9.特訓を決意したそうです
二日に一回のペースを保とうと思います。
アレスがユーリーに対して抱いた感情は呆れと、侮りだった。
これまで多くの講師たちが自分たちを教えに来て、その度に決まって去っていった。
講師たちは決まって、
「お前たち貴族は貴族らしく、真っ向から向かわねばならん。卑怯な搦め手などもってのほか、純粋な力を追い求めなさい。」
だがよく考えて欲しい。
ここいる生徒たちはその家族の中でも、騎士団に入って戦場に出なければならない地位の奴らだ。
自分がその代名詞。
王族第四子。聞こえはいいが、継承権もなく、内政のポストさえ確約されていない地位。
そんな人間に貴族、王族の心構えを説く講師に、強い嫌悪感と、師匠である講師が、自分たちの感情を理解してくれないことに対する悲しみを覚えるのは仕方のないことではあるだろう。
唯一、リゼリアだけは生徒たちに合った戦い方を教えていたが、教頭ゆえ、それが時間の問題であることは生徒たちは皆理解していた。
特別編成クラス。
成績優秀にもかかわらず、何かしらのマイナス点を持ったクラス。
喧嘩っ早かったり、極端に得意な分野が偏っていたり、貴族相手に容赦なく殴りに行く平民生。
授業にほとんど出ないで戦場に向かうバカ。
よくもまぁ揃えたものだ。
それゆえに講師たちは離れ、それに意固地になっての悪循環が生まれていたと、今ならわかる。
そこに現れたのがユーリーだった。
リゼリアの弟子であるユーリーの第一印象はヘラヘラした奴。
またカモが来たとみんなは大爆笑していた。
俺もしていた。
今までと同じように、最後には顔を赤くしてこういうに決まっている。
お前らのような性根の曲がった奴など教えられるか
だから笑った。
懲りずにリゼリアが連れてきたことに。
何も知らずに自己紹介をしているこの講師に。
そして…
誰からも教えられることなく三流へと落ちていく自分に。
だから期待しなかった。
またいつものように、無礼な奴らと罵るだけ罵ってほっぽりだすのだろうと思っていたから。
そいつは違った。
クソガキと罵り、挑発に乗って襲いかかっていった挙句、全員が保険棟送りにさせられるまでボコボコにさせられた。
教師のやることか?
生徒をほぼ失神状態まで陥れて指をさして笑うことが?
王族貴族とか、騎士科とか関係なくやりすぎだろ。
殴られて、最初に思ったのはこのクソやろうだった。
それはそうだろう。
初対面に向かって爆笑を飛ばした自分たちが言えたことではないが、いくらなんでも理不尽だ。
もと騎士の大人がやることではない。
目覚めてから少し経って、あいつはやってきた。
ニヤニヤ笑いながら腹の立つヘラヘラした口調でお前らは弱いと言われた。
心底腹が立ち、もし国王になれるなら真っ先に打ち首にしているところだ。
だが反論できなかった。
それはそうだ。
自分たちは完膚なきまでに叩きのめされて、その上で何がダメなのかまで正確に言われてしまったのだから。
悔しくて悔しくて、そして少し悲しかった。
今までの講師も、ダメ出しはしてきた。
ここがダメだと。
ここがなってないと。
そして次には決まって、
こうしろと。
だがやはりそいつは違った。
そいつは聞いてきた。
どうしたい?
自分についてくるかどうかを聞いてきた。
はっきりいって嫌だ。
こんな奴に頭を下げて教えを請うなんて。
それにさっきまで人をボコボコにしておいて今更何教師ヅラしてんだってかんじだった。
だが、そいつが今までの奴らとは違うということくらいは分かっていた。
真剣に向き合ってくれる。
そんな気の迷いのような予感が脳裏によぎった。
あいつは選んだといった。
自分たちを弟子に選んだといった。
そして後は自分たちで決めろといった。
選択権は自分たちにあると。
師匠とは認めない。
自分たちをボコボコにしたことは忘れないし、クソガキと罵るのも胸糞悪い。
だが少しくらいなら試してもいいのではないだろうか?
