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爪切り魔物と星林檎の紅茶





「ふむ。私であれば、この程度の軟禁からなど、容易く抜け出せそうですね」



そう呟いた一人の人間が佇むここは、選択の魔物のお屋敷である。

選択の魔物という魔物は、駒として使えそうな人間を捕まえて皮だけにしてしまうこともある残忍な魔物で、現在ネアは、そんな悪い魔物な家主にお泊まり用の部屋に隔離されていた。



恐らく、その魔物はお風呂掃除中のようだ。

さっき捕獲された時に、お風呂用洗剤を手にしていたのを見たのである。



じっと見下ろす窓の外は、ウィームの気候を反映させたというアルテアの屋敷の素敵なお庭だ。

雪の色合いが少しウィームとは違うが、それでもやはりウィームと言えばの美しい雪景色を見ればほっとする。



しかしながら、ネアはその雪を見てにやりと笑った。



(これなら行ける…………!)



このふかふかの雪は、脱出の為にこれ以上ない環境ではないか。



この部屋から家主に見付からないように逃げ出し、無事に勝負に勝ってみせる。

そう考えて不敵な微笑みを浮かべつつ、ネアは首飾りの金庫から戦支度を整えた。



まずは、戦闘靴に履き替えた。

これは、ヒルドから貰った死の舞踏の祝福の靴紐に、ウィリアムの終焉の祝福を込められた特別なものだ。

大抵の敵は踏み滅ぼせる武器であり、足元にどんな罠が仕掛けられていようと、この靴を履いていれば安心なのだ。



後はクッキー祭りで使う、頑強な手袋をはめて窓から庭木を伝って下りるばかりだ。

ネアは儚げな乙女であるが、こう見えても狩りの女王として様々な鍛錬を積んでいる。



かしゃんと窓の留め金を外し、窓を開けると清涼な雪の香りがした。

外はすっかり夕闇が深くなり、家の庭から繋がる森はこの世界の森らしい不思議な光に包まれている。



青白い光に、青緑色のふくよかな光。

シャンパン色のきらきらした細やかな光は、恐らく祝福だろう。

さわりと揺れる木の枝には鈴蘭のような光る花が咲いていて、遠くに星空を映して煌めく濃紺の暗いところは、湖だろうか。



その美しさに思わず見惚れてしまい、はっとする。

ネアは、この部屋からアルテアに見付からない内に逃げ出さなければならなかったのだ。

それはなぜなのかを考える間も無く、最早当初の目的は見失いつつある。



ただ、ただ、使い魔とご主人様の真剣勝負なのだった。




きりりと頷き、ひょいっと窓枠に足をかけて跨ると、屋敷の外壁側にその足をだらんと下げて窓に腰掛けたような体勢になる。


ここから爪先を伸ばして庭木に移る予定だったが、ここでネアは、思わぬ事態に見舞われた。




ムギーと悲鳴が聞こえ振り返ると、たまたまこのタイミングで目を覚ましてしまった銀狐が、けばけばになって寝台の上で立ち竦んでいた。



(し、しまった!!)



その声で起きてしまったのか、ムグリスなディノも三つ編みがびぎゃんと逆立っている。




「キュ?!」




ディノやノアを怖がらせるつもりはなかったネアが、ぎくりと体を強張らせたところで、ずばんと部屋の扉が開いた。



そこには、お風呂掃除は終わったのか、細身の墨色の毛織のパンツと、鎖骨が見えるくらいの襟ぐりのシンプルな紺色のセーターに着替えたアルテアが立っている。



ネアを見るなり、鮮やかな赤紫色の瞳をすっと細めた。



「………………ほお、窓からどこに逃げるつもりだった?」

「……………む、むぐぅ」

「キュ!キュキュッ!!」



アルテアに見咎められたのはたいへん不本意だが、慌てるあまりにそのままの姿で駆け寄ろうとして、ふかふかの布団の上でぽてりと転んだ伴侶の姿にネアも慌てた。



「ディノ!」



大事な伴侶を助けるべく、大急ぎで室内に戻ろうとしたのだが、そのせいでうっかり手を変な風にかけ替えたことで、窓枠にがりっと爪を引っ掛けた。



(……………っ、)



