20.プロのアドバイス
遅れて申し訳ありません…
再来週まで少しこんな感じなので許してください
土埃を上げて倒れる2本の棒
「「「いけぇぇぇ!!!」」」
『競技が終了しました。生徒は待機場に戻ってください。』
ブザーが鳴り競技が終了する。
会場には結果を待つソワソワとした期待や緊張、不安が渦巻いている。
『結果を発表します。依頼ではありますが第1位から…』
(((絶対にあのクソ教師の仕業だ。)))
特編クラスは全員がそう思っただろう。
『第1位、第2クラス。』
「「よっしゃぁぁ!」」
第2クラスから歓声が上がる。
だが心なしかその声は気まずさをはらんでいた。
防衛し抜いた第2は素晴らしい戦いだったが、結果だけを見ればその理由は何となくわかる。
第2の勝因は、棒を倒されなかったこと。
いいとこ取りと言われても仕方のない勝利だった。
第2位、第3位は圧倒的な差が出てしまう。
防衛失敗と、攻撃失敗が同時にくるのだから、順位だけでなく、ポイント的にも大きな打撃となってしまうのだ。
両クラス、ほとんどの生徒が胸の前に手を組んで、祈りを捧げている。
『第2位…』
運命の瞬間
『特別編成クラス。』
「「おおっっつしゃぉぁぁ!!」」
特別編成クラスから歓声が上がる
しかし…
『なんてなぁ!そう上手くいくか!ばぁぁかぁぁ!』
ユーリーの高笑いが響く。
特編クラスの全員は拳を突き上げた状態で固まる。
『特別編成クラスは、炎牛雷牛を生徒に向けて使ったことで減点!マイナス100点で三位!一から授業やり直すか?バカどもが!』
ギャーギャーと騒ぐユーリー
特別編成クラスはゆっくりと拳を下げる。
『授業でやっただろうが。四元素多元の高等魔術は大抵火力と範囲が広いから、乱戦時の使用は控えるのが基本だって。教えたよねぇ!?』
アレスはスタスタと待機場に戻り、拳を突き上げると…
「いってねぇよばかやろぉぉぉ!!テメェが片っ端から気絶させるからおぼえてねぇぇよぉ!!」
思いっきり地面を殴りつける。
派手な土ぼこりが立ち込め、クラスメイトさえも若干引いている。
『おいユーリー今のはどういうことだ?』
後ろからリゼリアの声が聞こえると、ユーリーは慌てて放送を切り上げた。
『というわけで次の競技は昼食を挟んで50分後、第3修練場にて、四元素魔術モノリス戦です。遅刻しないように〜。解☆散!』
物理と放送が切れる。
わなわなと震える
「「「「あんのクソ教師がぁぁー!!」」」」
その怒号はどのクラスの歓声よりも大きかった。
「ふいぃー焦ったわー。」
「何を焦る必要がある?」
うぇぇー逃げ切ったと思ったのに…
「教えてないわけじゃないんだぜ?あいつらが覚えてないんだ。そもそも魔術構成的に当たったらやばいことくらいわかるだろ?」
「ならその上で生徒の指導を怠った貴様のミスだ。大人しく頭を下げてこい。」
ユーリーは舌を出して断る
「嫌だね。誰が頭下げるか、だいたいあいつらがすぐ…」
「ならこの一撃を見舞ってあいつらの仇討ちとしよう。」
ユーリーが何かを言いかけたその時、リゼリアは手が消えるほどの高速な打撃をユーリーの頭部に繰り出す。
「いてぇぇぇぇ!?腫れた!本当に腫れましたよ!?」
「知らん。」
ユーリーがジタバタと呻き回る。
それを取りつく島もなく一蹴するリゼリアは、今日何度目かわからないため息をついた。
その頃、特別編成クラスでは、怒り狂うアレスをようやくなだめていたところだった。
「どうどう。落ち着けアレス。」
「そうだぞ、いくらシャドウボクシングをしたところであいつは死なないし、ただ高笑いを決め込むだけだ。」
アレスは深く深呼吸をして、怒りを鎮める。
「取り乱した。すまん。」