王族第四子。権威だけで何の力もない自分が、力ある騎士になるにはあいつの教えは必要だ。
この時アレス・エンディバラは師を得たのだった。
アレスは保険棟に着く。すると保険棟の中から出てくる自分のクラスメイトと出会った。
「もう大丈夫なのか?」
クラスメイト達は頷く。
「ユーリー先生、魔術で意識落としてたみたいだから、持続性はなかったよ。」
「この間みたいに物理的に落とされなくてよかったよー。」
アレスはクラスメイト達に向かって声をかける。
「話がある。体育祭のことだ。教室に行こう。」
「みんなにはこれから適性のある競技を割り振っていく。これは俺が考えた。間違いや勘違いもあるかもしれない。質問や意見はどんどんしてくれ。」
クラスメイト達は一様に頷く。
「まず百人斬りは、クラリスと、ハイラ、シンカーにソラウス、最後にレッドだ。」
女子二人に男子3人の編成。
クラリスとハイラは撃ち漏らしのサポート。
シンカー、ソラウス、レッドは走力と、切り込み、耐久力に長けたメンバーを選出した。
「次に二百メートル直線障害物競走。メンバーはラーシャ、レッド、イーラ。レッドはここで重複してもらう。」
レッドは実家が猟師。
フリーランニングに長けた、実践型のフィジカルを持つ。
イーラ、ラーシャの2名はマルチタスクに長けており、先の演習でも、存分に発揮していた。
「棒倒しは俺、フラン、リベラ、サリウス、ユリウス
ロキ、ミーア、ナーガ、シンカー、ソラウス。」
無系統に長けたものを五人、フィジカルで五人で選んでいる。
「おいアレス。なんで10人なんだ?15人入れれば良いじゃねぇか。」
「俺も最初はそうしようと思っていたんだがな、まずうちには無系統に長けた奴が少ない。7人だけだ。それも練度が低い。お互いに術式の干渉が起きてしまうだろう。」
下手に術者を増やして、ジャミングを引き起こすのは得策ではない。術者は五人。守りには二人のみを配置する予定だ。
「じゃあフィジカル班を増やせば?」
首を横に降る。
「無系統には硬直魔術が含まれている。下手に守りを増やせば返って足場を作ることになる。そして今回の棒倒しは棒の移動がありだ。少数精鋭で無系統魔術のクールタイムを狙うしかない。」
無系統による戦略はぶっちゃけ範囲が広すぎでピンポイントで対策を打つのが難しい。
そして大切なのは魔術的思考。
余計な情報は結果に対して悪くしか影響しない。
人数15人の棒倒し。
やろうと思えば3人でも倒すことは可能だろう。
魔術というイレギュラー性が介在しても、その事実は変わらない。
「質問はないな?では次だ、モノリスは、イリス、ミーア、リベラ、ナーガ、サリウスだ。本当のところ、イリスは出したくなかったんだがな。」
「どうしてですの?」
「それに応えるためには選抜決闘の人選を言わなければならない。選抜決闘は、俺、イリス、そしてユリウスだ。」
周囲がざわつく。
「お前とイリスはわかるがユリウスはどうしてなんだ?」
ユリウスはあまり目立たない生徒。
クラスの端っこでいつも寝ているイメージがある。
ユーリー先生とは割と仲が良さそうで、クラスの人と話すときよりも口数が多い。
「ユリウス。お前、先生に一撃当ててただろ?」
クラスメイトはギョッとしてユリウスの方に振り向く。
「まぁーまぐれだけどねぇ。」
「まぐれで当たるほどあの先生のツメが甘いと思うか?」
百歩譲ってまぐれだとしてもすごいと、クラスメイト達は驚いていた。
「お前はやる気を出すのが上手いからな。今回の体育祭で本気を出してくれないか?」
「いいよぉ〜」
軽い返事とともに、手をひらひらと振って応える。
「ありがとう。それで、なんでイリスを出したくないかだったな。もう分かると思うが、要するに選抜決闘での手の内をモノリスで見せたくないということだ。できることなら選抜決闘にでる奴は他の競技にも出したくはないのだが、それは無理だからな。」
「だからモノリスはいかにイリスの手の内を出させないかが勝負になる。」
クラスメイト達は思案顔を浮かべながらも頷いて反応を見せる。
「これからは特訓だ。それぞれ先生に頼んで特訓してもらおう。癪だが、あいつのアドバイスは的を得ている。」
「ま、やるしかねーよな。」
「そうだよね。特訓したくないから死ぬほど特訓するとかなんか矛盾してる気がするけど…」
アレスは大きく息を吸い込んで。
気合いを入れる。
「勝ちに行くぞ!!!」
「「「「おう!!!!」」」」
この日、騎士育成科特別編成クラスの特訓が始まった。
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頑張るぞい( ̄^ ̄)ゞ