7,体育祭の説明をしました
説明回です。
罰ゲームを告知したその日、生徒たちは修練場に集まった。
「みんな聞いてくれ。」
そう声をかけたのはアレスだ。
アレスは王族直系の第四子だ。
継承権はないにしても、そのカリスマ性は疑うべくもない。
「あの人でなしクズ人間はやると言ったらやるやつだ。良くも悪くもそれを俺たちはこの2週間で実感している。」
そう、あいつはやると言ったらやるのだ。
稽古をつけ、騎士にさせると言ったその時から、確かに技術や知識、体力などは着実に伸びている。
そして同様にやり方は一貫して、体に叩き込むと言うやり方。
あいつが殴ると言って殴らなかったことはない。
とんだクソ野郎だ。
「だからこそこれは俺たちにとって死活問題だ。もし負けてみろ。あいつは絶対に特別訓練とやらをやってくる。」
「逃げちまえばいいんじゃねぇか?」
男子生徒がそう言ってくる。
「逃げられるなら逃げてみろ。半端な覚悟で逃げればそれこそどうなるかわからん。逃げるときは騎士道を捨てるときだと思え。」
男子生徒が固唾を呑む。
大げさに聞こえるがこれは事実だ。
実際に逃げようとしたやつから聞いた話あいつは逃げようとしたやつにこう言ったらしい。
「逃げてもいいが、二度とこのクラスに立ち入るな。辞めるってのはそう言うことだ。今投げ出すやつは後でも投げ出す。選べ、辞めるか続けるかを。」
15.16歳の人間に言う言葉ではない。
だが実際にその通りではある。
騎士になることを決意し、この学園に入った以上、修練から逃げるというのはその道を捨てるのと同義だ。
あの人でなしは言うことなすこと理不尽でくそったれだが、こと騎士に関することは道理が通っている。
まぁ、それにしてもやりすぎだとは思うが…
「種目の発表は明々後日となっている。今出来ることはほとんどないが、せめてでも気持ちだけは固めておこう。」
アレスは拳を空に掲げ声を張り上げる。
「俺たちは勝つ!勝たねばならん!!使えるものは使い、出来ることを全てやり、勝利に向けて全身全霊をかけねばならん!!そしてあの人でなし教師を見返してやらねばならん!やるぞ!!!」
「「「「「おおぉぉ!!」」」」」
その声は、陽が傾きオレンジ色に焼けた修練場いっぱいに広がっていった。
「やる気はあるみたいだな。もし諦めてお通夜にでもなってたらしめているところだったが…」
修練場で雄叫びをあげる弟子たちを見ながら満足そうに頷く。
「こっちもさっさと済ませるか。」
ユーリーは紙束を掴んで執務室に向かった。
「ユーリーからは何だ?」
「エキシビションマッチの競技だ。教育的な側面もあるし、一応学生的なものにしてある。」
リゼリアは呆れて紙束を机に置く。
「お前な、まだ決まってすらいないのに張り切りすぎだ。それにこんなに急に決められるわけ…」
ユーリーは頭を思いっきり下げた。
「頼む。」
リゼリアはあっけに取られる。
「これは意義のあることだ。あいつらだけじゃない。騎士科全員がやるべきだと思ってる。」
リゼリアはこめかみを抑えてため息をつく。
「はぁー、わかった校長に通しておく。多分競技も…このままで通るだろう。」
頭をあげて礼を言う。
「お、サンキュー!あとは頼みましわ!」
そそくさと出て行くユーリーを見ながらリゼリアはまた深いため息をついたのだった。
三日後、競技が発表された。
騎士育成科エキシビションマッチ競技一覧
1,身体強化綱引き
2,魔術なし百人斬り大会
3,二百メートル直線障害物競走
4,魔術棒倒し
5,四元素魔術モノリス戦
6,騎馬戦
7,選抜決闘
張り紙に集まる生徒たち。
それぞれが感想や意見を述べあっている。
「おーい席につけー。」
講義室の扉が開きユーリーが入ってくる。
「何で先生がいるんですか?」
ユーリーは非常勤講師で、このクラスの担任ではない。ホームルームには担任の先生が来るものなのだが、ユーリーが来たことに、生徒たちは訝しげな表情を浮かべる。
「その競技の説明をしに来た。一限は潰れることになるからな。」
「競技の説明をする。質問は後でまとめて受け付けるから。まず身体強化綱引きな、これは名前の通りだ。無系統六式の身体強化を使って綱引きをする。ちなみに術の構築は合図の後からだ。フライングは一回まで。2回目は反則負けだ。」
