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黒の王子、灰の王子  作者: アロエ
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黒の王子の部、第三



「はぁ?!イヴェニルを表へ出した?!一人でか?!」



弟が城を出ている事を彼が城を発って直ぐ知った彼は実の父である国王に詰め寄り何を馬鹿なことを考えているのかと捲し立てました。


例え成人しもう立派に一人立ちする年頃とは言え彼は弟に危険が及ぶ一切を許さずに来ていたのでその怒りは尤もかもしれませんが、国王も負けじと言い返します。


お前達兄弟はその境遇から甘い対応ばかりしてきてしまったがもうそろそろそれも止めなければならない、大人になり、それぞれが自立した人生を歩まなければなるまいと。


その身勝手で曖昧な考えでイヴェニルをまた傷付けるのか、とオベラディオは怒りに震えた声音で否を唱えます。



「俺たちが傷付けられようとした時、あんたは何をしていた?政務とは名ばかりに、気に入りの愛妾と戯れていた癖によくもそのような事を言えたものだ。何を驚いた顔をしている。……俺たちが知らないとでも本気で思っていたのか、はっ、滑稽にも程があるぞ」



幼い王子らの教育や身辺の警備を臣下に丸投げし、若い愛妾と自分は乳繰り合う放蕩に耽る怠惰な生活をしていた父に、嫉妬に狂い浪費に狂い始める王妃たる母。奇しくもそんな二人を我に返らせたのもあの事件です。


悲劇が起きた事により、懸命な看病と幼き王子らの環境を整える動きが活発化し両親共に成人するまで何とか生かし成長させなければと思わせました。


共通の目標が出来れば強度は些か不安ではあるも鎹になります。愛妾の子を継がせたいなどと憚らず世迷い言を口にしていた国王さえも世間に流れた様々な噂によりその願いを口にすることは無くなりました。心の内ではどう思っているかは不明ですが、当時あれだけ可愛がった愛妾も今は王城より出され再びその座に着くことも有り得ないでしょう。


それは愛ではなかったのかもしれません。己の近辺にあまりない変わり種を見聞きして一時だけ毛色の違う犬猫を可愛がるような。王妃の者の手により妊娠こそさせずにいたものの、愛妾が孕んでいたのであれば面倒事は避けられなかっただろう。そんな事も考えられない国王です。兄弟達の父親への評価も地に落ちていました。


この長い年月の間、どれだけよく見られようと振る舞ったとしてもきっと彼らは、彼だけは父親が死ぬまで。死んでからでも父親を目の敵にし続けたでしょう。親子の情など芽生える前に枯れ腐り落ちました。己の信頼できる肉親は弟だけ。


母親は……最低限の王妃としての振る舞いを忘れずにその役に努めてはいましたが、やはり彼らにとって遠い人でした。交わす言葉も無く、顔を合わせた時に挨拶をする程度の関係の希薄な存在を一体どうして大切な人だと言えましょうか。


王妃の立場から見れば自分を裏切り身分の低い若いばかりの愛妾を優先する憎き浮気男の血を継いだ王子、それも二人。どちらかと言えば王妃に似た姿貌であっても王の心を繋ぎ止められなかった理由と思えばやり場のない怒りと空しさが矛先を向けて育児放棄という事に繋がったのも仕方のない事でしょう。


家族としてどうしようもない程に破綻している彼らは王族であるという枷によって嫌々ながら纏められているだけです。何かそれを覆す出来事があれば脆くも崩れ去る。


その何かが今であっても不思議ではないのです。



「貴様が俺たちの邪魔になるなら、わかった。俺もそう考えるだけさ」


「何を」


「毒が好きなんだろう?なら死ぬほど食らえばいい。いや、死んでしまえ(・・・・・・)



席を立ち、父の顔を覗き込むようにして嗤えば見計らったかのように胸を抑え吐瀉物を床に落とし噎せ込み悶える国王を冷めた目で見下ろしオベラディオは笑みを引きます。



「俺がイヴェニルを傷付けた犯人を野放しにしている意味をよく考えなかったのか。復讐できるその時を狙っていたからだ。貴様があの愛妾を囲う為に方々(ほうぼう)から敵を作らなければ、イヴェニルは傷付かず、化け物と侮られ罵りを受けずとも済んだのだ。この愚王が」



