婚約破棄されたけど腹パンで許してあげますわ!
「リーラ嬢、悪いがお前とは婚約破棄させてもらう!」
私、リーラ・ブトーハがロガワリー第一王子から婚約破棄されたのは、高等武力学校の卒業パーティーでのことでしたわ!
ブトーハ辺境伯の長女として殿下と婚約して10年、王妃になるべく日々努力をしてまいりました。ですが殿下は私よりヒーラ子爵令嬢を選びたい、そう宣言したのですわ!そのために私と婚約破棄をするのは百歩譲って構いませんが、なぜ卒業パーティーで皆の前での宣言だったのでしょうか。
ヒーラ子爵令嬢は、100年に一人とも言われる癒しの魔法の天才だとのことですわ。ここジャポーネ国では武力を重んじ、何かと決闘(ただし命を奪ってはならない)で物事を決めます。王子といえどもその宿命からは逃れられませんし、決闘では血まみれになることのも多いのですから、癒しの魔法を使えるヒーラ嬢をそばに置いておくのは悪い判断ではありません。何度も癒しの魔法をかけてもらううちにヒーラ嬢に情がわいたのでしょう。それは仕方ありませんわ。
ですが!
卒業パーティーなんて学友の皆さまの思い出に残るような場所で!!
婚約破棄などするなんて!!!
これはお灸を据える必要がありますわね。
「ロガワリー様。婚約破棄については承りましたわ。ですが、婚約時にブトーハ家と王家で取り決めた約束は守っていただきますわ!」
王子は、え?そんなのあったっけ?と困惑の表情をしていますわ。
「ブトーハ家はジャポーネ国の剣であり、盾であり、ゴリラですわ。」
ちなみにゴリラとは、古代ジャポーネ語で王家の忠臣で特に圧倒的な武力を持つものを意味しますわ!
「そんなブトーハ家との縁談を破棄するなら、王家はブトーハ家と争っても反乱を鎮められる、そんな武力を示す必要がありますわ。よって、王家から婚約破棄する場合は、私リーラから、王子は10発、お付きの方々もそれぞれ1発ずつ殴り、意識があった場合のみそれは許可する、そういう約束でしたわ!」
「え?意識……?ああ、まあそれならいいかな……?」
王子は困惑していますわ。高等武力学校に通っているとはいえ、私は女性ですからね。
武力の授業でも王子より上の成績を取ったことがありませんし。(ちなみに王子は毎回1位、側近のパンジー様が毎回2位を取っております。私は10位前後をうろうろしておりました。)
「では側近のパンジー様から行きますわね?」
私は腕の重りを外してゆっくりと床に置き、動的ストレッチをして殴る準備を始めましたわ。
「あ、ああ。王子の突然の婚約破棄を止められなかった責任もあるしな。きたまえ、リーラ嬢」
「ご安心ください。ヒーラ嬢は癒しの天才ですからね。顎が吹っ飛んでも治してもらえるでしょう。」
シュッシュッ。
シャドーボクシングをして体をさらに温めながら私は準備を続けますわ!
「は?」
「は?ではありませんわ!さあ行きますわよ!歯ぁ食いしばれ!」
私は渾身のアッパーをパンジー様の顎に決めます。
ドパアアアアアンとおよそ人体の出せるとは思えない音を立てながら、パンジー様が10メートルほど吹っ飛んでいきましたわ。
「……。」
一応死なない、いえ、気を失わない程度に手加減はしたのですが、パンジー様はとてもではありませんが口の利けるような感じではありませんわね。
「次は王子ですわ!」
「いや待て待て待ておかしいだろ今の威力!お前はパンジーに武力の授業で勝ったことなかったじゃないか!」
「それは全身に50キロの重りを付けたうえで、身体強化の魔法を全力の10%までに制限していたからですわ!」
「は?」
武力の授業は、体術や剣術等の武技に加え、身体強化の魔法を含めて総合的な戦闘力を鍛えることを目的としていますわ。
特に女性は身体強化の魔法を使って「身を守る」ことに重点が置かれます。武を貴ぶお国柄とはいえ、女性が肌を傷をつけられれば、悲しい思いをいたしますからね。
ですが、私はブトーハ家の長女ですからね。身体強化して殴る方に力を注いでまいりました。武力学校では家からの指示で力をセーブしていましたが、これでも女勇者とうたわれたローランド・ブトーハの再来といわれておりますの。ローランド・ブトーハは一人で一国を相手に無双したといわれ、初代国王とともにジャポーネを建国した、ブトーハ家最強のゴリラとして歴史に名を残しております。
今はまだ近衛騎士団50人を相手に引き分ける程度の実力しかありませんが、私もいつかゴリラとして歴史に名を残したいものですわ。
「さて、次は王子の番ですわ!皆さまの迷惑になることも考えず、卒業パーティーで婚約破棄などするのですから、ご自身の武を!身をもって示してごらんなさいな!!」
「いやいやいやいや!パンジーがあんな吹っ飛んだの初めて見たぞ!俺だってあんなに吹っ飛ばせないって!!悪かった!俺が悪かったから!!!待って!!!足の重りを外そうとしないで!!いや!!!なんでドレスの帯がそんな音を立てて床に落ちるの!!帯じゃなかったのかよ!!それも胴の重りかよ!!それ多分、全身の重り、全部外してるんだよね!!!待って!!」
「大丈夫ですわ!!私は手加減が得意ですし、ヒーラ嬢の癒しは完璧ですわ!!」
王子とのやりとりを横目にヒーラ嬢はパンジー様の治療にあたっておりましたが、ヒーラ嬢の癒しは完璧らしく、パンジー様が失った歯まで再生させたようですわ。
「即死しなければきっと完璧に治療してもらえますわ!!さあ!!!歯ぁ食いしばりなさいな!!」
私は王子に腹パンを決めていきますわ!
ゴッ!
王子が10メートルほど吹っ飛びましたわ。
うおおおおおおおお!
ギャラリーの皆さまが騒がしいですわね。
王子に近づいて襟をつかみ、立たせてもう一発ですわ!
ガッ!
もう一回!
ドッ!
……。
ドパアアアアアン!
10発終わってヒーラ嬢から癒しの魔法をかけてもらった王子が息も絶え絶えな様子で言葉をかけてきましたわ。
「お、俺が悪かった……。」
「手加減したとはいえ10発耐えたのですから、これで約束は履行されましたわ!ヒーラ嬢と末永くお幸せに過ごすとよろしいですわ!」
「……。あ、ああ、ありがとう……。あれで手加減していたのか……。」
本気でやったら王子は欠片も残りませんからね。
婚約破棄されましたが、これからはブトーハ家に戻って真のゴリラとなるべく研鑽を積むのですから、約束通り10発の腹パンで許してあげますわ。
リーラは卒業後、ブトーハ家を継ぎ、数々の武勲を立てるのですが、それはまた別のお話。
終わり
蛇足ですが、登場人物紹介などです。
リーラ・ブトーハ:ご想像の通りだと思いますが、ゴリラ、武闘派から名前を付けました。音ゲーはうまくないです。
ロガワリー:心変わりから名前を付けました。一般人の中では最強クラスです。
パンジー:チンパンジーから名前を付けました。一般人の中では(略)
ヒーラ:ヒーラーから。ヒーラーといっても殴れるタイプなので一般人の中では強い方です。
ローランド・ブトーハ:ニシローランドゴリラから。ニシローランドゴリラの学名はゴリラゴリラゴリラだそうですね。
高等武力学校:国で一番のエリート学校で、騎士などになるための勉強と、武力の鍛錬をしています。あんまり細かい設定は考えていません。