邂逅
あてがわれた部屋で一人、今日の出来事を思い返しながら呟く。
「俺はこの世界で18年を生きた、でも・・・本当に死んだのか?前の世界の事はほとんど思い出せない・・・、もしかしたらゲームの中だったりしてな」
あまりに都合のいい展開が続きすぎたせいか、そんな小さな不安が頭を過った。
「でももしかしたらステータス画面やコンソールくらいなら呼び出せるかもしれないな、試してみるか!」
しかし、空中を指で軽く弾く頭で念じる声に出すなどの方法では望んだ結果を得るには至らなかった。
「そりゃそうか、いくらこの剣と魔法のファンタジーな世界でもそんな都合がいいわけが・・・なんだ、これ」
目に違和感を感じ周囲を見渡すと微かに靄のようなものが揺らいでいる。
「これは、魔力?索敵スキルみたいなものか!これはこれで大きな収穫だぞ!」
「ヴォルト様、如何なされましたか?」
扉の向こうからメイドの声が聞こえてきた。
「(扉の前にいるのはメイドさんか、魔力が小さくて気がつかなかった・・・)大丈夫でーすもう寝ますのでメイドさんも休んでくださーい」
「左様でございますか、では私はこれで失礼いたしますがご用の際はお呼びがけください」
そう言ってメイドは立ち去った。
「魔力探知のコツはつかめたし今夜はここまでにしよう」
俺はベッドに横になり眠りについた。
夜明けとともにやって来たメイドに促され、ダンスホールへ向かうところでフィリアと出くわした。
「おはようフィリア ずいぶん早起きなんだな、まだ予定の時間まで1時間はあるぞ?」
「なんだか何時もより早く目が覚めちゃって・・・あの、よかったら一緒に行きませんか?」
「ああ、構わないさ。えっとそっちのメイドさんもそれで問題ないですか?」
通路の影から不思議そうな顔をしてメイドが顔をだした。
「はい、フィリア様がお決めになられたのでしたら異論ありません」
「じゃあ決まりだ!」
俺たちがホールまでやって来ると、数人のメイドが魔法披露の準備を急いでいる。
「やっぱりちょっと早かったみたいだな?俺も手伝いましょうか?」
「いえいえ、ヴォルト様はそこでお待ちください 皆には準備を急がせますので」
それからほどなくして準備も整い領主がやって来た、だが俺は領主の姿に違和感を覚えた。
他に客人でも来るのだろうか、随分と見た目に気を使っている。
「「おはようございます旦那様」」
「おはようございますお父様」
「ああ、皆おはよう、ところでヴォルト君夜はよく眠れたかな?」
「はい、おかげさまで」
「そぉーか、それは何よりだ!急かすようで悪いが早速例の魔法を見せてはくれないか?」
「了解しました、すぐにでもお見せできます」
ステージに上がり呼吸を整え、掌に魔力を集中させる、その瞬間眩い閃光と轟音が響き渡る。
「これは、こんな魔法は見たことがない!君はいったい・・・」
俺は呆気に取られる領主を横目に物陰に潜む人物へ問い掛ける。
「そこにいるお前!姿を見せろ、消し炭になりたいか‼」
隠れている者の頭上すれすれに電撃を放ち脅しではないことを示す。
「待て、待ってくれ なぜ私が居ることが」
上等なローブに身を包んだ長身の男が姿を表す、歳は領主より一回りほど上だろうか・・・ なぜこの男がこの場にいるかは領主が知っているだろう。
男の言葉を遮り問う。
「領主様、これはいったいどういうことか聞いてもよろしいでしょうか?事と次第によっては俺の行動も変わってきますが・・・」
姿をみる限り魔法使い、それもかなり高名な人物であるのは間違いない、そんな男がなんの目的で?決まっている。俺の魔法を確認するためにだ。
直接見たフィリアと話を聞いた領主しか知り得ない魔法を見るために来たのなら情報を流した者に詳しい話を聞くとしよう
「さあ領主様、話を聞かせてもらおうか‼」
重たい沈黙が周囲を包む・・・・・・
「すまない、悪気があったわけではないんだ・・・彼は私の古い友人で中央都市の魔法省に勤めている、名はジーロンと言う」
「で、その魔法省の人間がなぜここに?」
「それは、娘から君が見たことも聞いたこともない魔法を使ってゴブリンの群れを一掃したと聞いて、興味本意でジーロンへ手紙を送ったのだ、それで・・・」
「あとは私が話そう」
ジーロンが割ってはいる。
「ロデリック、いや、領主からの手紙を読んでどうしてもこの目で見ずにはいられなかったのだ、だが確信した・・・君が放った魔法、あれは間違いなく太古にて神が振るった伝説の力、雷属性の魔法・・・」