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黒の王子、灰の王子  作者: アロエ
4/10

灰の王子の部、第二



灰の王子であるイヴェニルは護衛の騎士や世話役などを連れて馬車で銀の姫君の生国へと訪れていました。


自国より少し賑わいは減りますが、長閑で落ち着いた城下町に物珍しく思いながら城への道を進みやがて王の間へと向かうと今は不在らしい王子の代わりにとその親類を名乗る国王代理の大臣がイヴェニルを出迎えました。


王家と繋がりのある貴族の娘との婚約話しに王子が不在という状況に不信感を抱きましたが、その大臣に連れられた令嬢の姿を見てそれも薄くなります。


兄と婚約を結んだ銀の姫君と同じく腰まで伸びた長く美しい銀の髪、切れ長の少しつり上がったようにも見えるその紺碧の目。彼女は正しく銀の姫君と血の繋がりがあるとイヴェニルは判断を下しました。


そして銀の姫君と同じようにイヴェニルに向けて好奇の目も嫌悪するような目も化け物と罵り恐れるような気配もありませんでした。


何か物言いたげな彼女を大臣が押さえ込んでいるような妙な動きを見て内心首を傾げるも部屋へと案内を受け彼らと別れ、イヴェニルは一息吐きます。自国と違い毒に対して普通以上の法がない分毒味は常よりも厳重に行われ茶のひとつも満足に取れる状態ではありませんでしたが、女性を前にして久しく兄を挟まずまともに話をし緊張していた為かそこに重きを置く気持ちの余裕も無かったので夕食は断り、その日は早めに就寝してしまいました。


翌日、大臣の手のものに体の心配をされ詫びを入れた後にまた令嬢と大臣とで顔を会わせその時令嬢がこの国の侯爵の地位の娘であると聞かされました。


何でも幼い頃に誘拐され、項に怪我を負わされてしまい嫁の貰い手がいないのだと。自分と似通う境遇に自然と令嬢へと目が向けば彼女は視線を床に向けるのみ。


その反応さえ己と重なりどれ程の誹謗中傷を受けてきた事か。己と違い、女性であるという事でどれだけの屈辱に耐えてきたことだろうかと心を重ねていきます。


そして大臣が気を利かせ退室した後に二人は暫く黙り、室内は静寂に包まれましたがやがておずおずとイヴェニルが口を開きました。



「……貴女は、私でいいのだろうか。私の噂はこの国でも聞いた事がおありだろう。恐ろしい化け物に嫁がされるなど」



あまりに哀れだ。と口にする前に令嬢がゆっくりと顔を上げていきその顔に憤怒の色が見られ、イヴェニルは思わず息を飲みます。



「何が私でいいのだろうかだ、貴様が勝手に兄の留守を狙い私をこの場に引っ張り出してきたんだろうが!」


「ま、待て。どういうことだ、私は」


「くどい!この卑怯な悪漢めっ!!」



苛烈なまでの反応を示した令嬢に驚き硬直するのも構わず令嬢は憤慨したまま席を立ち、彼を一人残し部屋を退室していってしまいました。部屋に残された彼と彼の従者や護衛は何とも言えない空気の中、大臣が慌てて飛んでくるまでの時間を過ごしました。


大臣が頭を下げ詫びるのを聞きながらイヴェニルは考えます。この縁談は本当に兄の婚約者の知るものなのだろうかと。先程の彼女の言動から決して彼女はこの場に望んで来たわけではないでしょう。


果たしてあの兄の婚約者が身内を犠牲にするような真似をするだろうか。


イヴェニルは弟を守りたい兄に過剰に守られ、そんな兄に対して申し訳ないと兄の行動を諌める事もできませんが腑抜けではありません。兄より若干劣れども頭を使え、幼き頃より兄の助けとなるべく体を鍛え顔を失い影となる機会を奪われ消沈しようともその努力を決して止めることなく続けて来ました。


敬愛する兄と似た顔で、よく似た眼差しで彼は真実を見極めようと大臣を見据え会話をしていきました。



それは兄の敵となるかもしれない何者かを見定め、食らいつかんとする獣のような恐ろしい姿でした。


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