変身
あれから全部で7つの試練を乗り越え、ダンジョン探索も佳境を迎えようとしていた。
最奥に続く扉を開け放つと、一行の目に飛び込んできたのは巨大な龍とその身体に深く食い込み縛り付けている鋼鉄の装甲群だった。
龍は完全に正気を失い、必死にもがき続けている、しかし装甲をまとった群は拘束を緩めようとはしない、輝きを失い錆に覆われ苔むしてなお・・・。
その光景を固唾を飲んで見守る一行の姿に、1体の鎧が振り向いた。
「!、ア゛・・・」
「あいつ、まだ生きてるのか! 助けないと」
青年が1歩踏み出そうとした瞬間。
「ゴガァァアアアアアッッッ」
突如、龍が拘束を引き裂き暴れまわる、青年達に気を散らせた1体によって全体の連携は乱れ、羽虫のごとく吹き飛ばされ足元の鎧達は暴れる龍に無惨に踏み潰されていく。
「まずい、こっちに来る‼」
「ワシに任せい、くらえ! ファイアーボールッ」
「俺だって! サンダーボルト!」
「わたしも! 烈空掌!」
「サポートは私が!マジックアップ、フォースアーマー!」
直撃した猛攻を意に介さず龍はさらにスピードを上げて突き進む。
「俺たちの攻撃が通じない、あの龍は前の奴等とは違うのか? 最大の電撃で動きを止めることも出来ないなんて・・・」
「ワタシヲ着ナサイッ! ソウスレバアナタノ牙ハ神ニモ届ク!ワタシハ待ッテイタ・・・悠久ノ時ノナカデ、龍ヲ討チ滅ボシ世界ヲ平和ヘト導ク伝説ノ勇者ヲ!!!」
そう叫んだのは、青年達の姿に唯一振り向いた鎧の1体だった。
「着るって言ったってどうやって」
「ワタシニ合ワセテ叫ベ!合言葉ヲ!!! 着装!ブラストチャージ!!!」
眩い光に包まれ青年と鎧が重なりあう。
「電光超人ブラストマン!見参!」
其処には、金色をまとい神代の戦場を駆けた一人の戦士の姿があった。
「音声認識ニテ装備ヲ展開シマス!機能チェック・・・クリア! 推進材ノ充填確認・・・クリア! 各種システム、オールグリーン!戦闘形態ヘ移行シマス」
「頭の中で声が・・・」
「敵、来マス!」
「おうッ!」
「迎撃開始、装備を選択シテクダサイ」
「左腕!重爆豪刃旋回鉄腕!!!」
「右腕!赤色発光熱手刀!!!」
「音声コマンド承認、装備発動!」
「脳波感知ニヨル補助ヲ開始シマス」
金色の戦士は宙を駆け抜け龍の顎を打ち砕き、大きく体制を崩した隙をつき頸部に紅蓮の一閃を見舞う。
「なんと言う戦いじゃ」
「すご~い」
「私たち、夢でも見ているのでしょうか」
超重量の攻撃により悶える龍から距離をとる戦士。
「素晴ラシイ、マサカコレホドトハ・・・アナタハ正ニ伝説ノ勇者デス」
「その勇者ってなんなんだ?それにこの姿はさっきまでの君達とはだいぶ違うけど・・・いや、それより君たちは何者なんだ?」
「ワタシハ神々ヨリ産ミ出サレシ金属生命体デアリ、装着者ノ素質ニヨリソノ姿ヲ変エマス、ソシテコノ金色ノ姿コソ我等ノ悲願」
「俺が勇者・・・なんだか夢みたいな話だ」
「ソレハワタシモ同ジデス、サアトドメデス!ワタシタチハモハヤ2人デ1人」
「ああ、そうだな!」
「「ブラストチャージ!」」
「「ファイナル・フラァアアアアシュッッッ」」
閃光に包まれ龍の巨体は塵となりかき消えていく。
光はダンジョンの天井を突き破り、ポッカリ空いた穴からは満点の星が一行を照らした。
「さあ、みんな帰ろっか!」
マスクを脱ぎ、青年と鎧は仲間へと歩み寄る。
「うむ、聞きたいことは色々あるが今はいいじゃろう」
「かっこよかったよ!さすがわたしのお婿さん‼」
「お見事でした、お怪我はありませんか?何かあればすぐに仰ってくださいね」
「ありがとうみんな。さ、俺の手をつかんで・・・ブラストマン、上まで飛べるか?」
「オ任セヲ」
青年達は新たな仲間と共にダンジョンを後にした。
「ところであの名乗りってぶっちゃけノリでやったよな?ブラストマン」
「ノーコメント・・・」
【残る遺跡は6つ】