表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/22

11.特訓するそうです②

扉をあけて入ってきたユーリーは教師用の椅子に踏ん反り返った。


この椅子なかなかに座り心地がいい。


「ん?どうした?ないならいいけど悩んでる奴もいるだろ?」



そう投げかける。

だいたい、これだけの競技一つ一つにしっかりとしたストラテジーを組めという事自体無茶振りなのだ。


ま、その無茶振りした張本人が俺なのだけど。


「先生、質問があります。」



最初に手を挙げたのはイリスだった。


イリスは教卓の近くまで小走りで駆け寄り、質問をする。



「魔力エンチャントを教えてください。」



おっと、こいつそこに気づくとは…


「やるじゃねぇか。いいぜ明日第二修練場に来い。コツと見本くらいは見せてやる。」



準高等とはいえ、魔力を固定して、ただ身体に付与するだけだ。一度感覚を掴めばそう難しい話ではない。




次に来たのはレッドだった。



「先生このルールなんですが…」





「ぶはっはっはっは!!!お前おもしれーな!!まじ最高!!」



結論から言えば、レッドの質問はルールギリギリだった。

裏技、黒よりのグレーゾーンと言ってもいい。


だが筋は通ってる。



「いいなそれ!!やれ!絶対にやれ!!」


俺の大好き、搦め手裏の手卑怯な手。


是非とも実践していただきたい。




その後も順々に生徒たちは質問をしていき、気づけば最終下校時刻を過ぎてしまっていた。


リゼリアに怒られたのはまた別のお話。




生徒たちを見送り、教員室に残ったリゼリアとユーリー。


「何か面白いことでもあったのか?」


リゼリアがそう聞く。


「あぁ。あいつらはやっぱり面白いぞ?俺の予想を超えたのが何個かあった。いや〜まじで楽しみだよ。」


「反則ではないんだろうな?」



「そりゃそうさ。ルールは守る。じゃなきゃ意味がない。」









翌日の放課後、生徒たちは修練場にやってきていた。

修練場の使用は割り振られており、トラブルなど起きようはずもないのだが…



「見られてるな。」



「見られてますね。」


アレスは予想通りの偵察に頭を悩ませる。


そんな時、あくびをしながらユーリーが入ってきた。




「お前らなにやってんの?時間ないんだからさっさと動け。」



このドアホは〜!


「偵察が来てるんですよ?手の内晒すわけにはいかないでしょ!?」


アレスは半ギレでそう返す。

呆れたようにあくびをしながら返す。



「あのなー、どのクラスもスタンダードは変わらねぇんだよ。見せてもいいところをここでやれ。見せられないものは授業中にやればいいんだから。」


ぶっちゃけどのクラスも考えていることは同じだ。

魔術とゴーレムという共通の課題に対して、生徒たちのもっているカードほとんど同じ。


対応が似てくるのは必然といっていい。


だからこそ…


「お前らが勝負に勝つために必要なのは隠しカード。いわゆる奥の手、切り札って奴だ。それは見せちゃいけないのは正しい判断だ。だが基礎的な能力は別に見せても構わない。警戒させるつもりで見せてやるのも手だ。」



「わかったらとっとと動け。」



そう言って手を叩く。


そもそも生徒の偵察などあまり意味がない。

生徒たちにわかるのはせいぜい強そうか弱そうかぐらい。

そんなものに時間をかけるくらいなら練習した方が効率的だ。




「イリス達は第2に行くぞ。一応結界魔術ははるから問題ない。」






第二修練場につくと、イリス達に向き直る。



「いいか?今から多元の二種複合を習得するのはできないことはない。感覚を掴めさえすればな。だが無理な可能性もある。」


「分かってます。」


「ならいい。よく見ておけ。」



手のひらに魔力固定の魔術を発動、そこに魔力を固定する。その後、身体にポイントを設置し、そこを起点に付与魔術を発動、付与対象は言うまでもなく魔力固定をした魔力。


今回は膝からつま先、拳と膝に付与をした。



「こんな感じだ。この魔術の壁は二つ。一つ目は付与のポイントを設置した後に、魔力固定した魔力を付与対象に設定すること。二つ目は、付与対象の魔力をしっかりポイントに付与し定着させることだ。」



「うわっ超難しそうなんだけど。」


「できないよ〜!」


ナーガとミーアが頭を抱える。



「最初は難しそうでも、感覚を掴むと、一式のように楽々できるのがエンチャントのいいところだ。サリウスとリベラ、イリスはエンチャントしたことはあるんだろ?多元式は術式の構造が複雑だが、式の一つ一つを見るんじゃなくて、式全体として扱うといい。少しはやりやすくなるだろう。」