爪をどうこうしたなという衝撃はあったが、それには構わず、足をかけ替えようとしたところで、こちらに歩いてきたアルテアに、無言で抱き上げられる。


軽々と持ち上げられて室内に戻されたネアを見て、ぱたりと倒れたままこちらを見上げたムグリスディノも、ほっとしたようだ。




「……………手を見せてみろ」

「…………アルテアさん……」



思いがけない静かな声にしょんぼりし、ネアはくすんと鼻を鳴らす。

そのままふわっと横抱きにされて寝台に運ばれると、そこに座らせられた。



すぐさま背中にけばけばの銀狐が体当たりしてきて、よれよれで走ってきたムグリスのままの伴侶が膝にひしっとへばりつく。



「キュ!」

「ディノ、ごめんなさい。木を伝って外に出てアルテアさんとの勝負に勝つつもりだっただけで、危ないことをするつもりはなかったんですよ?」

「キュ!キュ…………」

「狐さんも、怖がらせてしまいましたね。……………む、」

「俺にも言うことがあるんじゃないか?」

「……………お掃除中にお騒がせしてしまって、ごめんなさい。……むぐ?!」

「…………ったく。他にあるだろ」



鼻を摘まれネアは小さくぐるると唸ったが、寝台の横に屈み込み、アルテアは窓枠に引っかけたネアの爪を見てくれる。

そんな風に心配されてしまうと、申し訳なさでいっぱいになり、またくすんと項垂れた。


アルテアの手で持ち上げられた左手の人差し指は、確かに爪の端が微かにぎざぎざになって、ひび割れてしまっていた。

ネアの身にかけられている守護は、例えばこの手が切り落とされるような衝撃であれば防ぐが、突き指や軽度の捻挫くらいのものであれば、あえて残してある。



完全に何の反応もない状態にしてしまうのも危ないそうだし、ネア自身も何の傷や痛みもない肉体というものも気に食わない。

そこはやはり、人間としての“らしさ”は失いたくないと思ったのだ。



ネアの少しだけ割れた爪を見て、ムグリスディノはショックを受けてきゅっと倒れてしまい、銀狐は涙目でムギーと鳴いている。


ネアとしては爪が割れたくらいでは死なないと言いたいのだが、それでも心配してしまうのが、繊細な魔物なのだ。


小さく息を吐いたアルテアが、どこからか銀白の小さな鋏のようなものを取り出した。




「そこに座ってろ。ついでに爪の手入れもしてやる」

「ネ、ネイルサロン…………?」

「キュ…………?」

「ディノ、目を覚ましてくれたのですね。…………爪が少しだけぎざぎざになっただけなので、痛かったりはしませんからね」

「キュ…………」



ふるふるしている伴侶を無傷な方の手で膝の上に乗せ、ネアは指先で丁寧に撫でてやった。

背中にどしどしと体当たりをしている銀狐も引っ張り出し、膝の横に体を寄せさせてやり、同じように撫でてやる。



「ごめんなさい。勝負にのめり込んで周囲が見えなくなっていました。もう危ないことはしませんからね」

「キュ!」



ネアの指を抱きしめてちびこい三つ編みをへなへなにしているムグリスディノと、体をごしごし擦り付けている銀狐が同時に頷く。


ネアは己の軽率さを反省し、アルテアにももう一度きちんと謝ろうとしたのだが、ひょいっと持ち上げられ目を丸くした。



「ぎゃ?!」

「角度が悪い。乗せるぞ」

