8.リーダーを立てました
夏風邪をひいて空いてしまいました。
体育祭の種目が発表されてから、騎士育成科の生徒たちの行動は早かった。
騎士育成科の3クラスは各々の競技の出場選手の選出に取り掛かる。
特別編成以外の2クラスの講師たちは、自分の担当するクラスに全力でサポートする気らしい。
「先生!俺たちも負けるわけにはいかないんです!手伝ってください!」
そう特別編成以外のクラスでは。
「なんでだよ?お前らの体育祭なんだから自分たちで頑張れよ?」
ユーリーは呼び出されて何事かと思いきや、自分を頼る気満々の生徒たちにため息をつく。
「大体な、この体育祭の趣旨はお前らの実力を発揮する場だ。選出選びだってそのうちだ。それを先生に頼ってどうすんだ?」
納得いかない顔でブーイングを飛ばす生徒たち。
「他のクラスは講師が人選選びに携わっていますよ!講師として怠慢なんじゃないんですか?」
怠慢。
怠慢ねぇー
「それ本気で言ってんのか?」
生徒たちは口を開けて黙り込む。
「俺が関与しないことを怠慢と思うか?俺から言わせれば、必死になって人選を手伝う講師たちの方が怠慢だ。生徒たちに実践の場を与えず自分の名誉しか気にしてない。俺はリゼリアを通して言っておいたんだがな。」
結局、体育祭とは言っても学習だ。
平和な時代とは言え、学ぶべきことは学ぶべきなのだ。
「だが、そんなに言うなら手伝ってやるよ。明日の剣術の授業、一人一人戦ってやる。そこでお前らが見極めるといい。俺が手伝うのはそこまでだ。」
生徒たちが緊張した面持ちでこちらを見つめる。
「はぁぁ〜…お前らなー自信持てよ。お前らだったらできると思うからこんな無茶やってんだ。」
「「「「「無茶な自覚あるのかよ!!!」」」」」
あるよ〜。
だって普通に考えてみろ?
体育祭2週間前に無理やり大幅な変更を押し通して競技まで変えるなんて無茶そのものでしょ?
そんな無茶苦茶なイベントの人選を、それも講師たちにしては自分の面目がかかっている。生徒だけにやらせるなんて、普通の貴族騎士のやることではない。
ま、俺に面目なんてものはない。
「覚えておけ。騎士は脳筋な奴らの集まりだが、無駄死には絶対にしない。それは死ぬ時には1人でも道連れにし、無茶をするときは絶対の自信を持つからだ。」
「無茶だとは思う。だが無理だとは思わん。せいぜい気張っていけ。」
そう言って教室を出る。
残された生徒の目には決意の光が宿っていた。
「どうすんだ?先生は頼らないんだろ?」
「明日次第だな。みんなもとにかく明日だけは全力であの人でなしにかかっていってくれ。戦ってないものはその力量を見て欲しい。」
アレスがそう呼びかける。
「あー、明日は酷い1日になりそうだな。」
生徒が諦めたように笑う。
「実力を発揮させるんだから失神はさせないだろうけど…」
全員が諦めたようにため息をついたのは言うまでもなかった。
翌日、剣術の授業の時間がやってきた。
基本的に剣術、魔術の授業は1日の最後に来ることになっている。
生徒たちは緊張した面持ちでいつもより早くきていた。
「みんな、頑張るぞ…」
女子生徒は今にも泣き出しそうな顔で頷き、男子生徒は固唾を呑む。
すると、修練場の入り口から人影がこちらに近づいてくる。
間違いなくユーリーなのだが、その雰囲気は今までと違い、歴戦の猛者を想起させる佇まいだ。
「ぁぁぁ…」
誰かが諦めなのか断末魔をあげる。
ユーリーのその姿をはっきりと目にしたとき、生徒たちは理解した。
こいつ、今日だけは本気だ。
いつもつけているライトアーマーとは段違いの質。
黒く光るブレストプレートにレギンス。
腕には同様のこてが、剣は最初から変わらず刀。
しかし抜き身で手に握られている状態で。
「もう無理よ…」
女子生徒が崩れ出す。
「早速始めるぞー。アレスは最後だ。それ以外は出席番号順で行く。」
「なんで俺が最後なんですか?」
名前を出されたアレスが食いつく
「お前は選手選びのキーパーソンだ。ちゃんと一人一人見て人選を考えろ。」
「よっしゃ、行ってみようか!」
そこから地獄が始まった。
「よーし後はアレスだけだな。」
それに答える生徒はなく、皆保険棟に運ばれた後だった。
「手加減というものができんのか貴様は…」
保険棟へ生徒を運ぶ手配をしたリゼリアはため息をつく。
「もちろんしたさ。じゃなきゃ全力出す前に倒しちゃうだろ?気絶させたのはアレスと2人になりたかったからだ。」
「それなら俺を呼び出すなりすれば…」
アレスが聞き返す。
「それでもよかったけどお前も言いにくいだろ?俺と何話したか聞かれた時に、クラスメイトのダメなところ洗いざらい話させられたなんて。」
アレスだけ残して全員気絶させたのはそういうこと。
この歳ならば、人間関係は大人よりも複雑だ。アレスの場合、誰もがリーダーと認める人材だ。そんな奴がクラスメイトに片っ端からダメ出ししていたなんて知られたら、其れこそ学級崩壊もいいところだ。
「それじゃ感想を聞こうか。」
アレスは俯く。
「先生は人でなしです。俺1人にこんな役割を押し付けて…」
