17.棒倒し
棒倒しは二から三本を予定中です。
ユーリーはニヤニヤと腹の立つ笑いを浮かべて、空に向けて手を拡げる。
そして空を仰いだ声を張り上げた。
「オツムの弱い観客の皆様!ここはあくまで優秀な騎士を育成する場です。皆様のオツムを鍛える場ではないので、皆様に何かを伝えることは控えたいのですが…」
その言葉は悪意純度100%。
ヘラヘラと言ってのけるユーリーに血管を浮かべて観客達が一斉に怒号を。
「ふざけるなぁ!!貴様我々をなんだと思っている!?」
「そうよ!我々上流階級をなんだと思っているの!?」
「こんな教師だからあんな生徒達が生まれるのだ!そいつをクビにしろ!」
散々な言われようだが、ユーリーはニヤニヤと笑ったまま、黙っている。
すると観客の一人が立ちあがり、空き瓶を持ち生徒にめがけて投げつけた。
「おまえらみたいなのが騎士の恥だ!やめちまえ!」
刹那、ユーリーの姿が消えた。
そして次に現れたのは瓶を投げた観客の真後ろだった。
「おい、よく聞け。」
あまりの早業に他の観客は一斉に黙り。
「おまえらが騎士にどんな幻想を抱いてるかは知らない。が、百聞は一見にしかずともいう。一度東方戦線に行って騎士達がどんな戦いをしてるか見てくるといい。」
「なっ!?お、お、おまえ!?」
「テメェらにしてもそうだ。好き勝手言いやがって。そんなに騎士道が知りたかったら最前線でも行ってくるんだな。すごいぞ〜?正面特攻をかけて一瞬で挽肉になる同僚、だまし討ちを受けてズタボロになって帰ってくる奴ら。」
ユーリーは会場の中央に戻る。
「いいか?これは他クラスにも言えることだが、戦争ってのはそんなに綺麗事じゃねぇ。俺のクラスにはそれを教えているつもりだ。お前らがどんな幻想を抱こうとも事実は変わらない。こいつらは容赦なく絡めて、だまし討ち、卑怯な技、遠慮なく使ってくるから。」
「ま、せいぜい頑張れよ?優等生。次の競技の開始時間は今から20分後だ。会場は第二修練場。観客は見たいやつはこい。面白いものが見れるのは確かだからな。」
時報のブザーが鳴り響いて、会場には何とも言えない空気だけが重く重く残った。
「というわけで、お前らがだまし討ちをすることはバレた。ここから先はどれだけ隠し通して、上手くやるかだ。」
ヘラヘラと笑ってユーリーは言ってのける。
「先生…俺たちをかばってくれたのは嬉しいんですが…」
「俺優しいからな。もっと感謝しとけ?」
アレスは血管を浮かべて怒鳴る。
「だからってあんな警戒させること言わなくてもいいだろうが!?何でわざわざ俺たちの勝率を下げにくるんですか!?」
ウンウン
言いたいことはわかるが…
「ばぁ〜か!それじゃつまんねぇだろ?それにお前達だけせこい手を使うのは教師的にはアウトだ。」
「だからってあんな堂々とっ!?」
ユーリーはフッと鼻で笑う
「なぁーに?アレスくんは先生のせいで勝てないかもっていいわけがほしいのかなぁぁ?」
「なわけねぇだろ!!しばくぞこのクソ教師!?」
アレスが切れた。
「落ち着けってアレス。そもそも状況はあまり変わってないだろ?」
シンカーがアレスをなだめた。
「それは分かっている。俺が気に食わないのは、こいつが俺たちを引っ掻き回して楽しんでいるというこの状況だ!見ろこいつのヘラヘラと笑った顔!」
「「「「これはこういう顔だから」」」」」
おい、落ち込むぞ?
「ま、他のクラスも大慌てで対策を打ってくるだろうけどま、頑張れや。」
ユーリーは手をひらひらと振りながら会場を出て行った。
「なかなかのヒールっぷりだったじゃないか?お前らしくもない。」
リゼリアがニヤつきながらこっちを見てくる。
「俺も柄じゃないことはわかってるよ。」
そもそも俺は煽るだけ煽って事後処理をリゼリアに投げようと思っていたのだ。
まさか切れかけるとは…
「ぬるくなったなぁ〜」
無意識に声が出る。
「お前は教師だ。戦争に行ってるわけでもないのだからそれくらいでいい。」
「それもそうだな。」
前線帰りは日常に馴染めない。
同僚が死ぬ姿が脳裏に焼きつき、血が手にコベリ付く感覚を、そう簡単に払拭することはできない。
いまだに忘れられない記憶があり、それを前線で押しとどめていた。
だが今はどうだろう?
