宴
龍との激闘を経て都市に到着後、魔法庁、都市警護組織に今までの事のあらましを報告。
5時間に及ぶ様々な問答を経てようやく解放去れたときには太陽はすでに半分ほど顔を隠し、絵の具を溶かし混むように夜の闇が都市を優しく包み込もうとしていた。
夜を迎えても消えぬ明かりと喧騒、市場に訪れる無数の人間に亜人、おぼろ気な前世の記憶を軽く吹き飛ばすような煌めきに、もしかしたら長い夢を見ているだけ・・・目を閉じ次に見えるのは見覚えのある天井かもしれない・・・、まばたきをするのが怖いと身を震わす彼を嗤う事など出来るだろうか。
疲弊し馬車の荷台に揺られ目に飛び込んでくる全てに感動を覚えるなか、風にのり鼻腔を刺激する未知のご馳走の香りに起き上がろうとする身体を止めることなど不可能であった。
未知の味覚に舌鼓を打ちながら、一行は龍を打ち倒した武勇を肴に祝杯をあげる。
龍などこの世界に於いてもおとぎ話の存在、手のひらに感じる鱗の重みが、肌に伝わる冷たさが、二人の胸に確固たる自信を与える。
宿に馬と荷物を預け、珍しく酒に酔ったジーロンを部屋まで送り青年も自室でベッドに身を横たえる。
「俺とフィリアで龍・・・倒しちゃったんだよなあ、またドキドキしてきた・・・・・・。 フィリア、まだ起きてるのかな?」
壁を見つめ隣の部屋に居る少女の姿を思い描く。
「隣、行ってみるか・・・」
口に出した一言に心臓が跳ね上がる、やましいことなど無いと己に言い聞かせ少女の部屋の扉を叩く。
「はい、どなたですか?」
「フィリア、俺だ・・・入ってもいい、かな?」
「えっ!、はいすぐ開けます!」
20秒ほどして扉が開き目を向けるとそこには、小麦色の肌をほんのりと赤らめ服の裾を気にした様子の少女がいた。
「どうぞ・・・」
「お、お邪魔します・・・」
部屋の隅に置かれたベッドに腰掛け、時おりお互いの顔を見る。
言葉は無くとも既に次に起こる展開など察していた。
肩を抱き寄せてそっと押し倒す、抵抗なく倒れ目を細めて唇を窄める彼女を前に、青年のちっぽけな理性は掻き消えた。
部屋には噎せ返りそうな甘い香りが満ち、互いの境目すら曖昧となって重なりあう肉と肉が、熱い泥をかき混ぜるように淫蜜な音を響かせる。
昼も夜もなく求めあい身体の回復のためと自身に言い聞かせ、気が付けば都市に滞在して早くも7日が過ぎようとしていた。
状況を察したジーロンはダンジョン攻略の策を練るためだと言って魔法庁へと向かい、メイドのジェシカは予想通りだとでも言いたげな表情を向けた後買い出しに出掛けてしまった。
「えっと・・・ヴォルトさん、私たちどうしてここに来たんでしたっけ?」
顔を赤くし髪を弄りながらポツリと少女が呟く。
「発見された遺跡の調査・・・かな」
「ですよね」
「そろそろ出発しよっか」
「はい、ジェシカさんなんとも言えない顔してましたけど、部屋隣なんですよね」
「聴こえてたよね、たぶん・・・」
「壁薄そうですもんねこの宿・・・」
「「・・・・・・」」
宿を出た二人が戻るまで武器の手入れをして待とうということで合意し、預けていた装備を部屋へと運び込む。
一番に目に飛び込んできたのは龍の頭部を打ち砕いたフィリアのハンマーである、無数の鱗が食い込み柄は大きく反り返っていた。
「これはもう買い換えるより他無さそうだな、後でギルド近くの武器屋に買いに行こう」
「そうですね・・・使いやすくて気に入ってたんですけど、あ!これヴォルトさんの胸当てですよね」
彼女は龍の尾によって無惨に損傷した防具を手に取り優しく撫でた。
「本当にあのときはどうなることかと・・・、傷スゴかったんですよ?背中側なんて皮膚や筋肉が内側から弾けたみたいに裂けてて、ヴォルトさんからは見えなかったでしょうけど・・・」
少女は目を潤ませ防具を抱き締める。
「私もっと強くなります、大切な人を失いたくありません・・・あんな怖い思いはもうたくさんです」
「ありがとう、フィリア」
程無くしてジーロンが綿密な調査資料と攻略プランを携えて宿に戻る、さらに買い出しに出ていたジェシカによって新品の防具とハンマーを含む品々が揃い、一行は次なる冒険に歩を進めるのであった。