「の、乗せ……………ほわ、アルテアさんがとうとう椅子の魔物になりました…………」

「キュ?!」

「椅子はやめろ椅子は。爪を整える角度的に、これが楽なだけだ」



呆れたようにそう言う魔物に膝の上に乗せられてしまい、ネアは後ろから抱え込まれるようにして手を取られた。


上手に持ち上げられたので、ムグリスディノは膝に乗ったままだったが、こてんと寝台に倒れた銀狐が、仲間外れにされて尻尾をけばけばにしている。

ネアはそんな銀狐も、膝の上に前足をかけさせてやった。


ムギムギ鳴いて抗議していた銀狐は、すぐ頭の上にアルテアが手にした銀白の鋏が見えたのか、目を丸くして尻尾を膨らませている。




「………やれやれ、雑に手入れしてるな。動くなよ」

「ざ、雑な筈がありません。一週間前には、爪切りでちょきんとやりましたよ?」

「不揃いだし、ここは形が歪んでるぞ。…………こっちは斜めだな」

「ふ、ふぐぅ!」

「………何も塗ってないのは想定内だが、随分と断面の手触りが悪い。砂棘の花びらは使ってるんだろうな?」

「……………す、すなとげのはなびら?」

「まさか、泉の鉱石で磨いただけなのか?」

「い、泉の鉱石……………?」

「おい……………」



たどたどしいネアの受け答えに、アルテアは先程よりも鋭く、すっと目を細めた。

とてもまめな魔物は、こちらの人間が、日頃どれだけ自己管理を怠っているのかを知ってしまったのだ。



その冷ややかな眼差しに耐えきれず、ネアは慌てて弁明する。

アルテアは確かに凝り性だが、ネアとて立派な淑女として、爪切りくらい自分で出来るのだ。




「…………そ、草原のやすりは使ってますよ?!」

「一番荒いものしか使ってないのか。そもそも、お前の爪の質ならそれはいらないぞ」

「な、なぬ?!」

「泉の鉱石と、砂棘の花びらを揃えておけ。草原のやすりは、爪が分厚く少し脆い、土の系譜の魔術を扱う奴向けだ。お前の爪は薄いが硬いからな」

「……………女性の爪は柔らかいので、草原のやすりだと、お店の方が教えてくれたのです…………」

「お前は、普通の人間より守護が強いからな。爪や髪の毛は、その身に備わる守護の質や量を反映しやすい。…………これと、これだな」



そう言ってアルテアが取り出したのは、ナイフのように薄い水色の鉱石を嵌め込んだ、銀色の持ち手のある道具と、砂色の薔薇の花びらのような不思議なものだ。


砂棘の花びらは、砂漠の窪地に生える木に咲く、ダリアのような立派な花の花びらだ。

柔らかくも微かにざりざりっとした花びらはとても肉厚で丈夫で、爪の手入れだけではなく、角や牙の立派な生き物達は自身の角や牙の手入れに、そして職人達は、細工物や宝石の研磨にも使うのだとか。



ぱちんぱちんと、爪を切ってくれる銀白の鋏は、アルテアが自分で作った刃物なのだそうだ。



高位の魔物となると、普通にしている分には爪が伸びて切ったりすることはないのだが、自分の道具を作る為にあえて伸ばして切ることはあるらしい。


その時の為だけに、冬の流星の星影を選択の魔術で鍛錬し、魔術の祝福を溜め込んだ地下水で磨いたのだそうだ。


ぱちんと音を立てるのは鋏が合わさる音で、ネアが切ったばかりの爪に、形を整える為だけの繊細なカットを施す動きは紙でも切るかのように滑らかで、ついつい見惚れてしまう。



