冒険の幕開け
時は少し進み、俺、フィリア、ジーロンの3人パーティで中央都市を南西に反れた
大森林奥の未攻略ダンジョンを目指して馬車を走らせ最初の冒険へと向かっていた。
力を使いこなすこと、力が目覚めた理由、自分のなすべき事、やる事は何もかもが山積みのなか、
神が遺した遺物が眠るとされるイアルカ遺跡の調査にジーロンが呼び出された。
同行を願い出たところジーロンは快く了承してくれた、なによりその遺跡には雷をかたどった紋様が
数多く施されていると先遣隊からの報告に挙がっていたためとても無関係とは思えぬとのこと。
しかもこの遺跡は俺が過去の記憶を思い出し、力に目覚めた日に発見されているのだ…、遺跡に近づくにつれて何か確信めいたモノが俺の中に生まれ強くなっていく、何かが俺を呼んでいる。
日が暮れ始め次第に闇が広がっていくなかでそれは起こった。
「オイ、止まりな!ここは俺たち一家の縄張りだガキ共」
あまりにも予想通りのセリフに吹き出しそうになるのを堪え、
野盗の御頭と周囲を囲む下っ端に目をやる。
眼に魔力を集めると暗がりの中に靄が揺らめく、敵の数はナイフを持った男が7人、茂みに弓矢を構えた1人である事を確認し即座に戦闘態勢に入る。
ジーロンは袖の下で中級炎魔法のファイアーボールを形成し、フィリアは大振りのハンマーを上段に構えるとともに防御魔法と肉体強化魔法で万全を期する。
するとフィリアの姿を見た下っ端の一人が下卑た声を発する。
「ヒャァア!女だ!女が居るぞっ、早い者勝ちだぜ」
下っ端の一人がフィリアに近づこうと歩を進めた瞬間、爆音が響く。
ジーロンの放つ炎魔法は強力で分厚い装甲に身を包んだ騎兵を瞬く間に焼き殺すほどである、下っ端の立っていた場所には微かに熱を帯びた炭の欠片が散らばっていた。
『残り7人』
「なっ・・・て、てめぇよくも仲間を・・・ただじゃおかねぇ」
威勢のいいセリフをはきながらズルズルと後ずさる下っ端にもはや脅威を感じない。
「ほう・・・ではどうするかね? 次は君か?それとも君が私の相手かな?」
地を這い獲物を狙う蛇のようなジーロンの視線に、声に、男たちの体は
凍りついたように動きをとめた。
背後への心配は不要と断じ、俺は短剣を抜くと同時に指先に魔力を集め頭を低く構える。
「今引けば追撃はしない、お前も死にたくなければ道を開けろ」
元の世界の俺なら目の前で人が死のうものなら卒倒していただろうか、しかし館で過ごしジーロンに鍛えられた二ヶ月あまりで俺は更に強くなった、魔力や戦闘技術だけでなく心も。
「あっ?あぁ?? 舐めてんじゃねぇぞクソガキがっ!オイおまえらこっちに来い」
野盗の御頭は背中から身の丈ほどはあろう大剣を振りぬき、近寄ってきた下っ端めがけて鞘を投げつけると、放られた鞘を受け止めた二人がしりもちを着き倒れた。
相当頭に血が上っているのが見て取れる上に激高した御頭の姿に下っ端たちの動きは更に鈍る、
距離を詰めようと走り出す御頭に俺は足元の石を跳ね上げて顔めがけて蹴り込む。
「ごあっ!」
狙い通り石は御頭の顔面を打ちぬき、砕けて宙に舞う歯が松明の明かりを反射していた。
顔面への一撃に怯み隙ができる。
すかさず駆け寄り、短剣の切っ先を御頭の腹に突き刺して練り上げた魔力を雷に変えて放つ。
「くらえっ!」
突き刺さった剣を伝い、雷は御頭の全身を駆け巡り周囲を真昼のごとく照らしながら細胞の一欠片までも焼き尽くしていく。
「ぐぎゃああああッッ!!」
断末魔をあげて炭化した肉片がボロボロと崩れ落ちていく御頭の腹から、すばやく剣を抜き取り茂みに潜む弓使いに向けて放つとそれにあわせて二人も攻撃を開始する。
『残り5人』
ジーロンはすでに背を向けて逃げ出そうとした下っ端にファイヤーボールを放ち男二人を瞬く間に塵へと変え、フィリアのハンマーは向かってきた男の頭蓋を打ち抜き、弾ける脳漿はさながら熟れたザクロのように潰れ地面に赤い染みを遺していた。
『残り2人』
俺は鞘の下でもがく二人の男の頭をつかみ電撃を浴びせ仕留める、脳と顔面の肉が軽くシェイクされてしまったが人相を描き止めて都市の保安部に報告するのには十分だろう。
『敵殲滅』
路肩に残骸を払いのけ怯えた馬を宥めているうちに完全に日は落ち夜となってしまった。
「今夜はここで野宿だな、見張りは2時間交代でいいかな?」
「ああ私はそれで構わんよ、なんなら先に休んでもよいぞ?」
ジーロンは軽口交じりに答えた。
「わたしもゼンゼン大丈夫ですよ~ でもヴォルトさんが寂しいなら手を握って寝ても良いですよ!」
「相変わらずおアツイのう、ほれほれ体を冷やすんじゃないぞヴォルト君、フィリア君」
「はーい、さっ!ヴォルトさん」
両腕を左右に広げながら渾身のドヤ顔を決めるフィリアがとても頼もしいく思える、念のために周囲を注意深く眺め敵が居ない事を確かめジーロンに後を任せて俺とフィリアは休息をとるため寝袋に潜る。
見上げた夜空には雲ひとつなく、満天の星がまるで俺たちの冒険の行く末を見守っているようだった。