何も表情を浮かべずただただに国王たる父の苦悶の顔を眺め続け、やがて事切れたように動かなくなるのを見てからオベラディオは父の側にあったカップと己のカップを入れ替え、慎重に父が口を着けた箇所を避けながら一口、残った茶を飲み下します。


効果が出る時間を計り、その手よりカップを落とし。


ガチャンと高価なカップが割れるのを聞きながら息を吸い込み外や少し離れた場所に控えさせた兵を呼ぶ為に声を張り上げます。毒が回り顔色を悪くし父と同じく嘔吐物が込み上げるのを耐えながら目を眇め、我慢できずに少量胃の中のものを吐き出す頃には部屋に駆け込んだものらが慌てたように介抱してくれようと手を伸ばし、あっという間にその場から離され安全な部屋へと運び出されます。


きっと父はもう助からないでしょう。自分も暫し生死の境を彷徨うでしょうがイヴェニルを一人にさせたままに死ぬ気は更々ありません。次に起きたならまずイヴェニルを追わなければと考えながらオベラディオは目を閉じ意識を失いました。






婚約を済ませ暫くの間をオベラディオと共にいたジルクハードはオベラディオの勧めにより、荷をまとめ一度姫や国の様子を見るために帰国する事にしのんびりと馬車での帰路を進んでいました。


妹の名を借りた婚約はある程度の時間を持たせてからオベラディオの気紛れに姫が耐えかねて姫より破棄する、その際にはオベラディオが他の女に手を着けた不貞の証を提出し多額の慰謝料と示談金を渡す、そんな約束を妹はどのように思うだろうかと不安に思いながら窓の外の風景を見て心を落ち着け、途中、野宿をしたりしていると自分の国から次の国へと向かうらしい行商人に会いました。


その行商人は王城にも度々やってくる顔馴染みの者で年も近く二人はこんなところで会うとは奇遇だと肩を叩き合い話に花を咲かせました。商売品の武具や兜飾りなどを見てこれはどこそこのとやんややんやと盛り上がっていると、そう言えばと行商人は話の腰を折り彼の妹である姫の事を口にしました。



「何でも結婚話が出ているらしいな」


「流石に商人か、耳が早いな」


「黒の王子から婚前に夜に通われるなんて、よくあんたも許したものだと思っていたんだが……。届けもんがあって城に行きゃ、おひい様、城にいるじゃないか。驚いたさ、大臣は自分の娘だと言い張っていたが、あの見事な銀髪を見間違える筈がないだろう?」


「っ?!待て、大臣がルシーナを連れていただと?!」


「あ、ああ……そうだ。しかも黒の方じゃない、灰の方の王子と娶せるって話が進んでるそうだ。婚約式はすっ飛ばして結婚させるとかで、それ用の衣装と貴金類なんかを頼まれて店に取りに行く途中だ」



何ということでしょう。国を出る際に一番信用のできる者の屋敷に隠し匿うようにしていた筈の妹が、一番見つかりたくない相手の元にいるばかりかそのような事が進んでいるとは。


完全に寝耳に水でした。あの弟ばかり気にかけるオベラディオからもこのような事は聞きませんでしたから、恐らく彼の目も掻い潜った大臣の独断に違いないでしょう。


あの男とオベラディオが手を組んでいるのであれば別ですが、オベラディオの弟への執着を考えるにそれは有り得ません。


嫌な汗が流れました。こうなってはオベラディオとの契約も無効になるでしょう。そればかりか大切なイヴェニルに刃を向けたとオベラディオに判断をされたなら戦争にも発展しかねないかもしれません。



膨大な戦力を誇る国の、次期後継者への裏切り。



出会った当初のあの眼差しがその身に貫いたような錯覚にジルクハードは大地が揺れたように足下がふらつき目眩を感じました。


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