他のクラスメイトは苦笑いをしながら答える。
「いやあれは怒るでしょ。仲間内でも競技の作戦教えないのがここで来たって感じよね。」
「たしかに。私も授業で少し聞いた気がします。アレスくんたちは運悪く全員気絶してたんでしょうけど…」
「取り敢えず各自昼食を取ってくれ。家族に声をかけてきてもいいぞ。」
アレスがそう指示を飛ばし、クラスは一旦解散となる。
「さて、俺も昼食を買いに…あ、今日は購買は休みなんだ…」
「そんなお困りの君に、何とルージュカフェのサンドウィッチがあるよ〜?」
購買が休みなのを忘れて少し憂鬱だった気分が一転、先ほどまで収まっていた怒りがふつふつと湧き出てくる。
アレスは顔の横にある紙袋を掴み取る。
「そんなに慌てなくてもくれてやるよ。お前どうせボッチメシだろ?俺と食おうぜ♡」
「気持ち悪いわ!クソ教師がどのツラ下げてきてんだ!?」
うわー
思ってた以上に怒ってるよ〜。
「見ろこの後頭部を。リゼリアに怒られて殴られたんだぞ?」
「それは良かったですねっ!」
アレスが後頭部にめがけて殴りかかる。
それをあっさり避けるユーリー。
「反省会しようぜ?」
ユーリーはヘラヘラ笑いながら校舎へ向かって歩き出した。
「レッドがかけたのは傑作だったぜ!!」
「おい、それ師匠が弟子にかける言葉か?」
腹を抱えて笑うユーリーにジト目を向けるアレス。
「いやぁーでもあいつの作戦面白かったろ?俺も言われた時は驚いたわ」
「そういう趣旨だったんじゃないんですか?」
アレスの質問に横に首を振る。
「魔術を一度まで認めたのは、できないことを前提にだ。どうやったって、魔術を発動して敵の数を減らしたとしてもロスにしかならないよう計算してたからな。できるならやってみろって感じだったんだが…」
アレスは頷く。
たしかに、この文言を見たら誰でも一度の魔術を使用を試みるだろう。
だがちゃんと計算してみると、一部の高等魔術を抜いて、攻撃魔術はどれを取っても基本的にロスにしかならなくなる。
身体強化にしても、使用後の反作用を考えると非効率的という答えが出てくる。
「あいつはいい参謀になるぞ?それを今まで見落としていたのは、俺もお前もまだまだってこった。」
ユーリーはコーヒーを煽り、ところでと続ける。
「チャリオット作戦は良かったぞ?まぁ、第2を落とさなかった時点で欠陥品ではあるが。」
「わかってますよ…」
アレスは俯いた。
わかってはいた。
第1と第2が手を組んでくるかもしれないことも。
自分たちのクラスが火力で劣っているということも。
「お前は優しいからな〜。部下を過信しすぎてる節があることくらい自分でもわかってるだろ?別に冷徹になれって言うわけじゃないけど、時には割り切るのも味方を守るために必要なことだぜ?」
無能な指揮官の無能な指示はしかばねしか生まない。
そいつに何が出来て、何が出来ないか。
それは、そいつを守ることにつながる。
「お前はソラウスならできると考えたんだろうけど、実際は出来なかった。本当の実践なら、ソラウスは串刺し、その後方の女子も守りきれなかっただろう。」
「はい」
「優しさを捨てろとは言わん。ただ人の見る目は鍛えろ。プロのアドバイスだ。」
「…はいっ」
唇を噛み締めた。
悔しくて悔しくて悔しくて
どうしようもないほど悔しかった。
気づいてた。
分かっていた、
でも出来なかった。
「悔しかったら優勝しろよ?結局、勝ちゃぁ何とでもなるんだから。」
ひらひらと手を振って去っていくユーリーを後ろに、アレスは残ったサンドウィッチを口に押し込んだ。
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