膝の上に抱え込まれているので、背中にはその体温を感じ、耳元には微かな吐息が触れる。



ムグリスディノと銀狐も、丁寧な作業を興味津々の面持ちでネアの膝の上からじーっと見つめていた。




「…………これでいいだろう。これからは、手入れを怠るなよ」

「…………まぁ、爪がぴかぴかで、とっても素敵な形になっています……………」

「この形を基本形にしておけ。前から、お前の爪はところどころ歪んでいると思ってたんだ」

「…………ふぐる………る。むぐ、………ぴかぴか爪にしてくれた恩人ですので、今回は反論出来ません…………」

「言うまでも無いが、窓から出入りもするな。お前の可動域は九しかないんだぞ」

「……………ぐぬぬ。木登りは出来るのです!」

「見えていなかったんだろうから教えてやるが、あの木に飛び移ろうとしたら、屋敷の結界に弾かれて落ちてたんだぞ?」

「……………ほわ」



恒例の可動域低くて見えていない問題にくしゃりとなってしまい、ネアは悲しく項垂れた。

すると、またため息を吐いたアルテアが、道具を片付けた後の手をふわりと頭に乗せてくる。




「だいたい、窓から脱走する程のことだったのか?」

「…………せっかく、大好きなアルテアさんのお家に来たのに、時間を無駄にしていられません……………」



悲しくそう告白すると、なぜかアルテアはたっぷり三十秒くらい黙り込んだ。


こちらもお年頃な男性なので、勝手に自宅探検をされてしまったかもしれない危険に慄いているのかもしれず、ネアは、そんなアルテアをそろりと振り返る。



(プライベートを脅かしたい訳ではなくて、せめてあの素敵な応接間に置いておいてくれれば、壁や絨毯を見て過ごせるのにな…………)



ネアはとにかく、この使い魔のお家が大好きなのである。


それ故に、騒ぎを起こしたり面倒をかけたい訳ではなく、ここで過ごす時間をお昼寝で費やしてしまうのは勿体無いとじたばたしてしまった。


そんな熱い想いを上手く伝えたかったが、窓枠指引っ掛け事件の後では、信憑性がないだろうか。



じっと見上げていると、鮮やかな赤紫色の瞳がこちらを見た。




「やれやれだな。…………紅茶でも淹れてやるから、少し落ち着け」

「紅茶!と言うことは、またあのお部屋で過ごせるのですね。水晶の小箱に入っていた紫色の不思議なお花を、もう少し見ていたかったんです」

「あれは、夜明けの紬花の祝福を抽出しているところだ。もう陽が落ちたからな、夜の窓辺に透かせば光るぞ」

「…………やってもいいですか?」

「構わないが、落とすなよ」

「はい!」



唇の端を持ち上げて微笑んだネアに、膝の上のムグリスディノもほっとしたようだ。

銀狐は自分も紅茶を飲むつもりなのか、目をきらきらさせて尻尾を振り回している。



膝の上から下ろされ、ネアはしゅたんと床に着地して立ち上がった。

ムグリスな伴侶は手のひらに乗せ、銀狐はアルテアとネアの足元にひらりと飛び降り、ムギムギと弾んで紅茶の催促を始めたようだ。



扉を開けて階下に向かうアルテアについて行きながら、ネアはふと疑問に思う。




「…………そう言えば、お風呂掃除はもういいのですか?」

「それはもう終わった。温室の手入れも終わったところだ」

「…………アルテアさんは、お休みの日にごろごろ寝て過ごしたりはしないのでしょうか?」



そう尋ねられて振り返ったアルテアが、ふっと魔物らしい意地悪な微笑みを浮かべる。




「共寝の誘いなら、もう少し上手くやれよ」

「キュ?!」



絶賛むくむく毛皮生物中のネアの伴侶は驚いてけばけばになってしまったが、ネアはそれもなかなかに楽しそうだぞと、首を傾げた。


ネアは残念ながら経験がないが、青春時代にはそうやって、仲間達と長閑なピクニックで芝生の上の敷物でごろごろしたり、お泊まりの夜に雑魚寝でお喋りしたりすると聞いている。



「…………ふむ。今度みんなで、ごろごろ昼寝大会でもしましょうか。床にふかふかのお布団を敷いて、お日様の光の入る暖かいところでぽかぽかの気分でお喋りやお昼寝をするのです」