ここで試されるのは構築の速さ。
そして強度だ。
「妨害ありだから、数人は相手の術の構築を妨害するとかもありかもな〜。」
生徒たちはなるほどと頷く。
ま、そんなにうまく行くかどうかは保証しないが。
「次だ。百人斬りな。これも名前の通り、修練用の自動人形を使う。後半は素人レベルだが攻撃してくるから気をつけろよ。競うのはタイムと斬撃の正確さ。一撃で仕留めないと、百人もやってらんないからな。判定は緩いが、しっかりと狙いつつ、ペースを崩さず切って行くのがポイントになるだろう。」
自動人形は一定の衝撃を与えると膝をつくようにできている。今回はクビか胴に当たらないと止まらないので、正確に狙う必要があるだろう。
「お次は二百メートル直線障害物競走。障害物は魔力抵抗の強い素材の壁や、さっきと同様自動人形。トラップは…まだわからないがあったとしても魔術で対応できる範囲だ。競うのはタイム。まぁ持久力とマルチタスクに長けた奴なんかが活躍できるだろう。」
走りながら切ったり、魔術を行使したりするのだ。
集中力や、持久力がポイントになるだろう。
「四つ目は棒倒し。魔術の使用を許可している。が、危険度の高いものは減点対象だ。ポイントから引かれるので注意しろよー。これは十五人までなら何人でも参加できる。ま、戦術を考えろって趣旨だ。よくなった方がいい。」
魔術の性質と用途。
さらに15人いないと言う、人数的な要素を含んだ競技。
さらには曖昧な形でのレギュレーション。
考慮すべき項目は多い。
その分戦術が広がり、敵の策を読むことも強いられるかなり高度な競技だ。
「んで五つ目が魔術モノリス戦な。これが多分考える必要があんまりないかもしれない競技の一つだ。要するに敵の妨害、要するにジャミングな。これを回避しつつ、魔術抵抗の強いグラス岩でできたモノリスをぶっ壊すって競技だ。」
これは単純に魔術の強度、火力、持続力が試されるシンプルな競技。
「そして六つ目、騎馬戦。綱引きに続いて二つ目の全員競技。これは身体強化、ベクトル操作以外の魔術は禁止されている。ほんとはもう少し許可したいところだったんだが、危ないからダメだとさ。ポイントとなるのは、まぁ結束力は大事だな。あとはひたすらトライアンドエラーで練習するしか無い。」
やったことないからよくわかんないんだよねー。
ま、成るように成るでしょ
「そして最後。選抜決闘、五式以外の魔術は許可されている、ほぼほぼ騎士が採用している決闘に近いものだ。危ないときは審判が全力で命を賭してお前らを止めるから安心しろ。」
これは対人戦に慣れておけと言うことでもある。
騎士になる以上、人形の魔獣はもちろん、人を殺すことだって普通にある。
騎士育成科のカリキュラムとして、盗賊の討伐は卒業試験の科目でもある。
多くの生徒はここで人を殺すと言うことに対して抵抗を持ち、追試験を繰り返す。
この競技は、殺さないにしても、剣を持って人と対峙すると言うことをほんの少しでも体験してほしいと言うことでもある。
「ほんとは全員やらせたいんだがな。時間の都合上3人だ。よく考えておけ。細かいことは張り紙読んどけよ。」
「あと人数についてだが、綱引きは全員、百人斬りは5人の1チームのみで行う。二百メートルは個人としてクラス3人、棒倒しは15人以内、モノリス戦は、5人の1チームのみ、選抜決闘は3人による団体戦だ。掛け持ちは全員競技を抜いて1人二つまで。選抜決闘でる奴は棒倒しのみ掛け持ちできる。」
「休みの場合はどうするんですか?」
「そいつ抜きでやる。選抜決闘には臨時で入れられるが、その場合はクジで決める。それ以外の競技は、休んでいる奴抜きで臨んでもらう。」
休めば明確な戦犯だ。
健康管理には気をつけたまえ、少年少女よ。
「ちなみに、校長が乗り気なのか投影魔術で王都内に放送するらしい。せいぜい恥をかかないように頑張りたまえ。」
生徒たちは緊張した面持ちで思考を巡らせる。
体育祭まであと11日
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がんばるぞいψ(`∇´)ψ