プロローグ
科学の進歩は止まらない。
人が速く目的地にたどり着きたいと願えば自動車が生まれ、人が海の先に何があるのか目にしたいと願えば水上船が生まれた。
はたまた、人が空を飛びたいと願えば航空機が誕生した。
そして現在、人の願いは宇宙に向けられ科学は大きな進化を遂げていた。
地球の周りには月と同様にして、いくつもの人工惑星が浮いている。
これらの人口惑星を『エデン』と呼び、裕福な国々が相次いで建造した。
大きさは千差万別で、大きいものでは月に迫る程の大きさもあり、地球から見上げればいくつもの月が浮いている様にも見える。
このエデンは地球を再現しており、大地、空気、水といった生物が必要とされるものすべてがそろっている。
それはまさに、地球のミニチュアモデルであり、第二の地球と言って遜色ない。
また、地球から宇宙へ移動する手段として、非効率なスペースシャトルを用いることは無く、大地から宇宙ステーションまで伸びる反重力エレベータを用いる事によって宇宙へあがる。
当然、宇宙の知識や特別な訓練をしていない一般の人々も利用でき、電車や航空機といった公共の乗り物と同様の感覚で乗れることから宇宙への移動は容易なものとなった。
そのため、地球外にあるエデンではあるが人々にとって身近な存在として認知されるまでに至った。
ここまでの環境が整えばエデンで生活するにあたって何不自由する事は無く、故に地球の限られた資源の枯渇問題がある今、人が住まない道理は無く、人々の生活圏は宇宙へと進出していった。
そして、新天地で人が生活する様になって、もうすでに100年以上が経っていた。
ここまで大きな成長を遂げた人類でも、過ちを…いや、同じ過ちを何度も繰り返す。
―戦争―
宇宙にまで延びた生活圏は、各国の摩擦を生んだ。宇宙領域の問題である。
どこからどこまでが自国の領域で、どこからどこまでが他国の領域なのか―
宇宙での領域を確保することは自国の成長を促すと共に国力を意味し、国益に直結する重要な資源である。
領域が狭くて良いと考える国など有り得なかった。
宇宙と言う目印の無い空間での領域確保は話し合いでの解決は難しく、平行線を辿るだけだった。
そこで、是が非でも領域をより多く確保したいと願ったごく一部の国は、手っ取り早く解決する方法として戦争を選んだ。
これがきっかけとなり各国も戦争と言う悪手を取らざるを得なくなり、瞬く間に戦場は拡大していった。
戦争は宇宙空間でも行われ、それぞれの国が持つ武力を遺憾なく行使した。そこに、宇宙への恐怖は無く、我先にと戦いへ挑む国々の姿があった。
宇宙は未知の闇。
人類が未だ全貌を理解していないこの闇は、ある国にとてつもない考えを芽生えさせた。
『我が国は核を使用する』
自国の領域を脅かす他国のエデンを核兵器により強制的に排除するという安直でかつ愚鈍な策を表明。
さらに口外した事柄に他国は愕然とする。
所有するエデンは核兵器の工場として運営されており、すでに多くの核兵器を所有すると言うものである。
なぜ気付けなったという自責の念に駆られる衝動を一同抑え、核兵器を使用するという慈悲なき行為に各国猛反対したが、その国は聞き入れられずこう反論した。
『核兵器と他国が使用している兵器とでどんな違いがある?人を殺す兵器と言う意味ではまったく同じ。反論する前に人殺しの兵器すべてを放棄しろ!』
そう言い放つとその後の反論は一切聞かず、その後の他国からの交渉も当然の如く遮断し着々と準備を進めていった。
これを機に核兵器の使用を視野に入れ始めた大国は、最悪の事態を考慮する。
後に訊けば、地球という母なる大地を捨てエデンを第二の地球とし自国のみを救い、他を核ですべて焼き払うことも思案したという…
しかし、事はあっけなく幕を閉じる。
核兵器を製造していたエデンが突然の自滅。
原因は今なお不明。
核兵器は使用されず、その国のエデンだけを飲み込み眩い大きな光と共に掻き消えた。
その光は多くの人間の眼に焼きつき、恐怖とその脅威に身を震わせた。
核の使用を公言した国は大国の力によって瓦解し、国は存在するものの実権は他国に握られ実質滅亡した。
これを教訓に、核兵器などのNBC兵器は減衰し、変わって人型兵器『ラインバッカー』が誕生する。
人を模したロボットに人が搭乗し、その大きな身体に見合った武器を扱って戦う。
ラインバッカーは人型であるが故に、あらゆる環境に適応しやすく、さらには、現兵器よりも扱いやすいインタフェースにより操縦が容易であった。
そして、地球でも宇宙でも扱えることから戦争の要となった。この突然の絵空事のような兵器の誕生に誰もが疑問視したが、今では当然のものとなって戦場を駆けている。
FC2876年
人の欲望に際限は無く、進化と停滞を繰り返しながら時は進み…
地球、宇宙の領域をかけた戦争は今なお続いている。