魔術の基本は式の構造を理解することでもある。

そのためエンチャントをするたびに、付与対象の式を隅々まで認識しようとすれば、それだけ莫大な情報を処理しなければならない。

一式は簡単な式のためそれでも付与できるのだが、多元式は、それでは流石に無理がある。


「いいか?ここは適当に式を捉えるんだ。むしろ式なんて考えず、事象だけを認識してもいい。魔力を固定し、そこにある魔力をイメージしろ。それをそのまま自分の設定したポイントにくっつけるんだ。」



「お、おぉ!?」


サリウスが声を上げる。

サリウスの拳に、少しだけだが魔力がまとわりつく。


やっぱり、やったことある人間は習得が早いなー。


にしても…



「イリス、考えすぎだ。式の情報が多すぎる。認識として、お前は多元式の情報を精密に扱い過ぎだ。」



「うぅ…適当に、適当にするのよ私!」


なんかダメな方向に走りそうで先生は心配です。



「う、ううわぁー!!できるかぁ!!先生なんかわかりやすいイメージないの!?」


ミーアが絶叫を上げた。


「手に集めた蜂蜜を、自分の選んだ場所に塗りたくる。」


「なにその例え!?でもわかりやすい!」


騒がしい奴だなこいつ。

まぁそれでできるなら簡単なんだけどな…

いわゆる天才って奴だ。



「あ、できた。」



天才なんかい!!



「お前、天才だよ…」


「先生に褒められたぁぁぁ!!」


ただ…



「絶対に人に魔術教えんなよ?」



「なんで!?」



魔術は論理だ。

感覚でできる天才は教えるのが決まって適当だ。


「すげーなミーア!!どうやったんだ!?」


話を聞かない奴め、後悔するぞ?



ミーアがナーガに教える。



「えぇーとね、なんかこう、手にためた魔力を拳にべちゃーってつけるの。」


ほら見たことか。



そんな説明でできる奴がいるわけねーよ。




「うぉぉぉ!!できたぜ!!」


お前も天才なんかい!!!


もう嫌だ。

俺教師の自信なくしたよ。



「先生できません…」


俯いてそう言ってきたのはリベラだった。


「やっぱりこう言うのって才能なんでしょうか…」


「いやいやいや違うから。あれがおかしいだけだからね?これ準高等だから。それにリベラ、最終的により出世するのは論理を理解してる奴だから心配すんな。いいか、順序だてて行使するんだ。」



「なんでー!?私たち天才は騎士団でちやほやされないの!?」


「早速調子に乗ってるな?イメージだけで魔術が使えるってのは、逆にイメージがないと魔術が使えないって意味でもある。今までもあったろ。よくわかんないけど使えたなんて経験が。」



図星だったのか二人は目をそらした。


「騎士団に入ってから苦労するぜ?例えば迷彩術式。あんなのイメージなんてできないから。透明になるとかで済む術式じゃねーからな?」


「ひどい!先生ひどい!」


「そうだ!子供の夢潰してなにが楽しいんだ!」



「お前らを思ってだろーが!今のうちに理論を理解する癖をつけとけ!」




「先生できたんですけど…」


イリスがそうユーリーに言ってユーリーに近づく。

拳には魔力がしっかりとまとわりついている。

しかし異様な外見で。



「なんだ?魔力刃?」


魔力刃とは魔力の形状を操作して作るもの。

概念自体がアバウトな魔力は、他の形状操作に比べて群を抜いて難しい。

それをイリスが?


「ん?」


よく見るとイリスの拳にまとわりついている魔力は、身体中に張り巡らされていた。



「おいおいおい。お前、系譜魔術はなんだ?」


系譜魔術。


それは家系によって得意な魔術であり、その家の血筋に刻まれた術式のことである。

魔術理論的に言うならば、先祖代々からつながる、家系図そのものが魔術式として稼働しているもので、中には理論が解明できないものも数多くある。


「エ、エンチャントですわ。エンチャントの中でも形状を付与する魔術です。」


「なるほど。魔力の形状付与は超高難易度。系譜魔術で適正があるなら理解出来る。親からはなんで説明されてるんだ?」


イリスは焦ったように答える。


「私の家系は、18のになると系譜魔術を教えられるです。一応、形状エンチャントの魔術だと教わってはいたのですが…」



「俺たちに見せたのは仕方ないが…おそらくだが、お前の家の系譜魔術は形状付与、それも魔力の直接操作だ。形状は血筋に従って発現するのだろうが…帰ったら親に言え。系譜魔術には呪い的な要素が含まれることもある。」


言ってみれば系譜魔術は先祖から受け継いだ古の魔術。中には強力だがデメリットを抱えるものもある。見た感じはなさそうだが、万が一がある。聞くに越したことはない。



「お前らも今日はここまでだ。家に帰って反復練習しとけ。」





こうして1日目の特訓が終わったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