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2.最悪の職場でした

講義室に爆笑の嵐が吹き荒れる。

あれ?俺そんなに面白いこと言った?

ワンチャン芸人もいける?

そんなアホなことを考えていると、1人の生徒が大声で笑いながら叫んだ。


「リゼリア先生正気ですか?また講師なんて連れてきて数時間でまたやめるだけですよ?こないだなんて一時間で辞めたじゃないですか!!」


ガキ大将風のスポーツ刈りの男子がそういうと、周りも同調しながら大爆笑。

リゼリアに敬語なあたり、上下関係は伺える。

おいおいすごいな。一時間で離職って。

リゼリアは余裕な表情で答える


「辞めさせたの間違いだろう。安心しろ。こいつは今までの教師とは違うからな。」


お、評価が高いのは嬉しいが、ハードルを上げないでほしいなー。

なんかめっちゃこっち見てるし。


「こんな奴がですか?リゼリア先生の冗談は笑えませんね。」


金髪の女子の生徒が嘲笑を向けてくる。


「まぁ次の授業でわかるだろう。次の剣術ユーリー先生との授業だ。存分に胸を借りるといい。」



「リゼリア先生のお墨付きだか知らないけど今のうちに荷物まとめておきなよ?」


さっきと変わらず嘲笑を向けてくる女子生徒。

それをスルーしながら講義室を出る。


「おいおいなんだあの生意気なクソガキは。リゼリア先生、俺の嫌いなものは…」


「平然と嘘をつく女と、金を貪る奴ら、それからクソガキだろう。貴様定番の自己紹介だ。安心しろ、クソガキなんてものは上下関係をしっかり維持すればいうことは聞く。」


「なんで俺の自己紹介覚えてたんだ?それはいいとして、リゼリア先生があのクラス担当すればいいじゃないか。俺はもっと普通のクラスにしてくれよ。」


「私は教頭だ。クラスは持てない。今まで臨時で持っていたがそうもいかなくなったから求人を出したんだ。」


「えぇ!?リゼリア先生教頭なのかよ!出世したなー。」


リゼリアは顔色を変えず淡々と返す。


「繰り上がっただけだ。それよりもユーリー、この後の剣術の授業だが…」


俺はニヤついて答える。


「安心しろよリゼリア先生。俺のやり方でやるが、一応保健師を呼んどいてくれ。」


リゼリアは呆れたように笑ってみせる。


「お前は全く…まぁいい、責任はこっちが持とう。これ以上講師にやめられてはかなわん。」










剣術の授業をしに修練場へ向かう。

着ているのはライトアーマー。胸と膝、脛から膝にか金属プレートで保護された、機動性を重視したもので、腰にはソリのある東洋の剣、『カタナ』を下げている。友人からもらった業物で、卒業してから愛用している。

修練場に着くと、意外なことに生徒たちがもう着いていた。


「おぉ、授業は真面目に受けるのなクソガキ諸君。」


生徒たちは一斉にこちらを睨む。


「クソガキとは言ってくれますね。」


ガキ大将風の少年が噛み付いてくるが、ヘラヘラと笑って返す。


「そういう小さな皮肉に噛み付いてくるあたりがクソガキだったてんだよ。」


ギリギリと歯を食いしばって、こちらを睨んでくる。ここにいる奴らの視線完全に殺し(やり)に来てんじゃん。


「まぁいいや。俺の嫌いなものはクソガキだ。別にたタメ口はいいが、自分より年下に舐められんのは嫌いでな。今日は何人でもいいし、タイマンでもいい。俺と剣を使って組手をする。誰か1人でも俺に膝をつかせたら、一人一つなんでもいうこと一つ聞いてやるよ。」



ニヤついてそういうと、さっきまで怒りで染まった眼光が、余裕の光を孕んだ。


「言ったな?その言葉守れよ?」



「おお、かかってこいよクソガキども。」







最初の1人は予想通り、ガキ大将風の少年だった。この程度の煽りを受けて、相手の獲物もよく確認せず突っ込んでくるあたりやはりガキだったが、申し分のない振りの速度で刃を潰した木剣が振り下ろされる。