ぬるい日常がそのダムが決壊しそうだ。
「最近さ…ザナを思い出すんだ。忘れようとしてたのに。」
そう突然のつぶやきに対しリゼリアは目を見開き、そして悲しそうにユーリーを見る。
「何でだろうな…ま、今はそんなことどうでもいいか。」
ユーリーは立ち上がって進行パンフレットを読む。
「次の競技はあんまり作戦とか関係ない完全な実力だからな〜。あいつらがどんな戦いをするか楽しみだ。」
リゼリアにはその姿が寂しげに映って仕方がなかった。
第2種目は結果から言うとイーラが一位、ラーシャが三位、レッドが五位と言う結果になった。
前半50メートルでは、ラーシャ、イーラ、レッドが首位を抑えていたが、50メートル地点で魔術トラップが連発。レッドが対応に遅れて七位まで落ちた。
この時点でイーラとラーシャは、変わらず首位を抑えていたのだが…
「何よあの大量の虫!?」
ユーリーの性格が出た結果と言えるのだろうか、昆虫トラップにラーシャは五位まで落ちる。
「だいたい何で虫なのよ!イーラは難なくクリアしてるし!」
「私は一気に燃やしてたから…」
イーラは虫とは認識せず、燃やしたらしい。
「いや〜でもレッドの追い上げはすごかったなぁ!」
「たしかに!一回、七位から三位まで抜いてたもんね!」
魔術トラップで足止めを食らったレッドだが、その後の物理トラップやゴーレム、虫などをことごとく突破。
順位を一度大きく上げた。
「弓矢を手で止めた時は驚いたよ」
アレスが呆れ顔でそう言う。
「すごかったよな!あれ魔術対応で止まるはずなのに、レッド手で止めてんだもん驚いたぜ」
「まぁ、その後のは傑作だったけど…」
「……本当に申し訳ない…」
レッドが俯いて謝る。
それは残り30メートル地点でのこと。
沼ゾーンを避けるために、レッドは沼を凍結させたのだが…
「まさか自分で張った氷に滑るとはなぁー。」
「……申し訳ないっ…!」
恥ずかしそうに俯くレッド。
そう転んだのだ
自分の張った氷で。
そこで順位を五位まで落としてしまったのだ。
「あれはマジで笑ったぜ!傑作だ!」
ぶはははと笑うソラウス。
「やめてくれソラウス…」
顔を赤くして俯くレッド
それを見た女子たちは…
(((レッド君意外と可愛い…!)))
少し株の上がったレッドだった。
その他のクラスの結果としては、2.6.9位に第1クラス。4.6.8位に第2クラスだった。
6位は同率
そんな第1クラスは
「みんなよくやってくれた!この調子で棒倒しも行くぞ!」
二種目で惨敗を期した特別編成クラスに一矢を報いたことで士気が上がっていた。
「あのレッドってやつすごすぎだろ…前の競技で疲労していたはずなのに5位って…それも転んだ上でだ」
「だがポイントの差は縮まった。次は棒倒しだ、シュラウドどうする?」
「今から新しく作戦を組んで連携を崩すのは得策ではない。それに一応手は打ってある。」
シュラウドは不敵に笑った。
各クラスが修練場に三角形を作るように並ぶ。
「あいつら少なくねぇか?」
ある生徒が特別編成クラスの人数を数えてそう言う。
「なら好都合だ。物量で押しつぶすまで。」
シュラウドが敵を見据えてそう呟く。
『第四種目、棒倒し。開始します。』
ブザーとともに、一斉に各クラスが動き出す。
オフェンスが一斉に飛び出す。
それも第1と第2が揃って
「いけぇ!!」
「特編を下ろせぇぇ!!」
「随分と好かれたなぁ俺たち。」
「ま、成るように成るだろ。」
特別編成クラスは苦笑いをしながら突撃してくる他クラスを眺める。
「さぁ、行ってみようか」
第四種目、棒倒し
開戦
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新シリーズも気が向いたら読んでみててください