決意
この日ジーロンは語った。
神が振るったとされる魔法とその歴史、この強大な力が失われた謎、しかし残された文献はあまりにも少なく発見された遺跡の殆どは悉く破壊されていたと。
フィリアに連れられて訪れた館での生活は心地よく、瞬く間に一月が過ぎようとしていた。
「ああ、素晴らしい、この目で神代の魔法を目にする日が来ようとはっ もっと、もっと見せてくれ」
ジーロンは落ち窪んだ目を大きく見開き少年のように輝かせている。
ジーロンから聞かされた話の中で、神は雷を意のままに操り世界を征したという。
その逸話の中でも、幾千の雷を束ね万物を貫く最強の魔法、雷槍【ブリューナク】の存在に俺は心を踊らせていた。
(俺の授かった力はどうやらとんでもないものらしい・・・もしかしたら俺は知らぬ間に大きなうねり、物語のキャストに選ばれてしまったのかもしれない)
「・・・よし!考えるのは後だ、まずはこの力を使いこなす!ジーロン導師、俺に稽古をつけてはくれませんか」
「稽古を?それは構わぬが、私の目からみても君には既に都市警護の魔導士団長・・・いや、王城の精鋭魔導士にも引けをとらぬほどの魔力が眠っておる、このまま村で暮らすのであればなに不自由はないと思うが」
「信じられないかもしれませんが、俺はこの世界の人間じゃないんです。こことは違う世界からやって来た転生者なんです!」
「転生じゃと?にわかには信じられぬが君の力を見た後では信じるより他ないか」
ジーロンは長く伸びた髭を撫でながら虚空を見つめ、小さく独り言を始めた。
「・・・いやいや、しかし、・・・だがもしかすると・・・」
ジーロンの独り言が10分を過ぎた頃フィリアが差し入れにお茶とお菓子を持ってきた。
私服姿のフィリアはまさにいいとこのお嬢様と言う雰囲気だ、しぐさ一つ一つが育ちの良さを感じさせる。
ただ、館に来てからというもの、記憶にあるかぎりフィリアは常に手首まで隠れる長袖と足先まで隠れるスカートで生活している事が気掛かりだった。
「なあフィリア、ジーロン導師もあんな感じだからさ少し話さないか?」
「ヴォルトさんからお話に誘ってくれるなんて、もちろんお付き合いしますとも!」
それから他愛もない世間話に華を咲かせなつつ、ジーロンの瞑想の終わりを待つ。
「ところでフィリア、いつもそんな格好で暑くないのか?その・・・、もしかして俺、森で君を押し倒したときに怪我でもさせてしまったか?」
「え、・・・・・・もしかして似合ってませんでしたか?お父様にも男性の前ではお淑やかにするよう言われてて、それに・・・」
「似合ってるよ、もちろんすごく綺麗だ、ただ最初に見たときは肌も出してて戦士みたいな姿の君だからちょっと気になって」
「それです・・・」
「え?」
「筋肉が、わたし・・・」
フィリアは視線を泳がせモジモジとしながら呟く、日に焼けた健康的な肌は紅潮し流れる汗と相まって目が離せない程の色気を放っている。
お互いに言葉につまりながらも訳を聞くと、フィリアは自分の身体を見られることが照れくさいのだと言うことだった。
「わたし森を走り回ってるうちに腕とか脚とか太くなっちゃって、それに男の人とこんなに一緒に居たこともなくて・・・」
「俺は今のフィリアも森で見たフィリアも、魅力的だと思う」
「本当ですか?お世辞でも嬉しいです」
髪を弄りながらはにかむ彼女に俺の心臓の高鳴りは激しくなるばかりだった。
きっと、初めて彼女を見た時から心引かれていたのだろう、何故あの時命懸けで戦ったのか合点がいった気がした。
「フィリア、俺・・・君が好きだ」
「っ・・・・・・・、はい」
彼女の手をとりそっと抱き寄せる。
お互いに顔を見合わせ視線を交わす、二人の間には春の木漏れ日にも似た柔らかで優しい時間が流れていた。
「・・・・・・、」コホン
「そろそろ話をしてもいいかのう?」
両手一杯の砂糖を頬張ったかのような胸焼け顔でジーロンが呟いた。