ダンジョン1
予定を大幅に遅れての出発となった一行は森の奥地に発見されたダンジョンへの道のりを急いでいた。
都市からダンジョンまでの距離は人の足で2日ほどになるが、森の植物は皆大きく育ち人の侵入を阻むかのように地面からは根が浮き一行の行く手を遮る。
しかし、木々の木漏れ日と優しく頬を撫でるそよ風、清涼感に満ちた森の空気からか、一行の顔には時おり笑みが浮かんでいた。
「フフォッフォ、ずっと部屋に籠っておったからかな 身体を動かすのもたまにはいいもんじゃ ホレホレ若いもんが情けないぞ~キビキビ歩かんか 置いていってしまうぞぉ?」
一行のなかでも取り分け活力に満ちていたのは意外にも最年長のジーロンであった。
「そうですね、キビキビと歩きたいのは勿論なのですが導師様ももう少し荷物を持っていただけますか? 少なくありませんか?鞄ひとつに杖一本というのは」
森に赴くには無理があるが、これが私の正装だと言って厚手のメイド服を着てきたジェシカが大粒の汗をこぼしながらあとに続く。
「ジェシカさん、やっぱり一度戻りませんか?あの、辛そうですけど・・・」
「問題ありません」
「ジェシカさん意地張らずに一度帰ろう?ね?」
「・・・・・・ふう、わかりました ヴォルトさん!」
ジェシカから放られた物を慌てて受けとる。
「重っ! え、服?」
投げ渡されたのはジェシカが来ていたメイド服であった、汗と素材の重さが合わさり鉛のように重い。
「持っていてください、宿であれだけ元気だったのですからこれくらい余裕ですよね? ふう、ひとまずこれで軽くなりました、予定より見せるのが早くなってしまいましたが武具屋で購入したプレートメイルです!」
「・・・・・・ジェシカさん、もしかしてそれずっと着てたの?」
「当然です、何があるかわかりませんから」
フィリアはそのまま少し空を見つめた。
「おーーーい、なにしとるんだ おいてくぞ~」
「「「はーい」」」
そして、森で一晩をあかしさらに奥へ突き進むと騒がしく愉快な4人の冒険は終わりを告げる。
森の真ん中でポッカリとえぐれた地面、そのクレーターの中心でダンジョンの入り口が不気味に口を開けている。
およそ人の手が加えられることの無い大自然のなかに、あまりにも似つかわしくない人工物。
前世の記憶を思い出した者だからこそ分かることがある。
「あれは・・・機械だ」
動揺する青年の様子に仲間たちも気がついた。
「機械だと?ヴォルト君ソレはなんじゃ?!あれが何かわかるのかね?先見隊も不思議がっておったんじゃ」
「金属を用いた建造物自体はそれほど珍しくはありませんがソレとは違うのですか?」
「ヴォルトさん機械って?何かすごいの?」
青年を除く三人が疑問を投げ掛ける。
「あぁ、機械って言うのは雷・・・電気を動力にして動くゴーレムみたいなもの・・・かな?」
「ほうゴーレムか、しかしゴーレムは常に術者からの魔力供給がなければその身を保てぬ・・・とすればあの中にはヴォルト君と同様に雷の力を持つ者が居る危険性も視野に入れねばならんのう・・・」
「ジーロンさん、わたし本で読んだことがあるんだけど、ダンジョンの中には宝物を守るための番人や兵隊が居るって・・・」
「ウム、その通りじゃ 心してかからねばならんな」
「怪我をしたときは私にお任せください、そのために来たのですから」
「じゃあ念のために俺が先頭にたって進むよ、同じ電気なら対抗できるかもしれないし」
「あぁ、では先頭はヴォルト君に任せよう 皆もそれでよいかな?」
「はい、異論ありません」
「わたしもそれが良いと思います」
「よしっ!ダンジョン攻略の始まりじゃ!」