「…………やらんぞ。それと、お前は情緒がいっこうに育たないな」

「なぜ情緒を貶されたのだ。解せぬ」

「キュ……………」

「だいたい、お前は暴れずに寝られないだろうが」

「なぬ、寝相はいい方ですよ!」

「殆どレインカルだったぞ」



レインカルとはとても凶悪な灰色の猛獣であり、対するネアは可憐なる淑女である。

それはもう、使い魔流の虐めに違いなかったので、ネアは酷い言いがかりをつけたアルテアの腕をばしばし叩いて遺憾の意を申し伝えた。



ところが、ネアの伴侶はそれを見て荒ぶり出してしまう。

ディノにとってのこの行為はご褒美なのだ。



「キュ?!」

「まぁ、ディノ、これはご褒美ではありませんよ?抗議活動ですからね?」

「キュ……………」

「ふふ、そんなにちびこい三つ編みを持ち上げられても掴めないので、代わりにむくむくお腹を撫でてしまいます!」

「キュ!」



もふもふとお腹と首回りを指先で撫でられ、ネアの伴侶は満足したようだ。

今はこんなに小さな体になっているので、自分も叩いて欲しいとならずに、ネアは少しだけほっとする。


幸い、ムグリスに擬態しているので、腰紐で繋いで欲しいとも言わない、とても良い伴侶ではないか。




(あ、雪が降り始めた…………)



窓の向こうでは、日が暮れてからまたしっかりと雪が降り始めたようだ。

真っ暗にならずに雪明りで照らされた森の向こうには、魔術や祝福の柔らかな光が灯り、この世界の夜はとても優しい色に染まる。



厨房では、しゅんしゅんと音を立てて沸かされたお湯が、乳白色がかった水色のポットに注がれていた。

繊細な藍色と白で薔薇の絵付けがあり、アルテアが持っている食器類の中では珍しい、華やかな絵付けものだ。



同じセットの華奢な紅茶のカップに淹れて貰った紅茶は、冬の真夜中に収穫される星林檎の紅茶であるらしい。


牛乳とは合わないが、雪菓子を入れてほろりとした甘さを加えても美味しいそうで、受け皿にはころんとした小ぶりな雪菓子が乗せてあり、ネアはまた微笑みを深める。




「……………まぁ、果実の甘さがとても上品でとっても美味しい紅茶ですね!」



一口飲んでにっこり微笑むと、アルテアはやれやれだなとわざとらしく肩を竦める。


テーブルの横では、お皿に少しだけ温めた牛乳を入れて貰った銀狐が、しゃばしゃばと夢中で飲んでいるし、ムグリスディノはネアと同じ紅茶を魔術で冷やして飲んでいる。


ディノはネアとお揃いのものをと所望したが、ムグリスは冬の系譜の生き物なので、体を温め過ぎるとこてんと眠ってしまう。

アルテアが程よく冷ましてくれたので、美味しく飲めているようだ。





「食事の後に、湖の水にさらしてある月光菫の花蜜を取りに行くが、一緒に来るか?」

「行きたいです!菫の蜜を湖の水にさらすのですか?」

「元々は琥珀色だが、湖の水から夜空の色を吸い取ると、鮮やかな青色に変わる。香りや味わいが柔らかくなるからな」




月光菫は転移の魔術などの祝福があるらしいが、その他にも扉周りの魔術の精度を上げることに長けているらしい。

初めて訪れる街や国で、どこかの王宮に忍び込んだり、宝物庫を荒らす時など、悪い魔物らしい理由のお出かけの時には、念の為にお茶に入れて飲んでゆくそうだ。



本来、アルテアの階位であれば必要がないものだが、擬態して悪さをすることもあるので、その時にはこのような手立ても必要になるらしい。




「そのままだと、花の香りが強すぎて好みじゃないからな」

「お花としても綺麗なのですか?」

「透けるような月光の色をした菫だ。ただし、可動域が最低でも百はないと触れられないがな」

「……………何と残酷な世界なのでしょう」




ゆっくりと紅茶を飲みながら、ネア達は色々な話をした。

つやぴかな美人爪で持つ紅茶のカップはなかなかに優雅なものだと、ここに記しておこう。








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