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とあるショップ店員のはなし

「パパ」の一言が、波紋を巻き起こします。

傍から見たらラブラブバカップル。

 ちょっと、聞いてください!

 今日すごいお客様に会っちゃったんです!!

 あ、突然すみません。わたくし、デパートの某アパレルブランドショップのしがない店員なんですが、本日お越しになったお客様がなんというか、すごいのなんのって。

 あ、最初からご説明いたしますね。


 まず、その方々はカップルでいらっしゃいました。

 男性の方は二十代後半くらいの長身で、明るい茶髪に琥珀色の瞳、笑顔の優しい落ち着いた感じのイケメン。

 女性の方は、毛先に若干癖のあるセミロングの黒髪、明るい茶色の瞳の可愛らしい感じの…まだ十代の少女のようでした。

 男性は彼女が可愛くて仕方ないらしく、常に見守るような感じでしたし、これはいいカモ…いえいえ、金づる…ではなく、財布が…っごほん!とにかく、羽振りのよさそうなお客様が来たなと!そう思ったわけでございます。

 案の定、最初はお嬢様とお二人で洋服を見ていたようですが、あれもこれも可愛いと全てのお洋服を購入しかねない勢いでしたので、ここで乗らぬわけにはいかぬと、わたくしもバッチリ、少しお高めのワンピースをオススメさせて頂きました。


 「お客様、こちらはいかがでしょうか?」

 「華、可愛いよ。これにしたら?」


 お渡しした花柄のワンピースは即気に入っていただけたらしく、そそくさと試着室へエスコートする彼。

 この男、できる…!!と、わたくしの中のイイ男レーダーがビンビン反応しておりました。

 が、いかんせん、彼は彼女に夢中で周りなど眼中にない様子。悲しいかな、良い男は既婚者か彼女持ちと、相場が決まっているのであります。

 彼女さんが着替えている間、現在身に着けている洋服の傾向と外見から好みに合いそうな商品を見繕ってすすっと彼女を待つ男性へと持っていく。

 「こちらもお似合いになりそうですが…」

 「柔らかい雰囲気が華にぴったりだ」

 私の渡したブラウスを見ると柔らかく頷いて、カーテンの隙間からするりとブラウスを手渡す仕草は、なんというか、すごく慣れている。中を一瞬たりとも外に見せないような計算しつくされた角度だった。

 渡すときに、「着てごらん」と一言声をかけるのも忘れない。


 あぁ、惜しい!こんなできる男、なかなかいない!!

 まあ、性格はともかく、わたくしと彼女の外見では似ても似つかないので、最初から期待してもいませんが。

 年齢なんて………。あら、この人、 ロ リ コ ン なのかしら?

 あまりにも甘々な雰囲気で年齢差なんて吹き飛んでいましたけれど、…そもそも合法よね?

 なんだか心配になってきました。

 まぁ、かと言ってしがないショップ店員のわたくしにできることなんて何一つないのですが。できることと言えばただ一つ。当店の売り上げを上げて、給料アップを目指すのみ!

 

 「こちらは最近入った商品で」

 お嬢様が試着室から出てくる前にと、あれこれよさそうなものをピックアップしては男性の元へ持っていく。彼女さえ頷けばすべて購入していただけそうな雰囲気だ。

 ただし、ちょうど今持って行った商品を見て、男性が少し眉を寄せた。

 「これもいいね。…でも、ちょっと丈が短いんじゃないかな?」



 ゴーン。 ゴーン。 ゴーン。



 頭の中で三回鐘の音が響いた気がいたします。


 こ、れ、は、「自分以外の男に可愛いオレの女の柔肌なんて見せられねぇ」と、そういう事でございましょうか!?


 スカートからのぞくやわらかな曲線を描く太もも、その輪郭すらもオレのものだと!?


 なんということでしょう。

 これが、世に言う 独 占 欲 というものなのでしょうか。


 残念ながらわたくしがこれまでお付き合いしてきた男性は淡泊な方が多く、独占欲とは無縁の殿方ばかり。わたくしもたまにはこんな風に熱く想われたいッ!!


 ・・・はっ!業務時間中になんという事を。しっかりせねば!


 「その点はこちらの商品と合わせていただくと…」

 一瞬の意識の離脱なんておくびにも出さず、大猫をかぶって先ほどのスカートに合う商品を即座に手渡す。

 彼は少し悩むような仕草を見せたものの、それを着たお嬢様を想像したのか一度小さく頷いて、先ほどと同じように素早く試着室の中に次の洋服を差し込んだ。

 何度見ても素晴らしい早業。

 さて、ずっとこのお二人についていたい気も致しますが、しつこくするのは販売のご法度。これでお客様を逃すわけにはいかないので、一度離れることにいたします。

 試着した姿を一緒に見てしまって、彼から睨まれたらたまったものじゃありませんし。


 しばらく試着室を気にしつつ、他の業務をしながら過ごしているとふと可愛らしい少女の声が聞こえた。


 「パパ?そんなに買っても着れないよ…」



  パ パ ? !



