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不運と出会いの因果 5

 異物を発見したと思った直後、ロスに向かってそれは急進した。


 「あれって、ラインバッカー?もしかして、爆発はアレが原因じゃ…!」


 ロスの前に降り立ったラインバッカーは異形な雰囲気を醸し出している。

 マニピュレータが存在せず両腕、両肩、両足にスラスターが備え付けてあり、前面と後面が対象となっている。


 その奇妙なラインバッカーが突然話しかけてきた。


 『こんなところで遇えるとは思ってもいなかった。以前見たものとは若干違うが、改良機?いや、新型か?どちらにせよ、Gの強さを引き継ぐもの…!つまり、俺の越えるべき壁!そのラインバッカー破壊させてもらう!!』


 突然の宣戦布告にロスが対応できるはずもなく、敵の先行を許した。未だに、自分がラインバッカーに登場しているとは微塵も思っていなかった。


 ディルは、ブレッヘンをロスの乗る機体の右側面へと全身のスラスターを器用に活用し回りこんで右手を敵機頭部に突きつけた。


 ロスの乗るラインバッカーに衝撃が走る。


 一瞬だった。


 ロスは為す術なく敵の攻撃をもろに受け機体の頭部半分が破壊される。


 ロスの悲鳴がコクピット内に響き、それと同時に絶望が押し寄せる。


 ―殺される!殺される!殺される!


 頭の中で連呼される最悪の事態、そしてある異変に気付く。


 「見え…ない…」


 今まで見えていた景色が一変、真っ黒の闇。悪夢の再来である。


 発狂とも思しき声をロスが上げ、怒涛の如く訪れる絶望に彼の精神は崩壊しつつあった。


 ディルはロスの乗るラインバッカーから距離を取ると怪訝な声を上げる。


 「なんだ?こいつは戦う気があるのか?」


 あまりの無防備さが逆に警戒心を増長させた。

 

 ロスの乗る機体のコクピット内では、アラーム音が鳴っている。

 そして、目の前の情報表示スクリーンには損傷箇所が表示され、音声ガイダンスが状況を告げる。


 『損傷箇所報告―右頭部大破。システム障害報告―視界影像システム沈黙。危険度レベル五と認定。パイロット操縦困難。防御優先。認証承認省略。戦闘システム作動。環境判定―大気圏内地上。『ファルベ』地上戦闘モードへ移行』


 「なっ?!装甲が割れた…?!」


 ディルが告げたように、『ファルベ』に密着していた装甲全てに亀裂が走るようにして分かれ始めた。

 分かれた装甲の間からは、内部の構造が窺える。


 すると、分かれた装甲の隙間から今まで息を止めていたかのように勢い良く空気を吐き出した。

 続けて白煙が排出され、『ファルベ』の全身を覆った。

 残った頭部にあるデュアルアイが煙越しに怪しく光る。


 「どういったラインバッカーだ?!」


 ディルが目の前にある奇妙なラインバッカーに驚いていると、突然それは右手を差し伸ばしてきた。


 その所作に敵意はなく。

 むしろそれは、助けを必死に求める弱者のもの。

 ロスの意思がそうさせたのか。

 あるいは、ディルが瞬時にそう悟ったためか。

 ただ、どちらでもかまわない。

 確かに敵意はなかった、そう断言できる。

 だから、パイロットとして実戦経験を多く持つディルが一縷の油断をしたことに対し、誰も咎めることは出来ない。

 さらに、油断していなかったとしても、それを回避できたとは到底思えないのだから。


 敵の哀れな姿に見入ったディルの乗るブレッヘンに衝撃が襲った。


 「なんだと?!」


 すぐさまディルはモニタにて損傷箇所を確認。


 左肩装甲損傷。

 スラスターに問題なし。

 腕の動作にも問題なし。損傷軽微。通常運用に支障無し。


 ―攻撃はどこから?


 ディルは再度敵機の確認をするが、眼前の機体しか確認できない。

 敵から目を離した覚えはない。

 攻撃動作をした覚えもない。


 ―ならどうして?


 ディルは言い知れない戦慄を覚える。


 ブレッヘンの両腕を前方に構え、ビームを放つ。


 ファルベは、交わそうとする動作など一切みせず直撃を受け、その衝撃でよろめく。

 しかし、傷をつけることは出来なかった。


 「ビームが霧散した…あの煙、防御壁を担っているのか?!だったら…!」


 ディルはすべてのスラスターを吹かし、ファルベの背後に高速で回りこむ。


 「これならどうだ?!」


 ブレッヘンの右腕から伸びるビームソードで低い体勢から横なぎを入れる。


 ファルベの両足を切断。


 崩れ落ちる前に、左腕からもビームソードを伸ばし、高らかに上げた両腕を振り下ろす。


 両足に続き両腕も切り落とされ、敢え無く地面へと落下する。


 「ダルマだな…。これで何も出来まい…!」


 ファルベの全身を覆っていた白煙は消えており、無残な体を晒している。


 両手両足をもがれた胴体に足をかけ、ビームソードがコクピットに狙いを定める。


 「終わりだ!G!!!」

 

 容赦なく振り下ろされるビームソードに、ロスは並外れた知覚でそれを感知するが、己の人生がこ


 こまでだと悟らせるだけだった。


 大きな爆音と共に閃光が辺りを包み込む。




 人生などあっけないものだ。


 人が理解する前に事は終わっている。


 あらゆる困難を背負わされた挙句、簡単に終わらされる。


 あきらめの言葉が次から次へと浮かんでくる。


 そして気付く、終わりが来ないことに…



 「くそっ!!」


 ディルは止めを刺すことなく、ブレッヘンをその場から離脱させていた。


 ファルベの近くにはビームによってついた焦げ後があり、ディルはその攻撃の主を睨みつけるようにして、新たな敵を確認した。


 ロスは命を助けられたという安堵から今までの精神疲労がどっと押し寄せ、睡魔に襲われる。

 その薄れ行く意識の中で、誰が自分を助けに来てくれたのか、はっきりと分かった。

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