たしかにそう言われても仕方のないことだと、自覚はある。
が、
「まぁ、今回に関しては罵ってくれても構わん。が、お友達の絆で戦友は救えない。むしろ殺すことになる。人を見る目を鍛えて欲しい。俺はお前を評価してるからな。」
「それで俺だけ残したんですか?それ贔屓でしょ?教師としてどうなんですか?」
頭を掻きながら答える。
「俺はいいと思うけどね贔屓。まぁ場合によるけどさ。素質があると思ったやつを重点的に育てるのはそんなに悪いことかね?優遇されるのは優遇されるだけの能力や素質があるからだ。」
アレスは黙ったままユーリーの話を聞く。
「いいか?金持ちは優遇させれる。当然だ、払いがいいからな。強い奴は優遇される。当たり前だ強ければ自分を守ってくれるかもしれないし、敵を倒してくれるからだ。騎士として飛び抜けた才能がある生徒は優遇される。当然だ、原石を磨かないアホがどこにいる?」
「俺にそれだけの才能があるとは思えません。」
「才能じゃないな。素質だ。持って生まれた、画一的なもの。どうあがいてもそれを手に入れるのはごく一部の人間だけ。それが素質だ。」
才能は努力で越せる。
素質はそれ自体が特別。
それはカリスマや戦闘意識、精神コントロールなど多く存在する。
カリスマを手に入れられるのはほんの一部だ。人に好かれる努力をどれだけしても、カリスマ性を手にれることはできない。
戦闘に対する意識も同様。生まれた時から戦うべくして生まれた人間というものがいる。
そんな奴といくら戦いに対する意識を矯正しようとしても変わることはないだろう。
一種の素質だ。
「お前の素質はカリスマ性だ。王国の第四子で、生まれ持ったカリスマ性がある。それは人を導き、勝利と敗北を操作する素質だ。」
「そんなことは、兄上や姉上に比べれば…」
「あほか?お前の兄上や、姉上は王として教育を受けてるんだろ?それなら素質が磨かれるにきまってんだろ。」
その地位の性質ゆえ王族は大体カリスマ性を持つ。
それを磨かれるのは大体第一子から、多くて第三子まで。第四に継承権はないのでアレスのように騎士学園に入れられる。
「お前はこの問題児だらけのクラスをまとめていた。ドヤ顔で権力振りまく御曹司たちと、貴族なんてクソ食らえって顔してる奴らがいる、このクラスで問題が起きてないのはひとえにお前のカリスマ性だ。今思い出してもすごいよ、初対面の人間にあんなに揃って大爆笑を浴びさせるんだからな。」
アレスは黙ったまま。
「統率のとれたこのクラスなら一位もそんなに夢物語ではない。まぁ違ったやつもいるが、そこはお前の采配次第だ。」
「わかりました。最初は…」
アレスは一人一人について自分の考えを述べ始めた。
一通り聞いてユーリーは内心驚いていた。
(こいつまじで人を見る目があんな。ほとんど俺と同じだ)
「いや、よく見れてるぞ?正直予想外だ。特別にお前にヒントをやろう。」
うん。
人間ご褒美は大切だ。
やる気も出てくるだろうし、だがタダでやっては意味がない。
「アレス、まずこの競技について共通することはなんだ?」
アレスは少し悩み答える。
「それぞれの競技に、騎士としての必要技能が分かれていること?」
「そう。この体育祭で総合力が試されるのは選抜決闘だけだ。他はそれぞれ必要な技能が絞られている。」
ぶっちゃけ総合力なんてものは卒業するときに付いてれば良いのだ。
体育祭で試されるのは個々の技能の熟練度や、生徒たちの得意な分野の確認。
自分達で何が得意なのかを考えることに意味がある。
だから教師達にはノータッチをお願いしたんだけどね…
「それを考えるとキワモノ揃いのうちのクラスはわりかし有利ではある。が、」
「一歩間違えば通用しないなんてこともありえるからそこんとこは注意な。」
アレスは頷く。
「ま、俺から言うのはこんぐらいだ。あとは自分たちで考えろよ。あと、クラスの奴らにはちゃんとお前の思ったことを伝えとけ。誰がどんな種目がいいのかとかな。」
「わかりました。」
その意気やよし。
アレスは立ち上がり、保険棟に向けて歩き出す。
「あ、そうだそうだ。」
「あいつらに伝えといてくれ。特訓ならいつでも付き合ってやるって。決め事にはノータッチだが、特訓ならつけられるから。」
「あんなに気絶させといて、特訓したがると思ってるんですが?」
アレスは呆れたようにそう返す。
笑いながらユーリーもそれに返す。
「そこはなんとかしろよリーダーさん?」
アレスは恥ずかしそうにそっぽを向き、保険棟へ向かっていった。
ツンデレかよ。
「良いリーダーになるな。」
「うおっっ!!?!!いつからそこに!?」
背後にいたのはリゼリアだった。
「さぁ?だが感動の子弟物語は面白かったぞ?」
「うぜぇぇぇ!!」
「師匠に向かってうざいとは。ここは修練場だ、一稽古つけてやろうか?」
ユーリーは立ち上がると即座に敬礼して、
「今から日誌を書いてきます!!ではっ!!」
速攻で校舎へと走っていった。
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頑張るぞいψ(`∇´)ψ