 なんでしょう。聞き間違いでしょうか。

 聞いてはいけない言葉を聞いてしまった気がいたします。


 「そんなことないさ。学校から帰ったら、着替えて私に見せてくれればいいだろう?」


 学校から帰ったら!?

 すでに同棲中でございましたか!?

 いや、それより パ パ !? パパとおっしゃいました!?

 まさか、本当の親子なのでございましょうか。いや、でもそれにしてはお父様の態度が…。

 つまり、それは義理の…いや、別の意味のパパ???


 脳内大混乱中のわたくしの耳に、待ったなしに言葉が流れ込んでまいります。


 「華の可愛い姿を独り占めだね」

 


 はい、 独 り 占 め いただきましたー!!!



 もう、聞いてるだけでわたくし、はーずーかーしーいー!

 思わず「キャッ」と乙女的な声を上げてしまったではありませんか。それでも顔を覆った掌の隙間から、ちらちらとお二人の様子を垣間見ることはやめません!


 これはですね、ないですね!

 これで親子はまずないですね!!

 これでお嬢様が幼子ならともかく、もう十代半ばか後半という年齢でその言葉はなかなか出ませんよ、本物の親子であれば、えぇ。

 やはりこれはパドロン的なパパなのでしょうか?

 一緒に暮らしていると言っていますし、ここは金銭的な…いや、でももしかしたら、お互い同意のうえでそういった性癖からくる呼び名の可能性も…!?

 あぁ、ダメです。わたくし、頭が沸騰してまいりました。


 「はいはい。じゃあコレとコレ!あとはいりません!」

 そんな爆発寸前のわたくしを無視して、お二人の会話は進んでいたようでございます。

 お嬢様は、ぱっぱと希望する服を手にしてお父様(?)に押し付けていらっしゃいました。

 「華、これはダメかい?」

 おずおずと、わたくしが最初にご提案した花柄のワンピースをおすすめするお父様(?)。

 お嬢様は一瞬言葉に詰まったようなお顔をされたものの、すぐに「却下!」とすげなく突き返されておりました。

 どんよりとした空気を背負いながらこちらにやってくるお父様(?)。

 あ、お会計でございますね。

 こんないろんな意味ですごい客逃がしてなるかっ!(もちろん、責任もって最後までわたくしが担当させていただきますとも!)

 あら。内心と言葉に出す声とを誤ってしまったようですが、まぁ、よくある些細な過ちでございますね。どうかお気になさらず。


 「お会計、お願いします」

 「はい。お預かりいたします」


 お会計の為に受け取った商品は、私がおすすめしたブラウスとスカート。

 こういう時、自分の目が確かだったと、お客様に選んでいただけた喜びに胸が震えますね!

 …あら?


 「そちらのワンピースは…」

 「あぁ、残念ながら、これは断られてしまってね」


 残念そうに笑う笑顔には哀愁が漂っていますね。

 「まぁ。とてもお似合いになるかと思ったのですが」

 「いや、それはもう似合っていたんだ。だが、優しい子だからね、私に負担をかけないように遠慮しているんだろう」



 それはどういう意味の負担ですか!?



 えー、ごほん。

 そんなこと、一ショップ店員として聞けるわけもありませんね!


 「それは本当にお優しいお嬢様で…。お洋服との出会いも一期一会でございます。ここで選ばれなかったのもこの商品の運命なのでしょう。お嬢様のワンピース姿を見ることができなくて残念ではありますが」

 「いや、やはりもらっていこう」


 はい、一点追加、ありがとうございまーす!

 お父様(?)、わりと食い気味に購入をお決めになりましたね。

 やけに笑顔が輝いていらっしゃいますよ。


 「可愛いあの子の姿を見られないのは私にとっても大きな損失だからね」


 あっまぁぁぁぁい!!!


 その笑顔ごととっても甘くていらっしゃいますね!

 あぁ、でもワンピース買われた事は秘密になさるんですね?

 「一番下に入れてくれないか」って、隠す気満々じゃありませんか!

 …にしても、その照れ笑いも、あっまああああああぃ!


 もういいんじゃないですか、バカップルで!

 パパとか謎が巨大すぎますけど、あえて飲み込むことにいたしましょう!

 なんたってわたくし、しがないショップ店員ですから!

 今わたくしが言う言葉はただ一つ。


 「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 完璧な45度の礼と共に、最高の笑顔でお見送りすることが、わたくしのお仕事ですので。



当人たち視点より第三者視線の方がこのお話の真価ギャグを発揮できることに気づきました。

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