもほどがあるでしょうが!
でも、誰も彼らの態度を注意する事は無かった。
彼らの中には騎士団長や大臣クラスの令息令嬢がいる。下手に注意をしてそれが親に伝わるのを避けているのか?
それとも、相手が魔力を一切持たない第一王子だから?
魔法を持たない第一王子の側近や婚約者になるよりも、高い魔力を持つ第二王子の方がはるかに良いから?
何かあっても親の権力で何とでもなるから?
でもだからって……
私はお父様が何故あんな悲しげな表情をしていたのかを理解した。
お父様は気づいていたんだ。今日のお茶会がこのようになってしまう事を。そして、誰もそれを諌めようとしない事も予想していたんだ。
だから今日のお茶会には子爵や男爵といった下級貴族の令息令嬢まで招待されていたのね。
少しでも殿下と打ち解けてくれる子を探そうとして……
挨拶を続ける殿下だけど、その後も皆軽く挨拶をするだけですぐ自分達の会話に戻ってしまう。
それでも殿下は笑顔を絶やさずに奴らをもてなそうとした。
けど、ついに耐えられなくなったのか、頬がひくつき、目尻も下がって今にも泣き出しそうな表情になっている。
そうだ。いくら王族とはいっても彼はまだたった5歳の子供なんだ。こういう事をされて何も思わないわけがない。
だけど、王子として人前で涙を流してはいけないと必死に耐えていた。
だけどついに堪えきれなかった私は……
「ふざけんじゃないわよ‼︎」
思いっきりキレてやった。
「でんかが私たちのために一生けんめいおもてなししてくれているのよ!このお茶もおかしも、かざりつけも全部でんかが私たちのためによういしてくれたものよ!アンタ達分かっているの⁉︎」
私の怒声に全員が顔を強張らせていた。
もうこの際思った事を全部言ってやろう。
魔力無しがなんだ。そんなものなくても王子は誰かの為に一生懸命になれる良い子じゃないか。
俺様王子?ゲームの設定?そんなもん知るか!
私はこのジーク王子の一生懸命な人間性が好きになった。お父様の言いつけなど関係なくジーク王子と友達になりたいと思った。
私が色々と捲し立てていると、王子が私を宥めようとしてきた。
しかし、そこはキレた私。なんと王子にまで噛み付いてしまった。
「アンタもアンタよ!今まで一生けんめいやってきたんでしょう?今日だって私たちのために色々と考えてくれたんでしょう?なら、そんな自分をどうどうとほこりなさい!他人のかげ口なんかいちいち気にしてるんじゃないわよ!目ぇ食いしばれ!」
そう言って王子の額に思いっきり頭突きをかましてやった。
そこでようやく我に返った私。しんと静まり返った中庭で直様王子に対して誠心誠意の土下座…いや、土下寝をした。
やってしまった!いくらキレてしまったからと言って王子に手をあげるなんて!まさかの不敬罪で国外追放?もしくは極刑⁉︎
国外追放はウェルカムとは言ったけど、早過ぎるって!
下手したらお父様達まで巻き込んでしまう事に……!
何て事を考えていると、周囲がざわつき出した。
頭を上げると、何と国王陛下が姿を現していた。
ハイ、終わったぁ!私の二度目の人生ここで終わりましたぁ!
せめてお父様達は巻き込まないで欲しいとお願いしようとしたら、意外な事に陛下は笑って許してくれた。
そして、王子自身も驚きはしたけど不快には思わなかったみたい。
良かったと安堵していると、「また会っていただけますか?」と王子から誘いを受けてしまった。
呆気にとられていると、陛下からも「これからも王子の良き話し相手になってもらえないだろうか?」という言葉をいただいてしまった。
予定とはだいぶ違ったけど、とりあえずは王子と親しくなれたからOKという事で良かった……のかしら?
そう言えば、陛下が私の顔を見た時一瞬だけどもの凄く驚いた表情をしていたのはどうしてかしら?
その意味を私が知るのはもう少し後のお話……