それを体を右に開いてかわし、がら空きとなった腹部に膝蹴りを入れる。

少年は吐瀉物を撒き散らしながら四、五メートル吹っ飛びうずくまる。


「おいおい大丈夫か?骨までいかないように調整したぞ?」


うずくまりながらこちらを睨む少年。

お、まだまだ動けそう。


「おーい。早く起きろよ。睨んでちゃ膝はつけられないぞ?」


煽ってみたが、立ち上がるのでやっとのようだ。


「しゃーねーなー…そこでしばらく休んでろ。はい次〜。」


ハッとしたように生徒たちがこちらを向く。

まだ恐れよりは怒りの方が強いようだ。


「くそぉぉ!!」


「調子にのるな!!」


「死ねぇぇぇ!!」


三人が同時に切り掛かってくる。

1人は飛び上がって上段からの切り込み。かなりの脚力だ。脳天を破るように振り下ろされている。

残る2人はそれぞれしたから掬うように腕を切り上げようとする。

それにしても騎士になる人間が講師に向かって死ねはやばいだろ…


「そい」


カタナを納刀したまま飛び上がった生徒の腹部に突き刺す。その反動で後ろに下がりながら残った2人の剣を避け距離を詰め、空振りしたことで開いた腹部に拳を叩き込む。


「そら次だ。」


そういうと男子は怒りと恐怖が半々、女子はほとんど恐怖で体が震えていた。


「そのまま来ないならこっちから行くぞー。」


そう言って近づくと、嘲笑を向けた金髪の女子が叫ぶ。


「やらせておけば調子に乗って!!!!」


剣を手放し、手をかざしてくる。


「五式『豪炎』!!!」


金髪が放ったのは火系統の魔術。それも火力特化の五式。剣術の授業で魔術をやる時点でやりすぎだが、少し痛めつけるというレベルではない。


だが…


「おいおいちゃんと授業受けてんのか?五式の術は火力こそ強いが式の構造自体が脆いから、数人でダミーを張りつつ、式の特定をされないようにするのが定石だろ?」


術は発動しなかった。

魔術戦において、式に別の式を被せてジャミングするのは定石中の定石。

もちろん対策はある。

が、今の感じだとしっかりと学んでいないことが伺える。


「三式『纏雷』」


ルール違反をしてきた子には罰だ。

少しビリビリしてもらおう。

効果の持続時間が長い三式魔術で、金髪を抑える。



「さぁ次行ってみよう。」


満面の笑みで次を呼ぶ。

もちろんわざと笑ってるんだよ?

戦いに喜びを覚えるバーサーカーとかじゃないからね?

ほんとだよ?




楽しい楽しい剣術の授業はその後も続き、特別編成クラスは全員仲良く保健室へ行き。



俺はリゼリアに呼び出されました。







「何か言うことは?」


リゼリアはジト目を向ける。


「特には。あえていうなら後悔も反省もしていないとだけ。」


「予想はしていたが…全員一人一人相手にするとはな。1人だけ締めて脅すのかと思ったぞ。」



ひとり締めて脅すって…

別に脅したくてこんなことをしたわけではない。

結果的にその効果があったと言うだけだ。



「確かにあいつらは強いんでしょう。太刀筋やフィジカル的なことを言えば無能な国軍の脳筋精鋭くらいはありそうです。ただ言ってしまえばそれだけです。戦い方を知らなさすぎる。こんなんで辞めさせられる講師ってどんな奴ですか?」



リゼリアはすこし困ったように言う。


「講師は皆辞職したんだよ。あいつらの多くは貴族の出でな。権力をふりかざそうとしたことに呆れて出て行ってしまった。」


やっぱりクソガキじゃん。

パパとママのおんぶ抱っこでわがまま言おうとするとか、まじて嫌いなタイプだ。

しかし不思議だ。それなら俺に白羽の矢が立ったのはなぜだろう?


「お前を選んだのは他でもない一応所属していた団の知名度と、お前本人の実力だ。現にお前は監視対象だからな。」


「は?俺が?ここ数日の視線は監視ってこと?」


「そうだ。お前は自分が何をやっているのか理解していないことが多いからな。国では今、お前は侵攻してきた蛮族を降伏させた騎士団のエースだと評判だよ。そんなやつが前線から帰って職探しときた。監視されるのは十分な理由だろう。」


蛮族が降伏?

俺のおかげで?

確かに切っては捨て切っては捨てで自分でも何と戦っていたかはよく知らないけど何だかすごく評価されていることはわかった。

だが…



「俺じゃありません。たしかに討伐数は多いですがそれだけです。それに、その討伐数だって、俺の小隊のおかげですから。」


死んだ奴が大勢いる中で、俺が生き残れたのは小隊のやつらのおかげだと言っていい。


「その小隊のこともある。リーシアから手紙で聞いたよ。お前がどうやって小隊をまとめたのかな。」


懐かしいな〜初めはまったくいうこと聞かなかったなー。

そう言えばあいつら今何やってんだろ?


「まぁ何でもいいですよ。食い扶持があればいいので俺は。」


「適当なやつだな…まぁいい。無茶はできるだけ控えてくれ。責任は持つと言ったが、限度はある。後遺症が残ったりしたら庇いきれん。」



「了解でーす。」


手をひらひらと降ってその場を離れる。


「どこに行くんだ?」





「愛しの愛しの生徒たちの元ですよ〜」






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